コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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僕のツレはヤんでいる...?(学園ラブコメディー)
日時: 2012/07/11 00:30
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/

・あらすじ

とある事情で入院中だった「ミカエル」は仲間たちに退院祝いの飲み会を設けられてそれに参加するが、途中で気絶してしまい宴は即、幕を閉じる。——翌日、馴染みの面々との再会や新たな出会いを果たした俺だったが、何て言うかホント……大丈夫か? コイツら……。

・なお、当作品は小説家になろうさまの方でも投稿させていただいていますご了承ください。(只今、諸事情により更新停止中。涼しくなった頃に再開予定)

※お気軽にご感想などをよろしくお願いしますm(。-_-。)m

・ヒーロー凱旋篇

 プロローグ 〜ヒーロー凱旋 前 篇〜 其の一 >>01
 プロローグ 〜ヒーロー凱旋 前 篇〜 其の二 >>02
 第一話 〜久しぶりの登校〜 其の一 >>03 >>04
 第一話 〜久しぶりの登校〜 其の二 >>05 >>06
 第一話 〜久しぶりの登校〜 其の三 >>07 >>08 >>09 >>10
 第一話 〜久しぶりの登校〜 其の四 >>11 >>12
 第一話 〜久しぶりの登校〜 其の五 >>13 >>14
 第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の一 >>15 >>16
 第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の二 >>17 >>18
 第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の三 >>19
 第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の四 >>20 >>21
 第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の五 >>22

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(1)第一話 〜久しぶりの登校〜 其の五 ( No.13 )
日時: 2012/06/15 21:33
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/7/

 陽が程良く傾き、そろそろ夕暮れ時の午後……。
 電車に揺られながら俺は移ろいで行く景色をボーっと眺めていた。

 ——あの後。

 生徒会室から教室に戻ると案の定、授業中で少し気まずい中、途中参加した俺だったが……。
 どうしてか、クラスメイトたちや授業を行っていた教師から奇異な眼差しで見つめられてしまった。
 確かに授業を遅刻してしまい、少し授業妨害をしてしまった事での態度なら分かる。
 だけど、一人だけ他の人たちとは違う、視線を投げかけていた者がいた。

 そう、俺にお使いを頼んだ摺木麻耶だ。

 彼女だけは俺の事を侮蔑したような冷たい視線で見つめていたのだ。
 「何故、そのような視線で見つめられなきゃならんのか」と、首を傾げながら、自席に向かって授業に臨んだのだが……。
 誰かに監視されているような気配を感じて集中出来ず。
 気疲れだけが身体に蓄積されたのだった。

 ——はぁ〜。

 久しぶりの登校がこんなにも疲れるとは……。
 他の乗客たちの存在を忘れて大きく嘆息を吐いた。
 この電車に乗るまでも、凄い葛藤が繰り広げられていた訳で……。

 ——下校時。

 俺の教室にずんぐりむっくりな奴が……。

 ——我が妹、新堂杏が襲来して来たのだ。

 ただでさえ、目立ってしまっている俺に杏が周りの目も気にする事無く飛び付き。
 それを目の当たりにしていた数人のクラスメイトたちがこぞって、ひそひそ話をし始めてしまい。
 俺が必死になって身体に纏わり付く杏の事を引き剥がそうとする度に、

 「何、アレ。そういうプレイ?」

 など、と言った勘違いワードが教室内に飛び交って。
 気まずくなった俺は身体に纏わり付く杏を従えたまま急いで教室を出る事になった。

 しかし、杏をこのままにする訳にも行かず。
 年頃の女の子である杏が入れない聖域たる男子トイレに入ろうとした所で杏は俺の目論見通りに俺から身を引き。
 それを見越した上で男子トイレに駆け込んだ俺は男子トイレの窓からこっそり外に出て、未だに男子トイレの前で俺の帰還を待ち続けているであろう杏を放置し、現在に至っていた……。

 少々、心苦しいが止むを得ないだろう。

 うん……。

 ボーっと、外の景色を見つめながら思いにふけっていると目的地である駅名がアナウンスで流れ、俺は徐に扉近くに足を運んだ。

 【プシュー】

 と、言う音と共に開かれた扉から電車を降りた俺は人でひしめきあう駅構内の隙間を縫うように進む。
 そして、ようやく改札口に辿り着き。
 俺はICカードを用いて改札口を難なくパスし、駅を後にした……。


 駅を出て早々に待ち構えるのは駅前ロータリーを行き交う、バスやタクシー。
 それに乗り込もうとする客やショッピングを楽しむ老若男女の群れ。
 市内きっての繁華街であり、中心部に俺は足を踏み入れていた。

