コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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僕のツレはヤんでいる...?(学園ラブコメディー)
日時: 2012/07/11 00:30
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/

・あらすじ

とある事情で入院中だった「ミカエル」は仲間たちに退院祝いの飲み会を設けられてそれに参加するが、途中で気絶してしまい宴は即、幕を閉じる。——翌日、馴染みの面々との再会や新たな出会いを果たした俺だったが、何て言うかホント……大丈夫か? コイツら……。

・なお、当作品は小説家になろうさまの方でも投稿させていただいていますご了承ください。(只今、諸事情により更新停止中。涼しくなった頃に再開予定)

※お気軽にご感想などをよろしくお願いしますm(。-_-。)m

・ヒーロー凱旋篇

 プロローグ 〜ヒーロー凱旋 前 篇〜 其の一 >>01
 プロローグ 〜ヒーロー凱旋 前 篇〜 其の二 >>02
 第一話 〜久しぶりの登校〜 其の一 >>03 >>04
 第一話 〜久しぶりの登校〜 其の二 >>05 >>06
 第一話 〜久しぶりの登校〜 其の三 >>07 >>08 >>09 >>10
 第一話 〜久しぶりの登校〜 其の四 >>11 >>12
 第一話 〜久しぶりの登校〜 其の五 >>13 >>14
 第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の一 >>15 >>16
 第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の二 >>17 >>18
 第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の三 >>19
 第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の四 >>20 >>21
 第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の五 >>22

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(1)第一話 〜久しぶりの登校〜 其の一 ( No.3 )
日時: 2012/06/11 15:00
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/3/

 身体がダルイ。
 いや、身体が重いと言った方が合っているのだろうか?
 寝返りを打とうにも身体が思うように動かない。

 ——金縛りに遭っている……?

 いやいや……そんな非科学的なモノは信じないぞ。
 それに「金縛り」って、要は脳が起きているにも関わらず、身体がまだ眠った状態の指すんだろ?
 でも、俺の場合、手だけはしっかりと動くからこれは金縛りじゃない。

 だったら、何が原因なんだろうか?
 目を開ければ、その原因が分かるのだろうか?

 ふむ、このまま眠り続ける訳にもいかない、か……。

 俺は原因を突き止めるべく、ゆっくりと閉じていた目を開ける。
 徐々に明らかになって行く、視界の中。
 馬乗りになってこちらを凝視しているセーラー服姿の人物が現れた。

 「にぃに〜、私を学校に連れてって」

 と、上目遣いで媚びるように開口一番にアホな発言をしたそいつは、ボサ髪童顔の八重歯が特徴的な小 悪魔少女で。
 俺は開けた瞳をゆっくり閉じて、もう一度寝る事にした。

 ——うん、疲れているんだな、きっと……。

 だから、この部屋に居やしない少女の姿が見えるんだ。

 ——ナンマイダブツナンマイダブツ……。

 これで少女の霊は報われた事だろう……。
 さて、もう一眠り——グホッ!

 「にぃに〜起きてよ〜。起きないと遅刻するよ〜」

 俺の身体の上で馬乗りになっていた少女が、なかなか起きない俺に「制裁」と言わんばかりに跳ねていた。
 その反動で少女の全体重が俺の腹部を圧迫する。

 「分かった。分かったから腹の上で跳ねんな。——吐くぞ、このヤロー」

 観念して俺は目を開け、少女に苦言を呈した。
 ようやく起きた俺の事を彼女は……。

 ——新堂杏(しんどうあん)は何故か分からないが徐に鼻を手で摘んだ。

 「……にぃに、臭い」
 「これが年頃の少年の匂いだ。臭けりゃ〜部屋に入って来るな」
 「ぶぅ〜」

 フグみたいに頬を膨らませて拗ねた杏の膨らんだ頬を鷲掴みにし。
 俺は杏が言う「悪臭」の元であろう口臭を吹きつけてやった。
 あまりの臭さに彼女の目が充血し、涙を浮かべながら苦悶な表情を浮かべる。
 だが、その悪臭から逃げようにも俺に頬を鷲掴みにされ、逃げ場を失ってしまった杏はそのまま白目を向き、気絶した。

