コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 傷つくことが条件の恋のお話
- 日時: 2016/04/09 15:38
- 名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)
どうも。皐月凛雅です。
今回は、高校生に登場してもらいます。
深い傷を負ったEIGHTEEN女子高生と、
いたって普通だけども普通じゃない男子高生と、
人気モノの男子高生がメインの高校生活のお話。
頑張りますから、小学校の授業参観に来た父兄のような、
温かい目で見守ってくだされば。
ー登場人物ー
・北川 優
佐久間高等学校3年B組。社会の女王様のあだ名で、落ち着いた雅やかなお姉さま。男女関わらずに人気は高いようだ。テニス部のエースで図書委員会委員長。
・能澤 崇
別に特徴のない優の同級生。彼はC組でいたって普通。剣道と空手なら誰にも負けないし、水泳とテニスとサッカーだったらできる方。でも面倒臭いから帰宅部。
・朝瀬 翔也
『めっちゃイケメンで、むちゃくちゃイケボですんごく頼りになる』優のクラスメイト。家も結構な金持ちのお坊ちゃまで、文武両道の憧れの的高校生。
≪優 side≫
今から4年前の夏、私は大切なものを失った。
原因は私にあった。どう考えてもそう。
それなのに、それなのに彼の親は私のことを責めなかった。
蔑みもしなかった。私にあたることもしなかった。
ただ、泣きながら一言、
「ありがとう」
そう言った。
私にはそんな言葉をもらう権利などない。
私は貴方の息子の命を奪ったのに。
なんでそんなことを言えるのか、貴方の神経がわかりません。
その時以来、葬式にも出なかったから彼の親に会うことはなかった。
そして、私は心から誓った。
『私は、絶対恋に落ちるようなことをしない』
そうして彼との思い出を、心の奥に封印した。
自分の、心からの笑顔も。
4時限目、あんまり面白くない音楽科が終わり、音楽室から教室に帰る途中、
「ゆ〜〜う!!」
後ろから誰かがばんっと背中を押してきた。
ひょっこりと顔を出すのは私の唯一無二の親友、斉藤沙穂。
「沙穂。今筆箱でぶつかったでしょ。めっちゃ痛かったよそれ。」
そういって彼女を睨めば悪気なんてそっちのけで、すまんね、とだけ言った。
「それより聞いた?朝瀬って、A組の永井紗菜振ったんだってよ。」
「まあ、当然じゃない?永井紗菜ってあの派手なギャルでしょ。あんなのと付き合って長続きした方がおかしい。」
思ったことを、包み隠さずに率直に述べる。この口調が気に入らない沙穂は、その毒舌何とかしなよ、優、と苦笑してから続ける。
「まあ、永井さんって結構面倒臭そうだから付き合ってくれるまで朝瀬に付きまとって、朝瀬が諦めてやっと付き合えたってことじゃないの?」
「・・・、そんなに面倒なの?そのこ。なんか朝瀬に同情できそう。」
そんなに付き纏われていたのなら、あんまり話したことのない朝瀬でも、素直に可哀相だと思える。
「永井紗菜って、女王様気分でいる出しゃばりとか、女子力が半端ない人ってゆうような見た目だったけど、男子にはどう見えているのかな。」
素直に疑問を口に出してみると、じゃあ、と言って沙穂が上を指差した。
「今の疑問、莫迦男子に聞いてみる?誠と拓真、今日は屋上でお昼食べるらしいから。」
「ああ、そうね。聞いてみようか。」
そう答えると彼女は、優のお弁当持ってくるから先行ってて、とだけ言い残して教室へと入っていった。
沙穂と広瀬誠、山崎拓真、それに私は、中学時代の仲間で、4人一緒にこの高校を受験し、合格した。
いつでも一緒だった。今でも放課後になれば4人で新宿行ったり、誰かの家に泊まったりしてるくらいだ。
「誠、拓真。」
屋上まで行き、手すりに寄り掛かっている2人に呼びかける。
2人とも私を認識すると、ふっと笑って手招きしてくれる。
「なんだ、沙穂はどうした。」
誠が笑いながら、話しかけてくる。
「お弁当取りに行ってる。もうすぐ来るよ。」
「あいつはパシリかよ。」
「そうね。自主的にパシリやってくれて助かる。沙穂っていいね。」
「うわっ、出たよ。優の腹黒思考。女っていつみてもおっかねえ生き物だよ。マジで俺そう思う。」
「お前、ほんと擦れたぜ。もう少し大人しくしてればもうちょっとは可愛げあるんじゃねえか?」
拓真の言葉に少しカチンと来て言い返そうとしたタイミングで後方から声がかかった。
「あんただって人のこと言えないでしょ。このぐれ男。」
「うっせーよ。沙穂は黙ってろ、口デカ女。」
