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パフェイン0% (完) 『原題:今日創られる昨日』
作者: 全州明  (総ページ数: 9ページ)
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*3*

 第三章  『人デナシ』


 半年ぶりにセルゼルノと再会してから、早くも一週間が経とうとしていた。
 長かったテスト週間が終わりを告げ、校門から出てくる生徒たちは皆、どこか楽しげだった。
「ねぇ悦子、テストも終わったことだし、これからカラオケでも行かない?」
 いきなり後ろから肩を掴まれ面喰ったような表情で振り返ると、悦子のクラスメイトであり、幼馴染でもある、藤晶理恵と、同じくクラスメイトの、吉井麻奈が、どちらも屈託のない笑顔で立っていた。
「ゴメン、今日ちょっと用事があるんだー」
 悦子はその誘いを申し訳なさそうに断る。
「えぇー!! まぁたぁー!?ちょっとどうしたのよ悦子、ひょっとして、彼氏でも出来たぁ?」
 理恵はわざとらしく素っ頓狂な声をあげ、茶化すように悦子を肘で突く。
「そんなんじゃないって・・・・」
 悦子はそれをぎこちない笑顔でごまかす。
「ホントに?」
 いつもは真面目な麻奈も、テストが終わり、浮かれているのか、珍しくからかってきた。
「ホントだってぇ・・・・何あれ?」
 そう呟く悦子の顔からは、いつの間にか笑顔が消えていた。
「ちょっと、ごまかさないで・・・・よ?」
 理恵たちも悦子の視線の先を目で追うと、二人の顔からも笑顔が消え、怪訝(けげん)な顔になる。
 その視線の先には、何やら怪しげな男がいた。
 その男は、体を斜めに傾けているのか、右肩より左肩の方が高い位置にあり、歩くたびに右腕が壊れたおもちゃのように揺れ、その足取りも、がくがくとぎこちない。
 フードを深く被っているため、その顔は伺えない。
 校門を出てすぐの通りを、帰宅中の生徒たちとは逆方向に歩くその男は、角を右に曲がり、姿を消した。その先の通りは、いつも悦子が神社に向かう時に通っている道だ。
 その事に気がつくと、なんとなく、嫌な予感がした。
 だが、あの不気味な男についていくのも気が引けるので、今日はおとなしく神社の前を通らない最短ルートで、理恵たちと一緒に帰ることにした。

「あぁあー、遅いなぁーー、悦子」
 一方、セルゼルノはと言えば、神社の前の階段に腰掛け、暇そうに足をばたつかせていた。
 ちなみに、自己紹介されていないのに名前を知っているのは、神だから、ではなく、ただ単に借りていた教科書の裏に書かれていた名前を見ただけである。
「あぁーーー。前みたいに、戻れって念じたら、また何体か戻ってこないかなー」
 そう呟きながら、だるそうに右腕を上げ、だるそうに呟いた。
「我もとに戻れ」
 ・・・・そのまましばらく待ってみるが、意志が弱いのか、一体も戻ってこない。
 なんとなくムッとしたセルゼルノは、力強く立ち上がり、両手を勢いよく上げ、強く念じながら、大声で叫んだ。
「いい加減我もとに戻ってこいやぁーーーーー!!」
 すると、数体の霧状の分身が、セルゼルノのもとへ戻ってきて、手の中に消えた。
 しかも、セルゼルノの付近に、多くの分身たちが近付いて来ているのを感じた。
 しかし、それらはなぜか、姿を現さない。セルゼルノが手繰り寄せるようにして引き寄せようとするが、霧状の分身と違い、ずっしりとした、重みを感じる。
 だが、セルゼルノの呼ぶ声に反応し、こちらに近づいて来ている事には間違いない。
 セルゼルノは、満足げな笑みを浮かべ、再びコケだらけの階段に腰を下ろした。
 そう、彼は、近くに来たからといって探しに行くつもりなど、毛頭ないのだ。
 もちろん、面倒だからである。

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