完結小説図書館
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*28*
〈月菜side〉
ヴィンテージ。それは、札狩をよしとしない者たちのグループのことである。
AからQ班までに分かれており、それぞれ3~4人の組織で秘密裏に活動している。
昔は『あっちの世界の人』たちだけだけでコンビを組んでいたようだけれど、最近は人間の協力者(バディ)を見つけて、共に仕事をすることが多い。
ウチとキョーちゃんにも専属のバディがいて、指示は大体その子からもらっている。最も、こちらは人間なので、できるのはターゲットとの接触とか情報収集がメインなんだけど。
ウチがなんでそんな仕事をしているのかはまだ伝えることが出来ない。
ただ、今の生活に飽き飽きして、という理由が一つある。
中学1年生になったと同時に始めた、メイクテクニックを紹介する動画投稿。バズるために何かしたとか、そう言うことでは全くないのだけど、不思議と登録者数が日々右上がりしている現実。キョーちゃん曰く『漫画でよくある天才タイプ』らしい。
何か予習をするとか、そういうことは何一つしていないのに要領の良い奴。
それからはもう芸能界入りと言うか、毎日がとにかく忙しく、はっきり言って前の生活に戻りたいとも思う。
……でも、ウチがこんなことをしている理由はもっと別で。
「あーっ! きょーるなちゃんたち、待ってましたぁ♪」
駅の構内の、使用中止のトラテープの目立つ階段の陰に、キョーちゃんと一緒に滑り込む。
先に来て待っていたウチの雇用者が、八重歯をのぞかせて妖艶に笑った。
「……あんたさぁ、一カ月も連絡ないとかマジで怒るよ」
「あー……あのね、色々あったんですよ。ジュジュとの顔合わせとか、あっちの執務室にいるユンファンとか、フリルとの連絡とかぁ」
人名みたいなものが聞こえてきて、ウチらは首を傾げた。
ま、それはいいとして、と彼女はポンと手を打って、
「では、第2回、Q班連絡調整会議を始めまーす! 司会のプリシラ・ローズベリです!」
「………QRCってまだ2回目なんだ……一回目ってなんだっけ」
「……さあ。いつもフツーにスタバでお茶して解散だったし」
Q班連絡調整会議‐略称QRCは、今後の活動の方針を決めたりする会議のことで、月一回この場所で行っているのだけど、まともな活動は実は今日が初めてだ。
「ということでまずはルナルナの仕事なんですが……ある方とお友達になってもらいますね」
シアは小脇に抱えたバインダーから資料を抜き取ると、折り目を丁寧に開いてウチの前に突き出す。そこにはターゲットの似顔絵と現住所、出身中学校名と年齢が書かれていた。
『東京都S区北11番地 に居候
百木周(ももきちか) 男 15歳 天海(てんかい)学園付属中学校出身』
「へぇ、天海付中……。成績いいんだぁ。キョーちゃんどこ中だっけ」
確か天海学園付属中学校は私立で、偏差値が70くらいあって、入試での合否の境目がかなり厳しいと噂だ。
この百木って子、つまりすごいできるんだ。
勉強はかなりヤバめのウチからしたら、毎日拝んでも足りない。
「………桜ヶ丘学院」
「え、桜ヶ丘って、天海の姉妹校の? 偏差値同じ位だよね?」
「そうだけど何?」
………う――――わっっっ。
そうだけど何ときたよこいつ。
ウチは心の中で盛大に舌打ちをしてやった。これだから困るんだよな。
「つ、つまりウチはこの子と会えばいいわけね」
「そうなりますねぇ」
「……僕は?」
仕事が割り振られていないキョーちゃんが、試すような目でシアを睨んだ。
その視線の鋭さに少し気負わされながらも、シアはテキパキと仕事を教えていく。
「キョーちゃんは、引き続き潜入調査ですねぇ。と言っても普通にご自分の学校へ行き、黒札をこっそり人間に貼るだけの作業ですが、アナタは上手ですので」
「……まあね。シール貼るのすっごい好き」
以外に子供っぽい一面に、ウチは目を丸くした。
と言うのも、この前彼に「シールってなんか子供心くすぐるよね」と言ったら「へぇ」と返されただけだったのだ。
「へぇ」だったのに! なにが「シール貼るのすっごい好き」だ!
あの冷めた目はどこへやった!
まぁキョーちゃんはこういう人間なのはこれまでの付き合いで分かっている。
「じゃあシアは? なにするの?」
ウチらに指図をするのが仕事ではないと前に聞いたが、彼女が他に何をやっているのか、上司はいるのか、肝心なことは何一つ知らない。
これまで明らかになったのは、『ヴィンテージ幹部』という肩書と名前のみ。
つまりコイツが、このヴィンテージを牛耳ってる、いわばラスボスなのだ。
まぁ幹部と言う話だから、その上はいるんだろうけど。
「私ですかぁ。そうですねぇ。カラオケですかね」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
柄にもなく、キョーちゃんが大声を張り上げる。
「何ですか? 悪魔の世界にもカラオケの概念はありますよぉ」
「へぇ、なに歌うの?」
「中島み〇きの『糸』ですね!」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
今後はウチが答えを張り上げる羽目になった。