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君はかわいい女の子
作者: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM  (総ページ数: 12ページ)
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10~

*10*

episode7【到来。】

 『…………好きになっておかしくなりそうだ。』

あの日から約2か月後―――……。

『あ~やっぱり、晴家さんだぁ!天にお見舞いに来てくれたんだぁ~?』
甘ったるい藤咲さんの声に慌てる会長。
チクチクと痛む心を抑えながら泣きだしそうになるあたし。

こんなことになるなんて浮かれていた過去のあたしは思いもしなかった。


***
夏が過ぎ9月に入った今日この頃――――あたしはウキウキ気分で生徒会室に入った。
「おはようございま~す……ってあれ?」
生徒会室には誰もいなかった。
あたしの声だけが生徒会室に響き渡っていた。
「天なら先生に呼ばれたよ。ざんねーん!」
バキューンと人差し指を突き出して二ッとからかうように笑う。
コイツは多々良会計。
青春嫌いになった1学期付き合って4日の彼女に騙されてフラれた不憫でしかない男子だ。
会長と離れればこうやって嬉しそうに笑うんだから…………ホントムカつく!!
「会長はなんだか副会長の事を避けてるみたいっすねッ。このまま、避けられすぎて副会長は爆発するんですか??」
多々良会計は嬉しそうに口を開く。
避けられてなん…………か……いな―――……。
あたしは会長にメールを打つ。
『会長、おはようございます。用事が終わったら生徒会室に来て下さい。』
既読はつくのに返信がない。
…………あぁ、、、完全に避けられてる。
そういえばそんな気してたよ!!夏休み中にメール打ったって返信はないしかといってあるんだとすれば『あぁ』とか『うん』だけだし!!
胸が痛い。
「やっぱり、避けられてるんすね~!アハハ、超面白い。副会長の顔凄い事になってますよ~!」
ブチッ。
何かがキレる音がした。
「何か言った多々良クン?さっきから楽しそうに話してるけど、どうかしたのかなァ?」
そうしてあたしが冷たく微笑むと多々良会計は真っ青になって身震いをする。
「け、消される前に自分から消えます。すみませんでした…………失礼しますぅうう!!!」
多々良会計はバタン、と大きな音を立てて生徒会室を荒々しく出て言った。
…………あーあ、行っちゃった。さすがにやりすぎたかな。

***

会長に会えないまま、午前が過ぎた。
「望、ウィンナー食べないの?」
食欲がないの…………本当にメール来ないな。
「じゃあ、いただき!!」
葵は美味しそうにウィンナーを口いっぱいにほおばる。
いいな、葵は楽しそうで。

「葵ちゃん!やっと見つけた~!!」

文月君の声だ、きっと文月君なら会長の居場所を知っているかもしれない。
彼――――……文月 紘は会長の友達でサボり魔な会長の事をいつも迎えに行ってる男子だ。
あたしの事を『虎。』呼ばわりしない良い人だと思っていたけど…………葵にはストーカーみたいにまとわりつくんだよね。
勿論のことながら葵は「ゲッ!!」と声を漏らし苦々しく顔をしかめる。
それなのに文月君は頬を嬉しそうに染めて逃げる葵の事を撫でる。
「…………文月君、訊きたいことがあるんだけど。」
「副会長、どうしたの?」
文月君は悲鳴を上げている葵を抱きしめながらこちらへと歩いてくる。
葵にやっていることはちょっと『ヒーロー。』とはとは言えないけどやっぱり、『困ったときのヒーロー。』と呼ばれるだけにあって頼りになると思う。

***

「――――天がどこにいるって?それが……。」
文月君は困ったように会長のことを話してくれた。

***

今日、学校に来たものの会長は熱で早退したそうだ。
お見舞いしてくればという事で家を教えてくれた。
遅くなるかもしれないからはるちゃんには連絡を入れておいた。
インターホンをまず、押して…………用件を言うんだよね。
なんかドキドキするんだけど。
勇気を出して震える指先を動かしながら口を開く。
「瀬名 天さんはご在宅でしょうか?学校の宿題を届けに来ました。」
 ピンポーン。
呼び音が鳴り響いてこちらへと近づく音が微かに聞こえる。
 ガチャ………っ。
重々しくドアが開く。
その瞬間、あたしの何かが零れ落ちた。


