完結小説図書館
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*5*
1つ目の講義は「素数について」だった。素数の無限性について、さらには双子素数などにまで話題が広がって、なかなか面白かった。
「面白かったねー」
お風呂へ向かう私達3人の話題もそれで持ちきりだった。
「双子素数の研究、進んでるんだね。いつか証明する人が出るんだろうなー」
とちとせちゃん。
「ちとせちゃんかもよ?」
「え!?いや、飴野夜ちゃんの方が可能性あるよー」
そう言って、また笑いあった。
セミナーの先生にも女性はいるが、先生と生徒は風呂の時間帯をずらしてある。よって、お風呂も3人で独占できる。この旅館のお風呂は、露天もあるようなので結構楽しみ。
ガラッとお風呂のドアを開けると、熱い湯気が立ち込めた。
ささっと体を洗う。真希ちゃんもちとせちゃんも髪が長いから、洗うの大変そうだな、とおもった。
「んー、まぁ慣れたからもう洗うの苦じゃないかな」
と言う真希ちゃんだったが、3人の中で一番体と髪を洗うのに時間がかかっていたのも真希ちゃんだった。
そんな真希ちゃんを、私とちとせちゃんは露天風呂の中で待つ。
暑くもなく、寒くもない、心地いい空気が肌を撫でる。
「飴野夜ちゃん、数学ってどうやったら出来るようになるの?」
ちとせちゃんの質問に、私は驚く。
「え、ちとせちゃん十分できるでしょ」
「飴野夜ちゃんくらいになるにはどうしたら良いのかなって思って。もともとの素質の限界はあるけど」
「うーん…。日々コツコツやるとかかな?あとはずっと好きで居続けるとか…」
おまたせー、と真希ちゃんがやってきた。
「恋ちゃんそんなに数学出来るんなら、学校でも人気者なんでしょ、羨ましいよー」
と微笑む真希ちゃん。
そうだったらいいのに。きっと…きっと二人の学校ではあんないじめはないんだろうな。うらやましい。
「そんなことないよ。…むしろ嫌われてるくらい。」
私は2人に学校でのことを話す。どんなことをされているのか。友達がいないこと。
まだ会って一日も経っていないのに、こんなに心を許せるだなんて。それだけ2人と一緒に居ると楽しい。
「それ酷っ!」「酷いよ、飴野夜ちゃん、我慢しちゃだめだよ!」
私があらかた話し終えると2人は口をそろえていった。
「恋ちゃん、悩みを打ち明けられる人は…?」
「う〜ん…」
「隣の…九石君、だっけ?仲良さそうに話してたけど、あれは違うの?」
「違う!」
思った以上に居大きな声で叫んでしまった。
「あんな不愛想で、数学以外にはまるで興味なしで、色々嫌味な奴なんk」
「…聞こえてるからな」
「うわっ!?」
いきなり聞こえた九石の声。ここは女風呂。ということは…
「何覗いてんのよ、この変態!H!スケベ!」
自分の体温が一気に高くなったのは、お風呂の熱湯のせいだけではないだろう。私の、数学以外何にも役に立たない脳は、必死で訳をはじき出した。
「ちげーよ、お前の声が大きすぎてこっちまで聞こえてくるんだよ」
慌てることもなく、落ち着いた声。隣では真希ちゃんが「早とちり〜」と笑っていた。一方、男子風呂の方では「九石、彼女と風呂でケンカかー?」「彼女じゃねーよ!」と言うやり取りが聞こえてきた。
イラつかせるにもほどがある。
私は怒って風呂から出ると、すぐに着替え、九石を待ち伏せしてやった。