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大形京 天国へ行く【黒魔女さんが通る】完結!
作者: モンブラン博士  (総ページ数: 8ページ)
関連タグ: 黒魔女さんが通る! 大形京 天国 トーマの心臓 トーマヴェルナー クロスオーバー 
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*4*

「……京……京……」

誰かがぼくを呼んでいる。
聞きなれない声。
凛と澄んだ高い男の子声だ。
ぼくの名を呼んでいる。
誰なんだろう。
薄らと目を開けると、ひとりの男の子がぼくの顔を見つめていた。
さらりと揺れる金髪のボブカットに綺麗な青い瞳。
華奢な体躯を赤いネクタイに黒のブレザーで包んでいる。
彼の外見は、同性であるぼくでさえも心臓がドキリと音を立てるほど可憐なものだ。

「ぼくの名前を呼んだの、きみ?」

「そうだよ。お節介でごめんね。ぼくはトーマ、トーマ=ヴェルナーだよ」

彼が差し出した手を、握り返そうとして驚いた。
ぬいぐるみが、両手から消えている!

「ぬいぐるみは、どこにあるの」

「……ここにはないよ」

「どこにあるか、知ってる?」

「きみの魔力封印のぬいぐるみはね、スターさんが取って行ったよ」

「スターさん?」

「きみをここまで連れてきた人だよ。茶色いスーツを着た紳士だけど、覚えていないのかな」

ぼくの前に現れた紳士の名はスターさんというのか。
覚えていて損はない情報だ。
ぬいぐるみは、そのスターが持っていることが分かった。
もしかすると、待っていればここに戻ってくる可能性がある。
ならば、それまで退屈しのぎにこの少年と話をするのも悪くないかもしれない。楽観的に考え、相手に口を開く。

「ここがどこなのか、教えてくれよ」

「ここはね、天国だよ」

「て……」

「天国」

「じゃあ、きみは天使なのかい」

「ぼくは、天使じゃないよ。だけど、翼はある」

「翼……」

改めて彼の姿をよく見ると、その背には純白の大きな翼が生えていた。
これはトーマの背中と直結して生えているのかが気になるが、ともかく彼には一対の羽がある。彼は微笑み、言った。

「翼があるのはぼくだけじゃない。きみにもあるんだよ」

そう言われて首を回して自分の背中に目をやる。
けれど、それらしきものはどこにもない。

「嘘を言わないでよ。ぼくには翼がない」

「後ろを向いてみて」

「うん」

彼の指示通りに相手に背中を向ける。
なぜだろう、彼の願いは素直に聞ける。
彼はぼくの肩甲骨あたりを指で触れて、訊いてきた。

「翼、捨てちゃったの?」

先ほどとは違う、影の落ちた低く悲しそうな声だ。
背後で、静かに泣く声が聞こえている。
トーマが泣いている。
なぜだろう。
ぼくに羽が生えていないことが、そんなに悲しかったのだろうか。
どうして、赤の他人であるぼくのために泣くんだ?
なぜ――
不思議だ。
以前はぬいぐるみを外されると、邪悪な心で真っ黒になっていた。
けれど、今はどうだろう。
悪いことをしようと思うどころか、彼の哀しみに心を痛めている自分がいる。
もしかすると、ぼくの心は成長しているのかもしれない。
自分の胸に手を当て、心臓の音を聞く。
どっくん、どっくん。
高鳴るぼくのハート。
天国にいるけど、ぼくは生きているんだ。
だけど、どうしてスターをこんなところに連れてきたんだろう。

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