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*12*
番外編 夢見る少女 前篇
病室のベッドの上で私は無気力に窓越しから外を眺めていた。色彩絵具で塗ったような幻想的な空を見ながら、私はこの世の中に絶望する。
つい先日、私を担当していた先生にこんなことを言われた。
『もって…一か月です』
あまりにも唐突で私はまともに口を開くことができなかった。いや、もう少し付け加えるなら先生の言っていることが理解できなかった。傍にいたお母さんも私と似たような反応で、何度も何度も先生に聞き間違いじゃないかと問いかけた。
しかし、先生は首を黙って横に振って答える。
するとお母さんはその場にへなへなと座り込んで、両手で顔を覆った。私はどうすれば良いか分からず、とりあえずお母さんに大丈夫、と伝えようとしたけど呻くように泣くお母さんの姿を見たらなぜか出かけていた言葉が詰まった。
私の耳からお母さんの泣き声が離れなくなり、ずっと心の中で違和感を感じ続けていた。親があんな風に泣くところを見て、少し引いたのもあったけどやっぱり衝撃的なのが大半だった。
今になって思えば私のことを心配しての行動なのに酷いことを思ってしまったと反省する。
すでに外は夕焼けに染まり、部屋の中が暗くなり始めていた。それに比例するかのように私の心はどんどん恐怖に変わっていく。先行きが死でしかないと分かってから心に空いた穴はどんどん広がっていった。
(恐い…恐いよぉ……)
死への恐怖に耐えきれなくなり、私は布団に潜り、頭を抱えて目をぎゅっと瞑った。
そして気が付くと。
「どこ……ここ」
私がいた病室は見たことのない光景へと変わっていた。私より大きな草が永遠と続き、まるでミニチュワ版のジャングルみたいな印象を受けた。そんなジャングルにも一本の道があり、その道は奥までずっと伸びていた。
どこかも分からない場所だけど、不思議と恐いとかそんな感情は沸いてこない。むしろ、心が安らいでいくのを感じた。
私はとりあえず辺りを散策することにした。草村の中に入ったりとか道をまっすぐに向ってみたりとか色々周ってみたけ景色はさほど変わらなかった。
強いて言うなら、道をずっと行った先にある水車小屋があるぐらいだった。大して何かあるってわけでもないし、面白みもないように思えるが私は結構この場所を気に入った。
静かだし、草の匂いが良くてとても心が落ち着く。いっそのことずっとここにいたいと思った。
そう思ったとき、気づけば看護婦さんに起こされていた。視界がぼやけていて、意識も完璧に覚醒しておらず現実と夢の感覚が掴めていなかった。どうやら看護婦さんが晩御飯を持ってきたようで、その時寝ていた私を起こしたという感じなのだろう。
ようやくちゃんと意識が戻ると外はもう真っ暗で、晩御飯の時間になっていたことに気が付く。今のは夢だったのか…と少しがっかりしながらも、看護婦さんが用意してくれたご飯を食べる。
結局さっきの夢はよく分からなかったが個人的には結構好きな空気だった。またあの夢を見れたら、と思うけどそんな都合よく同じ夢を連続で見ることなんてことなんてない。
(ちょっと残念だなぁ……)
心の中で呟く。
すると、その日の夜以降同じ夢を連続で見た。
同じ場所で同じ空気。全てあの時と一緒。
最初は少し怖かったが段々夢を見ていくうちに、神様が私にせめてものの幸せをくれたのかなっと解釈し、夢のあの場所はいつしか私の居場所になった。
それから私は夢の中で色々なことをした。辺りを駆け回ったり、花を摘みに行ったり、前の水車小屋を見たりと現実の私ではできないことをたくさんした。
そして、回数も重ねていくうちに夢の記憶は現実で反映されるけど夢の中では受け継がれないということも分かった。
けれど私は構わなかった。
夢の中で全ての記憶が消えるなら尚都合が良い。だって辛い現実でのことを忘れて幸せな時を過ごしていたいのだから。
私はこうして幸せな日々を続けた。
そんなある日。
いつも通り草の壁で覆われた道を駆け抜けていると、道の奥から影が見えた。最初は草か何かかと思ったけど近づけば近づくだけ人の形をしていく。
距離が二メートルぐらいまで近づくと服装が把握できた。その人は真っ黒の学生服を着ていて、身長は、やっぱり男子だな〜って思えるほどに私より大きく、黒髪のストレートヘアーであることが分かった。
体格は少しなよっとしてそうだけど、それを除けばどこにでもいるような男子高校生だ。
よ〜し、ここはひとつ挨拶といきましょう!
私はこっそりこっそりと足を進め、徐々に速めていった。だけど男の子は私に気が付かないのか全然こっちを見ない。
なるほど、鈍感な人なんだ!
そう解釈した私は占めたと言わんばかりに内心ほくそ笑んだ。距離も充分!スピードも充分!
今だ!
「やっほぉぉ!!」
「ッ!?」
私は男の子に猛烈にアタック。そのまま男の子は倒れて、その上に私が乗るという状況になった。
「いって……」
男の子は不愉快そうに私を見つめる。だけど、その表情はとても可愛らしく向うの方では恐い表情しているつもりかもしれないけど全然恐くなかった。
男の子は仏頂面で私にこう言ってきた。
「………誰?」
この時私は気が付かなかった。何で記憶を失った方が良いと思ったのか…。
そして、ここから始まったのだ。喜劇でも悲劇でもあるただの情けない短いお話しが。
「分かんない!!」
そして、私は彼と出会った。