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*7*
3日目「君のバイト姿を見てみました」
私の学校は一年のうち二は部活に入っていなきゃ駄目という校則があるが、二年からは自由だ。
そのため、私は勉強に精を出そうと二年で部活動をやめた。
そのため休日、特に土曜日は暇だ。友達と遊びに行く事はあるが、友達はもちろん部活に入っているし、今度大会があるようで、私に構っている暇はなさそうだ。
「柚菜、今日出かけないの?」
「……お母さん、どうしたの?いつもは部屋に引きこもってるのに」
少女漫画家の私の母がノックもせずに私の部屋に入ってきた。手に持っているのは、お母さんの相棒の掃除機、吸いトールくんだ。
お母さんは何故か満面の笑みで私の出かけることを勧めてくる。
そんなに勧められても、一緒に遊ぶ友達もいないのに……。
「今日は、掃除をしようと思ってね!」
「お母さん、ネタに詰まっても掃除で何でも解決できないよ。編集さん困らせないようにね、ていうかまたどっかのホテルで缶詰めにならないでね。じゃなくて、別にそれでもいいけどちゃんとご飯作っていってね」
「お母さん、悲しい……」
掃除機をぎゅうっと抱きしめながら、お母さんは嘘なきでもするかのように、涙ぐむ。
私は息をつきながら、パーカーに身を包んだ。ゆっくりと鞄を手に持ち、部屋から出る前に
「行ってきます」
と言うと、にっこり笑顔でお母さんは「行ってらっしゃい」と言ってくれた。
さて、どこに行こうか。急に家を追い出されたものだから、悩むな。
私はバスで隣町までいって、お気に入りのCD屋さんに向かった。
辺りはカップルであふれていて、私はついついため息をついてしまう。 しばらくすると、何故か頭の中で有馬君が浮かんだ。
明日会う約束をしているのに、今日まで会いたいなんて本当おこがましい。どうしよう、こんなに有馬君のことばかり考えちゃうなんて、重症だよ。そんなことを考えては溜息がでる。
CD屋さんにつくと、私はずっと欲しかったCDを探してみた。十分ぐらいすると、お目当てのものが見つかって、私はほっと一息。
「よかった、あったぁ」
探したかいがあったな、うん。
ひとりでに頷きながら、私はそのCDを持って会計に向かった。数人並んでいて、私はその最後尾に並ぶ。
「次の人、どうぞー」
店員の声が聞こえて、私は顔をあげた。
瞬間的にびっくりする。なぜならそこに、私のよく知っている人がいたから……。
「……って、え!? 沢渡さん。どうしたの、こんなところで」
「えぇ、いや。こっちのセリフだよ。私はただの買い物で……って、うちの学校バイト禁止じゃなかったっけ? ちゃんと申請してる?」
「……」
そこには深緑のエプロンをした少年。私の好きな人の有馬君がいた。少しダサそうなエプロンなのに、有馬君なら何でも似合ってしまうのだろう。やっぱり格好いい。
私の質問に有馬君は黙り込んでしまった。
ということは内緒でバイトか……。確かにわざわざ隣町でバイトしていることから、そんなことは明確だ。
私からそっと目を逸らしていく有馬君に私は何とか話を変えようと
「大丈夫!! 言わないから。絶対学校に言わないから」
と、言ってみたものの有馬君は焦った表情のまま。
私の買ったCDを袋に入れると同時に、私にぽつりと言葉を漏らした。
「バイトもうすぐ休憩だから、ちょっとそこで待ってて」
「……え、あぁ。うん」
有馬君にそんなこと言われるなんて考えもしなかったから、私は吃驚してしまって声が変になってしまった。
有馬君の言う通り、私がしばらく店の前で待っていると、すぐに有馬君は私のもとに来てくれた。
「ごめん、あの……」
「どうしてバイトしてるの?」
聞いてみると、案の定、有馬君は言いにくいことなのか顔を伏せた。
「別に言いたくないならいいよ。それでも私は構わない」
私がそう言って笑ってみせると、有馬君はゆっくりと口を開いた。
「俺、欲しいものがあって、でも最近金欠酷くてさ。バイトが手っ取り早く稼げるかと思って」
「……じゃぁ、先生に申請しなかったのは?」
「面倒くさかったから」
「あー、そうなんだ」
面倒くさい。確かにバイト申請はいろいろな書類を書かなきゃいけないから、面倒くさいというのは確かだ。有馬君が真顔で言うものだから、私はつい言葉が棒読みになってしまう。
「俺、そろそろ戻らなきゃ」
「うん。バイト頑張ってね」
「あぁ、あと明日さ。沢渡さん駅前で待ち合わせしたいんだけど、大丈夫?」
「うん。もちろん」
そんな会話を交わしながら、有馬君はバイトに戻っていった。なんだか凛々しいような有馬君の背中に、私はやっぱりときめいてしまう。
「あと」
急に有馬君が私の方を振り返って声をあげた。何だろう?
私は頭にハテナを出しながら、有馬君を見つめた。
「私服、なんだか意外だったけど……似合ってますね」
…………へ?
私ははっと気づいて自分の姿を見てみる。有馬君と会うなんて予想もせずにこの場所に来た。
そのためそこまでオシャレなんてしていない。じみめなパーカーを羽織ったくらい。
自分の格好を確認して私は顔が真っ赤になってしまった。
こんな地味な女が有馬君の彼女なんて、有馬君が可哀想だ……。
そんなことを考えてまたもやため息をつく土曜日。