 ——凄い効力だ……。

 昨日、あれほど噛むタイプのブレスケアを口にしたにも関わらず、これほどの威力を発揮するなんて、俺の身体に一体何があったんだよ……。
 俺は小さく息を吐いて肩を落とした。

 昨晩、気が付いたら行きつけの店のソファーの上だった。
 そして、何故だか俺の口に三重にしてマスクが付けられていた。
 首を傾げながら、マスクを外そうとしたら俺の事を看病していたであろう桜乃美嘉(さくのみか)に腕を掴み取られ、

 「外しちゃダメ!」

 と、叱られてしまう。
 「何故、外しちゃならんのか」その理由が分からずにいた俺に桜乃は優しく微笑み掛けながら、俺の手に一箱の噛むタイプのブレスケア(グレープ味)を握らせ。
 手中に収めるそれを眺めていると、自ずと俺の目頭が熱くなって来ていた。

 ——それだけである程度の状況を察したからである。

 ……はぁ〜。

 俺は未だに腹の上で白目を向き、気絶をしている杏の襟元を掴み、引きずりながら部屋から放り出した。
 そして、扉を閉めるとドアの上段部分から順番に施錠して行く事……。

 ——八つ目を掛け終え、俺はベットにダイブをして横になった。

 ……ふぅ〜、これで邪魔者は居なくなった。
 これで心置きなく、眠れ……。

 【ガチャン!】

 「にぃに! どうしてこんなにも可愛らしい妹を放り出すかなぁ〜⁈ 考えられないよ!」

 頬を膨らませながら部屋の中に「ドカドカ」と激しい足音を立てながら可愛らしい(?)我が妹が入って来た。

 「……どこの世界にピッキングする可愛い妹が居るんだよ」
 「ぴっきんぐ? 何、意味分かんない事を言っているの? 普通に開けただけだよ」
 「じゃ〜何だ、その細長い工具の数々は……」

 俺は杏が手に持っていた「ピッキング」に使用したであろう工具に視線を向けた。
 指摘された杏は証拠隠滅とばかりにすぐさま工具を懐に隠したが、バレバレである。

 「ヤダなぁ〜にぃには……。杏は何も持ってないよぉ〜」
 「……なら、跳んでみろ」
 「何、そのカツアゲ的な命令。——にぃに、怖い〜」
 「そうか……。——なら、身体検査だな」

 俺は徐に立ち上がって杏に近づいて行く。

 「え?」

 俺の発言に杏は素っ頓狂な声を上げて間抜け面をさらした。
 そして、言葉の意味をどう解釈したのか分かりかねるが突然、頬を紅く染め、瞳を「うるうる」とさせて、少し怯えたような視線をこちらに向けて来る。

 「……優しくしてね。にぃに」
 「はい?」

 甘ったるい声で発せられた杏の言葉に俺は首を傾げた。
 えっと……どう対応したらいいのか分からん。

 「ほら、早く。ここがドクンドクンって、なってるよ。にぃに……」

 杏は俺の腕を掴むと、徐に自らの胸に俺の手を押し当てた。
 胸を触れられ、杏は声を殺し堪えていたが……。

 ——正直の所、そこは何もなく、見渡す限りの水平線が広がっているだけだった……。

 「……ね? ドクンドクンってなってるでしょ?」

 頬を紅く染め、恥ずかしそうな表情を浮かべながら杏は口走った。
 だけど、

 「ああ、そうだなぁ〜。虚しさだけが心に染みる……」

 俺は彼女の胸に押しつけられていない空いた腕を自分の胸に置いて、猛省した。
 言葉の綾(?)とは言え、妹の慎ましい胸を触らせてもらう変態的な流れを作ってしまい申し訳ない。

