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作者: 美奈 (総ページ数: 63ページ)
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3ー6
「……パパ…?」
そうやって父は、湊が4歳の頃に忽然と姿を消した。あの後、母が1人で悩んだり物に当たったりしながら生きていくのを見ていた。
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幼い子供の言葉の暴力は、時に大人のそれよりも心に鋭利に突き刺さる。
ーおまえ、おとうさんいないんだ
ーこのゲームソフトももってないの?
ーおかあさんだけだから、お金がないんだよ
片親の子というのは、常に疎外されていく。皆に無視される。
湊という漢字は、本来、集まるという意味を持っている。それにも関わらず。
湊も、例外ではなかった。しかし意味も無く挑発してくる子供たちへの怒りはとうに通り越えて、疎外されてもあまり気に留めなくなっていた。
「ごめんね、みんなが持ってるものもなかなか買ってあげられなくて……」
母はそうやって涙目で語っていた。
どんなに幼かった湊でも、父親がいない分、たくさん働いて、でも湊をどこに預けることもせず、自分の手で育てていこうとしていたのを理解していた。
あの時、僕も見ていたから。
どんなに疎外されても。シカトされても。根拠の無い悪口を言われても。いじめられて、学校の池に突き落とされて、全身泥だらけになって、ランドセルが壊れそうになっても。担任まで、いじめを見て見ぬふりで、彼を哀れみの目で見るようになっても。湊は耐え続けた。決して泣いたりなんかしなかった。
お母さんはこれよりもっと酷い目にあった。僕が乗り越えられなくて、どうする。お母さんをこれ以上悲しませちゃいけないんだ。
湊には、母親がいた。
いってきます、と言えば、必ずいってらっしゃい、と返してくれる。ただいま、と言えば、絶対にお帰り、という声が聞こえる。
それだけで湊は十分だった。
他の子よりも幸せだと感じていた。
「…大丈夫だよ。お母さんがたくさんお仕事してるの、僕はちゃんと知ってるから」
たくさんの涙を湛えた目で息子を心配する母親に、湊はいつも頭を振って、笑顔でこう答えていた。
もっと、のびのびと育って欲しかった。
まだまだこんなに幼いのに。
感情を出す事を我慢する事を既に覚えてしまった我が子を、悲しく思った。けれど。
「……優しい子で、良かった…」
母親はそう言って、いつも優しく息子の頭を撫でていた。