 ——相変わらず、ここは人が多いなぁ〜。

 人々でごった返す道を進み。
 少し怪しげな看板が立ち並ぶ不気味な雰囲気を漂わす通りを歩いていると、前方に看板を持ったブサイク(目が取れかかった)な猫の着ぐるみ姿の人物が客寄せをしていた。

 繁華街では珍しくもない「キャッチ」と呼ばれる人々なのだが、強引なキャッチが出没して来たため……。
 最近、規制が厳しくなっている。
 けれど、こうしてキャッチの姿が健在なのはやはり欲望渦巻くこの地域特有なのかも知れない。

 「——やぁやぁ〜。そこの色男」

 客寄せをしていた先ほどの着ぐるみに俺は目を付けられてしまい、話しかけられてしまった……。

 「——いや、俺は未成年なんで……」

 俺は軽く会釈をして素通りする事にした。
 こういう場合は絶対に関わりをもっちゃいかん。
 言葉通りに勧められて、店に行くものなら法外な請求をされかねないからである。

 「そう言わずにさ、カワイ子ちゃんが待ってるよ〜」

 しつこく話しかけて来た着ぐるみの人物に嫌悪感を抱いた俺は、手に持っていた看板に視線を向け、どこの回し者なのか確認する事にした。

 『可愛いウエイトレスたちとの甘〜い一時が売り! Broken Angel Wings(翼が折れた天使)に君も足を運んでみないかい?』と、その看板に描かれており。
 それに気付いた俺は額を押えて大きく嘆息を吐く。

 「……いつから、ガールズバーになったんだよ。桜乃(さくの)」
 「気付くのが、遅いぞ。お客人」

 着ぐるみ姿の桜乃に看板で軽く頭を叩かれてしまった俺だが、ある事に気付く。

 「……おい、こんな事をしていたらポリにパクられるぞ」
 「それなら大丈夫だよ」
 「?」
 「そこの駐在所の人たちに『美嘉ちゃんなら何をやっても法(オレ)が許す』って、笑顔で言われちゃったらやるしかないでしょ?」

 ここから数メートル先にある駐在所を指さして桜乃は淡々とした口調で話し。
 彼女に見つめられている事に気付いたのか、駐在所の前で立っていた制服姿の見るからにその筋の人と勘違いされそうな強面の男性が、嬉々とした表情を浮かべながらこちらに手を振っていた。

 「何をやっとるんだ、馬鹿共は……」

 たった一人の少女の誘惑に負けた駐在所の諸君に呆れ果ててしまったが、相変わらずの光景で慣れてしまっていた。

 ここにいる桜乃美嘉(さくのみか)の父親は交流関係が広くて、駐在所に勤める人たちとも知り合いらしく、桜乃の父親の事を「兄貴」と呼ぶほどに敬愛している。
 その敬愛している兄貴の娘たる桜乃の事を自分たちの娘のように可愛がり、職務を放棄してまで彼女の事を特別扱いしていた。

 「しっかり仕事をしろってんだ」

 と、嘆いた事もあるが、この地域の治安維持に貢献しており、それなりの成果をあげちゃっているから言うに言いきれない悶々とした状態が続いている……。

 「それはそうと——店に来るんでしょ?」
 「ああ、行くよ。でも、今——」
 「そう、ね……。——うん、分かったよ。これ切り上げて私も一緒に行くよ」
 「……すまん」

 俺たちは店に向かう前にひとまず、普段世話になっている駐在所の方々に挨拶(いつもの事だが、俺だけ手荒い歓迎を受けた)をしてから、路地裏に入ってしばらく進んだ所にある煌びやかに装飾された建物の前に「Broken Angel Wings(翼が折れた天使)」と描かれた看板が置かれた店に足を運んだ。

(2)第一話 〜久しぶりの登校〜 其の五 ( No.14 )
日時: 2012/06/15 21:46
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/7/

 店内にはバーカウンターとテーブル席。
 ダーツにビリヤードと演壇があり、いつも通りの光景が広がっ——てはいなかった。
 カウンター席の付近に手厚い歓迎を受けたのか、数名の屍たちが横たわっていた……。