 ——妹よ、これからだ。

 これからお前の平地に立派な双丘が出来上がるだろう……。
 だから、めげずに頑張れよ、杏……。

 「……ね〜、にぃに。何で涙ぐんでいるの?」
 「それはね。男の子だからさ」
 「男の子は女の子の胸を触りながら泣くの?」
 「そうだねぇ〜。だけどね、これは神様の不公平さに悲観した涙なんだ」
 「不公平さ?」
 「そうだよ。こうして女の子(妹だが……)のお胸を触れさせてもらっているのに得るモノが何一つないんだ」
 「それって……どういう事?」
 「つまり、掴め——グフッ!」
 「にぃにの馬鹿! 変態! モ○ボ○!」

 【ガチャン!】

 と、杏は扉を勢い良く締め。
 俺に鳩尾への打撃による痛みだけ残して出て行った……。

 ——ふん、これでいいさ……。

 その悔しさをバネに立派になるんだぞ、杏……。
 杏の攻撃が心にまで響き、俺は膝から床に崩れ落ち、そのまま床に倒れ伏せた……。




 ——よし、学校に行く準備でもするか……。

 俺はさっさと起き上がってクローゼットから制服を取り出して、それに着替え。
 桜乃に渡されたマスクを即身に付け、噛むタイプのブレスケア(オレンジ味)をスクールカバンに忍ばせて、自室を後にした……。

(2)第一話 〜久しぶりの登校〜 其の一 ( No.4 )
日時: 2012/06/11 15:04
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/3/

 自室を出ると。
 怒って先に出て行った杏が玄関先で靴を履いており、俺の姿を見るや否や、

 「べぇ〜」

 と、舌を出して憎たらしい態度を取って来た。
 だけど、先に靴を履き終わったにも関わらず、座ったまま動こうともしない杏の姿を見て、俺は自ずと嘆息を漏らす。

 また、か……。

 頭を掻きながら俺も靴を履き、徐に杏が座る前に腰を下ろす。
 すると「待ってました」と、言わんばかりに杏が俺の背中に乗りかかって来て、俺は杏が落ちないよう支えながら立ち上がり、背負う形となった。
 これは杏が俺の部屋に忍び込み、目覚めた俺に向かって開口一番に発した言葉通りだ。

 「私を学校に連れてって」

 つまり、俺が杏を背負いながら一緒に登校する事である。

 「じゃ〜出発進行!」

 俺の背中ではしゃぎ始めた杏に呆れながら、俺たちは学校に向けて出発した。
 外を出てしばらく歩いていると……。
 案の定、近所の方々が奇異な視線で俺たち兄妹の事を見て来るが、別に気にならなかった。
 ほぼ毎日の事で慣れてしまっているからである。

 ——ホント、慣れって怖いよな……。

 だけど、幼い頃からこんなに仲睦まじい間柄ではなかった。
 もう少し、ドライな関係だったと思う。
 ドライと言っても全く口を利かなかった訳ではない。
 ここまで身体を密着して、接し合う仲までではなかったと言う意味だ。
 杏が言うには「空白の三年間」の埋め合わせだそうだ。

 ふむ、埋め合わせを補うためにここまでベタベタされちゃ〜困るんだがな……。
 一応、血の繋がった兄妹とは言え。
 お互い年頃の少年少女なのだから周りの目も気にしてくれ……。

 「ねぇ〜。にぃに」
 「何だ?」
 「昨日、どこに行ってたの?」
 「どこだっていいだろ?」
 「ぶぅ〜。必ず尻尾を掴んでやる」
 「……そんな活力があるなら自分の足で学校行けや」
 「ゴホン、ゴホン。ごめんね、にぃに……。いつも杏の身体を心配して背負ってくれて……。——杏、嬉しいよ」
 「その病弱キャラはこれで何回目だ?」
 「びょうじゃくきゃら? にぃに、酷いよ〜。杏が昔から身体が弱いのを知っているくせに、ゴホン……」
 「はいはい」

