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*6*
「恋愛をするのに資格が必要だとしたら、それはとても悲しいよね。
愛する人を愛したくてもできない苦しみ……ぼくにはその辛さがわからない。力になってあげたいけど、ごめんなさい」
丁寧に頭を下げる彼。
トーマは、勘違いをしている。
言葉を文字通り受け取ってしまっているのだ。
ぼくは慌てて彼に言葉のあやを説明した。
すると彼は、にこにこと笑って、
「冗談でよかったよ。本当だったら、これほど辛いことはないもの」
「……そうだね」
それからしばらくは、無言だった。
ぼくもトーマも口を利かない。
ただ、互いの静かな時間だけを共有していた。
と――ここで扉が開いて、ある人物が入ってきた。
それは、ぼくの夢に現れるジャドウだった。
「ジャドウ……!」
「フフフフフフ、大形よ。こうして直に対面するのは初ですな」
「なんで死神のおまえが、天国なんかにいるんだっ」
彼の動きを停止させようと、コントロール魔法をかけようとする。
だが、それはできなかった。
なぜならば、ぼくはそれよりも先にコントロール魔法をかけられていたのだから。
黒魔女七段に相当する魔力を持つぼくに、容易く魔法をかけられるジャドウ。
奴の実力は凄まじいものがある。
第六感でそれを読み取るが、体の自由が利かないのでそんなことをしても意味はない。
間をとってぼくの横に腰かけているトーマにはコントロール魔法がかかっていないのか、爽やかな顔で相手に微笑みかける。
トーマは奴の顔が怖くないのだろうか。
骸骨のように痩せ細った生気のない青白い顔に、汚れひとつないピカピカ輝く白い詰襟の軍服に一九〇センチは優に超える長身。彼はぼくが今まで対峙してきた死神とは別格の貫禄を誇っている。
「隣に失礼する。大形よ」
ジャドウはぼくとトーマの間に割り込んで、偉そうに足を組んで腰かける。
一体、何をする気だ?
警戒していると、虚空からテレビのリモコンを出現させ、壁に向かって電源を押した。
すると壁がスクリーンのようになり、画像が映される。
壁一面にでかでかと記されたそのタイトルに、ぼくは戦慄を覚えた。
「『大形桃の日常』……」
「左様。おまえの妹である大形桃の日常を映したものだ。まあ、文句を言わずに見ていただきたい」
彼は不敵な笑みを浮かべ、必死で見ないように目を瞑ろうとするが、コントロール魔法がかけられているので、それさえも自由にできない。
お正月に黒鳥さん達にコントロール魔法をかけて嘲笑ったことがあったけど、自分がかけられてみて初めて分かる不自由さ。
これからは、この魔法は使わないようにしよう。
「では、上映会のはじまりはじまり」
ジャドウは低音で告げ、容赦なく再生のボタンを押した。