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第3章・明鏡百合菜「夜に染まれ」
「私には、彼氏がいるの」
同居の姉は訳あって人前に出ないのだが、椅子は配置している。
その席には勿論誰も居ないけれど、彼女には姉が見えているようだった。
「フフッあのね、その彼氏はね、普通じゃないんだ」
言いたくてうずうずしている彼女。その様子は、まるで恋する乙女そのもの。
「いまをときめく人気アイドルと、付き合ってるの」
私は百合菜。区役所に勤務している、至って普通の社会人。
そう、傍から見ればね。
私はいつか、熱愛として出るかもしれない『側』の人間と付き合っている。
人気ソロアイドル、海和(かいと)。
今でこそトップに羽ばたいているが、実際は2年前から活動していた。
私は海和の古参ファンで、デビュー時からずっと推している。
収入はすべて海和に費やし、麗奈お姉ちゃんが毎月養ってくれるお金で生活を続けている。
私は海和を推しているから、まだ売れてなかった頃の海和は嬉しかったのだろう。
「僕と付き合わないか」
そんな風に海和(おし)から告げるのだから。
私は海和と付き合い始めた。
海和とはたまに会っている。そして夜には愛を確かめる。
私への愛があると知っているから、貢ぐ事をやめられない。
海和の2年間が、どれだけ辛く、大変な事だと思ってるの?
売れなくて、努力して、でも売れなくて…
私のお金を彼がどれだけ必要としてただろう。
それでも活動を続けてくれた事、本当に本当に感謝している。
今売れているのが、私にとって複雑ではあるけど嬉しい。
人気になるのは嬉しいけど、人気だから尻尾振って来た海和リスナーを名乗る人達は好かない。
今まで目に留めなかった癖に。
古参であればある程、海和は愛をくれる。
一番私が昔から海和を推している、愛しているから、付き合って当然なんだ。
人気になってから現れた同担拒否とか無理すぎる。
自分勝手にも程がある。推してる自分が好きな癖に。
そういえば、私と1対1だった売れる前、2人目のファンの事も覚えてる。
貢いだ額が抜かされないように必死だったような。
そう思う内に、ピコ、という通知音が聞こえたので、同居の姉、瑠璃歌かと思いすぐ目を通す。
するとそこには、思いもしない人物からの、久しぶりのメッセージが寄せられていた。
続く