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カオスヘッドな僕ら【連載終了】
作者: むう  (総ページ数: 51ページ)
関連タグ: コメディー 未完結作品 妖怪幽霊 現代ファンタジー 天使 
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10~ 20~ 30~ 40~ 50~

*29*

 〈朔side〉

 それからさらに一週間後。
 札狩に参加すると言っても毎日悪霊と戦うわけではないので、最近はほぼ自分の時間を有意義に使うようにしている。その中で得られた情報などをチカたちと共有し、計画を立てるつもりだ。

 と言うのも俺はまだ生者だし、今年は受験生なので、おちおち学校を休んでなんていられない。学力がもともとそんなに高くないうえ、下手したら私立に『転ぶ』かもしれないが、やってみなきゃまだ分からない。

 俺の通う中学は公立のK中学。全校生徒は600人程度で、公立だから偏差値なんてないのが当たり前。でもその分高校へ進学する際にかなり背伸びをしなければいけなかったりして、かなり心身共に疲れてしまう。

 今日も、俺は三年生対象の進学模試終了の疲れで背中を丸めて帰っている。
 国語とかマジで意味が分からない。せめて問題文をラノベなんかにしてくれれば、いくらでも感想は書けそうな気がする。時間配分だってきちんと決めることができるだろうし、第一問題の書き取りなんかはアニメのキャラ名だけでも十分な勉強になると思う。最近は難しい漢字のキャラが多いから。

 バカな考えを頭に浮かび上がらせながらガラケーをいじっていたものだから、ある人から不意に声をかけられた時は、思わず喉の奥から変な声が漏れた。


「……ちょっと聞きたいんだけど」
「ひゃっふぅぅぅぅぅぅ!???」

 突然肩に手を置かれ、俺は目を白黒させる。ドクドクと暴れ回る心臓を服の上から抑えて振り返ると、声の主は気まずそうに笑った。


「……驚かせるつもりじゃなかったんだけど……勝手に驚いたからこっちも驚いたし」
「…………はぁ」

 あ、この人嫌いなタイプだ、と真っ先に思った。
 歳は同じ位。白いカッターシャツの胸元には、地元で有名な難関私立中学「桜ヶ丘学院」の刺繍がほどこされていた。


「……何か用ですか?」
「……あ、まあね。あのさ、僕桜ヶ丘学院の生徒なんだけど、天界府中に仲良しの友達がいて、百木周って言うんだけど、そいつ事故で亡くなったらしいから、家に挨拶に行こうと思って……」


 ………チカの友達?
 こういうのもなんだけど、チカが家に友達を連れてきたことはまだない。友達と呼べる人がいないと前に自分でそう言っていた。


 もしくは、チカが恥ずかしがって言っていないだけで、仲良しの友達がいたのだろうか。
 


「……百木周は俺の兄ですが」
「やっぱりね。……顔似てるからそうだろうと思ったよ」
「つかぬことをお聞きしますが、あんたのお名前は?」


 俺はロリ(ユルミス)と(不本意ではあるが)契約を結んでいる。そのため、短時間なら悪魔の術が使えるようになっている。実際悪霊に狙われた経験のある俺に、ユルミスは『近づいてくる人は誰でも敵だと思え』と口酸っぱく忠告していた。



「僕は佐倉亨介。ESSクラブに入ってて、たしか姉妹校同士の交流も盛んだよ」
「………百木朔です。どうも」


 ………佐倉亨介。表情はおっとりとしているが、その双眸からは僅かな敵意が感じられる。何者なのかは分からないが、取りあえずは警戒しておいた方が良さそうだ。

 俺はチカの弟だ。よって、兄を守る義務がある。こうしょっちゅう何者かに狙われる生活もどうかとは思うけれど、黒札の資格者になってしまった以上それはしょうがない。



「チカに友達がいたなんて知りませんでしたよ。ぜひ、家に来てください。きっとチカも喜びますよ」



 さて、……この怪しいお尋ね者は俺が代わりに担当しよう。バディの初めての仕事だ。またピンチになったらユルミスにでも声をかければいいや。


 俺は心の中で何度も頷き、亨介ににっこりとほほ笑む。
 これはあくまでも表面的な態度で、本当は睨んでやりたかったがあまり刺激はしたくない。


「……ところでさ、そのホッペについてるやつ、何? 最近のアニメグッズ?」
「!」

 恭介は両目を細めて言う。俺の肩が跳ねたこと、彼には分かっただろうか。


「流行りの最先端だよ。もしかして佐倉くん、知らないの?」


 と鎌をかけているふりをするが、自分は何を言ってるんだろう? とセリフの選択を間違えたことに内心冷や汗タラタラ。


「? どういう意味」
「最近流行ってるんだよ。デーモンコロシアムってゲーム知らない?」



 ………俺も知らないです、ハイ。
 チカが大好きで、普段全然ゲームとかしないのに、そのアプリだけインストールしてたからタイトルだけ知ってるだけで。いやむしろ、タイトルしか知らないや。


 よって、自分の偏見と直感と想像だけで語る流れになってしまう。きちんと筋道をたてて話すことができない俺は、背中から腰に向かって流れる冷や汗の冷たさに体を震わせた。


「そのゲームでは、登場人物はみんな痛いシールつけてるの?」
「そ、そうなんだよねっ!」

 ごめんなさい! ゲームの製作者さんごめんなさい!
 恭介の悪意のない質問が、俺の繊細な心に穴を開けていく。知ったかぶりという必死の攻撃を、純真という攻撃で防御している。



「つまり君、もしかして『シール貼ったら俺もこのキャラになれる』的な思考回路なんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・ち、チガウヨッ!?」



 彼の、毒舌—と言うのだろうか。
 人の観察するような、試すような視線や言葉選びが、俺は少し、いやかなり苦手だ。

 これからこの人を自分の家に連れて行くのか。持つかなぁ俺のメンタル。
 どうか壊れないでくれよ。そして頼むから何も起きないでくれよ。

 初対面の人を、いきなり敵扱いはしたくない。
 でも、この世界はどうやら俺(かチカ)中心にめぐるましく変化しているようで、そういう願いは大抵、人を困らせて喜ぶ神様によって、あっさりと裏切られるのだった。


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