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数学恋草物語 Chapter3
作者: 恋音飛鳥  (総ページ数: 9ページ)
関連タグ: 数学恋草物語 飴野夜恋 九石優也 恋愛 数学 理系ホイホイ 
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*3*

 「おい、起きろー」
その九石の声で私は目を覚ました。
 けれど。
「う、うわぁああああああああああ!?」
知らぬ間に私は九石の方にもたれて眠っていた。
「うるさい、大きな声出すな」
明らかに迷惑そうな声で言う九石。
「ごめん、肩借りて!ま、まじでごめん!」
「そっちじゃなくて、声がうるさいほうが迷惑」
「そ、そっちも!」
肩借りてたのはいいよ、具合よくなったなら。と九石はまた本を読み始める。もうあと数ページ。私が寝ている間にこんなに読んだのか。
「お前、ずっと寝てたから、もう宿ついたよ」
「ふぇ!?」
「休憩のときもずっと寝てた。よく寝るな、お前」
今、下車の準備をしているとのことで、それまで起こさずにいてくれた九石には感謝だ。
――まぁ、そんなところも、
ちょっと待て、私、思考ストップ!以前は全然思わなかったのに、最近はすぐにこのモードに入ってしまう。
 今のうちに今日のスケジュールを確認しておこう。これから荷物を部屋に上げて、そのあとお昼ご飯。そしてオリエンテーション(自己紹介とか含むらしい)、そして夜ごはん食べてから一つ目の講義。で、お風呂入って寝られるかわからない(バスの中で寝すぎた)けど、寝る。
 同室の2人の女の子と仲良くなれればいいけど…。何しろここ数年、女子の友達が一人もいなかった人間。どういう話をしたらいいのかもわからない。もしここでも嫌われちゃったらどうしよう…。そんな不安があった。
 私は一人でもう一度窓の外を見る。さっきまでの高速道路ではなく、大自然の中。たまにはこんなところで学校の嫌なこととか全部忘れちゃいたいと思う。
「準備が整いました。バスから降りて自分の荷物を持って班員と一緒に部屋に行ってください。12:00に食堂集合です」
主催のアナウンスが入った。
 バスから下車すると、「○班集合〜」という声があちらこちらで聞こえる。
 「飴野夜さん、だよね?」
ふと後ろから声をかけられ、振り向くと二人の女の子がいた。
「う、うんっ」
「よかった〜!5日間、よろしくね!」
人懐こいタイプの子なんだな、と目の前のポニーテールの女の子を見る。隣に立っている三つ編みの女の子もおとなしそうではあるが、微笑み返してくれた。
「えっと、自己紹介でもする?」
こういう時にはまずは自己紹介、なのではないかと思って言ってみる。
「うん!私は西真希、よろしくね〜」
「外山ちとせです。よろしくお願いします。」
「あ…飴野夜恋ですっ、よろしくっ!」
「飴野夜さんってあの有名な飴野夜さんだよね!?あの、私あんまり数学出来ないんで、わからないとことか教えてくださいっ!」
そう言って深々と頭を下げるちとせちゃん。
「大丈夫だよ、ちとせちゃん!今回のセミナー中学生向けなんだし、分かりやすく説明してくれるって!」
「恋ちゃんにとって簡単でも、うちらにとっては難しいんだってばー」
と笑う真希ちゃん。
 どうやらこの二人とはうまくやっていけそう。そんな気がした。
 「栃木県の国立松ヶ原中学にいってるんだー。クラスメイトで幼馴染みなの。恋ちゃん学校どこだっけ?」
「桜野住。」
「えっ、名門じゃないですかっ!?」
自己紹介を交えつつ、部屋までの道での会話は弾んだ。
 私達の部屋は東間の2階。九石達男子は西館だ。
「男子たちは6人で1部屋が基本なんだって。うちら3人で1部屋だから得だよね」
真希ちゃんは片手に部屋の鍵を持ち、それを見ながら言った。
「真希、ここじゃない?」
「そだねー」
ガチャ、とシリンダーの回る音がして扉が開く。
「うわぁ…。」
事前に調べて知ってはいたが、とても広い部屋に掘りごたつまでついている。日当たりも良く、過ごしやすそう。
「3人で独占だよ!この部屋!」
私達3人はひとしきり騒いだ後、荷物を広げていく。
「オリエンテーションって、筆記用具とテキストくらいだよね?持ち物。」
「あとは冴える頭…って恋ちゃんはもともと持ってるか」
そして3人で笑いあった。
 友達と笑いあって楽しさを共有したのはいつ以来だろうか。記憶もないほど昔に思えるのは、中学の2年間を長く感じすぎたからだろうか。
 たった1週間だけの付き合いになってしまってもこの1週間を充実させよう。私はそう思った。
「そろそろご飯食べに行こっ!」
真希ちゃんの宣言に合わせて、私達3人は部屋から出た。

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