 聞き分けのないアホな妹の話を軽く流す事にして俺は黙々と足を進める事にした。
 俺の華麗なる対応に杏は「これでもか」と言うほどにワザとらしく咳き込み始める。
 背中から聞こえる耳障りな咳を無視しながらしばらく足を進めていると。

 ——突然、肩を「ポン」と叩かれた。

 「俺に無視されて痺れを切らした杏が注意を引くためにやったんだ」と思いながら、無視していると。
 また、肩を「ポン」と叩かれた。
 先ほどよりも強い力だった。

 「——何だよ、杏」

 そう言いながら俺は視線を後ろに向ける。
 と、そこには杏ではなく。
 「ニヤニヤ」と気色の悪い笑みを浮かべる制服姿の美少年がいた。

 「——相変わらず、仲がいいねぇ〜。お二人さん」

 シャレた髪形をした茶髪に端正な顔立ち、やや細身のチャラ男こと菅谷涼(すがやりょう)が俺に背負られている杏の頭を撫でる。
 涼とは中学の時に知り合い。
 現在、お互い別々の学校に通っているものの。
 たまにこうして登校時に出くわしたりする。

 「お前、時間大丈夫なのか?」

 彼が通う学校は僕らのように徒歩で行ける距離じゃない。
 電車を使用して行かなきゃならないような場所にある。
 だから、友人として悠長に歩く彼の事を少し心配した。

 「大丈夫大丈夫。しっかりシフトがオツムに入っているからこのまま行けばギリギリ間に合う。——んな事よりも、留年生は大丈夫なのかい?」
 「誰が留年生だ」
 「え? 進級出来たん?」
 「まぁ〜ギリな……」
 「なぁ〜んだ。てっきり留年したと思ってたから、慎(しん)をからかおうとわざわざ遠回りまでしたってのに……。残念、無駄足かね……」
 「最低だな、お前……」

 「はぁ〜」と、俺は嘆息を吐く。
 俺は別に成績の影響で留年しかかった訳ではない。
 一年の秋辺りにとある事情で入院する事になり、出席日数の都合で留年を危ぶまれた。
 だけど、前半休まずにがんばったおかげか。
 その貯金でプラマイゼロとなり、事無きを得る事が出来たのだ。

 「——でもさ〜。にぃにも不運だよねぇ〜。襲われた女の子を助けようとして果敢にも首を突っ込んだのは良かったものの。その結果が長期入院、留年ギリギリセーフの心臓バクバクコースを選んじゃったんだもん」
 「杏ちゃん杏ちゃん。その女の子からしたら慎兄ちゃんは正義のヒーロー様だから、あまり言いなさんな。——まぁ〜第一、その女の子を襲った犯人さままでもかばっちゃうほどのお人良しさんに言ってもしょうがないけどね〜」

 そう言いながら俺の事を怪しんでジト目で見つめて来る涼に俺は堂々とした態度で睨み返した。

 「……ホント、おっかないな〜。だけどさ、心配して言っているって事だけは分かってちょうだいな。第一、目撃者が慎と——」

 「おはよう、新堂くん。杏ちゃん」

 と、突然俺たちに挨拶だけを残して、少女が「スタスタ」と歩いて行った。

 「わお! これはツイてるね〜。——まさか、摺木(するぎ)嬢に会えるとは……」

 前方を歩く、少女の背中を見つめながら口ずさんだ涼の頬は緩んでいた。

 ——摺木麻耶(するぎまや)、容姿端麗、文武両道。
 クールな立ち振る舞いとそのルックスから他校生の男子までも虜にするモテモテ美少女。

 腰の辺りまで伸びた黒のツインテールに前髪も綺麗に均等に整えられ、モデルのようなスレンダーな身体付き。
 体型にぴたりと合った我が校の制服姿が凛々しく、常に欠かさず身に付けている白色の手套が気品に溢れており。
 奥床しい乙女然とあまり肌を露出しない彼女は俺の背中にいる寸胴とは大違いである。

