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*30*
お久しぶりです。
………「札狩ライフ始めました」っていう章題なのに
まだ一度もガチで戦っていないカオ僕メンバー……。
こっから本気出します(むうが)
********
〈八雲side〉
キーンコーンカーンコーン
私こと、栗坂八雲(くりさかやくも)は六時間目終了のチャイムと共に校門へと駆け足で向かう。
私が通っている中学校は、駅前にある公立中学。
部活にも入っていない私は、今日の夕方にやるアニメ『モンスター・モンスター』略して【モンモン】をリアタイするために、只今階段を三段跳びで降りている。
モンスター・モンスターは、『少年ジャンク』っていう少年漫画誌で絶賛連載中の漫画が原作。
学園もの×妖怪幽霊もので、オカルトマニアな自分は連載当初からずっと推している。
それがなんと、アニメ化するなんて!
「急がないとっ。うちのテレビちょっと電波悪いから録画とかも最近してないし……」
トントントントントン
………ジ様!
「あぁぁぁぁあ、急げ急げええぇぇぇぇぇ!」
………ルジ様!
トントントントントン
もうなんなの~!? さっきから後ろで聞こえる甲高い声。
いい加減ムッと来て振り向くと、宙にふわふわ浮いている彼と視線が合った。
「アルジ様! 話しかけてなのに無視って俺マジサッドで今絶賛cry(くらい)気持ちです」
「あーもうあんた今話しかけないで!」
宙に浮かんで、右左に揺れているのは、私の相棒(?)の死神・紗明(さあき)だ。
朝は酷く大人しいが、夕方の夕暮れ放送が鳴った瞬間に今のようにウザくなる、めんどくさい二重人格持ち。
悪霊を退治する札狩(ふだかり)という職業をしていて、 強いことは強いらしいのだが、言動が言動だけに「コイツ絶対雑魚じゃん」とみんなが思っとる。
「ホワイ!? てゆーか待ってくださいアルジ様! 俺はマジで真剣な話を……」
「あーあー、帰ってからにしてくれる? 今日私急いでるけん」
「だってゴキブリの弟からメールもらッとんねん! これ、見ないとかマジでありえへんわ。マジでわっち泣きよるわ。マジでわっち……アルジ様………」
マジマジうるっさい。あとなんで急に方言っぽくなんの。
私は広島出身だからときどき広島弁が出るけど、あんたのその関西弁はなに!?
てかあんた、大阪出身でも日本出身でもないじゃん!!
紗明のすすり泣く声が、階段を降りるBGMと化すのがつらい。
早く帰りたいのに、いつもこうして邪魔してくるので、帰りはよく遅くなる。
うちで、百木周(ももきちか)ことおモチくんとあんちゃんが待っとるのに……。
はーっ。やっと一階についた。あとはこのまま、渡り廊下を抜けて校門を出るだけだ。
たったこれだけの過程が、とても大きい迷路を脱出した時のように疲れを与えるのはなぜ。
「それで? 用事ってなに? 聞いてやるけぇ言うてみ」
「アルジ様の方言ってめちゃくちゃ萌えますね! もうワンテイク行ってみます?」
「………………さっさと要件をいえ、このダボっっっっ!!!」
ふーふーっ
顔を真っ赤にして怒り狂う私に、流石にやりすぎたと感じたのか紗明の表情がしゅんと萎れる。
口をとがらせて、指先をもじもじさせて。
時々ちらちら顔色を窺ったりなんかもしてると、黙らなければ可愛いのにと思う。
「す、スミマセン………もうしません。もう……しませええぇぇぇん………」
「………なに? 要件」
目いっぱいに涙をためる紗明にうんざりと返すと、紗明は手の甲で涙を拭って、
「ゴキブリのっ……ぐすん……弟からメールが来てっぐすん……なんか、アヤシ—奴がゴキブリの友達で、居場所を知りらしいから、万一の為に後付けてくれって……」
「おモチくんの居場所ぉ? なんでそんなこと気になるんじゃ」
「俺に聞かれてもアイドンノウですよ! 俺言っとくけどIQマジ低いんで! 舐めんといてください」
低いのは分かるし舐める要素もないわ。
うーんでも、確かに怪しいことは怪しいし……。うーん……。
おモチくんの居場所が知りたいなら、そのままスマホとかで調べるほうが効率がいいと思う。
なんでわざわざ、朔くんに近づいたんだろう……。
朔くんは黒札の資格者。彼の周りにいる、無害な霊なんかも黒札の力で寄ってくる。
そして、有害な悪霊なんかも黒札につられて集まってくるから……。
相手は、もしかするとおモチくんじゃのうて、朔くんが狙いじゃないかいな?
札狩のなかには、黒札が狩られるのをよしとしない輩もいるようじゃけえ。
うーん。
モンスターモンスターのリアタイは、悔しいけど諦めよ。
後でまた見れるんだし、あんちゃんに頼んで録画してもらうことにしよう。
「よし紗明、行くよ」
「え、ど、どこですか!? ウェア!? ウェア・イズ・ドコ!?」
アンタいっぺん英語の文法から勉強した方がいいよ。
ウェア・イズ・ドコって……日本語訳したら「どこですどこ」になるし……。
Q:Where is doko?
A:知らんわ。
「その怪しいやつをつける。ほら、いつだったか見せてくれた透明化! それか飛行!出番!」
「………えー、でもあれ、クソ操作めんどいんすよ。マジだるいですって。やりたくね……」
「………さぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁきぃぃぃぃいい」
「ハイやります!! いますぐ!! すみませぇぇぇん!!」
いつもこう。主様(と勝手に決めつけられた)の私が彼の尻を叩いてやるのだ。
いやほんと、コイツ本当に強いのかなってなんども疑ったし、みんなそう思ってるでしょ。
……こいつ、本当の実力はかなりのもんよ。
まぁ見といて。絶対驚くけん。
「……コードは!? A? B?」
「B! 出力50%、目的地は朔くんの背後!」
「りょーかいです!! ……久しぶりっすねこれ。行きますっっ。ウィーキャンフラァァイ!」
紗明が私の体を姫だきする。姫だきってなんのことが分かんない人へ、お姫様だっこのこと。
その状態で、バサッッと言う羽ばたき音。
首の角度を変えて、音のした方を見やると、いつもは閉じている紗明の背中の羽が大きく開いていた。
……念のため言っとくけど、彼の羽っていうのは皆さまが想像したようなもんではなくて。
天使の羽……クコさんみたいな立派なもんではなく、言うならば……。
鴉の羽程度のちっちゃな奴が、たくさん集まってできた、飛ぶにはなんとも心配になるような、黒い羽だった。
「………マジで言ってる?」
「大丈夫っス、死神のパワー舐めんといてください。俺の術をいったん発動します、それをバァァンってバクハツさせて、その風力でグゥゥゥンと上に上がるわけっす。イーズィーっしょ?」
「完全能筋プレイやん」