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第二の人々
作者: ももた  (総ページ数: 13ページ)
関連タグ: クローン 
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10~

*7*

ナースは、3人が来てから二周目の巡回に入っていた。通路を進み、診察室のある廊下へと曲がる。すると、多目的トイレの電気が灯っていることが分かる。記録では、一周目にも電気が灯っていた。ナースは急発進し、診察室の前のベンチを確認する。案の定、ベンチに付き添いの姿はない。2人を見つけるため、ナースが来た道を戻ろうとしたとき……
ドンッ
「ごめんなさい、ナース」
女の方の付き添いとぶつかった。男の方は、ハンカチで手を拭いている。
『シノヅカ・ノゾミ様、アイザック・バリスター様、どちらにおいででしたか?』
「お手洗いよ。彼が怖いからついて来てって……」
「ノゾミ!?」
アイザックは、思いも寄らない言葉に怒鳴る。しかし、素で出たその言葉は、アイザックの演技をより本物っぽく見せていた。ナースにはアイザックのことが、情けない面を暴露されて怒っている少年に見えていることだろう。思えばノゾミは、アイザックたちが無理に演技をしなくてもいいように、今までも上手く立ち回っていた。
『左様でございましたか……先ほどもどなたかがお手洗いを利用されていたようですが……?』
「それは私ね」
『その時、お連れ様は?』
「入り口の自販機に、コーヒーを買いに行ってもらっていたわ」
そう言って、ノゾミはポケットから缶コーヒーを取り出す。辻褄が合ったので、ナースはあっさり引き下がってくれた。ナースの尋問が終わると同時に、診察室の扉が開く。
『処置は終わりましたよ。今後は間違えて薬を飲まないでくださいね。お体に触ります』
「ありがとう、ドクター。気をつけるよ」
腹をさするダンを受け取ると、3人は帰路に着いた。

***

3人はアイザックたちの部屋に集まる。
「……で、どうだった?」
ここに至るまで、無言だった。沈黙を破ったのは、何も知らされていないダンだった。
「シンリーのカルテは見つからなかったわ」
ノゾミが答える。期待を裏切るその返事に、ダンは一瞬顔を曇らせた。
「でも、分かったことはある」
ノゾミの言葉をアイザックが引き継いだ。
「クローンだったのは、シンリーだけじゃない。僕たちも……この箱庭の住人は、みんな誰かのクローンなんだ」
「え?」
ダンは驚嘆の声をあげた。手のひらを開いて見る。ちゃんと血が通っている。夜の冷たい空気も、冷たいと感じている。紛れもなく生きている。これが、人為的に作られたというのか。
「そんな……何のために……?」
「それは……」
答えようとしたノゾミに、アイザックは制止をかける。
「待って、その前にはっきりさせておかなければならないことがある」
「何?」
ノゾミは怪訝な顔をしてみせた。
(あくまで、しらをきるつもりか)
アイザックは、一つ、深い呼吸をした。そして、ノゾミの目を見て問いかける。
「ノゾミ、何でこんな回りくどいことをするんだ?君は最初から、この箱庭のすべてを知っていたんだろう?」

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