 「いらっしゃい。Heaven’s Gate(天国の門)へ。——って、お前らか……」

 バーカウンターでシェイカーを振っていた、チョビ髭のダンディーな中年男性のマスターこと、桜乃父に迎えられた俺たちは店内の惨状に頭を抱える。

 「……お父さん、店名間違えてるよ」
 「ああ、すまんすまん。だが、うっかり者のお父さんも結構イけるだろぉ?」
 「もう、お父さんったら……」

 『あはは!』

 「何、親子漫才を決め込んでいる。それと桜乃、着眼点はそこじゃないだろ……」

 アホ親子のやりとりに苦言を呈しつつ。
 俺は床で失神していた客人たちを一人一人、テーブル席のソファーに運んで寝かしつけた。

 ——ったく、何がHeaven’s Gate(天国の門)だよ。
 Hell’s Gate(地獄の門)がお似合いだよ、この店は……。

 心の中で愚痴を溢しながら俺はカウンター席に腰掛ける。

 「で、慎。何か飲むか?」
 「いや、桜乃に頼むから……」
 「そう遠慮するな。特別にマスター特製日替わりドリンクをおごってやる」
 「ホント、結構です……」
 「全く、人のご行為をムゲに扱うとは……。もしや、アノ日か?」
 「違います。セクハラで訴えますよ。俺はまだ、死にとうないだけ」
 「あはは! 言うようになったぁ〜慎。お義父さんは嬉しいぞ〜。——って、誰がお義父さんだ! 娘は誰にもやらんぞぉ!」
 「……はぁ〜」

 俺はカウンターに両肘を付け、大きく嘆息を吐いた……。
 それは勝手に盛り上がり、勝手に怒り始めたこの残念なマスターに対してだ。
 親馬鹿にも程がある。

 それと俺がどうしてここまでマスターの行為を頑なに拒むかと言うと、マスターは頭もそうだが舌も馬鹿だった。
 それなのにも関わらず、マスターは新たな極致への飽くなき追求心を胸に様々な材料を混ぜたカクテル作りに日々勤しんでいる。

 そのため、新作が出来る度に散って逝く人々が大勢いる。
 その一人が俺であり、友人の菅谷涼や先ほど床で息絶えていた客人たちだ。

 「……全く、そういう事は基礎が出来てからだろうに」

 と、日々思う娘と娘の友人代表である俺……。

 でも、そんな店でもここまでやって来れているのは、全て娘の桜乃美嘉のおかげ。
 彼女見たさに足を運ぶオヤジたちや桜乃が作った料理やカクテルなど目当てに足を運ぶ客人も多数いる。
 俺もその一人だが……。
 もし、桜乃が居ない時に間違って店に足を運んでしまったら最後。

 ——即、あの世行き決定ある。

 「どうしたの? そんなに大きな声を出して……」

 「Staff Only」と、書かれた扉から着替えを終えて出て来た桜乃に自ずとマスターの瞳が輝く。

 「……お前こそ、どうしたんだよ」

 部屋から出て来た桜乃の姿に思わず俺は絶句した。

 「どう見ても、メイドさんでしょ? でも、ただのメイドさんじゃないよ〜。ニャンニャンメイドだにゃん♡」

 そう言いながら桜乃は猫なで声で猫の仕草をとった。
 そんな彼女は現在、シンプルなデザインのメイド服を着用しており。
 その上からでもはっきりと分かる桜乃の程良い肉付きの体躯が服とぴったりと合っていて、黒髪ポニーテールの頭の上にはメイドキャップじゃなく猫耳が付いていた。
 そして、腰の辺りから黒い尻尾が生えており、ベビーフェイスである彼女が言うようにニャンニャンメイドと化していた。

 「そこの美嘉にゃんメイドよ。写真一枚いいですかな?」

 どこから取り出したか分かりかねるが、マスターがデジカメ片手にニャンニャンメイドと化した娘に撮影をせがむ。

 「一枚百円だにゃ。ご主人様♪」
 「はぁ〜、親子揃って何やってるんだ……」

 このやり取りに俺は堪らず頭を抱えてしまう。

 ——桜乃美嘉。

 中学の頃に知り合い、菅谷涼と同じ高校に通っている同級生。
 幼い頃からマスターの手伝いをしていて、マスターの提案で始めた客寄せのためにしたコスプレ……。
 それがいつの間にか癖になってしまい、現在は自ら進んで様々なコスプレをしている。
 先ほどのブサイクな猫の着ぐるみもそうだ。
 彼女は純粋にコスプレを楽しんでいる。

 そのせいか、コスプレ=私服と変な思考回路になってしまっているため、桜乃と外を出歩くとたちまち奇異な視線にさらされてしまう事、間違いなしである。
 そして、桜乃からしたら学校の制服や体操着も貴重なコスプレの一つらしいので、小中学生の頃に使用していた……。

 ——ちょっとばかし、曰く付きの物まで今でも大事に保管している。

 ——それと現在。

 彼女の髪型は黒髪ポニーテールだが……。
 アレは地毛の上に黒髪のウイッグを付けて、その髪をポニーテールにしているにすぎない。彼女はその日の気分、それとコスプレによって種類豊富に持ち合わせているウイッグを駆使して様々な髪型にするオシャレさんだ。

 ちなみに桜乃の普段の髪型は茶髪のボブカットで、この髪型も短い方がウイッグを付けやすいからだそうだ。
 けど、ただただ短い髪型は彼女のオシャレ道に反するらしくて、最終的にボブカットに落ち着いたようだ。

