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*9*
第四話
次の日、未来が仕事から帰ってきた時だった。
「ただいまー。あれ、ゆきもいるの?…どうしたの?」
小雨の降る、夕方のことだった。
「あぁ、おかえり。未来」
「あのさ、ちょっと、あっち座って」
カイトとゆきが隣にすわり、未来がその向かいに座った。
未来には、嫌な予感しかしなかった。
「なにか、話があるんだよね」
「あのさ…俺、未来の事、すごく好きなんだ」
カイトが、険しい顔で話し出した。
「でも、あの週刊誌の事から、ゆきに言われたんだ」
未来はバッとゆきを見た。
そして悟った。
「未来の事、本当に分かってたの…って」
ゆきが、ぜんぶ。
「そこから俺、どんどん考えてて…気がついたら…ゆきとヤってた」
未来の目から、涙があふれた。
親友だと思っていた彼女に彼をとられた。
彼は、彼女を選んだ。
大切な存在であった二人は、一気に未来の心から消えていったのだから。
「俺は、最低だ。だから、俺と…」
「別れて」
たった四文字で紡がれる言葉のはずなのに、未来にはとても重く感じられた。
そして未来は、大粒の涙をこぼしながら、ギターと貴重品だけを持って家を出ていった。
二人で選んだ家具も、初めてのアルバムも、服も、全部、もう。
未来には、いらなかったから。
未来は、ふらふらと夜まで歩いていた。
とりあえず気がすむまで歩きたかった。
夜の街の灯りは、とても綺麗に感じる。
何も考えたくなんかないのに、思い出すのはそれぞれとの記憶。
(ゆきとは、高校からだったっけ。修学旅行は楽しかったなぁ。
カイトとは、いろんな所に行ったなぁ。でもそれは…)
過去の事なんだな。
それを思うと同時に、未来は。
「わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
叫んだ。
濁った、力の限界がつきる音で。
たくさんの人が未来をしかめた顔で見た。
未来はその目を気にせず、走った。
叫びながら涙を流し、全力で走った。
* * *
未来はその後、実家に帰り大学を休学した。
テレビに出る事は漠然と減ったが、音楽番組には出ていた。
カイトとゆきの方は付き合うようになり、あの家で同居している。
未来の物は取りに来たとき困らないように、押し入れの中にまとめてあった。
そんな日々が、三ヶ月ほど続いただろうか。
ある日。
距離を置いていた拓海が、カイトをカフェに呼び出した。
「お前があんな奴だって、俺は知らなかったよ」
そう言って中身のないような顔で笑った。
「それはそうと、カフェでする話じゃないんだけどさ」
「昨日、未来が死んだ」