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罪人の娘 「end」
作者: 水沢麻莉衣  (総ページ数: 27ページ)
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10~ 20~

*9*

『みるーおかえりー』

母さんの優しい声がした。
母さん。
ただいま。
帰ってきたよ。

ミルカは玄関の鍵をしめ、母親に抱きつくように泣きついた。
母親は何かを悟ったかのように優しく撫でた。
ミルカはまったく普段泣かないのだ。
絶対に弱味をみせない娘さんなのだ。

珍しく泣きじゃくる娘の姿は痛いたしい。
彼女に何があったか?
そんなのは考える間もなく当り前のことが起きたのだ。
またなにかを投げつけられたのだろう。

同じ人間なのに哀れなものである。
彼女だけが、このような目にあうのだ。
母親ではなく、姉でもなければ。
ミルカだけなのだ。

『みる。ご飯にしよっか。お母さんのおかず、あげるわだから泣かないで、ミルカ、ね?』

『泣いてないぞ…べつにっ…』

ミルカは堪えてるのだ。
母親に心配をかけたくないのだろう。
海斗の言う通りただただ優しい普通の女の子なのだ。

『父さんはあたしが嫌いなのか?母さん・・・・・』

『いいえ。あなたを愛していたわ』

母親は娘に愛情を伝えた。
だが、冷えきってしまった娘の心には一切届かない。
もう、愛情もなにもない。
優しさの欠片もない。
奪われたのだ。
あのときに。
人の愛情を優しさを信じられなくなったのだ。

『美味しい?お母さんね、パン屋さん回って少しずつ頂いたの。それを焼いてみたのよピザみたいじゃない?』

『美味しい・・・・・』

母親はニッコリと微笑む。
だが、娘は微笑まなかった。
無表情のままであった。

周りが。
彼女への冷たい仕打ちが彼女を変えてしまったのだ。
ほんとうは優しくもろい彼女の心を冷やしたのだ。

彼女を壊してしまったのだ。
この世にたった一人のミルカという儚い少女を。

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