 「なぁ〜桜乃。今日のオススメは?」

 アホ親子による撮影会がちょうど終わった頃を見計らって、俺は正面にある壁掛けメニュー表を眺めながらそう尋ねた。

 「う〜ん。ニャンニャンオムライスかにゃ?」
 「……オムライスね。じゃ〜それにサラダとドリンクのセット。ドリンクはいつものヤツで」
 「了解だにゃん」

 キャラに入りきった桜乃は俺の注文を承った後にキッチンの方へと向かった。

 「そういえば、慎。——今日、試合でもあったか?」
 「はぁ? 試合って……。——俺、帰宅部だけど……」
 「違う違う。そんなチンケな試合ではない。——こっちだ、こっち」

 と、マスターは徐に中指と人差し指の間に親指を挟んでこちらに提示する。
 ちょうど冷水を口に含んでいた所に、その手を見せられてしまい、俺は堪らず噴いてしまう。

 「な、何言ってんだよ。エロオヤジ!」
 「エロオヤジは認める! だが、一戦交えたばかりの生臭い小僧にだけは言われとうないわ!」
 「ったく……。それなら証拠はあるのかよ、証拠はよ。——俺がマスターの言う、一戦を交えたって言う証拠」
 「ふはは! 慎よ。貴様が身に付けているマスクを見てみろ。しっかりとした証拠が残されている!」

 勝ち誇ったような態度で言ったマスターの言葉通りに俺はマスクを外して、見てみた。
 すると、マスクに薄紅色の線が入っていた。

 「……何だ、コレ?」
 「見て分からんのか。ふん、まだまだガキだな……。それはどう見ても口紅だろう」
 「口紅? 何で、また俺のマスクに——あっ」
 「どうやら思い当たる節があるようだな」

 マスターの言う通り、俺には心当たりがあった。
 生徒会室での一件が真っ先に頭に浮かんだ俺は会長の事を不可抗力とは言え、ソファーに押し倒してしまった。
 そして、あの時に会長に付けられてしまったんだ、と踏んだ。

 だから、クラスメイトたちや教師ならびに摺木が俺に対して蔑視にも似た視線を向けていたんだ。
 俺のマスクに付着していた薄紅色の線を口紅と判断し。
 マスターが言う「一戦」を交えたのだ、と勘違いされたのだろう。

 ——ん?
 ちょっと待て……。

 俺はマスクに口紅が付いている事を知らずに、ここまで何食わぬ顔をして人通りの多い所を歩いていたのか……。
 それってつまり……。

 うっ……。

 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 思い出して恥ずかしくなった俺は頭を抱えながら店を飛び出してしまった……。




 「お待たせしました〜ご主人、様……? ——あれ? お父さん、慎くんは?」
 「ふぅ〜。慎なら、一足先に大人の階段を上がったよ」
 「?」

 【わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!】

 「な、何? 今の声……」

 ——しばらくの間、謎の叫び声がこの地域一帯に響き渡った……。

(1)第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の一 ( No.15 )
日時: 2012/06/16 21:58
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/8/

 「慎く〜ん。おいしい?」
 「……おいしゅうございます。美嘉にゃんメイドさん」

 カウンターに頬杖を付きながら話しかけて来た美嘉ニャンメイドさんにその旨を伝えつつ、俺は「にゃんにゃん♡」とケチャップで描かれていたオムライスを淡々と食べる。
 店先でおがっていた事を誰かに通報されたのか、駐在所の愉快な仲間たちに連行された俺は口の中に拳銃を突きつけられながら、

 「次、叫んだらぶっ放すぞ、兄ちゃ〜ん♪」

 と、脅されて、涙ながらも無事店に帰還したのだった……。

 ——うめぇ〜。オムライスがこんなにも美味い食べ物だったとは……。

 俺は涙を流しながらオムライスを必死に口の中に掻き込む。

 「ねぇ〜。涙ぐむ程に不味かったのなら、そこまでして食べなくても……」
 「違うんだ、桜乃……。オムライスが美味くて美味くて……」
 「だったら、何で涙ぐんでいるの?」
 「——生へのありがたみのため、かな」
 「……意味が分からないよ」

 頬杖を付いたまま桜乃は大きな嘆息を吐く。
 そして、そのまま業務に戻って行った。

 業務と言っても未だに気絶したままの客人たちの介抱だ。
 俺がこの店に来て以降、誰も客は入っていない。
 だから、暇を持て余したマスターはいつも通りに新作のカクテル作りに勤しんでいる。

 ——あっ、そういえば。昨夜、俺の身に何が起こったのか、まだ聞いてなかったな……。
 今日、この店に来たのはそれが目的だった。
 もちろん、夕食にありつくと言う大義名分も忘れずに、な。

