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第 3 章 ( 前編 )
恋わずらい
「 あー! 失敗した!! 何やってんだよ俺は・・・」
あの後、俺はもとの世界に帰った。
しかし、俺は重大なことを忘れていたのだ。
それは・・・
「 なぜ、あいつは死ぬとわかっているのに平気なんだ・・・」
結局、俺は無駄な時間を過ごしてしまった。
だがやはり気になる。
「 ちっ 行くしかないか。」
こうして、俺はまた菊一 柊の所へと向かった。
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〜菊一家〜
あいつはまた、いつものように庭にいた。
華やかな着物を身に纏って、俺をみつけるなり、近寄ってきた。
本当に子犬のような奴だ。
「 来てくれたんですね! また、お話しましょう!!」
そんなに俺といて楽しいのか?
よくわからん奴だ。
「 そういえば、凍夜さんってよく見るとまつ毛長いし、背も高くて
スタイルいいし、顔も整っていてかっこいいですよね。」
「 うるさい! 余計なお世話だよ。」
こいつは、恥ずかしげもなくすぐにそういうことを言う。
いやっ 流されてはいけない!
今日は聞かなくてはいけない事があるんだった。
すぐに俺は彼女に問うた。
「 お前さぁ、死ぬことわかってんのに怖くないの?」
しばしの沈黙。
やはり、死ぬということは恐ろしいことか・・・
死への恐怖がない人間なんて存在しな・・・
「 怖くなんてないですよ、だって、あと3ヶ月あるじゃないですか。」
驚きを隠せなかった。
「おまえ、死ぬんだぞ? 本当にわかってんのか。」
「 はい、だってくよくよしていても仕方ないし、それに・・・」
「 私、望まれて生まれてきたわけじゃ、ないんですよ。」
その気持ちを語る彼女の表情は、どこか儚げで、少しばかりの風
が吹いてしまえば消えてしまうような、今まで見たことがないくらいに
冷たかった。
俺は、生きることに前向きな彼女を守りたいと思った。
少しの時間でも、彼女と長く一緒にいたい。
語り合いたい、笑顔を守りたい。
この気持ちが何なのかはまだわからない。
だけど、こいつの願いはすべて叶えてやりたい。
そう、思ったのだ・・・。
こんな俺でも、少しでもいいからこいつの悲しみを背負ってやりたい。
「 おいっ 菊一 柊、悩みあんなら、俺が相談にのってやらなくも
な・・・」
「 柊様ー!! どこにおられるのですか!?」
「 あっ今日はここまでですね。また、来てくださいね!」
俺の精一杯の勇気は消されてしまった・・・。
しょうがない。 今日は帰ろう。
「 凍夜さん! ずうずうしいかもですが、そのっ・・・えっと、あの
・・・」
「 何だよ、 もう行くぞ。」
「 柊って呼んでください!」
そう言った彼女の顔は、甘いリンゴよりも赤くて俺もつられて
赤く、いや、紅くなってしまったのだ。
「 しょうがねぇからそうしてやんよ。」
5月、 初めて俺は、守りたい大切な存在ができた・・・。