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一万六千
作者: 全州明  (総ページ数: 10ページ)
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*4*

『僕がサラリーマンだったころ』  777  2030年 秋 快晴


 今日は、実にいい天気だと思う。
 今日は、珍しく余裕で会社に間に合いそうだし、差ほど急ぐこともないだろう。
 そう思い、実に軽快な足取りで、大通りをのんびりと歩く一人のサラリーマンがいた。
 彼の人生は、まさに理想そのものといった様子で、不幸過ぎず幸福過ぎずな平凡な日常ではあったが、収入も安定しており、大手企業に勤めているため、へまでもしない限り職を失うことはなく、妻と息子もおり、特にこれといった悩みもなかった。
 が、この世界で、そんな幸せな生活が、いつまでも続くわけがなかった。

 ―――辺りに銃声が鳴り響いた。

「うっ!!」
 突如、彼の腹部に激痛が走った。彼は腹に何かが入り込んでくるような奇妙な感覚に陥る。
「キャーーーーーーーーーーー!!」
 彼のすぐ近くにいた女性が、つんざくような甲高い悲鳴を上げた。
 彼の腹には、いつの間にか大きな包丁が突き刺さっていた。
 どうやら銃で撃たれたわけではないようだ。
 彼が包丁を抜こうとする前に、彼に包丁を刺した男が引き抜き、その先にいた通行人を次々と切りつけながら走り去って行った。
 自殺と殺人が人間の死因の五割以上を占めるこの世界でも、通り魔に襲われることは珍しい。
 その死に方はまるで、今まで幸せな人生を送ってきた、報いを受けたようだった。

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