 「なぁ〜、マスター」
 「何だ? 生臭坊主」
 「……昨日、俺の身に何があったんだ?」
 「ふむ、それはだ——」

 「たっ、助けてっ! マスター! 美嘉ちゃん!」

 命からがらここに辿り着いたと言わんばかりに必死の形相で突然、店内に入って来た見慣れた制服姿のチャラ男がマスターの話を遮りやがった。

 チャラ男はこちらに来ないで息を上げながら扉を決死に押え込む。
 何故、彼が扉を押えているのかはこの時分からなかったが、しばらくして扉の外から激しいアプローチが店内に轟く。

 【ドンドンドン!】

 【す〜が〜や〜く〜ん。ちょ〜っと、ツラ貸せや!】

 と、激しいノックの嵐に交じって、聞き覚えのあるドスの利いた低い男性の声が聞こえた。

 「ちょっ、ちょっと。皆、見てないで僕を助けてよ!」

 状況が理解出来ずに静観していた俺たちに涼は助けを求めて来たが、俺たちはそのヘルプの声が聞こえなかった事にして、各々のやるべき事に勤しんだ。

 ——ああ、このオムライスはホント、美味いぜ……。

 「ちょいちょいちょいっ! 無視しないでよ!」
 「お客人、うるさいぞ。営業妨害だ」
 「営業妨害も何もここには無銭飲食者しかいないじゃないか!」
 「失礼な奴だなぁ〜。俺は無銭飲食者ではない。タダ飯食らいだ!」
 「それを無銭飲食者って言うんでしょうよ! 美嘉ちゃ〜ん、助けて〜。君だけが頼りだよ〜」
 「えっ! 私!?」
 「そう、美嘉ちゃんはこの世界に舞い降りて来たたった一羽の天使でしょ?」
 「天使じゃなくて、ただの一般市民なんだけどな……。——うん、分かった。店先で騒がれたらお客さんが来なくなっちゃうからね」

 店の事を考えて渋々ながら涼の助太刀を了承した桜乃は激しいアプローチを繰り広げる扉の外にいる人物と相対せんとゆっくりとした足取りで扉に近づいて行く。
 涼とアイコンタクトを交わした桜乃は涼を扉から出来るだけ遠ざけてから、外の猛獣を店に招き入れた。

 「菅谷ぁ!」

 怒号を上げながら入って来た猛獣こと駐在所勤務の強面男性は、目の前に桜乃がいる事に気付き、先ほどまでの威勢はどこへやら一瞬にしてフリーズする。

 「や、やぁ〜。美嘉ちゃん、今日も可愛いねぇ〜」

 片言ながらも桜乃にだけ愛想良く振る舞う強面男性の額からは物凄い量の汗が滲み出ていた。

 「——お巡りさん」
 「は、はい! 何でありましょうか!」
 「めっ! だよ」
 「了解しました!」

 桜乃のお叱りの言葉(?)に強面男性は綺麗な敬礼を決め込んでから、そそくさと店を出て行き、菅谷涼は事無きを得たとさ……。

 「さっすが、美嘉ちゃんだよ〜」

 「ふぅ〜」と安堵の表情を浮かべながら涼は桜乃の功績を褒め称え、俺の隣の席にゆっくりと腰掛けた。

 「——で、何で市民を守る立場であるポリ公に追いかけ回されてたんだ?」

 俺は少々呆れながら事の経緯を尋ねる。

 「聞いてよ。それがさぁ〜、ここに来る時に可愛いおんにゃにょ子がいたもんだから、僕は欲望に従ってその子に見惚れてたんだ。すると【パーン】って乾いた音が鳴ったもんだから、何事かと思って振り向いたら駐在所の愉快な仲間たちの一人がいて、不気味な笑みを浮かべながら『次は当てる』って呟いて、目の前で実弾を込め始めたもんだから急いで走って来たって訳さ。——ホント、そこら辺のホラー映画よりも怖かったよ……」
 「何て言うか……。お前が悪いな」
 「何でさ!」
 「何となく、な……」
 「何となくで殺されてたまるもんか! 僕たちのやり取りで驚いた通行人のお爺ちゃんの入れ歯が犠牲になったんだよ!」
 「それは、まぁ〜アレだよな。心臓麻痺にならなくて良かった……よな」
 「全くだよ……って、ちが〜う! 僕の心配してよ!」