「それ、乙女な女子高生にいう言葉?もうちょっとは考えなさいよ、莫迦不良!」
「誰が不良だっての、俺より脳味噌ないくせに。」
これ以上やりあうと白熱しそうなので、そっと私は誠に目くばせする。
「こらこら、ご夫婦様。痴話喧嘩はどっか違うとこでやってください。こちらとしてもこんなに仲睦まじい様子を見ていると少々焼けるので・・・、」
にこにこしながらお世辞を投げかける誠。
「誰が夫婦だっての!!!」
2人一緒になって誠に怒鳴る拓真と沙穂。
拓真と沙穂は幼馴染で、小さいころから一緒にいるのだ。この二人の痴話喧嘩は、言ってしまえば恒例行事なのである。
「で。どうして男同士の貴重な時間を邪魔しにやってきたの?」
夫婦と言われたことでまだ拗ねている拓真が聞いてくる。
優がおにぎりを口に入れてまだもぐもぐしているところを見て、代わりに沙穂が説明してくれる。
「A組にさ、永井紗菜っているじゃん。男ってああいうタイプ、どういう目で見てるのかなあって、疑問ができたから聞きに来たのよ。」
「別にあんま気になんないけど。美人なんだろうなあとは思うけど、やっぱ遠目に見てて、気に障るような奴だとは思う。」
あんまり感情が入っていないこの声は拓真の声。
「気が強いのはわかるけど、自分の意見がしっかりしてるだけなのかもよ。自分に自信があるみたいだし。まあ、男はエロいからね。漫画なんかに出てきそうな美少女だから、付き合いたいと思う男子は多いよ。」
この、客観的な発言は誠のもの。
「美少女ならこんなに近くにいるのに、よくそんなこと言えるねえ。ま・こ・と?」
沙穂の口調には、はっきりと揶揄の響きがある。
「沙穂・・・、私のこと莫迦にしてる訳?凄くムカつく。」
実際に自分が美人だとか、綺麗だとか思わない。みんなが興奮して称賛するような要素は一つも持ち合わせていない。
「優は確かに美少女だけど、中身がめっちゃ黒いから・・・グハッ!」
間髪入れずに飛んだ私の〈怒りの回し蹴り〉のおかげで、誠は最後まで言葉を紡ぐことはできなかった。
「あらぁ、お大事にね、誠。拓真も誠の対処よろしく。」
私がすたすたと屋上を後にしたせいで、沙穂が慌てて後を追ってくる。
次は、私が好きな和山先生の古文。早く戻って予習しよう。
そう心の中で唱えることで、静かに心の怒りを抑えた。
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- Re: 傷つくことが条件の恋のお話 ( No.19 )
- 日時: 2016/03/25 14:32
- 名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)
≪優 side≫
制服が冬服へすっかり変わったころ、大学決めの三者面談が私たちを待ち構えていた。
私の目標にする大学は、普通の総合大学。
考えている夢は一応検察官。
父親が建築士という人のためを考える職業のため、自分も何かこの国をよくするような仕事がしたいと思ったのがきっかけだ。
そんなの簡単になれるとは全く思っていない。逆になれずに普通の会社員のような人生を送るのではないかとしか考えていなかったりする。
でも、なれればいいナぐらいは思っているので、将来の職業として行け来ているのは事実。
第一志望の大学は、法学部のある吹塚大学。
この大学の法学部は、教授が熱心で有名だ。尚且つ大学全体で特に球技が強く、硬式テニス、バドミントン、バスケ部は、全国大会に進出する背板も数多いる。
そんな大学で、自分のしたいことを精一杯やりたい、そんな理由を述べれば、3−B担任且つ日本史担当の山下智久先生は、快く聞いてくれた。
「君の実力なら十分だろう。推薦状を書いてもらえるよう、教頭を説得してみる。」
整った面に微笑を浮かべる先生は、一見冷たそうな見た目の割に融通が利いて、私たちに共感してくれることで、生徒の好感度が強い。
女子からも熱のはいっつぃ線を受けている先生の代表ともいえるのかもしれない。
一通りの三者面談が終わったある日、私たちは屋上へと集合していた。
「大学どうした?」
単刀直入にそう尋ねるのは、もちろん拓真。
「私、地元の美容専門学校希望。」
乙女心ばっちりの沙穂。
「俺決まってねー」
これは何も考えない誠。
「俺は和生体育大学希望。」
いつでもどこでも運動以外考えたくないが矜持の能澤君。
「僕は吹塚大学医学部。優は。」
自分の目指す大学の名前が拓真の口から出たことに目を見開いているところに、話が振られる。
一人として同じ大学という選択肢をしていないこの状況。
完全に言いにくい雰囲気の場合、どうすればいいのだろうか・・・?
