完結小説図書館
>>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック
*10*
我らの敵であるメシアの生き残り、ルシアに固く手を握りしめられあちらこちらへと椿のろうごくないを引っ張りまわされること数刻。
「この造り…まるで迷路だよ」
ぼそりとルシアが独り言をつぶやいた。壁に片手をついて大きく溜息をつく。その寂しげな背中を見ていると何故か胸の奥がきゅうぅと締め付けられるように痛くなる。
我はいったい何をしているのだろう_。
何が悲しくて敵に片手を掴まれ通路を走り回らなければいけないのだ。
こんな間抜けな姿、他の者に見られでもしたら……口封じしなければいけないではないか。
ただでさえ王が手駒が日に日に少なくなってきていると嘆いていらっしゃるというのに……。
だがこのまま奴の物憂げな背を見つめているだけでは駄目か_。
「そ、そうですね。敵からの侵入も脱出も困難な構造になっていますから……」
「そうなんですかっ!? このまま…進んでいたらいつか見張りの人に見つかっちゃいそうだな…」
「……」
あぁそうだな。このまま闇雲に走り続けるだけでは確実に誰かに見られるだろう。
そして我は貴様と見た者を口封じに殺さなければならないだろう。
殺るか。殺らないか。考えていた悶々と考えていたところ
「ッチ」
こやつはある意味勘が鋭いとでも言うのか、ただ闇雲に我を連れまわしているだけだと思っていたのに、椿の牢獄に勤める監守共が寝起きする部屋へとたどり着いたのだ。
「………」
「………」
部屋の中からは音が二人。話し声が聞こえてくる。
今は全員勤務時間のはず。そうかさぼり組と言うわけか。我を目の前にし、堂々とさぼるとは良い度胸。
その堕落した精神叩き直してくれよう! と腰に手をかけたところではっと気が付くそうだ、今の我はムタクモ。獲物(武器)を持たない丸腰の状態だった。
そしれ隣にはメシアの生き残りがいる。今は鎮まり耐える時か……後で覚えておれよ。お主ら。
出入り口の隅から隠れて、タバコを吸い楽しそうに雑談するあやつらの話に耳を傾ける。
「はぁー。やになっちゃうなー」
「だよなー。少ない給料しかくれないくせに、仕事は一日二十時間もさせられるんだもんなー」
「寝る事しかできねーよなー」
なんなのだ、こやつらの会話は! 聞いていれば先程から王への不満ばかりっ。休む時間があるだけでもありがたいと思わないか! 我になど気をゆっくり休める時間など早々ない。あればそれは奇跡、王の為になることで浪費するもの。
ドルファに入社したのなら己の持つ全てを王へ捧げるのは当然の事だろう。
「………」
「なぁ逃げ出さないか?」
「ばっ、お前そんなの誰かに聞かれたらどうするっ!? 即刻討ちきりだぞっ!!」
「大丈夫だって、今ここには俺たちしかいねぇーって」
残念だが此処にいるのは貴様らだけではないぞ。と言えるものなら言いたい。言ってしまったら最後、部屋が真っ赤な血で染まってしまうがな。
ほう逃げ出す算段か。我の前で堂々と、な。
ならば聞いてやろう。そしてその逃げ道を封じた上で貴様らの命を狩り取るとしようか。
入社したあの日、王の前で見せた忠義の証、あれは真っ赤の嘘だったその罪の花、我が摘み取ってくれよう。
……ふふふふふふふふふふふふふ。
「おれっあいつらから聞いたんだ。この椿の牢獄の何処かに隠し階段があってその先が外の世界につながってるって…」
「お、お前。あんな奴らの戯言を信じるのかよ!?」
なにっ隠し通路だとっ!? 何故あれの存在を貴様ら下っ端が知っているのだ! あれの存在は我とロックスの奴しか知らぬはずっ。
まさか、ロックスの奴が酒に酔って口を滑らせてたっ!? いや…我の前ではちゃらんぽらんだがやる時はやる男? だ、多分、きっと…な。
だからそれはあり得ない。それに看守長から聞いたというなら「あいつ」とは呼ばないだろう。そして「あいつら」と複数形で呼んでいることから犯人は複数人。
ふふっまさか脱走犯を捕まえるだけではなく裏切り者、密告者の情報を手に入れることができるとはな、めっけもんとはこのことか。
「………」
「っ!?」
驚愕の表情だ。すぐ近く隣にあったメシアの生き残りの瞳がやる気の炎が燃えているのだ。
こやつ隠し階段を見つけ出し、我を連れて此処から逃げ出すつもりだ。奴の瞳がそう語っている。
だがあそこへはそう簡単には辿り着けないだろう、だって隠し階段がある場所は……。
「…行くのですか?」
社交辞令というものだ。一応聞いておいてやろうというせめてもの慈悲というものだ。
だ、そう。ただの慈悲で聞いてやっただけだというのに何故だ。何故、口から出た声は震えか細い声になっている。
どうしてこんなにも胸が締め付けられる、どうしてこんなにも腕が震える。
震えをおさめようとルシアの手を離し腕を掴むが一向に震えはおさまらない。何故だ。何故なんだ。
自分が分からない。
どうして体の震えがおさまさらないのか。
どうしてメシアの生き残りのことを考えると こんなにも胸が苦しくなるのか。
全くわからなった。どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして_どうしてなんだ?