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*22*
・ 朝、宿屋の一角にて。 ・
《ツバサ》
「俺様さぁいきょーうっ!!」
不意に聞こえた叫び声に、俺は思わずベッドから転げ落ちてしまった。
「――な、なんだっ!?」
驚きながら周囲を見回すと、隣のベッドで誰かが足を上げ下げしているのが見えた。
白Tシャツと青い半ズボンの、とてもパジャマとは思えない服装をしている人物――。
『大丈夫だって! サイモンにも認めてもらえたんだし!』
そういっていた人物。
「アーサーっ! お前か!」
「おれさま……さい……きょ――」
怒鳴りつけると同時に、アーサーの足の動きが遅くなっていく。
そして、それは、ぱたりと布団の上で静まった。
同時に、すぅ……すぅ……という寝息も聞こえてくる。
――たくっ、人騒がせな奴め。
「んもぉ……サイモンったらぁ……」
「今度は色気声かよっ」
と、ツッコミしながら振り向くと、赤髪の女性が抱き枕――ピンクと黄緑のタータンチェック、という柄の抱き枕だ――を抱いて、布団をバシバシ叩いている光景が見えた。
――ラクーナだ。
「なんで私の酒が飲めないのよぉ〜……飲みなさいったら、飲んでよ……」
なんだ。ただの酒豪ならではの夢か。
そう思って、眠りにつこうと布団に潜ろうとしたとき。
「飲めやゴルァ」
――ヒッ!?
「ごめんなさいっ!!」
突然聞こえてきた言葉に振り向き、涙目になりながらラクーナを見やる。
だが、しかし。
「んぅ……たく、もぉ……サイモンめぇ……」
――ただの寝言かよっ!
寝言だったことに安堵し、嫌と思い、涙をふきながら、俺は再び布団に潜っていった。
――そして目覚めたのは、十一時だった。
・ 昼、それぞれの休日を。 ・
《フレドリカ》
「ねえねえ、ラクーナ、あそこ見てみようよ!」
――昼食を食べ終えて、私たちは別行動となった。
ツバサだけは――朝に騒ぎがあったためでもあるが――まだ寝ていたため、ゆっくりと寝かせておいたが。
サイモンは、執政院から借りてきた本を読みふけっている。
アーサーは、サイモンからでされた理科の宿題をせっせとやっている。
そして私は、ラクーナと一緒に散歩がてらに買い物中だった。
「わあ、家具屋ね? いいチョイスだわ、フレドリカ!」
「いっぱい見てこう! あそこ、かわいいのがいっぱいあるらしいわ!」
「え、ちょっ――」
ラクーナが、私の服を手でつかむ。
だけど、私はそれを振り切って、どんどん先へと進んでいく。
「――もう、本当かわいいんだから♪ 待って、フレドリカーっ!」
その店の名前は、‘キューティクル・バニー’というらしい。
その名のとおり、かわいい小物や家具が売られており、その大半がウサギをモチーフにしたものだった。
「きゃあ、かわいい! みてみてラクーナ、フォークがあるわ!」
「おおーっ、持つところがピンクと白のタータンチェックになってるのね。本当、かわいい! フレドリカ、さすがねっ」
「えへへ――あ! みてみてっ! あそこにもかわいいのがあるわっ」
と、やや興奮しながら駆け足で向かったのは、ブックカバーが売られてある場所だった。
横長なテーブルに、ずらりと陳列されてある、柄が違う数々のブックカバー……。
――かわいいっ!
「ねえ、ラクーナ!」
ラクーナに向かって手を振る。
ラクーナが追いついたところで、私は興奮しながら、ある提案を持ちかける。
「このブックカバーを、サイモンにプレゼントするの! きっと喜んでつけてくれるわ。いいでしょ、ラクーナ。サイモンにプレゼントしたい!」
一瞬、ラクーナがきょとんとした。
しかし、すぐにそれを平然とし、ラクーナは「いいわね、それ」と肯定する。
「決まりね!」
さっそくブックカバーを手に――とろうとした。
「あ、でも……」
――が、できなかった。
――なんの柄にしたらいいんだろう?
サイモンが好きな色はなんだろうか。
そもそも、どんな柄が好きだろうか。
それがわからないから、なにを手にしたらいいのか――。
「フレドリカ」
不意に、ラクーナが話しかけてきた。
「サイモンの気持ちになって考えるのもいいことだけれど、それ以前に、プレゼントされたものはどんなものでも嬉しいと思うわ」
あ……。
――うん、そうだよね。
「ありがとう、ラクーナ」
私は二つのブックカバーを手にとった。
「……え? 二つも買うの?」
「うん」
ラクーナをまっすぐ見据える。
「だって、もう一人、お礼をいいたい人がいるから!」
・ 昼過ぎ、二人のとある行動の意味は。 ・
《ツバサ》
ガサッ!
「でてきたぞっ! アーサー、援護頼む!」
「おうっ!」
俺の言葉に肯定して、アーサーが、魔法篭手を魔物に向かって掲げる。
「“火の術式”――」
術式を展開させていくアーサーを見て、魔物が鳴き声を上げる。
そして、そのまま魔物はアーサーへと突進していき――と、そのとき。
ブスッ!
「油断はいけないぞ」
俺が槍を、魔物に向かって刺し込んだ。
――アーサーは、おとりだったのだ。
話はかわり。
――魔物は、カブトムシだった。
大きな体、その体は鮮血のように赤かった。
――‘羽ばたきカブト’と呼ばれているらしい。
羽ばたきカブトの傷口から、ぶしゃっと梨汁が飛び出るように、緑色の血液が飛び出る。
そして、それはそのまま動かなくなった。
いそいそと、俺はその体の一部を剥ぎ取る。
‘硬質のトゲ’。
――それが、俺たちの欲しかったものだった。
「イッエーイ!」
アーサーが百点満点な笑顔をつくってハイジャンプした。
「これで、念願のものが作れる……!」
「なあ、ツバサ。ずっと思ってたんだけど、その‘ネンガンノモノ’ってなんなんだよ?」
念願のもの。
それは、ヘアバンドだった。
硬質のトゲを使えば作れると、シリカからの情報を得たのだ。
――フレドリカにプレゼントでもしてやりたいじゃないか。
だから、今俺たちはトゲを集めていた。
トゲを持つ羽ばたきカブトは、一階には普通では登場しないらしい。
だが、はさみカブトの上位種であるこの魔物ならば、特殊進化により、一階でも現れることがあるという。
ゲームでは、隠しエリアにて出現します!
ツバサたちがいるところは隠しエリアではありませんよ!
「――秘密だっ」
「なっ!?」
予想外の返答に、アーサーが驚く。
「な、なんで教えて――」
くれないんだよ!? といおうとしたアーサーの口を軽く押さえる。
「ただ、これだけはいえる」
「もぁんにゃよ?」
――「なんだよ?」といっているつもりか?
「とある人に、お礼をいいたいってことはな」