「・・・・、え、とぉ・・・?」
アホみたいな声が漏れたきり、何も話せない。
ここは意を決していってしまおうか。
はい、そうしましょう。
「えとね、私実は医学部希望。」
「どこの。」
「・・・、吹塚。」
「「「「まじですかぁーー!?」」」」
さあ、4人の大合唱。
爽やかに爽快な青空を駆け抜けていきました。
「・・・そんなに驚かなくてもぉ・・。」
「ま、別にいいけどね。」
なんくるないさとでも言う様に肩をすくめる沙穂。
「・・・あんまよくない・・・。」
正反対に肩を落としかねない男子二人——能澤&誠
どうして肩を落としているのか、そして、なんでなんくるないさなのかが分からない。
何か問題でもあるのだろうか。
ふむむと考え込んでいれば、能澤君が口をぱくっと開いた。
「こいつがいるから大丈夫と考えればいいんだ!」
・・・わからない。
帰り道、先生に呼び出された誠と沙穂、そしてことが終わるまで待つといった拓真を残し、能澤君と歩いていた。
「能澤君、和生いってその後は?」
「いちおうスポーツトレーナーみたいなやつ。」
「みたいなって?」
「まあ、ずば抜けてプロ目指してるってことじゃないけど、でも運動とかスポーツとは離れたくないから。」
「スポーツ関係の職がやりたいの?」
「まあそんなとこ。」
自分でやりたいと思っていることが伝わってくる。
特別熱が籠っている訳でもないのに、スポーツに対する気持ちが分かる。
そんな彼に、おまえは、と眼で言われ私は内心苦く思っていた。
彼の強い夢に比べたら、胸を張って言える夢など私にはない。
ただ、夢を考えろと言われて'憧れている職業’に無理やり理由をこじつけたようなものだ。
恥ずかしいけれど、きちんと夢を語ってくれた彼に黙っていることは出来ない。
「検察官、目指そうかなって。」
「ん。理由あんの?」
「特別なものはないけど。何か国に貢献出来たり、その仕事で周りの人が安心できるようになるんだったらって思って。」
「・・・いんじゃない。お前らしいじゃん。」
私は、語尾につけられた一言に軽く瞠目した。
能澤君の口からそんな言葉が出るとは思わなかった。
驚いていることを察したのか、彼は苦笑しながら口を開いた。
「自分のことなど気にも留めずにひたすら周りの人のために突っ走る。いつでもそうやって生きてきたんだろうなって、すぐに分かるくらい行動の端々にそんなのが見受けられるよ。」
「・・・・分かり易いって?」
言い方にピキンときて、少し声が低くなれば、まあそれもあるな、と悪気のない一言が付け足される。
「・・・、一言多いよ、あほの崇君。」
「口悪いよ、鬼女の優君?」
憎まれ口を叩けばそっくりそのまま悠々と帰ってくる。
こんな私はいつまで経っても言葉では彼に勝てない・・・。
なんか少し悔しくて、なんか少し楽しくて嬉しいこの時間が私は好きだった。
彼が、好きだった。
今でも・・・。
- Re: 傷つくことが条件の恋のお話 ( No.20 )
- 日時: 2016/03/30 18:03
- 名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)
≪拓真 side≫
この頃の誠は、放心したようにじっとしていることが多くなり、まるで覇気がなかった。
そのくせ話しかければ、平静を取り繕ってへらへらしてる。
へらへらしているのはいつもの事だ。でも、付き合いの長い僕らは分かりたくなくても分かる。
誠はあれでもきちんと筋が通った覇気のある人間だ。
だからこそ人に好かれる。周りを笑顔にすることができる。
でも、今ではみんなを心配させることしかできなくなる。
このままじゃ駄目だ。
「・・・、誠。」
「はい?」
「お前も思うだろ?今のまま続けんのは危ないと。」
「・・・。」
「ここで黙るな。ずっと引き摺っても何もならないだろ。」
「あいつには能澤がいるんだろ?」
「そのことに不満を持っているんなら、不満がなくなるように極力頑張ればいい。」
「俺が頑張ることで困る人間もいるだろ?」
