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作者: aya ◆jn0pAfc8mM (総ページ数: 11ページ)
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植物を愛で、動物を撫でる。
君にとって退屈を感じさせない時間。それは、終わりの気配を見せなかった。
しばらくすると、何となく木に戻る君たち。
やがて咲耶は、ぽつりと呟いた。
「ごめんね」
「何が」
咲耶は、君が首から下げているペンダントを触る。
「君が忘れていても、これを持っていてくれて、本当に嬉しかったけど……
でも、何も覚えててくれないものだね……」
その瞳。君は唐突に、幼い記憶を思い出した。
幼稚園は楽しかった。そのイメージは、鮮明に残っている。
年相応の暮らしを満喫し、ただ何も考えずに遊ぶ日々が、とても。
でも、そう、あれはある雨の日。
迎えに来ない母親に君は腹を立て、勝手に自分で帰り、
……いや帰ろうとして迷って、
彼女と出会った。
「どうしたの、迷ったの?」
優しげな瞳。その人に、君は泣きついた。
心細さと恐怖、不安で、涙を流す君。
女性に聞かれるがまま、両親が来ない事を話すと、彼女は言った。
「君のお父さんとお母さんはね、遠い場所に、お仕事に行っちゃったの。お空の向こう側に」
「いつかえってくるの?」
「君が大きくなって立派になったら、帰って来るから。
だから頑張って、辛い事があっても耐えるんだよ。
お母さん達、帰れなくなっちゃうから」
その言い聞かせに、幼い君は納得する。でも、泣きそうになって言った。
「ぼく、おうちにかえりたい……」
「大丈夫、きっと親戚の人とか来てくれる。それまで、お姉さんと公園で遊ぼう」
「うん!」
「お姉さんはね、咲耶って言うの。君は?」
「ぼく、まさと。はやくあそぼう、さくやおねえちゃん!」
それがこの公園。
砂場で山を作って、トンネルを開けてもらった。
滑り台を一緒に滑った。
ブランコを押してもらった。
「どうしても辛くなったら、ここに来てね。これ、お守り」
それはペンダント。中には、彼女と君が笑顔で写る写真が入っていた。
そして、頬にキス。
惚けている君は、叔母さんに見つけられ、家に帰ったのだった。
それからは、両親の妹夫婦、その息子の陽太と一緒に暮らした。
咲耶の事を忘れるくらいの、忙しい日々だった。
君以上に気弱な陽太は、両親の過度な期待が負担となり、自殺を図った。
相談を受けてはいたが、結局何も出来ずじまい。
遺書には、クラスの人は悪くない、両親が一番悪いと言う事を、
オブラートに包んで書かれていた。
本人以外は全員気付き、両親を白い目で見たが、当人は気付かずに、君に厳しくなった。
だから君も耐えきれず、ここにいる。
目の前の彼女は、無意識の拠り所だった彼女と重なった。