コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 新米教師と死にたがりの女生徒。 完結!
- 日時: 2010/02/14 14:00
- 名前: 転がるえんぴつ (ID: hKAKjiZ3)
とある中学校の始業式。新任教師の紹介が、その学校でも当然あった。
『今年から教師になりました、相沢タツキ先生です』
『初めまして、二年生に理科を教えることになった相沢タツキです。まだまだ新米ですが、よろしくお願いします』
俺に出来たのは、そのくらいのありふれた挨拶だった。
二年生だけの集会でも、似たような挨拶をした。
そこで、他の中学生とは全く違う雰囲気を放っている女生徒と目が合った。
他の生徒は陽気な笑顔を浮かべながら、時々周りと喋りながら話を聞いていた。いわゆる普通の反応だ。
だが、その女生徒はこちらの心を見透かすかのような視線を送り、周りとは一切喋らなかった。
——浮いている生徒がいるな。
最初はその程度しか思わなかったが、やけに印象に残ったので、他の教師に聞いてみることにした。
「あの生徒を知ってますか?」
「ああ、職員室でもよく話題になるな。頭はすごくいいんだが、何を考えているか分からないって評判だ」
「名前って分かります?」
「二年B組の『田中マナミ』。君も苦労するかもな」
それから、特に接点もないまま一年が経った。
そして、学年が一つ上がった頃。
俺は、『田中マナミ』がいる三年D組の副担任になった。
続く
久々にコメディ・ライトを書きました。応援ヨロシクです。
- Re: 新米教師と死にたがりの女生徒。 ( No.1 )
- 日時: 2009/09/13 14:32
- 名前: 杳 ◆8WWubVa7iM (ID: ZTqYxzs4)
応援します!
- Re: 新米教師と死にたがりの女生徒。 ( No.2 )
- 日時: 2009/09/16 16:55
- 名前: 転がるえんぴつ (ID: hKAKjiZ3)
ある日、俺は廊下で田中とすれ違った。
「なぁ、田中って二年の時数学で百点取ってなかったか?」
「噂だと、今までのテストの中で一番低い点が七十五点なんだって!」
「いつもテストの点も成績もいいよねぇ」
周囲で騒いでいた男子もぴたりと動きを止め、田中を凝視する。そして、男子も女子も一緒になって田中のことをヒソヒソと話す。
田中はそんなことも全く気にせず、当たり前のように廊下の真ん中を歩く。
「でもさ、あんな人にはなりたくないよね〜」
「田中って友達いなさそうだよね。可哀相!」
「それなら友達になってやったら? 可哀相なんでしょ?」
「やだ、冗談言わないでよ! 田中なんかと友達になったら、私まで仲間外れにされるじゃん!」
そんな女子達の悪口にも全く表情を変えず、そのまますたすたと歩いていく。
——あいつ、どこに行くつもりだ?
気になって後ろを見た時には、もう田中はいなかった。
その日の五時間目。三年D組で理科の授業があった。
「あれ? おい皆、田中マナミ知らないか?」
そう。教卓の真ん前に座っているはずの田中がいないのだ。
「「「そんな奴のいる場所なんて、知りませーん」」」
皆からそう返事が返ってきた後、学年主任の教師が来た。
「相沢先生! 田中マナミは『屋上』にいます!」
立ち入り禁止のはずの屋上。そんな所で田中は何をしようとしているのか——。
唯一思い浮かんだのは、最悪の可能性だった。そして、それは『正解』だった。
「田中マナミは屋上から飛び降りるつもりです! 相沢先生、授業は私が変わりますから、行って下さい!」
気が付くと、俺の足は勝手に屋上へと向かっていた。着いたと同時に、扉を思いっ切り開ける。
バアン!!
