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僕は夢の中の君に恋をした【短編】 『完結』 番外編更新
作者: 電波  (総ページ数: 15ページ)
関連タグ:  恋愛 ファンタジー 
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10~

*13*


番外編 夢見る少女 中編

 その日、私は見知らぬ男の子と出会った。今までの夢では人が一人もいなかったのになぜ今日現れたのか…。そんな疑問は夢の中の私には浮かばなかった。


 ただ、そこに人がいてくれて嬉しいという純粋な感情しかなかった。


 それから私は男の子と色々と話をした。


 男の子は自分の通う学校で女子生徒から執拗にイジメられていることなどを聞いたり、それの解決策を提案したりと話をするというより相談に乗ってる感じのが印象が強かった。



 男の子もといテンパ君は心配そうな表情をしながらも私の案を受け入れ、実行すると約束してくれた。

 そろそろ別れの時間。


 私は今日を頑張ろうとするテンパ君にパンッ!と背中を叩いた。もちろん悪意なんかあるわけなく、ただこれからがあるテンパ君に喝を入れるための意思表示なわけだ。


 まぁ、だけど本人は痛そうにしてたけどね…。

 
 私は精一杯の笑顔を作ってテンパ君を送り出す。そして、彼に何か伝えようと咄嗟に一言こういった。


 「頑張れ!」


 さよなら、なんて言うわけないじゃない。そんなのずっと会えないみたいで寂しいし、今ここで頑張ろうとするテンパ君に言ってあげなくちゃ。


 それに…。



 私に対する言葉でもあるから…。


 そんなことを思いながら私は、彼が消えるまで見送った。夢の中というのは不思議なもので夢から覚める時本人はパッと現実に戻るのだが夢の中のその人はゆっくりと体が消えていく。


 そこにいたテンパ君が完全に見えなくなると、私は少し俯いた。そして胸に残る確かな温もりに手を当てながら、私はさっきとはまた違う笑みを浮かべた。

 この時、私は少し嬉しかった。本当の名前ではないけど、私を呼んでくれた。短い時間ではあったけど年の近い子と話せた。



「ああ…良かった…」


 心からそう思えた。



 そして、それから数分後。私も夢から現実へと戻ってきた。いつも通りベッドの上に寝転がり、目の前には真っ白な天井。顔を動かせば無駄な物がない殺風景な病室。


 あまりに退屈で寂しい部屋で私はベッドから上半身を起こし、少しポーっとする。さっきの夢は一体何だろうか?初めて私の夢に知らない人が現れた。しかも今までと同じ夢にだ。こんなことは初めてだ。


 さっきのことを色々と思い出す。色々と不思議ではあったけど楽しかったのは否定できない。相手の男の子はちょっとなよっとしてたけど悪い子ではなかった。


 ふとテンパ君が一生懸命な表情をしているところを思い出す。その姿がどうも可愛らしくつい頬が緩んだ。


 (また会えると良いなぁ…)


 穏やかな気分でそう考えていると、なぜか出会った時のことが頭によぎった。出会いが男の子にいきなりタックルしてしかも馬乗りでの挨拶……。


 ボンッと私の中の何かが爆発し、顔に熱が急速にこもってくのを感じた。私は両手で顔を覆いながら布団の中に潜り込み、羞恥心に悶える。


 (恥ずかしい恥ずかしい!!)


 こうして、私とテンパ君の出会いはここから始まり何日も連続で同じ夢を見続けては出会っていた。夢を見るごとに私は彼のことを忘れ、現実に戻れば思い出す。私も辛かったけど一番辛かったのはテンパ君だったと思う。泣きながら私に、『忘れないで』といった言葉は今でも心の中に残っている。



 そんな日々を繰り返していたある日。



 私の病気が悪化した。


 私の周りには常に家族の姿があった。自分の病状を知ったお母さんが隣で暗い表情を浮かべて私を見ていて、お父さんも似たような表情だった。

 私も両親の反応で大体察しがついていた。というより私の体の状態で最初からなんとなく分かっていた。体は鉛のように重いし、呼吸も酸素マスクがないとまともに呼吸ができない。


 たぶん今日がヤマなんだろう…。



 なんとかお父さんやお母さんに何か伝えなくちゃ…。



 「お父さん……お母さん……」



 声が掠れ掠れだけどなんとか絞り出した。それにお母さんとお父さんは慌てて私に駆け寄り、声を返す。私は最後の力を振り絞ってお母さんやお父さんは手を握って必死に笑顔を見せる。


 「……あり…が……とう……」
 
 
 言い終えると、私の意識はそこで途絶えた。



 気づいた時には私はあの場所へと来ていた。夢の中で何度も遊んだ場所。そして、テンパ君と出会った場所。いろんな思い出がたくさん詰まってるこの場所とはもうお別れだ。




 「ここともお別れか…」



 私は名残惜しくも最後の夢を楽しもうとした。と思ったとき、私はある一つの疑問が浮かんだ。なんで夢の中なのに現実でのことを覚えてるの?


 その疑問についてはいくら考えても浮かんでこなかった。ただひとつ言えるのがたぶんこれが自分の最期になる、ということ。今までの人生楽しいこともあったし辛かったこともあったけど、やっぱり大人になりたかったな……。



 ちょっとした未練もありながらも、私はこの人生に後悔はなかった。



 「よし、テンパ君を探そう!」



 私は両頬をパチッと叩くと、テンパ君を探しにいった。といっても彼が見つかるのにそう時間はかからなかった。そのまままっすぐ道を走ってると奥の方から人影が見えてきた。


 間違いない、テンパ君だ!



 私はそのまま走っていき、その人影にアタック。



「やっほぉぉ!!」

「ぐふっ!?」

 テンパ君はそのまま倒れ、私もそのまま乗っかる形となった。

「お前は人と会う時毎回そんな挨拶をしてるのか?」

 
 相変わらずの表情でテンパ君は答える。


「まっさかぁ、私はいつも礼儀正しく会った人には元気よく挨拶してるよ〜」


「相変わらずだよなお前のその性格………」



「………?」


 ここから私とテンパ君の最後の話が始まり、そして、最後の自己紹介をする。



「初めまして、私は………ってまだ名前がないから適当に呼んでくれて良いよ」


「初めまして、ユメ。俺も名前覚えてないから好きに呼んでくれて良いよ」


「ユメ……ユメェ……!とってもいい響きだね!うん、気に入った!」


「あなたは名無しさんでどうかな!?」


 テンパ君は微妙そうな表情をしたがしぶしぶ許してくれた。記憶については後々伝えよう。まだ時間が許される限り、テンパ君とは初めましてでいたい。




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