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こんばんは。
日曜スクーリングの帰り、電車発車残り1分で『うぉぉおおおお』と奇声を上げて勾配の急な坂道を走っている女子がいたら、それは私です。無事足が死にました。
この小説をカウンセリングの先生に見せたところ、『コメディー……だよね?』と言われ「スミマセン詰め込み過ぎました」と真顔で答えた前科があります。
※小説投稿サイトMAGNET MACROLINKにも掲載はじめました!
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〈ルキアside〉
今日は、僕の所属する保安課(ほあんか)の七つの班の隊長と副隊長が集まる話し合いがあり、さっき会議が終わったところだった。
僕もあくまでも子供。長ったらしい説明や難しい言葉には、ついついテンションが下がってしまう。仕事なんだし立場上文句を言うわけにはいかない。
「はぁぁぁぁ……やっと終わったぁぁ。だいたい、前の会議でも過半数が賛成してた案だったし、その話はもう終わりでいいだろうが……僕だってここに勤めてまだ半年も経っていないんだから、意見とか求めるなよ。まぁなんとかやったからいいけど……」
なんて愚痴を、自分だけに聞こえる音量で呟きながらエレベーターの場所へと足を動かす。
この後は一階のロビーの見回りに、書類の作成に、あと……。弁当を食べる時間がなかなか取れないのにイライラする。休憩は交代制で、僕が休めるのは後三十分後だ。
「………ふぅ。いけないいけない。仕事はしっかりこなさいと!」
エレベーターの前で、扉が開くのを待つ間、両手で頬を叩き気合を入れなおす。
自分は副隊長なんだ。こんなことでガヤガヤ叫ぶなんて下品だ。冷静になろう。
ウィィィィィンと、扉がゆっくりと開かれる。さて、と顔を上げた僕は、直後すぐに凍り付いた。
こともあろうか、エレベーターの中だというのに一人の天使が、他のお客に杖を振りかざそうとしているところを見てしまったのだ。しかもその天使は、腕に『保安課』と書かれた腕章をはめている。つまり、僕の同僚ということになる。
上司なのか、部下なのか分からないけど、一般人を攻撃するのは御法度に値する。
と、天使が僕に気づき、慌てて杖を背中に隠した。そのままそろりそろりとこちらを窺う。
振り返った彼の顔が明らかになり、僕はそいつが後輩であるセシルだということに気が付いた。
彼の方が二歳ほど歳は上だけれど、位はこちらの方が高かった。けど、セシルはどんなときも僕にずっとタメで接していた。
破天荒でマイペースなトラブルメーカーで、今まで何度も問題を起こしたことがあった。その度になぜか後始末は僕が担当した。
ルキアは彼と一番仲がいいと、職場では思われてるんだろう。現実はその逆だった。なんでこんなやつのために、僕の労働時間が削られるんだ。なんでなんだ。
「………ルキア4番隊副隊長っっ」
「……セシル? 一体何をしていたんですか?」
これ以上問題を起こされちゃ、お弁当を食べるどころか他の仕事をする余裕もなくなってしまう。僕はつかつかとエレベーターの中に入ると、壁際で震えているセシルの横の壁にドン! と右手をついた。
「……なんや、あんたら恋でもするんか……もぎゅ!」
「クコちゃん、シーッ!」
お客様がなにか言われたようだったが、横にいたお連れの男の子が彼女の口を塞いだので耳にすることは出来なかった。いや、今はそれどころじゃない。
「ゆ、許してルキア………! オレは決して悪いことしてな」
「その背中の物はなんですか? まさか、アレが『良いこと』だとお考えですか。ふふ」
あわあわと必死に弁解をする後輩に、『そうか、それならいい』と言えるほど僕は優しくない。フッと嘲笑してやると、泣き顔だったセシルはムッと下唇を突き出し、徐々に怒りをあらわにする。
「オレは、そこの黒札の資格者の札をとろうとしたんだよ。そう命令したのはルキアだ」
「確かに僕は君にとれといったよ、セシル。でも。奪えとは一言も口にしてないよな?」
百木朔は、黒札の資格者でもあるけれど今この場ではお客様なんだよ。それなのに君は、利用者に杖を向けたんだよ。
保安課は、天界を取り締まるもの。そして、取り締まるべき対象は、決して見誤ってはならない。先輩に何度も耳だこになるまで教われてきたこと。後輩である君にも何度も忠告した。
君は理解(わか)ったと言ったよね?
