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*29*
・ 今日はカフェテリアで ・
――きれい、だった。一言で表すならば。
とてもきれいな館で、二階まで続いている。二階はロフトらしかった。
それに、まっしろなレースがひかれた大きなテーブル、それに用意されたのは……ローザの手料理、かな? 料理らしいけど、手料理なのかな。
「お帰りなさいませ、ラクーナお嬢様。そして、フィカルナの皆様」
ローザが天使のような微笑みを向ける。かわいいなあ……男の子でなくても惚れてしまいそうだ。
「今日からここを、皆様の家と思ってくつろいでください。私がお世話させていただきます」
――やっぱり、きれいだよ。
「きれいな建物!」
思わず口から感想がこぼれる。
その間に、アーサーが「すげーんだな、お前ん家」といっていた。ラクーナがそれに「そうね、すごいとしか表現できないわね……」とためいきと共に返答した。
「僕らにとってはありがたい。――では、ローザさん、今日からよろしくおねがいします」
「はい、皆様。ローザとお呼びください」
……やっぱり、天使みたいだ。
「お? これ、なんだ? ‘リジェネトル’ってかいてあんぞ。……十エン?」
アーサーが見つけたリスト――それは、料理店とかで見かけられるメニューだった。うん、十エンってかいてある。もしかして、お金とるのかな。
「お金……とるの?」
ローザに聞く。すると、ローザは苦笑した。
「はい。なぜか『ローザの得意カテゴリだけはお金をとれ』と旦那様が」
「まあ、一種の料理店みたいなものだからな」
サイモンの答えにローザと私はうなずく。
「でも、十エンだけだし、安いと思うぞ」
ツバサが笑顔で感想を漏らす。うん、そうだよね。
「頼んでみっか! んじゃローザ、頼む!」
「こら、アーサー。行儀悪い言葉つかわないの」
ラクーナの注意に、アーサーが叫んだ。
「人それぞれだろー!?」と。まあ、そのとおりだとは思った。
……それがアーサーだもん、ね?
だされたのは、いかにも甘そうなお茶だった。
リジェネトル・ティーというらしい。ティーというのはお茶という意味がある言葉らしい。「リジェネトル・ティーを略して、リジェネトルというんです」とローザさんが教えてくれた。
桃色の水がなみなみ注がれたティーカップ。それを私は見つめる。どんな味なのかな――もう飲んで平気、かな?
ツバサのほうを見る――と、もうすでに飲んでいた。飲むの早いよ、ツバサったら!
「美味しいな! ローザ、おかわり!」
「もう飲んだの!?」
ラクーナが驚く。もちろん、私も驚いている。
ローザは笑っている。といっても苦笑の顔だ。
「分かりました、お待ちくださいね。……ツバサさん、すごいなあ。人を笑顔にする才能があるみたいだわ……」
――いや、絶対ないでしょ。
ツバサに横目で睨まれながらも、私は心の中でつっこんでいた。
「そういえば、お風呂はどうするの?」
「もちろん、男女別々ですよ」と、ローザが微笑んで教えてくれた。天使のような笑顔を向けられて、少し照れちゃいそうになる。
それを聞いたのか聞いてないのか、ラクーナが猛突進してきた。私たちに。
「じゃあ! ローザ! フレドリカ! 一緒に入り! ま! しょ!」
大きすぎてなにをいってるのか、全然分からない――なんとなく分かるけど、それぐらい大きかった。
「え、ええ……。お嬢様の頼みならいいですけれど……」
「決まりね!」
…………えっ!?
「まさか、行くの?」
「なにいってんの。行くに決まってるでしょ! んじゃレッツラゴー!」
・ 番外編のあれ再び ・
《ツバサ》
「なあなあ、そういえばさ……」
「ん?」
ただいまここは、にえふ。つまり、2F。つまりのつまり、二階ってことだ。
俺は、アーサーからの言葉を聞いていた。
「風呂、どーすんの?」
ああ、そういえば。
確か、今入れたっけな? でも、普通とはちょっとちがうような札が……。
「確か、今日は混浴の札が飾られていなかったか」
「混浴ぅっ!?」
なぜ、アーサーは混浴だけに反応する。
「ああ、そういえば。すごいな、サイモン」
俺がいうと、サイモンは笑顔を作った。
そして、アーサーを向く。アーサーがなにやら期待し始めた。
「アーサーが馬鹿らしく思えるからな」
――鬼だ。
……と、アーサーと一緒に毒づいた。
「……で、なんで風呂の前にいるんだ」
俺とサイモン、同時にためいきを吐いた。
――いったとおり、ここは風呂の前だった。開ければすぐに風呂の景色が見えるだろう。
「犠牲者っつうのもいいかな、って」
アーサーが妙に大人びた顔をして呟いた。犠牲者? それって、つまり。
ドンッ!!
「「ツバサごめんっ!」」
な――。
「ええええええ!?」
俺は堕ちていく。闇の中に。
俺は涙目になっていく。あの恐怖を忘れられないがために――。
「ツバサ、大丈夫だと思うか?」
「あいつは馬鹿だから、まあ大丈夫だろう」
――あの二人めっ!
「キャアアアアアアアアッ!!?」
――そして、やはりビンタされたのは、明確のことであった。