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作者: aya ◆jn0pAfc8mM (総ページ数: 11ページ)
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*7*
「思い出したんだね……」
彼女は哀しげに笑った。
「私、この木に宿る精霊みたいなもんでさ」
君たちに降る雨風を凌ぐ桜の木に、咲耶は触れる。
「でも、もうすぐ、死んじゃうみたいだからさ」
荒唐無稽な話。しかし、語る彼女の目は真剣そのものだ。
「あと20年位しか生きられないからって、
最期、人間になってみたら、君を見つけたんだ。
心が読めるから、大体の事情を察させてもらって。
助けて、また、君が来たのにはびっくりしたよ。忘れさせてあげたのに。
……でも、何だろうな。君をまた見て、顔も変わってて、一目惚れかな?
絶対、助けなきゃって」
その言葉に、恥じらいはない。
「時間は止めてみたけど、もう、力尽きそうかな」
「何とか出来ないの?」
「出来る。この木から引きずり出せばいい。でも、一週間も持たないかな。
すぐ死んじゃうね」
「他に方法はないんだ?」
「あるけど……精神だけの存在になって、君の体の隅っこで生きさせてもらう。
少し経ったら力も戻るだろうし、こんな不完全じゃなく、ちゃんとした体も作れるように
なる。でも、君は限りある命を捨て、永遠に生きる事になる。
もしそれでも助けてくれるって言うなら、嬉しいけど。
永遠に生きるのは、たくさんの出会いと別れを
ずっと続ける事になる。止めた方がいい、本当に辛いよ」
それは、実感のこもった声だった。
君は言う。
「それでもいい。君を助けたいから」
咲耶は一瞬目を見開いて、そして笑った。輝くような笑顔だった。
この笑顔が見れなければ、君は家に帰らず、命を絶とうとしていたが、
これで君は、生きる事を決めた。
咲耶を助けたい一心で。
「そんな事言うと、好きになっちゃうよ?」
「一目惚れしたって言ってたよね」
「そう言えば、うん、そうかも」
咲耶は顔を赤くして、小さく呟いた。
「ありがとう」
「で、その方法は? どうすればいいの」
「大丈夫、目を閉じて。すぐ終わる」
君は言われた通り、目を閉じる。
咲耶らしき気配は、座っている君の足に、膝立ちになった。
首に手が回る。そして、あの時と同じ柔らかい感触が、唇に触れた。
すっと暖かい物が入って来て、君はそれに体を委ねる。
黄色の優しげな光に包まれて、君は意識を失って行った……