完結小説図書館
>>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック
*12*
空港内ひ警報ブザーが響き渡る。
『貨物便T208に侵入者の反応。即座に捕らえよ』
AIロボット達が動き回る音がする。統率のとれた無駄のない作動により、あっという間に問題の飛行機が包囲される。AI達のうちから3体が、その機体に乗り込んだ。重火器を抱え、ネズミ一匹通すまいとしている。
AI達は発信機の反応を確かめた。コンテナの裏に3つ。しかし、AI達は予期せぬ事態に面した。その発信機の位置は、3つが重なり合うように存在しているのだ。人間ではありえないほど密接に。
急いでコンテナの裏に回り込む。そこに人の姿は無かった。あるのは、取り外された発信機が3つ詰められた、小さな小さな小瓶だけだった。
***
「ノゾミ?今、何て……」
「私は箱庭の外に出るつもりはないと言ったの」
うろたえる一同をよそに、ノゾミは自分の担いでいた荷物を降ろし、それをシンリーに差し出す。
「あなたの荷物よ。生活に必要そうなものは、全て揃えてあるわ」
「なっ……お前の分は?」
「準備してないわよ。最初から」
シンリーは差し出された荷物を、受け取っていいのか迷っていた。なかなかシンリーが受け取ってくれないので、ノゾミは先にシンリーの発信機を取り外す作業に入った。
「6年もあるとね、余計な情報まで手に入ってしまうのよ。例えば、自分たちが誰のために生きているのか……とかね」
持って来た薬品をコットンに染み込ませ、シンリーの手を取る。
「アイザック・バリスター、56歳、依頼人のためには手段を選ばない悪徳弁護士」
発信機が爪から浮いてきたら、ピンセットで素早く剥がす。
「ダン・ベルマン、59歳、麻薬の密輸で財を成したメキシカンギャング頭領」
外した発信機は、先ほどと同様小瓶に入れる。
「王星麗(ワン・シンリー)、36歳、人身売買ブローカーの娘」
仕上げにシンリーの指についた薬品をガーゼで拭き取り、ノゾミは顔を上げる。
「そして……篠塚希(シノヅカノゾミ)、37歳、夫と2人の子供がいる一般主婦」
ノゾミは微笑を浮かべ、アイザックとダンを仰ぎ見た。
「私のオリジナルは、社会的に見れば取るに足らない人物かもしれない。でもね、そのささやかな幸せを奪おうとは思えないの。私がいなくなることで、夫から妻を、子供から母を、奪うことになるかもしれない」
そして立ち上がり、アイザックとダンの側に歩み寄る。そして……
「ここで、さようならよ。今まで、ありがとう、2人とも。あなた達はこの運命にどうかあらがって……」
2人を強く抱き寄せた。アイザックの頬を、涙が伝う。
「嫌だ……嫌だよ、ノゾミ……何で……」
「言えば私を止めていたでしょう?いいのよ、これで……私は……」
しばらくの抱擁の後、ノゾミは2人から離れた。それからシンリーの元に寄り、彼女のことも抱きしめる。
「きっと、あなたに言っても何のことだか分からないでしょうけど……私、あなたと友達になれて良かった。あなたが死んだ時は悲しかったけど……今、あなたを救うことができることを、誇りに思うわ」
シンリーも自然と涙か溢れ出た。ノゾミには一度しか会ったことがないのに、その優しい笑顔は何故か懐かしく感じた。
「さあ、いきましょう。あなた達が無事に外に出ることができたら、私がこの小瓶を別の飛行機に放り込んで、あいつらを混乱させるわ。きっと、着陸した空港への伝達は、遅らせることができるはず。その隙に逃げるのよ」
涙を止めることができない3人を振り返り、ノゾミは困ったような笑みを浮かべる。
「泣かないで。私、この人生に満足してるのよ?」