 摺木と幼馴染の俺としては彼女の著しい成長に少し戸惑ってしまう事しばしば……。

 「ホント、麻耶ねぇ〜はいつ見ても綺麗だなぁ〜」

 摺木の魅力に同性である杏が見惚れてしまったようだ。
 そんな、我が妹に友人の涼は優しく微笑み掛けながら杏の頭に「ポン」と手を置いた。

 「大丈夫さ、杏ちゃん。これから劇的に成長するよ」
 「本当!? 涼にぃ〜!」
 「ああ、本当さ。数年したら杏ちゃんもボンキュッボンになってるさ」
 「キュッキュッキュッじゃなくて?」
 「うんにゃ〜。キュッボンキュッじゃなくてね」

 『うひひひ〜』

 何の笑みか知らんが二人して口元を隠しながら気色の悪い笑み浮かべる。
 その姿は傍から見ればこれから悪巧みをしようと企んでいる小悪党にしか映らないだろう。

 「アウッチ! 僕とした事が、摺木嬢の連絡先を聞くのを忘れていた……」

 と、額を押えて涼は悔しそうにそんな事を口走る。

 「いや、涼にぃには無理だと思うよ」
 「む、今の言葉は聞き捨てならないねぇ〜」
 「だって、麻耶ねぇの浮いた話なんて全然聞かないもん。そもそも、男の子には興味がないんじゃないかって、言われているぐらいだよ」
 「……お前って、そういう類の話好きだよなぁ〜」

 確かに摺木の浮いた話なんて聞いた事がなかった。
 ほとんど、どこぞの有名な男子生徒をこっ酷く振ったやら、同性から告白されたなどの仕様もない噂話が校内では飛び交っている。

 「うん! 噂話は淑女の嗜みってね」
 「絶対違うと思うぞ〜」
 「僕も同感〜」
 「ぶぅ〜ぶぅ〜」

 自論を否定され、拗ねてしまった杏をスルーする方向に至った俺と涼は途中まで一緒に登校し。
 しばらく進んだ先にある交差点で涼は駅がある方向へ。
 俺たち兄妹は学校がある方向に別れ。

 ——各々が通う学校に向かった……。

(1)第一話 〜久しぶりの登校〜 其の二 ( No.5 )
日時: 2012/06/12 22:19
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/4/

 ——私立夕凪学園。
 小中高の一貫校でエスカレーター組と外来組が入り混じる大所帯のマンモス校。
 校風もかなり自由で法を犯さなければ何でもありである。
 だから、服装も私服のヤツが居たり。
 俺のようにきっちりと制服を着用しているヤツもいる。

 妹の杏は今年から晴れて高一なのだが、中一から着ていたセーラー服が未だに着用可能ので渋々ながらそれを使用。
 実は言うと、高等部用の制服(ブレザータイプ)を着たくて両親に駄々をこねたらしいのだが、通用せず。

 ——現在に至っている。

 妹の杏と違い、俺は心身ともに順調に成長を遂げたため、おかげさまで高等部用の制服を着用している次第である。
 ちなみに中等部用の制服は学ランとセーラー服。
 初等部用の制服はお坊っちゃま、お嬢様が着用するようなこぢんまりとした物だ。

 ——閑話休題。

 杏を背負っている俺はまず、杏を自身の教室に送り届ける事にした。
 いや、送り届けなければ周りにいる生徒たちからの熱烈な視線を解除できない。
 全く、モテる男はつらいぜ……。
 少し照れながら杏の教室に向かっていると、