困り顔で首をかしげる誠。
その顔の裏の顔を僕は知っていた。
「本当にそんなこと思ってるか?」
静かに、でもきっぱりはっきりと言えば、簡単に彼は無情になりその顔からは表情が消えた。
「拓真君は気付かなくてもいい所も気付くからモテないんだよ。」
「軽口叩く前に自分を正面から見ろ。動かなければこの状況が続くし、優は知らないままだ。少しでも気付いてほしいと思うなら自分から行けよ。優は困るかもしれないけど、優にとっては自分と向き合ういい機会になるはずだ。」
「お前の話をまとめれば、告って早く振られてすっきりしろ、と言われているようにしか思えないが。」
「まあそれもあるけど、それよりもお前の姿が見苦しくなってきたから。」
「は?」
「いつも通り騒いでりゃいいのに、ただの腑抜みたいな恰好されてたらこっちの反応に困るから。」
「・・・気落ちしてる親友にそこまでいうのは酷くないか?」
「嘘つく方がひどいから。きちんと真実を言った。」
誠は単純思考で本当に分かり易い。そのため隠し事をするのに向いていなかったりもする。
だから、盗みとか嘘とか取り繕うとかあまりうまくできていた試しのないのが誠だ。
行動の端々の感情の出るような単純タイプさんは、好きな人にもきちんと下心出して接していた。
みんながみんな分かってしまうほどに。
でも自分の事となるとさっぱりになってしまう人が相手ということで、昔から苦労してきて、それで結果がこれだ。
少しは誠がキレる権利もあるだろうが、今は少し時間がない。
学校が変われば、たとえ同じマンションに住んでいる人間同士だとしても今のように話す時間などないと考えるのが自然だ。
そうなのであれば、自分たちの受験に差し支えないようにしながらも悔いのない行動を選ぶのが妥当だと言えるだろう。
「少し自分と向き合って考えてから、悔いの残らない選択をしろ。」
「お前もだろ?」
誠の耳元にそう吹き込めば、意味深な声音でそう囁き返してきた。
内心首をひねりながら、僕はその場を後にした。
- Re: 傷つくことが条件の恋のお話 ( No.21 )
- 日時: 2016/04/01 13:43
- 名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)
≪優 side≫
「沙穂、今から帰る?」
隣のC組に顔を出してそう呼びかければ、クラスメート数人と集まって喋っていた沙穂がこちらを振り返る。
「今行くから待っててー。」
やたらと大きな声で返され、こっちが恥ずかしくなってきたから、私はさっと廊下に身を返した。
廊下の壁に凭れ掛かって沙穂を待っていれば、自然と女子たちの囁き声が耳を掠めた。
「ねえねえ、知ってた?北川さんってさ、付き合ってる人いるらしいよ。」
「えっ、マジで!冷たい顔して良くやるねー。」
「もしかして裏は男ったらしかもよ〜。」
「でさ、相手は誰よ。」
「それがさ、C組の森山ちゃんの彼氏とったらしいよ。」
「うわー、大人しそうなのにそーゆーことすんだ。」
「秋奈ちゃんかわいそー。」
「何か泣きながら言ってたらしいじゃん。」
「うわー・・・・。」
「マジでかー・・・。」
それを聞いて、愕然とした。
女子からの軽蔑の眼差しも、辛い陰口も。
それに、付き合っていることは言わないのが、能澤君との暗黙の了解だった。それを彼が破るとも思えない。
学校の登下校だって、学校付近では一緒に歩いたことはないし、学校内の目のつくところで二人きりで会っていたこともない。
だから、あらかじめ私たちの関係を知っていて誰かにチクって噂を流せるのは自動的に森山さんしかいない。
「・・・どうして・・・・。」
悔しいというよりも、悲しくなって私は静かに呟いた。
ちょうど荷物を整え終えた後らしい沙穂が、ん?といった表情で小首を傾げていた。
陰口をたたいていた女子とは違う、無邪気なそれに一瞬すべてを打ち明けそうになるが、私の心の一番芯となっている【周りに迷惑をかけたくない】のしっかり胸に刻みつけられた言葉が甘い考えにブレーキをかけた。