「あ、来たんですか。想像以上に早かったですね」
田中はすでに屋上の柵の向こう側にいた。飛び降りるのを手首を掴むことで阻止する。
「……何のつもりですか?」
「お前、何が不満だ? 言ってみろ」
学校での人間関係、家族関係、友人関係、いじめ……。
とにかく原因として予想できることを思い浮かべる。
だが。
「不満なことなんて、何もありません」
返ってきたのは、予想もしていなかった答えだった。
「私、『生きてる』って実感したことがないんです。それを実感したくて、テストでいい点取ったり、わざと悪口を言われるようにしたり、色々しました」
つまり、悪口は自分でまいた種だったということか。
「でも、どれをやっても実感できませんでした。それで、そのうち『死にそうな状態になって、それでも生きていれば実感できるかも』っていう考えに辿り着きました」
それで自殺しようとしたって訳か。相当狂ってるな、こいつ。
「でも、ここまでしても結局は実感できなかった」
柵から手を離し、後ろに少し体重をかけ、危なくなったら起き上がる。田中はそれを俺の目の前でやってのけた。
「……とにかく、もう自殺しようとするなよ」
「先生が今から出す条件を呑んでくれれば、の話ですけどね」
何かを企んでいるかのような顔で俺の顔を覗き込んでくる。
条件は何か、と促せば、やけに生き生きした表情で柵を乗り越え、俺の目の前に人差し指を突き出す。
「私が卒業するまでに、私に『生きてる』って実感させて下さい」
そして、俺と田中は奇妙な関係になった。
続く
杳さん、コメント&応援ありがとうございます。これからも応援して下さい^^
- Re: 新米教師と死にたがりの女生徒。 ( No.3 )
- 日時: 2009/09/21 18:56
- 名前: 転がるえんぴつ (ID: hKAKjiZ3)
それから二、三週間経った頃。
「あんたさぁ、正直言って目障りなんだけどっ!」
D組の教室からそんな声が聞こえてきた。
慌てて近くまで行き、とりあえず中を窺うことにする。
「ちょっと、聞いてるの!?」
想像していた通り、田中の周りを大勢の女子が囲っていた。そして、無反応な田中に好き放題に悪口を言う。
「あんたって勉強しか友達いなさそうだよね〜」
「うっわ、すごく可哀相! 一生人間の友達いないんだ?」
「頭や顔が良くても、こんなんじゃ誰も寄りつかないよねぇ〜」
反論しないのをいいことに、悪口が次から次へと出てくる。だが、田中は全く傷ついているようには見えなかった。
——そろそろ助けるか……。
軽く溜息を吐き、俺は扉を思いっ切り開けた。
「田中、ちょっとこっち来い!!」
半ば怒鳴るように呼ぶと、周りの女子は散り、田中は俺の方に来た。
「何ですか?」
「いいからこっち来い、話がある!」
俺達が後にした教室から、女子の声が微かに聞こえた。
「相沢、かなり怒ってたね」
「あいつが何かしでかしたんじゃない? 前にあいつ、屋上から飛び降りようとしてたし、またなんかそれっぽいことしたのかもよ」
俺はそんな目的で田中を呼んだわけではない。だが、変に誤解されるよりはマシだ。
人目に付かない所まで辿り着くと、やっと息を吐くことが出来た。
「で、先生。話って何ですか?」
ああ、これが残ってたか。
「まさか、『生きてる』って実感できる方法を見つけたんですか!?」
「違う! あとこんな時だけ表情変えるな、割といい笑顔じゃねーか畜生!」
あとキラキラしたモン背負うな、眩しいんだよ。
「え、違うんですか?」
「違うって分かった途端に無表情に戻るな。落差激しすぎるわ」
いつもこんなんだったら悪口とかも言われないんだろうな。『だから何?』とか言われそうだから言わないが。
「……本題に戻るぞ。お前、本当にこんなん見ても何も感じないのか?」
田中に見せたのは三枚の写真。
一枚目は田中の机いっぱいに油性ペンで書かれた悪口の写真。
二枚目は田中の上履きがゴミ箱に捨てられている写真。
三枚目はビリビリに破かれた田中のジャージの写真。
どれもいじめられてる奴にしてみればトラウマ物だが……。
「本っ当に何も感じません」
表情一つ変えずに否定できるなら、今のところは大丈夫だろう、と思うことにした。
「というか先生、そんなの見せて何になるんですか? それが給料に化けたりとかするんですか? そんなことより早く『生きてる』って実感させて下さい、いつまで待たせるつもりですか?」
「悪かったから説教止めろ、何か悲しくなってくる」
……本当に大丈夫そうだ。
続く
- Re: 新米教師と死にたがりの女生徒。 ( No.4 )
- 日時: 2009/09/22 16:27
- 名前: 転がるえんぴつ (ID: hKAKjiZ3)
その日の放課後、午後八時。
「相沢先生、お疲れ様です」
「お先に失礼します」
俺は帰宅することにした。
「それにしても、田中マナミのことを全部押し付けてすみませんね」
「いいですよ。これも経験の内だと思っていますから」
他の教師の間では、田中マナミという存在は面倒事と同列でしかない。
職員室を出てしばらく経っても、胸の中のモヤモヤは晴れなかった。
「相沢先生、今帰るところですか? 丁度よかった、一緒に帰りません?」
「田中……」
こんな遅くまで学校で何をしていた? 田中は『帰宅部』のはずなのに。
そんな疑問が頭の中をぐるぐる回る。だが、暗闇の中を一人で歩かせるわけにはいかなかった。
「分かった。一緒に帰ろう」
「先生、夏休みに二人で京都に行きませんか?」
「……来月行くだろーが」
帰り道の途中、いきなり田中から誘われた。しかも場所が来月修学旅行で行く京都だった。
「いいじゃないですか、私暇ですし」
「おい待て、お前受験生だろが」
危うく頷きそうになった。何が暇だ、中三だろ。
「じゃっ、行くって事で!」
「おい待て! 勝手に決めんじゃねぇ!!」
隣にいた田中に叫ぶ。本当こういう時だけ生き生きしやがって。
「私に『生きてる』って事を実感させるための旅行だと思えばいいんですよ」
「……はぁ……、分かったよ……」
渋々了解し、田中の方を見る。
田中は、いなかった。
「なっ!? いねえ!!」
家の近くまで来てたんなら言えばいいのに。……ったく。
俺は溜息を吐きながら家に向かった。
続く
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