「あ~やっぱり、晴家さんだぁ!天にお見舞いに来てくれたんだぁ~?」
甘ったるい女の子の声。
この声―――……学園のアイドルこと藤咲 華音さんの声だ……。
なんでいるの?
エプロンをつけて、栗色の綺麗に巻いた髪を一つ結びにした藤咲さんは可愛らしく微笑む。
「…………あっ!戸惑ったよね、なんでいるのってわたしね、天の幼馴染で今日はずうっと天の看病してたのぉ。」
会長の幼馴染…………?学校を休んでまで看病してたってこと?
胸がチクチク痛む。

「華音。どうしたの?」

優し気な声が聞こえる。
あたしの大好きな人の声だ―――あたしの事を好きだって言ってくれてヤキモチをしてくれた人の声。
聞いたら心が温かくなる、だけど、こんなにも氷のように冷たく響くのはなんでだろう?
「っ、のんちゃん!?」
慌てている顔。
声も顔も温もりも全部、今は嫌になる。
あたしは会長の目の前にスタスタと藤咲さんを抜いて歩いて行って俯いたまんま口を開く。
「―――……会長、風邪早く治るといいですね。届けるものはお渡ししました。」
お大事に、と言ってあたしはドンッ、と宿題やプリンなどをまとめて入れたレジ袋を突き出して顔を上げて一礼する。
「あっ、、ありが―――……。」
会長がお礼を言う前にあたしは踵を返す。

***
自分の家に行く道をあたしは足が痛くなるまで走った。
太陽がさんさんと照らしていた青空も雲が多くなって雨が降っていた。
傘を見ると涙が止まらなかった。
会長の優しい言葉が蘇ってくる。

『のんちゃんは悪くないよ。』
肯定し続けてくれたあの日の会長。

『なんか可愛い。』
お世辞でもあたしの事を可愛いって言ってくれた雨の日の会長。

『―――行くよ。』
手を引いてくれて一緒に走ってくれた会長。

こんなあたしは嫌なのに目から涙が溢れ出してくる。
「うぅうう…………あぁあ……!!」
ポツン、ポツンと雨が身体に当たる。
まるで雨が慰めてくれるような叱るような隠すような気もした。

****

のんちゃん…………泣いてた?
『お大事に。』
あの日からずっと、のんちゃんの事を避けた。
自分が告った事を気にして、近づけなかった。
フラれるかもしれないしもしかしたら、のんちゃんに嫌われるかもしれないって恐れた。
俺はギンギンと痛む頭を抱えてのんちゃんの事を考えていた。
「そ~らっ、お熱下がったか測らせて~?」
と華音がフリフリの可愛らしいスカートを揺らせながら部屋に入ってくる。
「あぁ……。」
返事を返すと、ベットにちょこんと座り、近づいてくる。
凄い、甘い香り…………何つけてんだろ?
香水かな、のんちゃんはどんな香りなんだろ…………って俺何考えてんだし!
俺は一人で恥ずかしくなる。
「動かないでね?」
華音の熱の測り方は独特だ、親子でもないんだしって思うくらいの距離の近さだ。
 コツ…………。
おでこが当たる音が聞こえる。
「うん!下がったみたい、良かったぁ~。」
嬉しそうに微笑む華音は思い出したかのように、
「ってか、晴家さんと仲良かったら言ってよぉ!!もう~っわたし、超びっくりしたんだからね!」
と、頬を膨らませて上目遣いに怒る。
「ごめん。」
俺は曖昧に返事する。
上目遣いとかあざとい仕草は華音の幼い頃からの癖だ。
ウザイなんて思ったことすらない………女子はあると思うけど。
じゃあ、のんちゃんは?
華音の事で泣いたのか、俺のせいか?
頭がのんちゃんの事でいっぱいになんだ。
離れていても―――……。


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