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*14*
番外編 夢見る少女 後編
私は最後の時間を過ごす。精一杯後悔をしないように…。いつも走り回っていた道を私は後ろで両手を組みながら思い返すように歩いていた。後ろにはテンパ君がなんか落着きのない様子で後を歩く。
しきりに私の方をチラチラと見てはどこか遠いところを見ていたり、いつもと様子が変だった。どうしたの?と聞いてみても何でもないと言って何も言おうとはしない。
この時だけ、ちょっとムッとした。テンパ君は知らないけど、たぶんこの夢をみるのは最後なのだから…。だから、悔いのないように過ごしたい。
そんな思いで私は歩いていた。不思議なことに夢の中だということは自覚出来ていて記憶もある。今まで私の記憶を戻そうと必死に頑張ってくれたことや遊びに付き合ってくれたりとか優しさを覚えている。
だからこそ今日は正直でいてほしい。
その時、
「なぁ…ユメ」
今まで口を開こうとしなかったテンパ君がようやく話し始めた。
「どうしたの?」
「ちょっと遊びを思いついたんだが良いかな?」
そう言うテンパ君の表情がなぜかとても恥ずかしそうに見えた。どうしたんだろう?と思いつつも、私はそれにこたえる。
「良いよ。何して遊ぶの?」
「花を…探そう…」
「……」
ちょっとびっくりした。男の子が花を探そうと言うなんて思ってもいなかった。けど、テンパ君らしくてちょっと微笑ましい。
「べ、別に嫌なら良いんだぞ!つまらないなら無理してやる必要はないし!」
私が何も返さないのを心配したのかテンパ君は慌てて言う。その姿がおかしくてつい吹きだして笑ってしまった。
「な、なんかおかしなこと言ったか!?」
「ううん、何でもない!」
こうして私とテンパ君で花を先にどれだけ集めれるかの勝負が始まった。この世界に花はあまり咲いてないけど今までの記憶がある私なら大体どの辺に咲いているか分かる。
そうと決まれば行動だ。
あれから何分が経過しただろう。
私の両手にはいっぱいの花束があった。紫色を特徴とした綺麗な花で細かい花びらがとても可愛かった。私は足を進めながらテンパ君がいると思う場所に向かっていた。
そして何よりもその量。これだけあればテンパ君に勝てる。なんて言ったって今回の遊びは罰ゲーム付きだからここはなんとしても勝たなくちゃ。
それにしても、罰ゲームは好きな人を発表か…。
少し考え事しながらテンパ君が出てくると思われる場所にスタンバイする。両手の花は後ろで隠して、いつでも出てきても大丈夫なように心の準備をする。
(このゲーム……負けても良かったかな……)
そう思った瞬間、テンパ君は意外そうな顔をして出てきた。
「あれ、よくここが分かったな」
「ふっふん、私はこの場所を熟知しているのだ!だから名無しさんの居場所は手に取るように分かるよ!」
なるほど、と納得しながらテンパ君は頷いた。慌てるようじゃないけどそろそろ勝負の方を決めたかった。テンパ君が勝っても負けても私は最後の最後に自分の気持ちを伝えようと思った。もちろんテンパ君に…。
たとえテンパ君の答えがそうでなくても最後にやっておきたい。私はそんなことを考えながら彼に言う。
「では、勝負の結果と行きましょうかね!」
「お…おう!」
そして私の掛け声とともに花を出す。
「いっせーのーで!!」
お互いに出された花。
「……」
「……」
私が出した花の数とテンパ君が出した花の数は圧倒的な差だった。私の花はテンパ君の花の数を簡単に超えていた。その差一目瞭然。誰が見ても分かるような状態だった。
ちょっと可哀想な気もしたけど、勝てたのは純粋に嬉しかった。
「やったぁぁぁ!!」
私はすぐに手拍子をつけながらテンパ君に罰ゲームの催促をする。それに対して、テンパ君はちょっとホッとしたような表情をしているように見えたような気がする。
「ばっつゲーム!ばっつゲーム!」
私はなるべく言いやすいように軽い雰囲気でテンパ君に言ってみる。
「ほらほら罰ゲームだよ名無しさん!」
「う、うん…」
その後、テンパ君は頑張ってその人の名前を言うが声が小さくて聞こえづらくて何度もやり直していた。私も頑張って応援し、テンパ君がしゃべりやすいように笑顔は崩さなかった。
そしてついに…。
「お前が好きだぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「え……?」
「……」
さすがに驚いた。今までそんな素振りもなかったのに急に言われては動揺を隠せない…。テンパ君の表情は真剣そのものでウソを言ってるようには見えない。
ということは…本当?
目の前のことを全て理解した私の目からは涙が零れた。もちろん嬉しくて泣いている。次には自分の泣き顔がテンパ君に見られると思うと恥ずかしくて恥ずかしくて…。頬が熱くなるのを感じた。
「お前……」
「や、やだなぁ!汗だよ…汗!涙じゃないよ!」
必死に笑って涙をふき取る。テンパ君のポカンとした表情が私の頬をまたさらに赤くした。私は精一杯の笑顔を見せて、
「ありがとう!」
といった。
「それって…どういう……」
わけが分からなそうな表情をしてるテンパ君。
「だ・か・ら」
私はそういいながらテンパ君に近づいて、
「私も……ってこと」
彼を抱きしめた。これが最初で最後という意味も込めて、優しく。さすが男の子、体が大きいしごつごつしてるな…。けど、すごく安心する。
その時、唖然としていたテンパ君が口を開いた。
「なんで…俺のこと…知らないでしょ?」
その疑問について、私はすべてを話した。記憶を取り戻したことや、今までの自分の過去。テンパ君を好きになったわけ。全てを…。話し終えるとテンパ君は私を抱きしめ返してくれた。
とても名残惜しくもあるけどそろそろ夢が終わるのを感じた。
「もう時間だから……」
本当は離れたくない…もっと一緒にいたいし…消えたくない…。そんな思いがこみ上げてくるのを必死に抑えながら、私はテンパ君の元から離れていく。
自分の視界が白い光で包まれていく中、テンパ君は私にこう言った。
「また会えるよな!?」
彼の表情は今にも潰れてしまいそうに辛そうだった。だから私はその問いかけに躊躇なく笑顔で答えた。彼を安心させるために…。
「また会えるよ!諦めなければ!」
そして、視界から完全にテンパ君は消えると私の意識も次第に消えていく。朦朧とする意識の中、ある記憶だけが鮮明に流れ続けていた。
「おい、そんなところで一人はつまんねぇぞ。他の奴と遊ばねぇのかよ」
「いいよ。私、すぐに入院しちゃうし……ずっと寝てたから他の子との関わり方忘れちゃったし…」
「そんなこと言ってたら仕方ねぇぞ!俺が協力してやるから!」
「で、でも…!」
「大丈夫だって、もしもうまくいかない時は俺が助けてやる。病気が酷くなってもしも寝たきりな時になったら俺が遊びに行ってやる。だから今を楽しめよ!」
〜fin〜