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*30*
・ 二つのイベント ・
――げっほ!!
「いったあ!?」
――皇帝ノ月、四日。ここは、樹海の第一階層、翠緑ノ樹海。
ここで俺たちは、ある事実に直面していた。
――このオレンジの果実、不味い! ってこと。
美味しい果実もあれば不味いものもあるって訳で。直感的に「これアーサーの役目だ」と思ったので食べさせてみた。で、こうなった。
……結果、自業自得。
「って、マズ!! ニガ!!」
なるほど、苦い味なのか〜、と思いながら荷物の中の布で体をふく。アーサーの唾と果実の果汁をふくためだ。唾っていいかたはないかな。よだれのほうがいいかな。あ、唾のほうがいいな。
――げっほ!! というのは、アーサーが果実を吐き出す咳の音である。で、それが俺に当たった訳だ。うん、だから自業自得。
「どういう味だろ。食べてみたいなあ」
それを聞いて、アーサーがいった。「んな訳ねーだろ。こんなまじー実!!」といったのだ。でも、どれだけ不味いのか食べてみたいじゃないか。
――もぐっ。
――ガフッ!!
「マズッ!! 確かにニガッ!!」
「…………ツバサ――」
俺もアーサーのように吐き出し、それがサイモンに当たって怒られたのは数秒後のこと。
「――待って」
不意だった。
急にラクーナが足を止め、まっすぐの方向を見据える。そして、「あそこを見て」と静かにいい、口を閉ざした。
――魔物?
それは、モグラの魔物だった。‘ひっかきモグラ’と呼ばれる個体で、テリトリーに入ると凶暴化するらしい。
「ただの雑魚の魔物だろ? なに変に警戒してんだよ、ラク――!?」
アーサーが小馬鹿にするようにいっていたが、急に話すのを止めた。そして、あのアーサーまでもが魔物をじっと見つめていた。
――あれ?
そのとき、気づいた。なにか変なのだ。どこが? といわれるとそれまでかもしれないが……どこか、ちがう。
――あ。
そしてまた、気づいた。魔物の‘気配’がちがうのだ。サイモンがいう。「これは稀に見かける‘稀少個体’なる魔物だと。
サイモンの話によると、その魔物は時間が経つにつれ、強さがどんどんアップしてくという。迷惑な魔物だなあ。
バッ!!
「来るわよ!」
――稀少個体なんて、倒してやる!
槍を構える。
――魔物が襲ってきた。
「ふぃー、なんとかなったな!」
倒れた魔物を見て、アーサーが汗をぬぐう。
「あの魔物……強かったわね。……ああいう魔物と出会ったら、注意しなきゃね」
フレドリカがためいきを吐き、「疲れたわ……」と呟いた。
「だなあ。……しかし、サーイモーンっ」
「……ふむ。興味深い――」
「行くぞ、サイモーン!」
アーサーの呼びかけに、「ああ」とサイモンがいう。
そして、先を急いだ――のはよかった。
……だが、倒れている魔物をじっと見つめていたのが気になって仕方がなかった。
・ 地震 ・
――グラッ!!
「――うわっ!?」
グラグラグラッ!! グラ――
急に起きた大きな地震に、誰もが足を止めた。
その地震は大きな揺れを発してから、急速に揺れを静めていく。そして、それは完全に静まった。
ラクーナがためいきを吐く。「ひどく揺れたわね……」といった。
その呟きにサイモンがうなずく。俺も当然、うなずいた。確かにひどい揺れだったと思う。
「ああ。これがエトリアで問題視されている地震だろうな――この原因を突き止めるためにも、僕らは早急にグラズヘイムへと向かわなければいけない訳だ」
サイモンの言葉に、フレドリカが首を横に振る。
否定の意思を意味している行為に、サイモンが「間違っているか?」と質問した。
彼女は、その質問にも否定した。「ちがうけど、ちがう」といったのだ。
「……私の記憶も、取り戻さなくちゃ」
サイモンがそれを聞いて、「失礼」と謝る。
「きみの記憶を取り戻すのは大前提の話だ。記憶が戻れば色々と分かるだろうしな」
――そうだよな。うん。そのとおりだ。
俺も静かにうなずいておく。
その直後、アーサーが「じゃあ、早く樹海の先に行こうぜ!」といった。それが合図になったかのように、みんな走っていく。
……だけど、フレドリカだけはうかない顔。
「……サイモンって、私のこと道具としか思ってないような口調してる……」
道具、か。まあ、確かに「色々と分かるだろうしな」といってれば、そうは聞こえるのも仕方がないと思うけど。
「サイモン自体が道具じゃないか? ロボットボーイ♪」
「――ロボット? ボーイ?」
「あ」
そして、俺の失態により一時間が経過しました。
――アーサーがサイモンに向けて、「ロボット怖い……」と呟いていたのは気のせいなのだろうか。
・ 美味しいひとときを ・
――ん?
すんすん、すんすんと匂いを嗅ぐ。どこからか、美味しそうな匂いがしてきた。 美味しそう。料理の匂い。
なんだろう、サンドイッチ?
生ハムの匂い?
焼いている音。なんだろう。
「――あ! この人!?」
フレドリカが声を上げた。俺もフレドリカが見ている人物を見て驚く。
――樹海にただ一人いた兵士がいた。それはソールだったからだ。
「ソールじゃないか!」
「ああ、ツバサさん! お久しぶりです!」
ソールがにこやかな笑顔を向ける。かわいいな。
「すんすん……ん! うまそーな匂いがすっぞ!」
お、アーサーも気づいたか。さすがヤンチャ坊主だなあ。
――坊主じゃないけど。
「あら、これ、ウズラのグリル? ずいぶんと美味しそうね」
「ああ、これは冒険者たちにあげる食べ物です。あ、そうだ、いただきますか?」
「いいのか!? いっただっきまーす♪」