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*31*
まず、最初に出されたのはスライスした干し肉とチーズだった。
それにアーサーと俺は真っ先にかじりつく。ラクーナが「大人げない」なんていってるけど無視無視。いいだろ、別に。いっぱい食べたってさ。
「お・い・しー! ソール、最高だなー!」
美味しい! 美味しすぎる!
「まだまだありますよー」
バターが乗ったオープン・サンドイッチ。それがなんと、人数分――よりも多めな十個。
――うわ、倍じゃないか。嬉しいなあ。
そして、始めにラクーナがいった山ウズラのグリル、
ジャガイモとケッパーのサラダ、
枝つきの干しブドウと、
その残りで作ったのだろうと思われるブドウ酒が並べられた。
「すっげー! ソール、すげー!!」
「遠慮せずに食べていってくださいね」
その言葉をきっかけに、俺たちのなにかがプツンと切れた。
そして、俺たちフィカルナご一行は、ギンギラと光る料理にかぶりつき始める!
「……美味いな」
「特にサラダが絶品ね。隠し味のミントがいい仕事してる! あ、ソールさん、お酒おかわり♪ 五杯♪」
――え、五杯も!?
「すごいですね」とソールが驚く。すごすぎだろう、ラクーナ。
「ウズラの……グリル……」
フレドリカがじと目でグリルを見つめている。
その間に、アーサーがフレドリカの分のサンドイッチに手を――。
バシッ!!
「ダメッ!!」
「――チェッ。失敗した!」
美味しい。美味しい。
――最高だなあ♪
「おかわりーっ!!」
「と、いいながら――ツバサ! 自分専用のバッグに料理をしまうな!!」
げっ。一番ばれたくない奴にばれた。サイモンだ。
「ちっ、ばれたか!」
「ツバサ! 待て! おいっ!!」
「やーだねー!」
美味しいひとときをすごして、俺たちは先へと進んでいった。
・ 突進! 岩イノシシ ・
「「ぶべしっ!!」」
――F.O.E、‘岩イノシシ’。
その魔物は、冒険者たちが目の前にいると、猛突進してくるという魔物だった。
――さっきの「「ぶべしっ!!」」っていうのは、その突進にアーサーと俺がぶつかった声のことだ。
でも、かろうじて横道に逃げて、今はみんなで息を整えている。
今もイノシシ野郎は、壁から出られずジタバタしている。
「……あの魔物にも注意しとかなくてはな。突進されてアーサーとツバサが毎回怪我したら、たまらん」
ぐっ。言葉をつまらせる。
「……まあ、二人も注意力散漫としないほうがいいがな」
ぐうっ。また、言葉をつまらせる。あ、アーサーもつまらせてる。
「いいだろ、別に! 散漫としてても!」
「それで“キュア”をつかう‘TP’がなくなったらどうする」
アーサーが言い返せなくなって黙り込む。
――TPというのは、テクニカルポイントの略のことだ。テクニカル、というのに精神力という意味を持つらしい。“キュア”などをつかうとTPは減るそうだ。
“キュア”って、絆創膏とか貼るだけだよな。なのにどうしてTPが減るんだ? とも思ったが口に出さないでおく。
「迂回しなくちゃね」
ラクーナが、フレドリカを抱いたままいった。
どうして抱いているのか?
それは、突進の際にフレドリカを抱いて横道に逃げたからだ。フレドリカが逃げ遅れたらしい。
――よかった。あの突進の餌食にならなくて済んで。痛かったよ、あれ。
「……気をつけて進みましょう。あの魔物に出会ったら厄介だし」
――そのとおり、だな。
俺もその意見に肯定する。
――そして、先に進むことにした。
・ カマキリハウスを通り抜けろ ? ・
――うええ。
思わず吐き気がした。その原因は右ななめにいたF.O.Eだ。
――‘全てを刈る影’。
迷宮へと足を踏み入れた者がまず恐れる敵だった。
カマキリなのに立っていて、鋼色に輝く体と共に大きな鎌を持っている。腕だ。腕がカマキリなだけに鎌なのだ。目は黄金にぎらついている。頭や触角は紫。
いかにも恐ろしい見た目に、パーティの誰もが固唾(かたず)を飲んだ。
「こりゃあ……やばい敵がいるみたいだぜ。すげぇ殺気だ……!」
アーサーの言葉を聞いて、ラクーナが驚くと共にうなずく。
「無理・無茶・無謀がモットーのあんたがいうんだから、相当の相手ね……。ツバサ、警戒して進みましょう。万が一に遭遇したら、逃げるしかないと思う。――それほどの相手だと思うから」
「ああ」
分かった。それには絶対にうなずく。
ハイランダーの里で、食用の魔物狩りをするのだが、そこでまず初心者は全てを刈る影を狩るのだという。
実際刈ってみて、本当に強かった思い出もある。
「――しかも……きらきらしてるし」
――それに、稀少個体だったのだ。
「だから、どうするよ?」
アーサーがせかすように質問した。
「くっ……」
どうしよう――全てを刈る影は一刻と迫ってくる。どうしよう。
――そうだ!
「攻撃!」
「「「「は?」」」」
――攻撃は――。
「絶対の防御だ!!」
ダダダダダダッ!!
俺は、仲間をおいて、一人で全てを刈る影へと突進していく。
――カマキリ魔物は、正面にいた。やられるかもしれない。だけど、この方法なら突破できたんだ!
「ありがとう、岩イノシシッ!」
素早く通り抜ければいい。そんな素朴な方法に、誰もが呆れているだろう。だが、みんながそうし始めていた。足を動かした。アーサーだ。アーサーもこっちに向かってくる――。
「そうか!」
ラクーナが気づき、アーサーについていった。サイモンも。フレドリカは魔物を一度見、そして駆け出していった。
――そうだよ。こうすればよかったんだ!
「イッエーイ!」
まるでコースターみたいで、面白かった。
……自分が走ってるだけだけど。