だから、ううん何でもない、とあやふやに誤魔化して、一番苦い部分をしっかりと胸の奥に仕舞った。
——しっかりと鍵をかけて開けられない様にして。
それから数日、女子トイレや更衣室で囁かれる自分の悪口や陰口の乗った噂に耐える日々が続き、その日、それをさらに煽るような出来事が私を待ち受けていた。
午前に授業が終わった昼休み、あらかじめ作っておいた自分用にお弁当を昨日急に帰ってきた父親が今朝、出勤する際に間違えて持って行ってしまったらしく、今日はお昼が手元になかった。
仕方ないから誰かを誘って学食にでも行こうかと考えていた。
色々な噂が飛び交い、以前と同じように接してくれる友達はずっと少なくなっていた。ほとんどは、自分が虐められるのは嫌だと、怯えながら一緒になって陰口を言う方に回ってしまい、りのちゃんや沙穂、沙穂のクラスメートの佳乃ちゃんなど、私に同情してくれる女子は少なくなっていた。
今のこのB組で親しくできるような相手はもう、りのちゃんしか残っていなかった。
そのとき、ちょいちょいと肩を突っつかれた気がして、ふと後ろを振り向けば、三年学級委員委員長の朝瀬翔也が、爽やかな笑顔を浮かべてこちらを見ていた。
「北川さ、昼どうするつもりなの?」
「んとね、今日お弁当作るの忘れてきたから学食行こうかなって。」
「一人で?」
「ううん、りのちゃんとか誘うけど。」
「じゃあさ、俺も混ぜてくんない?」
みんな彼女の弁当食いに行っちゃってさぁー、何て言って、はははっと明るく笑う朝瀬君は、B組の学級委員を務めている。委員長である彼と馴れ馴れしく話せるのは、申し訳程度の図書委員長の肩書のおかげであった。
彼は、冷静沈着が似合う能澤君とは違い、温厚篤実で、爽やかで明るく、寛厚な性格から、人望が厚い。
そのため、男女ともに人気が高い生徒の一人だった。
三年間学級委員委員長で、今では男子バスケ部部長まで勤めている。
おまけに、二年生時代は、生徒会長候補と騒がれていたほどだ。
肩書はテニス部本部長兼ね図書委員長といつ私とは、格が違う生徒だということは、一目瞭然である。
自分に合わない肩書の重さを改めて思い知り、肩が自然と下がっていくのを感じながら、せっせとノートをまとめているりのちゃんの肩をついついと引っ張る。
「ん?どうしたの?」
「お昼さ、学食行かない?」
「優ちゃんだけ?」
「朝瀬君も一緒に来そうなんだけど・・・。」
「うん。いいよ、ちょっと待って。」
おっとりと肯いて、りのちゃんが道具を仕舞い始めたのを見て私は朝瀬君を手招く。
「いいって。」
「すまんね。なんか男子一人邪魔者で。」
「本当に邪魔になったら容赦しないけど、普通にしててくれれば一緒に食べられるよ。」
暗に邪魔になるようだったら一発退場になると伝えてくる彼女は、いつも一様に凄味があって結構怖い。
さすがの朝瀬君からも、ごくりと小さく唾をのむ音が聞こえてきた。
でもまあ、やってみればそれはそれで何事もなくことが終わった。
朝瀬君は、礼儀正しいが、日本人の礼儀正しいよりも英吉利人の紳士的な礼儀正しさが滲み出ているように思えた。
今まで周りにいたのが、紳士というよりも武士道の志を感じられる人物が多かった為か、何か新鮮なものが感じられる。
彼と話していて、多少の戯れ心は除くものの、決して悪戯や悪ふざけの類には手を伸ばしはしなかった。
それが彼の人望の種なんだと漠然と思える。
「北川。」
学食から教室の戻ると、そう朝瀬君に呼び止められた。
何だろうと首を傾げて近づけば、一言、放課後屋上に来て、と囁かれた。
この時、私は無意識に脳裏の危険信号を覚えていた。
- Re: 傷つくことが条件の恋のお話 ( No.22 )
- 日時: 2016/04/01 13:57
- 名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)
とうとう朝瀬翔也出しました。
ある人から名前のかっこいい男子と高評価をいただきました。有難う御座います。
