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一万六千
作者: 全州明  (総ページ数: 10ページ)
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*3*

『僕がもう一人の僕と出会ったころ』  15  2027年 夏 曇り


 ・・・・僕には、他人には絶対にない、特別な力がある。ようするに僕は、普通じゃない。
 僕は、あの日以来、自分が死ぬと、他人になる、いわゆる、輪廻転生みたいなことができるようになった。初めて転生した時は、入れ替わったとばかり思っていたけど、そんな単純なものではないと、最近なんとなくわかってきた。
 もう一度言う。僕は、生まれ変わることができる。しかも、記憶を持ったまま。
 そして今、僕の右手には、今日の朝刊が握られている。
 その中の広告の一つに、こう書かれていた。


 〜特別な力があるあなたへ〜
 あなたがこの広告に目を止めたということは、
 あなたには他の人にはない、特別な力があるということですね。
 そんなあなたにお話したい大切なお話があります。
 ○○公園のベンチで、空が赤いまだら模様になるころに、いつでもお待ちしております。
                                     ムサシより

 ・・・・あぁ、言いたいことはわかるよ。だけど、行ってみる価値はあると思うんだ。
 それに、『いつでもお待ちしております』って書いてあるし。この公園、かなり近いし。

「・・・・とりあえず来てみたのはいいものの、赤いまだら模様の空ってゆうのは、夕暮れのことで良かったのかな?」
 今まさに公園に入ろうというときに、本当に今更だけど、不安になってきた。
 もし誘拐の類だったら、生きて帰ってこられるだろうか。
 ―――とも思ったけれど、どうやら杞憂だったらしい。
 公園のベンチに、僕と同い年くらいの男の人が座ってるじゃないか。
 僕は少々ためらいながらも、その人の隣に座った。
「あの、あなたもあの広告を見て、ここに来たんですか?」
「・・・・ランダム」
「え? 何のことですか?」
「・・・・いい答えだ」
 僕の隣の人は、そう言うと、不敵な笑みを浮かべた。
「俺があの胡散臭い広告を君宛てに送りつけた、ムサシだ」
「・・・・胡散臭いって思ったなら、なんでわざわざあんな広告を?」
 名前まで胡散臭いな。
「言っただろ? 君宛てに送りつけるためさ」
「でもあれは、新聞の求人情報に載ってましたよね? いくらあんな文面でも、来る人は来るんじゃないですか?」
「その来る人が君になるようにあの文面にしたんだよ」
 そう説明されても、あまりしっくりこなかった。
 そんな僕の表情を察したのか、ムサシさんは具体的に説明してくれた。
「簡単なことさ、極端に抽象的な文面にすればいいんだよ。例えば具体的な待ち合わせ日時を書かなかったり、公園の名前を、○○公園と書いたりとかね。読んでて気付かなかったか?」
「まぁ、確かに」
 その説明を聞いて、やっと僕は納得がいった。
 確かにあの公園の名前は、○○公園と書かれていたのだ。
 それはモザイクとかそうゆうのじゃなくて、本当に、○○公園とだけ書かれていたのだ。
「俺にも一つ教えてくれ、君はいったいどうして○○公園がここだと思ったんだい?」
「この公園、淵がまん丸で、その中心に丸い形の砂場があって、上から見ると、ちょうど二重丸みたいな形だったので、なんとなくここかなーと」
「やっぱりそうか。そんな『見方』をするのは君だけだ。だから俺は君だけをここに呼び出すことができたのさ」
「・・・・やっぱり僕って、変わってますかね?」
「そんなことはないさ」
 そう言いながら、ムサシさんは腕時計を見た。
「おっと、もうあまり時間がない。今から重要な事だけを話す」
「よく聞いてくれ。俺は未来のお前だ」
「正確にいえば、俺はお前がこの後何度か生まれ変わると俺になる」
「ということは、もしそれが本当だとしたらあなたはタイムマシンか何かで僕に会いに来たってことですか?」
「ちがう、俺はタイムマシンなんか持ってない」
「じゃあ、なんで僕はもう一人の僕に会えるんですか?」
「そうだな、確かにおかしい。転生と言うのは時間が地続きで、自分が死んだ次の瞬間に生まれ変わるから、前世の自分と出くわしたりすることは絶対にない。本当に、転生ならな」
「・・・・」
「まだ分からないのか? まぁいい、そのうち分かるさ。そんなことより、もっと重要な事を話そう。今現在、俺以外にも様々なお前がいる。彼らのほとんどは未来の俺たちだ」
「俺はそいつらと連絡を取り合ってるんだが、そのときに話しやすいよう、合言葉を決めているんだ。記憶が有りそうな奴に会ったら、『ランダム』と言え、それで相手が『タイムリープ』答えれば、少なくともそいつは俺に会った後のお前だとわかる」
「ランダム、タイムリープ? なんでそんな合言葉なんですか?」
「それじゃ、ここで問題だ」
「あるところにタイムリープ(記憶を持ったまま過去の自分に戻る)ができる人がいました。
 しかし、そいつはどうしても十五年前より昔に行くことができませんでした」
「・・・・それはなーぜだ?」ムサシはわざとらしく首をかしげた。
 僕はしばらく考え込むふりをした。
「・・・・わかんないです」
「ったく、これだから昔の俺は、正解は、そいつが十五歳だから」
「え? なんで15歳だと十五年前には行けないんですか?」
「答え言ったのにまだ分かんないのか?」
 彼は僕を見下すような口調で言った。だがすぐに思い直し、
「あー、そうだったな、お前まだ知らないんだっけ、それじゃあヒントをやろう。俺たちはこの死んだら生まれ変わる能力の事を強制コンテニューと呼んでいる」
「なんで強制コンテニュー何ですか?」
「続きだからさ」
「え?」
 僕の疑問を遮るように、電子音のアラームが鳴った。
 どうやらこの音は、ムサシさんの腕時計から出ているようだ。
「あぁ、悪い、時間だ。それじゃ」
 ムサシさんはおもむろに立ち上がり、公園を後にしようとする。
「ちょっと、待って下さいよ。まだ・・・・」
 僕の言葉は、発砲音によってかき消された。

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