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第二の人々
作者: ももた  (総ページ数: 13ページ)
関連タグ: クローン 
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10~

*6*

3人は食事を終えると、まっすぐに病院へ向かった。
「つまり、俺は病気のふりをしていればいいんだよな?」
アイザックが不安そうな顔をする。
「大丈夫かな?すぐにバレたらどうしよう……」
アイザックの心配をよそに、ノゾミは涼しい顔をしている。アイザックがそんな彼女の様子を観察していると……
「う……あれ……?」
ダンがアイザックの肩に倒れこむ。心なしか息が荒く、様子がおかしい。
「どうしたんだよ、ダン?」
「いや、急に……目眩が……」
まさか初期症状かと思ってあせる2人をよそに、ノゾミはダンを病院へと引っ張っていく。病院へたどり着くと、待っていましたと言わんばかりに、ドクターとナースが出迎えてくれた。
『どうなさいました?』
アイザックが説明しようとするよりも早く、ノゾミが答える。
「夜遅くにごめんなさい……彼が、私の部屋にあった下痢止めを、ドロップと間違えて過剰摂取してしまったらしいの……」
申し訳なさそうな演技をするノゾミを見て、2人は卒倒しそうになる。道理でダンの膳を運んでくれたわけだ。
((コイツ、一杯盛りやがった……))
そしてノゾミはダンを運んできて疲れ果てたかのように、倒れかかる。すかさず、片方のナースが支えてくれた。
『お疲れですか?』
「ええ、ありがとう。少しそこのベンチで休ませてもらうわ」
その間にダンは診察室に運び込まれる。残されたアイザックとノゾミは診察室前のベンチに腰掛け、巡回用ナースの姿が見えなくなるまで様子を見計らった。
さあ、作戦開始だ。

***

トイレの電灯を灯し、2人は保管室の扉に近づく。扉には鍵がかかっているらしい。ノゾミは懐からスティック状のものを取り出し、壁の穴に差し込んだ。
「それは?」
「合鍵よ。作ったの」
用意周到だ。半ば呆れながら侵入する。そこには部屋一面に本棚があり、ファイルがぎっしりと詰まっていた。
「驚いた……電子カルテじゃ無いんだね……」
「そうだったら最初から、ハッキングしているわ。紙の方が安全なのよ」
こんな泥棒まがいのことをされても……とアイザックは思う。カルテはアルファベット順に並んでいるらしく、アイザックはWの所を探しに行こうとする。
「無駄よ。シンリーの分は恐らくもう無いわ。カルテは5年までしか保存されないから……あったとしても、エリア1の病院よ」
「え?それなら、何のためにここに来たんだい?」
アイザックが問いかける間に、ゴロゴロとキャスターの音が聞こえた。ナースが近づいて来ている。通り過ぎてから十分に時間を取り、ノゾミは動き出した。彼女は、Iのコーナーに近寄る。
「見てごらんなさい、貴方の分よ」
そして、一つのカルテを差し出した。中身はドイツ語で書かれていて読めないが、名前にはアイザック・バリスターと書かれている。ふと、アイザックはその後ろに更に3つのカルテがあることに気がついた。2つは『死亡』と表記されたカルテ。享年は両方20歳だ。最後の1つは、56歳の男性のもの。
それらのカルテを見て、アイザックは驚愕する。
「どういうこと?全部、僕のだ……」
それらのカルテの名前には全て、アイザック・バリスターと表記されていたのだ。

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