 【バリボリ】

 と、何かを頬張る音が聞こえた。

 ——まさかな……。

 「……なぁ〜それおいしいか?」
 「ふぉいふぃよ〜」
 「ああ? もう一回言ってみろ」
 「——ゴクン。おいしいよ〜」

 陽気な返答に俺は少し立ち眩みを覚えた。
 人に背負わせておいて、自分はお気楽に食事と来た。
 それはそれは……ヤツの食べカスが服に付着している事だろうなぁ〜。

 「お客さん。申し訳ないんですが、車内は飲食禁止なんでね〜。お控願えますか?」
 「モウマンタ〜イ!」
 「こっちは問題ありだ! ——ったく、着いたぞ〜」

 仕返しとばかりに俺は杏を支えていた腕を解いて、そのまま振り落とす。
 杏は咄嗟の事でそのまま廊下に尻餅を付き、

 「ふぎゃ!」

 と、奇声を上げる。
 現在の彼女の様相はテディベアに見えなくもなかった。

 「……にぃに、酷〜い」

 強打した臀部を労わりながら立ち上がった杏に少し睨まれたが、俺は悪怯れる事無く。
 その様を「ふん」と、鼻で笑って軽くあしらってやった。

 「い〜だ!」

 ガキみたいな事を言い残して杏は自身の教室である一年三組に入って行き。
 それを見送った俺は小さく息を吐いた。

 ——これで心置きなく自由な行動がとれる。

 腕を頭上に掲げて伸びをしながら俺は自身の教室。

 ——二年二組へと向かった……。


 ——私立夕凪学園、高等部校舎三階。
 俺が二年二組の教室に入るや否や。
 突然、クラッカーの音が鳴り響いた。

 『——退院おめでとう〜』

 クラスメイトたちが退院して久しぶりに登校する俺に向かってそんな言葉を投げかけて来た。
 正直、唐突な事で頭が真っ白になったが。
 状況を呑み込めるようになった瞬間、自ずと顔が熱くなってしまった。

 「あ、ありがとう……」

 照れのせいで少々口ごもったが言いたい事は言えたと思う。
 しかし、どうして俺が入院していた事を知っているのだろうか?
 一年の時の同級生が口を滑らして話してしまったのだろうか?

 ふむ、考えてもしょうがないか……。
 ここはありがたく気持ちを素直に受け取るとしよう。
 すると、小柄でなよなよした女々しい男子生徒が、か細い声で、

 「こ、こちらへどうぞ」

 と、俺の事を誘導し始めた。
 その男子生徒のご厚意に甘える事にした俺は誘導された席(教室のちょうど中央)に向かい腰をゆっくりと下ろす。

 ——正直の所、助かった……。

 どこのクラスに編成されたかは知っていたが、席までは知らなかった。
 さっきの男子生徒に感謝しよう。
 席に着いた俺は机に肘を置き、それを顔の支えにして。
 今日一日「ボーっ」と過ごす事に決めたのであった……。

 途中、俺のマスク姿を心配してか、クラスメイトたちから色々な物を贈呈されたが……。

 ——決してカツアゲをした訳ではない事をここに誓う。

 昼食時になり、俺の卓上には贈呈された様々な物で溢れ返っていた。
 全体を占める割合はスナック菓子が六割、デザート類が二割、軽食飲料水が一割、その他(思春期男子の必須アイテム)一割である。

 「どう処分していいものか」と、ブツを眺めながら考察していると、目の前にビニール袋が「ひらひら」と舞い降りて来て、俺は徐に視線を上に向ける。

 視線の先には見慣れた女子生徒が……。

 ——摺木麻耶が目の前に立っていた。

 「えっと、摺木……さん?」

 状況が理解出来ずに首を傾げながら彼女に話しかけると、何も答える事無く。
 摺木は卓上に散乱していたその他(思春期男子の必須アイテム)の一つを手に取った。

 ——あっ。隠すのを忘れていた……。

 しかも、タイトルが「ロリっ子、大集合! お兄ちゃん大〜好き!」と丁寧にサブタイトルまで書かれていた。

 うわ……。
 これまた、誤解を招くようなタイトルの物をお取りになったな……。

 俺の心配を余所に摺木は無表情のまま、何も語る事無く「ロリっ子、大集合」なる本を見続ける。

 恥ずかしい!
 恥ずかし過ぎるぞ、おい!
 俺の物じゃないのになんなんだ、この恥ずかしさは!
 誰の物か分からない物のおかげでこちとら羞恥プレイにさらされたぞ、コノヤロー!!

