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作者: モンブラン博士 (総ページ数: 198ページ)
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*74*
この日私は、町の神社である白河寺に足を運んだ。
私がそこを訪れた目的、それはこのお寺のひとり息子である、白河恋くんの力を貸してもらうためだ。
彼は少年ながら陰陽師にして、敵をその人物と関連づけるモノに変えてしまうという、類まれな能力を持っていた。
その能力に目をつけた妖怪側がきっと彼に接触してくるだろう。
そうならない前にこちら側につけておこうというのが狙いなのだ。
もっとも、彼を妖怪の魔の手から守るボディーガードとしての存在もあるが。
神社の奥に足を進めると、黒髪に黒い瞳に色白の肌のいかにも日本の美少年という表現が当てはまる白装束に身を包んだ少年がいた。
関係ないが、彼の容姿だと会長が襲う心配もある。
会長と妖怪。ふたつの脅威から彼の身の安全を守らねば。
「白河恋くんだね」
「はい、そうですが。あなたがカイザーさんという方ですね。僕にご用があるとのことですが、一体どんな用件でしょうか」
少しハスキーな声で彼が訊ねたので、私はここに至るまでの経緯を話した。
話を聞いた彼は、
「わかりました。引き受けましょう。妖怪退治はお手のものです。ただし―」
「ただし?」
「あそこにいる妖怪を退治することができれば、協力しましょう。
僕はあなたの実力がどれほどのものか拝見したい。
あなたの力によって、この件を承諾するかしないかは決めましょう。
さて、そこの妖怪さん、姿を見せてください」
「血っ、バレたか」
そんな声がしたかと思うと、金髪で黒い服装でマントを羽織って、右は黒色で左は紅の瞳をし、左は何故か眼帯をした吸血鬼が現れた。
なるほど。だから現れたときに舌打ちの音が血っとなったのだな。
私が感心していると彼が口を開いた。
「あ〜、俺が先にその陰陽師味方につけようと思ったのに、かなり面倒なのが来ちゃった…」
「面倒で悪かったな。キミ、名前はなんという」
「俺はゼルフ・ニーグラス。あんたは?」
「私はカイザーだ。いい名前だな」
「ニーグラスですか。なるほど。本当にいい名前ですね」
白河くんが同調したのは少し気がかりだったが、とりあえず彼と戦うことになった。
「悪いが、ゼルフくん。彼は私たちの仲間になってもらう。
キミには渡せないな」
私は接近し、拳を振るう。
「血っ、あんたすごいバカ力だな〜」
「バカは余計だ」
私は立て続けに拳を振るうがそこは体格という壁があり、敵の方が身軽で素早く、なかなか攻撃が当たらない。
「じゃあ、今度は俺の番だ!ヘヘッ行くよ!」
彼は少し声のトーンを上げ、剣を引き抜き、私に向かってきた。
「なかなかの剣裁きだ。誰から教わった?」
「ヘヘッ、誰が教えるかよ!知りたければ俺を倒してから聞きな」
「そうしよう、といいたいが、誰かは読めている。ジャドウから習ったんだろう」
「なんで…なんで、1発でわかったんだ!」
「剣の振るい方を見ればわかるさ。そうか、奴は敵側に寝返ったか」
「カイザーさん、あんたすごいな。伊達に副会長をしてはいないね」
彼は剣で攻撃しながら言う。
なぜだか知らないが、こうして戦いをしているうちに、私の胸の内になんだか、変化が起きてきた。
今までこんなことは起きなかったのだが、彼を見ていると、まるで新しい弟ができて、一緒に練習稽古をしているような錯覚に陥る。
恐らく彼の口調がそう思わせているのだろうが、どうにも彼には私が今まで戦ってきた妖怪と違い、ある種の親近感のようなものを覚える。
もしかすると、それはジャドウが彼に剣を教えたからだろうか。
あいつのすることは、私でもその先を読むことはできない。
だが、こうして新しい仲間の妖怪にも剣術を教えているとは、相変わらず面倒見のいい奴だと思う。
たとえ敵に寝返っても、我々の友情は変わらない。
いつでも好きなときに戻ってくるがいい、わが友よ。
私たちはいつでもそのときを待っている。