今まで愚だ愚だと書きましたが、ここから本領発揮と行きますつもりです。
ここから先はあまり新キャラは出しませんが、皆様の知っているキャラは顔を出すかもしれないですね。
杯、ここからも、これからも温かい眼で見守ってくだされば。
どうぞ宜しくお願いいたします。
- Re: 傷つくことが条件の恋のお話 ( No.23 )
- 日時: 2016/04/01 21:25
- 名前: 皐月凛雅 (ID: RxjWcSTv)
≪翔也 side≫
彼女は知らないかもしれない。
俺は高校に入ってから三年間、ある女子に片思いしている。
三年間偶然にも彼女と同じクラスでやってこれた。
偶然のおかげで、彼女と言葉を交わす事が出来た。
偶然のおかげで、この頃は今までとは違う彼女の表情を見れた。
今までよりもずっと優しくて気品に満ちて、涼やかで雅やかで。
そんな彼女をずっと見ていたことを。
他の女子から告白されても一度も浮き立つことのなかった俺の心は、彼女の姿を捉えればすぐに浮き立ち、強く惹かれていった。
受験の幕が開く前に、せめてもこちらの気持ちを知ってもらいたかった。
昼休み、一緒に学食について行ったのは、彼女の現状が知りたかったから。
彼女に対して、裏で何かが言われていることは知っていた。
でも、あまりよくは知らない。女子の間でしか回されない秘密で、男子の耳には入らないようになっているのだろう。
でも、この機会を逃したら気持ちを伝えられる時間がない。
そう思って俺は、屋上で待つという約束を出した。
放課後、俺は男子の下校の誘いをすべて断って屋上へと駆け上がっていった。
彼女はまだだったが、居たら俺は正常な気持ちをなくしていただろうと今なら思う。
「朝瀬君?」
「お、来てくれたんだ。」
「無視はしないよ、一応。」
「ははっ、まあ疑ってはいないから許してよ。」
「別に怒ってないから。で、お話とは?」
「うん、ここでしようと思ったんだけど、ちょっと場所を変えようかと思ってさ。」
屋上よりも、体育館の裏の方が人が来るかもしれない確率が比較的低いかもしれない。
あまり彼女以外の人間と会いたくなかった。
それだけの理由で彼女を引っ張り回すなんて、自分自身どうかしていると思う。
あまり使われていない第四階段から下りて行って、職員出入り口から体育館裏へと足を向けた。
自分が焦っているのが分かる。
心の臓がいつもよりも早くなっているのが分かる。
彼女の手を取っている方だけ、自分のものじゃないと思うくらい熱くなっている。
「御免ね、吃驚したっしょ。」
「・・・、なんか、いつもと違う・・・?」
彼女の顔には、はっきりと困惑の色が浮かんでいる。
それもそうだろう。何せこの状況の成り行きを何一つも話していないのだから。
「うん、自分でもそう思う。高校入ってから、俺すごい変わったんだよ。色々な人と話して、色々な思い出作って、本当に好きな人を思う気持ちも見つけてさ。」
「本当に好きな人って、永井さん?」
「違うよ。本命は俺の目の前にいる。」
まさか永井の事を引っ張り出されるとは思っていなかったが、自分の気持ちにはちゃんと正直になれた。
「北川の事が好きです。」
真っ直ぐにその澄んだ漆黒の双眸を見つめる。
その双眸には、困惑や迷いはあったが、恐怖や慄きの色は浮かばなかったそのことに安堵する。
「本気で言っているの・・・?」
「こちらとしてはガチめの告白なんだけど。」
「・・・、」
「今すぐ答え出せっていうんじゃないからさ。じっくり考えてみて。もちろんNOでもいいからさ。でも、俺が付き合って欲しいって思っているのだけは頭に入れておいて欲しい。」
極力普通に言うようにしていた俺は、内心はもうぐちゃぐちゃだったし、ずっと握りしめていた右手は汗ばんでいた。
それでも、自分の気持ちを伝えられたのは自分の中でも大きな達成感があった。
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