残念、何一つわかってないじゃないか。
「……申し訳ありませんお客様。うちのものがご迷惑をおかけしました。代わりにお詫び致します」
「あぁ……うん……」
百木朔は、戸惑いながらも頷く。そして、何か言いたそうに口を開きかけ、直ぐに閉じてしまう。
「どうかされました?」
「あぁ、あの、えっとね」
伝えたいことはあるんだけれど、上手く伝えれる自信がないのか、お客様はわたわたと右手を振る。何と話そうか、頭の中で何回も何回も吟味して、
「君とセシルは、仲良くないの?」
と小さな声で僕に聞いた。
大声で話さないのは、ひょっとしてセシルが傷つくと考えたのだろうか。だとしたらこの子は、とても繊細だな。
「仲良くないですよ」
にっこりと僕がほほ笑むと、お客様は困ったように首を傾げる。まだなにか聞きたいことがあるのだろうかと真顔になると、目の前の男の子はなぜか目いっぱいに涙をためていた。
「えっ」
「ひどいよ!!」
僕が驚いて一歩後ろに下がるのと、百木朔が一歩前へ体を乗り出したのがほぼ同時だった。距離を詰められ、目を白黒させると、更なる一言が返ってきた。
「なんで直接相手に言っちゃうのさ! 君の仲間なんでしょっ!? そんなケ―サツ、誰も信用してくれなくなっちゃうよ……」
………君に保安課の何が分かるんだと、僕は心の中で舌打ちをする。人間に何が分かるんだ。僕がどんな気持ちで日々この仕事をしているのか、お前は分かっているのか?
だいたい、こんなところで説教する方がおかしい。そんな大声で怒鳴ったら他の部屋に聞こえちゃうじゃないか。そうなったら目的地へ着く前につまみ出されるかもしれない。
ただ僕は、後輩に注意をしただけなのに。
「いいんだ。オレが悪かったよ」
床に座り込んでいたセシルが立ち上がって、服に着いた埃を手で払う。その顔は若干疲れているように見える。このあともたんまり仕事があるのに、大丈夫だろうか。
「ルキアはめっちゃ真面目なんだ。どれくらい真面目かって言うと、トイレの紙をわざわざ三角に折るほど。毎回毎回やってんだよ、凄くない?」
「トイレは利用客が多いです。清潔感を維持するのは大切なことですよ」
そんなことを真面目と言われても困る。僕は決して真面目じゃない。めんどくさいことは嫌いだし、オフの日はグーダラしてたい。上司に注意されたことだってもちろんあるし、気分が落ち込むこともある。
みんなはよくエリートだとか天才だとか、そんな言葉で僕を持ち上げてくれるけど……。実際は全然、そんなんじゃないんだ。
「それにさそれにさっ。ルキアって本当はすっごく面白いんだよっ」
「………え?」
お客様たちと僕が聞き返した直度、ウィィィィィンとエレベーターが12階でとまる。12階には室長室があるので、セシルを先頭に百木朔一行は扉の外へ。
「オレ、ごちゃごちゃ考えるのキライだからさっ。凄く助かってるんだよ、ルキア。ありがとうね」
すれ違いざま、セシルが僕にだけ聞こえる声の大きさで呟く。その言葉を吞み込むまで、数分かかった。意図をようやく理解し、視線を彼に移す。
セシルは無邪気ににっこりと笑った.