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-pendant-
作者: aya ◆jn0pAfc8mM  (総ページ数: 11ページ)
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10~

*7*

「思い出したんだね……」

彼女は哀しげに笑った。

「私、この木に宿る精霊みたいなもんでさ」

君たちに降る雨風を凌ぐ桜の木に、咲耶は触れる。

「でも、もうすぐ、死んじゃうみたいだからさ」

荒唐無稽な話。しかし、語る彼女の目は真剣そのものだ。

「あと20年位しか生きられないからって、

最期、人間になってみたら、君を見つけたんだ。

心が読めるから、大体の事情を察させてもらって。

助けて、また、君が来たのにはびっくりしたよ。忘れさせてあげたのに。

……でも、何だろうな。君をまた見て、顔も変わってて、一目惚れかな?

絶対、助けなきゃって」

その言葉に、恥じらいはない。

「時間は止めてみたけど、もう、力尽きそうかな」

「何とか出来ないの?」

「出来る。この木から引きずり出せばいい。でも、一週間も持たないかな。

すぐ死んじゃうね」

「他に方法はないんだ?」

「あるけど……精神だけの存在になって、君の体の隅っこで生きさせてもらう。

少し経ったら力も戻るだろうし、こんな不完全じゃなく、ちゃんとした体も作れるように

なる。でも、君は限りある命を捨て、永遠に生きる事になる。

もしそれでも助けてくれるって言うなら、嬉しいけど。

永遠に生きるのは、たくさんの出会いと別れを

ずっと続ける事になる。止めた方がいい、本当に辛いよ」

それは、実感のこもった声だった。

君は言う。

「それでもいい。君を助けたいから」

咲耶は一瞬目を見開いて、そして笑った。輝くような笑顔だった。

この笑顔が見れなければ、君は家に帰らず、命を絶とうとしていたが、

これで君は、生きる事を決めた。

咲耶を助けたい一心で。

「そんな事言うと、好きになっちゃうよ?」

「一目惚れしたって言ってたよね」

「そう言えば、うん、そうかも」

咲耶は顔を赤くして、小さく呟いた。

「ありがとう」


「で、その方法は? どうすればいいの」

「大丈夫、目を閉じて。すぐ終わる」

君は言われた通り、目を閉じる。

咲耶らしき気配は、座っている君の足に、膝立ちになった。

首に手が回る。そして、あの時と同じ柔らかい感触が、唇に触れた。

すっと暖かい物が入って来て、君はそれに体を委ねる。

黄色の優しげな光に包まれて、君は意識を失って行った……

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