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作者: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (総ページ数: 42ページ)
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「今、なんて言った……?」
真っ青な顔をした遥香、そしてその前に立つ悠人。
「……別れよう、って言ったんだ……」
自ら紡いだ言葉に、悠人は苦痛を感じているようだった。
「……なんで?」
遥香の薄い赤みが差した頬を、涙が一筋伝った。
「ユウ、あたしのこと、好きだって、言ったよね?」
一言一言を区切りつつ、自分に言い聞かせるように単語を発していく。
「だったら、なんでそんな顔を、してるの?」
言った本人も辛そうな表情を隠せない。
「……俺だって、こんなこと言いたかねーよ……」
「じゃあ、なんで……」
ポケットに手を突っ込み、俯いたまま喋りだした。
「俺、この前夢見たんだよ……。すげぇ鮮明な奴。俺と、ハルと、キリで河原の芝生のとこに座ってんだ。そしたら、キリがなんか言いながら立ち上がって、こっち向いて笑うんだ。……それが、すげぇ悲しそうでさ。そしたら、空が真っ暗になって、キリもその闇に飲み込まれちまう。俺とハルだけが残って……それが、俺にはどうしてもただの夢には思えねぇんだ」
「だから……何?」
「だから、さ。俺じゃなくてキリに……キリと一緒にいてやってくれよ……」
「何よ、それ。ユウはあたしじゃなくてキリに幸せになって欲しいの? そんなのずるいよ……。あたしが好きなのはキリじゃなくてユウなのに」
遥香が俯いた。
コンクリートの上に涙が落ちて模様を象っていく。
「俺には、それが本当に起きることのような気がしてならないんだ。もう駄目で、変えることも不可能で、とっくの前に起きるのは決まってしまっていることなんじゃないかって……」
「だから何よ」
「…………」
悠人は何も言わない。
ただ彼の悲しそうな表情が眼に焼き付いて離れない。
「……もう、知らない。ユウなんて嫌い。大ッ嫌い」
そう吐き捨てるように言葉を絞り出すと、遥香はその場を去った。