 「涼くん。偉い偉い、良く頑張ったね」

 何を思ってか突然、桜乃が微笑みながら涼の頭を撫でて、慰め始めた。
 恐らく、涼があまりにもうるさいから遠まわしに「黙れ」と言っているのだろう。

 「……グスン。美嘉ちゃんだけだ——よ?」

 どさくさに紛れて涼は自分の事を心配してくれた桜乃の胸に飛び込もうとした所をマスターがお盆で壁を作り、それを阻止。

 「あれ? 美嘉ちゃんって案外胸板が厚いんだね〜。もう少し、やらかいイメージだったんだけど……義乳なの?」

 和やかな表情を浮かべながら涼はお盆に頬擦りをして、その感触を堪能していた。
 傍から見ればおかしな光景である事には間違いないが、ここはもう少しだけこの馬鹿げた妄言に付き合う事に。

 「え? そうなのか?」

 調子を合わせた言葉を述べつつ、俺は桜乃にアイコンタクトを送る。
 桜乃は少し不愉快そうな表情を浮かべていたが、俺と笑いに理解あるマスターの必死の説得に応じ、渋々ながら彼女は頷いてくれた。

 「——う、うん。皆には黙ってたけど、私……モリぽよ少女なの」

 胸を腕で包み隠し、恥じらいながら述べた桜乃の迫真の演技に俺とマスターは親指を立てて褒め称える。

 「モリぽよ少女って、また斬新なお言葉を……。だけど、こんな見せかけだけの冷たい胸より温かみのある慎ましい胸の方が僕は好みだ——よ?」

 お盆に頬擦りをしながら格好良い(?)セリフを述べた涼は決め顔をしようと顔を上げると、そこでようやく違和感に気付いてくれた。

 「——って、これ、盆っ!!」

 怒りを露わにしながらマスターから強奪したお盆を涼はその腹いせとばかりに床に向けて力の限りに叩きつけ、お盆を粉砕してしまう。

 「あ〜あ、これ弁償だな〜」
 「お客さ〜ん。困りますな〜」
 「もう、慎くんとお父さんが私に変な事をさせるから……」
 「皆して僕を騙すなんて、酷い! 僕の純情を返せ!」

 涙ぐみながら悔しそうにカウンターに拳を叩きつけた涼に俺は「ポン」と優しく肩に手を置いて、そっとなだめる。

 「酒場で良くある光景だよなぁ〜」

 と、心に思いながら涼が立ち直るまで——って、元を辿れば全て俺たちのせいだが、そんな事はとうの昔に忘れて元気付けてやる事にした……。

(2)第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の一 ( No.16 )
日時: 2012/06/16 22:03
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/8/

 ——数十分後。

 「美嘉ちゃ〜ん。美嘉ちゃんの愛情たっぷりのドリンク一つよろしく〜」
 「はいはい」

 元気を取り戻した涼は桜乃にドリンクを注文し、徐に携帯を取り出してイジり始めた。

 俺が涼の事を元気づけている間に気絶していた客人たちが目を覚まし、マスターに酷い仕打ちを受けた彼らはビタ一文も払わずに出て行くのかなと思われた。
 しかし、美嘉にゃんメイドを見た瞬間に彼らは表情を緩ませて丁寧に手渡しでお金を支払って出て行ってしまわれたのだ……。

 桜乃は握らされたお札を見て客人たちを追ったが、もうどこにも彼らの姿はなく。
 心苦しみながらも受け取ったお札を収益の足しにしたのだった……。

 「ところで、少年。いつになったら飲み会をセッティングしてくれるんだ? こちらは準備万端だぞ」

 煙草を吸いながらマスターは密やかに涼と約束していた飲み会こと合コンの段取りについて尋ねる。

 「お前ら、またそんな事を画策していたのか」
 「そんな事とは何だ! 我らは純粋に女性とお近づきになりたいだけだ!」
 「そうだ! そうだ! マスターの言う通りだ! 僕たちはただただ可愛いおんにゃにょ子たちと談笑したいだけ!」
 「だったら、何でそんなに必死になる?」

 俺の言及に馬鹿共はこぞって表情を強張らせる。
 どうやら図星のようだ。下心だけが先行し、気持ちの高ぶりを抑えられずボロを出すとは絵に描いたような失敗例だな。

 「アレだよ。アレ……ねっ? マスター」
 「おう。アレだよ。——美嘉の新しい母親をだな……」

 「私のお母さんは一人で十分だよ〜」

 いつもの事で慣れた様子で淡々とした対応を見せた桜乃は注文されたドリンクを涼の前にそっと置く。

 「……全く、二人して好きだよね〜。そう言う事」

 俺の隣の席に座った桜乃は頬杖を付きながら、少し呆れた様子で口走った。

 「女の美嘉には分からんさ。大人の男の遊びと言うモノを……」
 「そうですとも。マスターの言う通り。美嘉ちゃんにはまだ早いお遊びだから理解に苦しむんでしょうよ」
 「……何だか、馬鹿にされている気がするわ」
 「桜乃、そんな馬鹿共の言う事をまともに聞くもんじゃないぞ〜」
 「そこの無愛想少年、だまらっしゃい!」

