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*20*
〈朔side〉
あの後、俺は悪魔のロリ=ユルミスと一緒に、右頬に貼られてある黒札目掛けて集まってくる悪霊たちから逃げるべく、家を飛び出した。
割れた窓ガラスの件は、まだどうするか考えてないけれど、あの大きい音でママが気づかなかったとは考えにくい。
そもそもの話、俺は何も悪くない。
悪いのは、黒札を使って悪さをしようとしているシアと、樹液が好物のカブトムシのように俺めがけて突進してくる悪霊どもなんだから。
こっちはただ兄に会いに行きたいだけなのに、何でこんな目に……。
「ももたん! ボーっとすんな!」
「ぎゃああああああああああああ、ナニコレナニコレちょっと説明してぇぇ!!!」
現在俺は、ロリに担がれて飛行機と同じ高さを浮遊している。
眼下には、アパートや高層ビルに囲まれた市街の風景がずらりと並んでいる。有名な東京タワーも、今ではミニチュアみたいに小さい。
でも、今はそんな悠長なこと言っているバアイじゃない!
だって、観覧車より高い位置を飛んだことなんて、ないんだもん(泣)!!
仕方なかったんだ。
もう家の周り、庭や部屋、天井にまで数多の怪異が押し寄せて、逃げ場がなかった。
ロリが「スターバスト」だっけ? 必殺技で一掃しても、すぐにまた湧いてくる。
でも、でもさ。
いい年した中学生男子が、女の子(悪魔)に抱えられて無様に空を飛ぶ状況ってどうなの!?
しかも横から逆風が吹きつけるせいで、ロリの羽にバンバン風が当たって体勢がぐらりと揺れる。
「アルジ様ァァァァァァァァァァァァァァ。コッチヘオイデクダサイマセェェェェェ」
「イマ帰ッタヨ、エミリーィィィィィィィィ」
「ギャ―ーーー! 誰だよエミリーって!! エミリーって誰だよ!!」
お化けは空を飛ぶ。まぁ、幼稚園児でもわかることなんだけど、俺はそれを改めて自覚した。
自分の肩越しに乗った、おかっぱ髪の人形が耳まで裂けた口をグワっと開いて、襲い掛かってきた。
「うわっ!!」
「ももたん、ちょっと失礼!!」
突然、ロリが鋭く叫ぶ。
なんだよ、と叫び返そうとしたその時、何かが高速で口の中に放り込まれた。
ドロッとしたジュースのような液体。今まで呑んだことの内容な味だ。
口当たりが良くて、少し酸味がきいてて、微かに甘い香りが………。
「ウガァァァァァァァァァァァ!!」
「うわっっ!」
「ももたん、ユルに続いて言って!『汝(なんじ)、卿(けい)の魂胆を欲す』、さんはい!!」
なんだよその、古典でよくある意味がよくわからないけどカッコ良さそうな文章は!
「ウガァァァァァァァァァァァ!!」
でも、とにかくやるしかない。飲まされた液体の正体も、呪文のような文章の意味も理解できないけれど、もう首の当たりにまで人形がしがみついている。
「な、汝、卿の魂胆を欲す!!」
俺は両目をぎゅっとつぶって、両肩に力を入れて叫んだ。
それと同時に身体から閃光が放たれる。視界が白く染まる中、先ほど自分の部屋で聞いたような悲鳴が響き渡り、それは次第に小さくなっていった。
思わず目を開ける。首にしがみついていた人形や、今にも俺に飛び掛からんとしていた悪霊たちの姿は、もうどこにもなかった。
代わりに、赤、青、黄色などの様々な色の宝石のようなものが、宙に無数に浮いていた。
「こ、これは?」
「これは、悪霊どもの魂の一部。俗にいう人魂? みたいなもん。この魂を使って、ユルたち悪魔は人工霊を作って使役させたり、守護霊としてやとったりするんだー」
「お、俺が倒した………?」
「ユルと契約しただろ?」
「け、けーやく?」
「ユルの、【体液】を飲むことによって、ももたんは正式に悪魔と契約した。これからヨロシク♪」
……………………はい?
今なんて言った? ユルミスの………体液を飲ましただって!??
「な、なんてもんを飲ませてんだよお前はッ!!」
「助けてほしくなかった?」
女の子のッ体液を飲んだ? やばいぞこれは懲役100年あっても足りないじゃないかッ。この場合悪魔だろうが人間だろうが関係ないよ。命を救ってもらったこともちょっと横に置いとくよ。
「なんてもんを飲ませてんだよお前はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!(二回目)」
次回に続く