 すると、最後のページまで見終わったのか、摺木は静かに本を閉じ、

 「……ふぅ〜」

 と、小さく息を吐いた。

 「摺木さん? これにはその〜色々と訳があって……」
 「分かっているわよ。クラスの男子たちからのお見舞いの品でしょ? ——うん、ちゃんと分かってるから……。——それに、もし新堂くんがこんな性癖の持ち主だったとしても私は真実をしっかりと受け止めてあげるから……」

 「分かった」と、言っておきながら少し蔑んだような冷たい視線で摺木は俺の事を見つめ。俺は咄嗟に先ほどのビニール袋を手に取って、それを頭から被って顔を隠す。
 一時的の処置だが、摺木の蔑視から逃れる事に成功した。

 ——わぁ〜、辺りが真っ白で何も見えないや〜。

 しかし、俺の安息の時間がすぐに終わりを迎える。
 摺木が被っていたビニール袋を淡々と引っぺがし。
 心なしか怒っているように見受けられた。

 「……新堂くん」
 「あっ、はい! 何でしょうか!」
 「……コレ、没収ね」

 摺木がいつのまにか綺麗に重ねたその他(思春期男子の必須アイテム)を指さしながら静かに投げかけて来る。

 「あっ……い、いいぜ。好きなようにしてくれ!」
 「何? 少し名残惜しいのかしら?」
 「い、いえ! 友人たちの気持ちをムゲにするのが心苦しくて……」
 「そう? ——でも、没収ね」
 「……はい」

 返事をするや否や摺木は黙々とその他(思春期男子の必須アイテム)たちを俺の卓上から持ち出し。
 どこに持って行くのか分からないが、教室から出ようとした所で急に立ち止まり、こちらを振り向いた。

 「——新堂くん」
 「あっ、はい。何でしょうか?」
 「そこのプリント、私の代わりに生徒会室に持って行ってくれないかしら? ——ほら、私はご覧の通り手が離せないから……」

 そう言いながら摺木は視線でプリントの位置を指示する。
 そのプリントは黒板前にある教卓の上に束になって置かれており。
 それを見つけた俺は軽く頷いて見せた。

 俺の反応を見てから摺木は軽く会釈をして、その他(思春期男子の必須アイテム)たちを持ってどこかに行ってしまった……。
 摺木を見届けた後に俺は小さく息を吐いて、肩を落として項垂れてしまう。

 アイツも俺と同じクラスだったのか……。
 何て言うか、格好悪い所を見られたなぁ〜勘違いしてなかったらいいが……。

 不安を抱きながら俺は摺木に頼まれた仕事をするべく立ち上がり。
 教卓に置かれたプリントの束を持って。

 ——教室を後にした……。

(2)第一話 〜久しぶりの登校〜 其の二 ( No.6 )
日時: 2012/06/12 22:14
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/4/

 しばらく廊下を歩いていると、とある重大な問題に直面した。

 生徒会室って……どこだ?
 高等部校舎内にあるのか?
 それとも部室棟にあるのか?

