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第二の人々
作者: ももた  (総ページ数: 13ページ)
関連タグ: クローン 
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10~

*9*

「でもさ、発信機があるとして……そんなもん、見当たらねえぞ?」
ダンは身体中をかきむしるように調べる。しかし、怪しい手術痕などは見当たらない。手当たり次第に調べようとするダンに対して、アイザックは冷静に呟いた。
「逆に考えよう。発信機があるなら、頻繁に電池を取り替えなきゃいけない……」
ノゾミは少し考え込む。
「月に一度の健康診断……それなら取り替えるチャンスがあるわ」
「そうだね、でも……」
問題は、どのタイミングで取り替えているのか。アイザックは健康診断の時の様子を、脳内で再演する。
(最初に目、鼻、喉、耳の検診……心拍数を図って……それから……)
「爪だ……」
アイザックが呟く。
「つ……爪?」
「なるほど……そういうことね……」
勝手に納得を始める2人に、置いてけぼりをくらったダンは狼狽えた。アイザックは彼をなだめ、説明を始める。
「ダン、人間には癌にかからない体の部位が2つあるんだ。1つは髪の毛、もう1つは爪」
アイザックの言葉を継ぎ、今度はノゾミが説明する。
「私たちの体をドナーとして提供するなら、移植の必要がほとんど無く、体に変調をきたさない部位に発信機を付けるべきなの。指先なら、血中の酸素濃度を測るときにパルスオキシメーターを取り付けるわ。検査のふりをして電池を取り替えていたのね……」
言われてみて、ダンは人差し指の指先を確認する。全く気にしたことはなかったが、言われてみれば、他の指に比べるとその指だけがコーティングされているように見えた。
「でも、発信機の場所は分かったけど、どうやって取り外すんだよ……まさか、切るのか?」
ダンが怯えた声で問いかける。アイザックとノゾミは、思わず吹き出してしまった。
「大丈夫よ、ダン。おそらく発信機は、爪の上に糊付けされている状態なのよ。薬剤を使ってそこだけ剥がせばいいわ」
ノゾミは笑って、ダンのベッドから立ち上がる。
「そうと分かれば、脱出の準備に取り掛かりましょう。発信機は私がどうにかするわ。2人は脱出経路を考えてちょうだい」
ノゾミはそう言い残し、ドアを閉めた。廊下に出ると、壁に背中を預け、少しばかり天井を仰ぐ。
「楽しかったなぁ……もう、お別れか……」
部屋の内側から聞こえてくる2人の話し声を名残惜しげに聞きながら、ノゾミはとうの昔に一人部屋になってしまった自室へと向かった。

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