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*10*
「何で」
______『夏樹瀬(なつきせ) 栞凪(かんな)』
私が1番嫌いで、1番会いたくなかった人の名前。
スマホに映し出されたその5文字を睨みながら、昔の事を思いだす。
~2年前~
今日も小さなライブ会場で、私の推しは歌っている。
私以外のお客さんは居なくて、それでも海和は歌っている。
「愛してるよ」
息を切らしてそう告げる彼に、胸の鼓動が早くなる。
「わっ私も…!愛してる!」
まだ貢いだ額が少ない頃の私。
自分しか居ないから、自分だけに愛を伝えていると思うと、やっぱりキュンとする。
「かんなもー!海和様ぁ~♡」
突然、知らない女の声が聞こえる。
「フッ…栞凪かい?相変わらず騒がしいね」
え?どういう事?今まで私、欠かさずライブに行ってたのに。誰とも会わなかったのに。
恐ろしい程の嫉妬と憎悪が、体中に込み上げる。
「あれ?君も海和様のファン?」
栞凪という人物が、私の事を覗き込んで来た。
地雷系ファッションに身を包んだ、いかにもな女の子だった。
「そうだけど…」
海和のファンが自分だけだと思いたくて、推しの顔を窺う。
「ハハッ、実はね。百合菜に伝えていなかったけど、路上ライブをしたんだ」
「そーそー!かんなね~?そこでガチ恋したの~!」
「初耳だよ」
うふふ、あはは。
私の知らない所で、推しがガチ恋客を作った…?
あり得ない、あり得ない!
私が海和の知らない事なんて、無かったのに!何で!何で⁈
私はこんなに愛してるのに、貢いでるのに何でよ!
「栞凪ちゃんだっけ、私は百合菜。海和の1号客だよ」
「マジかー!かんな2番目だったの~?」
無理無理無理無理無理無理!!
私の海和なんだけど。1番の古参は私なんだけど?
脳内が栞凪という人物を拒絶しているけれど、私は麗奈お姉ちゃんみたいに態度には出さない!
平常心、平常心よ、百合菜。
「えへへ、海和にもファンが増えて良かったねぇ」
推しに嫌われるよりも、嫌いな人と遊ぶ方がマシだよ!
「あぁ、百合菜と栞凪、2人共可愛いから照れちゃうな」
海和。私の方が可愛いよ。この子、絶対すっぴんヤバいって。
「え~?私そんな可愛くないよ~?」
そうだね。私の方が可愛いよ。私を見て。
「じゃあ、そろそろ歌おうかな」
「ヒューヒュー!海和様Love you~!」
「……」
それからずっと、私の目に栞凪が居るだけで、私から海和を奪っていった。
だから、心の底から、私は栞凪が嫌いだ。
続く