 ノリとは言え、涼(バカ)に軽く頭を叩かれて少し大人げなく俺は憤りを感じてしまう。

 「まぁまぁ、菅谷氏。一旦落ち着きたまえ……」
 「了解しやした、桜乃パパ」

 敬礼をしながらその旨を伝えた涼は再び携帯をイジり始める。
 どうせ、どこぞの女に定期連絡でもしているのだろう……。

 「ねぇ〜。マスター、今日は大丈夫?」

 涼は携帯をイジりながらマスターの事を見向きもしないで徐に呟く。

 「む? もしや……」
 「そう、ちょうどおんにゃにょ子たちの手配が出来そうだよ〜」
 「ふむ、今宵は……」
 「決戦だぬ……」

 唐突に合コンの段取りが決まり、気合が入る二人を余所に俺と桜乃は深い嘆息を吐いて冷やかな態度を取る。

 「さて、そろそろ俺はお暇しようかな」
 「え〜、慎くん帰っちゃうの?」
 「いや、マスターと涼はこれから合コンだろ? だから、邪魔者はさっさと退散せんとさ」
 「残される私の気持ちを考えてよ〜」

 「そこのお二人さん。そう悲観せずに聞いてちょうだいよ」

 邪魔者たる俺たちの会話に割って入って来た涼は人の気も知らずに「ニヤニヤ」と気色の悪い笑みを浮かべながら自分の話を聞くように促して来る。
 あまり芳しくない話だろうと思いながらも俺たちは涼の話に耳を貸す事にした。

 「お二人さんも合コンに参加しないかい?」

 『……は?』

 俺たちの不安が的中したようだ。
 涼が発した言葉に俺たちは思わず絶句してしまう。
 合コンに参加してみろだと……?

 「ほら、お二人さんは合コンのゴの字も分からんひよっ子ちゃんたちでしょ? だからこれを機会に一度経験してみたら? それに二対二の合コンじゃ〜盛り上がりに欠けるからさ。人数合わせと思って……」
 「つまり、何か……俺たちはお前らのバーター要員と言う事か?」
 「まぁ〜そういう事」

 回りくどい事を言わずストレートに返答された言葉に少し引っ掛かる物があったが、友人の誘いをムゲに出来ず、合コンとやらを経験してみる事にした。
 もちろん、不埒な飲み会にならないよう俺と桜乃は目を光らせるがな。

 「ところで、少年。先方の情報とかはないのかね」
 「もち、お嬢さん方は現役の女子——高生っ! 拍手!」

 馬鹿共は盛大な拍手をして盛り上がっているが、正直不安で胸が一杯だった。
 一体、どんな方々がやって来るのだろうか……。

 ——って、ちょっと待て。現役の女子高生だと?

 それって、犯罪じゃないのか?

 「ねぇ〜。盛り上がっている所、水を差すようだけど……本当に健全な飲み会なの?」
 「もちろんだとも。テイクアウトなんて展開はナッシング〜」
 「ていくあうと……?」
 「馬鹿者! 少年、少し自重しろ!」

 テンションが上がり過ぎて口が滑った涼に頭を冷やす意を込めてマスターが氷を投げて見事、彼の額にクリーンヒットする。
 必死過ぎる二人の態度を見ていると健全な飲み会にする気はなさそうだ……。

 ——はぁ〜、先が思いやられる……。

 すると、涼が手配した女性陣が到着したのか、入り口の方からかすかに声が聞こえて来た。

 「来たみたいだね〜」
 「そのようだな」

 先ほどまでテンションが高かった涼とマスターは女性陣が来たと知った途端に顔色を変えて緊張の面持ちで入り口の方に視線を向けると、

 「ここみたいだよ、光ちゃん」
 「は、離せと申しておる!」

 聞き覚えのある声と共に店内に入って来たのは——ボサ髪童顔のセーラー服少女と金髪眼帯の黒ドレス少女のちびっ子コンビだった……。

(1)第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の二 ( No.17 )
日時: 2012/06/22 21:43
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/9/

 テーブル席を囲っての三対三の対面式合コンが始まってしまった……。

 「じゃ〜最初に自己紹介から行こうか!」

 ——何でこうなった?

 「僕の名前は菅谷涼。職業——愛の伝道師(ラブマスター)で〜す!」

 ——どうしてこうなった?

