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第3章:疑念
「よいしょっと……」
少女は、器用に木に登った。
友人が入院を余儀なくされたのは、ほんの2日前のこと。その日までは、申し分ないほど彼女は健康体だった。
面会謝絶と言っても、まだ話はできるだろう。最後の望みをかけて、少女は木に登った。しかし……
「何……これ……?」
少女がそこで見たものはーー
***
「君は最初から、この箱庭のすべてを知っていたんだろう?」
アイザックは真っすぐにノゾミを見つめている。しばらく2人がにらみ合った後……
「ふっ……あははっ」
ノゾミは唐突に笑い出した。
「そうよ、バレてないと思ったのに……よく気がついたわね」
「いくらなんでも、準備が良すぎだ。合鍵なんて、そう簡単に用意できるものじゃない。いつから知っていたの?」
「シンリーが死んだ時。あの頃から薄々気がついていたわ……」
ノゾミは思い出す。あの日、ノゾミが木登りをして見たものは『何もなかった』。二階より上に、病室なんてものはない。あの病院はハリボテだった。入院は嘘だった。シンリーはすでに、どこにもいなかったのだ。
どんどん話が進む2人を前に、ダンは面食らった顔をしている。
「えっとつまり……ノゾミは俺たちが何のためにここにいるのか知っているってこと?」
「そうよ、ダン。本当は、いつかはすべて話すつもりだったわ。シンリーが出てくるから、予定が狂ってしまったけれど……」
ノゾミはダンのベッドに腰を下ろした。
「まずは、私たちが造られた目的ね。でも、それはアイザックも気がついているんじゃない?」
頷くアイザック。隣でダンは、置いてけぼりを食らっている。
「ダン、クローンって何に使われると思う?」
アイザックが問いかける。
「えっと……兵士にして、戦争する?」
「それは、貴方たちの観たSF映画の話よ」
ノゾミが呆れながら言った。アイザックは苦笑しながら説明する。
「医療目的だ。クローンは、オリジナルと全く同じ遺伝子情報を持っているから、リスクなく臓器移植をできるんだ」
ノゾミはそれを補足するように言った。
「感染症を持っているからと私たちを閉じ込めれば、健康診断を怪しまれずに行える。あれは、さしずめ品質管理ね。異常が見つかれば、新しいクローンに代替される。私たちのように、以前のドナーと出くわして混乱しないように、区画を分けて移動を制限していたのね。そうやって、常にオリジナルのドナーが存在できるようにしていた……AIたちは箱庭のことを『第二世界』と呼んでいたわ」
ダンは驚いた顔をしている。自分は今確かにここにいるのに、同じ人間が塀の外のどこかに生きている。そんな事実を飲み込むには時間がかかった。
「じゃ、なんでノゾミは逃げなかったんだよ?」
「前に、貨物庫に泥棒が入った事件があったでしょ?あの人はおそらく、貨物用飛行機に紛れ込んで逃げようとしていたのよ。でも、AIたちは、それを簡単に見過ごすほど馬鹿じゃない」
ノゾミはそう言って、ポケットからシールのようなものを取り出した。
「発信機が私たちの体には取り付けられている。昨日はこのジャミング装置でごまかしたけど、発信機の場所が分からないのよ」
ノゾミはそう言ってうつむく。思えば、昨日のAIたちは、アイザックたちの姿が見えないうちから、入り口で待っていた。発信機があるのなら、合点がいく。
「何だよ……だったら、言ってくれりゃいいじゃねえか!」
ダンがノゾミの肩を叩く。
「一緒に考えよう、発信機がどこにあるか」
アイザックも優しく微笑んだ。