 「おいおい、それ職業じゃないだろ! ——って、自己紹介がまだだったか……。私はこの店を仕切らせてもらっている、桜乃だ。気軽に桜乃パパと呼んでくれ」
 「それ、違うパパになっちゃうでしょ!」

 合コンの鉄板ネタなのか知らんが、一通り終えて手応えがあったらしく馬鹿二人は後ろ手に拳を握る。

 ——はぁ〜、憂鬱だ……。

 ちびっ子コンビこと新堂杏とイリヤ・シュガーライトが入店し、俺は逃げ出したくなった。しかし、知人がここに来たからには馬鹿共の毒牙から守らなければ、と言う想い一心でどうにか踏み止まる。

 けれど、どうしてここにやって来たかと二人に問うと、杏は可愛い妹をほったらかして俺(あに)がどこへ行ったのかを突き止めるべく、手当たり次第に連絡を取っていたらしく。最後の砦である涼に聞いた所、この店にいる事を知って来たようだ。

 そして、もう一人のちびっ子——イリヤはただただ杏に無理やり連れて来られたみたいで、ある意味被害者だった。

 しかし、日本文化に興味があるようで「ジャパニーズ合コン」と言う物を一度は経験してみたいと思っていたらしく。当初は杏に無理やり連れて来られて不機嫌だったが、今ではすっかり機嫌を取り直して妙にやる気を見せている次第である。

 「——ふむ、まず互いに小手調べと言った所か……」

 感慨深く頷きながらイリヤが真剣な面持ちでそう呟く。
 合コンを血生臭い戦闘と勘違いしていないか?
 まぁ〜ある意味、心理戦だとは思うけれど……。

 「ほらほら、そこの無愛想少年。自己紹介」

 ボーっと戦況を見届けていたら涼に指摘された俺は渋々ながら自己紹介する事にした。

 「えっと、俺の名前は——」

 「さぁ〜、続いてはお嬢さん方。自己紹介の方をよろぴこ!」

 俺が自己紹介している途中で先に進められてしまい、堪らず俺は涼の足を踏んづけてやった。が、涼は苦痛の表情を浮かべる事無く、笑顔を絶やさずにいる。

 「えっと、私は桜乃美嘉です。よろしくお願いします」

 「くぅ〜! 真面目っ子可愛いね〜!」
 「ふむ、さぞかし両親が美男美女なのだろう」
 「いや、感慨深そうに頷いているがアンタの娘だろ……」
 「そこの生臭坊主、だまらっしゃい!」

 「……はぁ〜」

 「ふむ、次は我じゃな。我が名はイリヤ・シュガーライト。今宵はビターな一時を楽しもうぞ」

 「くぅ〜! クールっ子カッケー!」
 「なるほど、大人の一時が御所望とな」
 「それ、セクハラ」
 「黙れ、小僧!」

 「……はぁ〜」

 「次は私だね。私の名前は新堂杏。杏ちゃんって呼んでね、お兄ちゃん♡ パパ♡」

 「くぅ〜! ロリっ子サイコー!」
 「杏ちゃん、後でおこづかいあげようね〜」
 「捕まるぞ、エロオヤジ」
 「これは未来への投資だ。だから、問題ない!」

 「……はぁ〜」

 一通り自己紹介が済んだ所でドリンクを手に取って乾杯をした。

 涼とマスターは女性陣を楽しませる事に徹し、それを冷やかな視線で俺と桜乃は見守る。だけど、杏とイリヤが楽しそうにしている姿を目の当たりにすると、これはこれでアリなのかも知れないと少し心が揺らいでしまう。

 ——だが、馬鹿共が間違いを犯さないように目を光らせる事は忘れない……。

 各々談笑をしている最中、桜乃が立ち上がってキッチンの方へと向かい。
 俺は何か手伝える事がないか、席を後にして追いかけた。

 「さ〜くの。何か手伝おうか?」
 「どうしたの? 突然……」

 俺の申し入れに驚いた桜乃は何か裏があるんじゃなかろうかと少し探りを入れるように俺の事をジロジロと見つめる。

 「いや、どうにもああいうノリにはついて行けんと言うか……」
 「ああ、確かに……。でも、同性の子と話せて私は楽しいかな」

 と、嬉しさを滲ませながら口ずさんだ桜乃は溜まっていた洗い物に着手し始めた。
 ふむ、手伝える事はなさそう、か……。

 「じゃ〜俺は行くけど、何か手伝える事があれば遠慮なく言ってくれよ」
 「了解。——でも、これとツケ代は別だからね」
 「……へいへい」

 全く、しっかりしとる……。
 痛い所を突かれてしまった俺は空返事で応答し、未だに盛り上がりを見せる戦場の地へ帰還する事にした。

 「どこへ行っていた〜。無愛想少年!」

 席に着くや否やテンションの上がった涼に絡まれてしまい。暑苦しく俺の肩に腕を回して来たが、それを丁寧に受け流した。
 そして、さり気なく涼の足を踏んづけてやったが、笑顔を崩す事はなかった。

 ——チッ。なかなか、やりよるわ……。

 俺は徐にテーブルに置いてあったペットポトルを手に取って、グラスに飲料水を注いで口に含ん——だ?


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