 ふむ、どこにあるのか分からん……。
 とりあえず、中庭にある学校案内の地図を見ればどこにあるか分かる、か……。
 俺はまず、高等部校舎を出て。
 初等部、中等部、高等部の校舎に囲まれて設計された中庭に向かうと、そこで俺が求めていた学校案内の地図を早くも発見する。

 俺のように時々迷う輩がいるために造られた地図のようだが……。
 無駄に広すぎるのがいけないんじゃないのか?
 まぁ〜愚痴を言っていても仕方ない、か。

 ——それにしてもここの中庭は豪勢だよなぁ〜。

 学校案内の地図を見つつ、少し辺りを見渡した。
 ここの学園の中庭は全校生徒の憩いの場になっており。
 中庭の中央には噴水。

 後は綺麗に整えられた芝生や花々が咲き誇る花壇などがあり。
 庭園のようになっている。
 その近くには学食兼カフェがあったりする。

 昼のポカポカ陽気の時には昼食を食べ終わった生徒たちが芝生の上で昼寝をしたり、談笑したりと、人で賑わいをみせている。

 かくいう俺も昼食後にはここへ赴き、噴水前にあるベンチでお世話になる事がある。
 良く眠れるせいか、たまに夕刻時まで眠っていた事がある。
 あの時はさすがにビビって少しの間、ここに来るのを自粛していた時期があった。

 ——ふむ、今となっては良い思い出である。

 俺は学校案内の地図で生徒会室の位置を確認する。
 生徒会室は時計塔にあるらしく俺は時計塔を目指す事にした。
 しかし、よりにもよって時計塔か……。

 ——初等部生の頃。

 初等部校舎から見えた、少し古ぼけた大きな建物に興味本位で近寄り。
 しばらくそれに見惚れていると、

 【ゴーン! ゴーン!】

 と、地響きのような大きな鐘の音が、突然鳴ったものだから驚いてしまい。
 その際、足がすくんでしまって。
 しばらくその場から動けなくなったのを今もなお鮮明に覚えている。
 間近であの鐘の音を……。

 ——それも初等部生の頃に聞けば、誰だって獰猛な化け物が吠えたのだと勘違いしてしまうだろ。

 ……はぁ〜。

 今となってはこれも良い思い出……なのか?


 ——ああ、もう!

 俺は恥ずかしい思い出をさっさとかき消す為に頭を掻いた。
 だけど、消そうとする度に鮮明にその恥ずかしい記憶がよみがえってくる。
 そして、俺が消そうと必死になるにつれて、周りで談笑していた生徒たちが徐々にではあったが遠退いて行った……。

 ——これは、アレだよな……。
 色々と勘違いされてそうだ……。

 一人だけマスクをして目立つ中、さらに必死の形相で頭を掻くなんて動作は誰がどう見ても奇行にしか見えん。
 今日は厄日、なのか……?

 「がっくし」と、肩を落とした俺は「とぼとぼ」と歩きながら時計塔に向かっていると前方の道端に黒い物体が落ちていた。

 ——いや、倒れていた……?

 中世的な黒いドレスに身を包む金髪の等身大の人形(?)がうつ伏せで倒れており。
 周りを歩く生徒たちには見えていないのか、全員スルーだった。
 ふむ、やはり人形なのだろうか。
 しかし、誰がこんな物を——。

 【ゴロゴロゴロ〜!】

 ん?
 何だ、今の地響きは……。

 ——雷の音か?

 俺は徐に空を見上げ、見渡した。
 けれど、雲一つないピーカン照りだった。

 あれ?
 聞き間違いか……。

 まぁ〜いいや、どうせこれから生徒会室に行くんだから人形が中庭に不法投棄されている事を報告すれば済む事だろう。
 予定通り俺は時計塔にある生徒会室に向かって足を進める事にした。
 人形を踏まないように気を付けながら歩いて……。

 【バタン!】

 突然、目の前が真っ暗になりどうしてか鼻がもの凄く痛かった……。
 状況を把握するべく辺りを見渡すと……。

 ——俺はどうやら受け身も取らず、地面にダイレクトで顔から倒れてしまったようだ。

 気を付けて歩いていたのに、ダサいなぁ〜。

 その際、辺りに撒き散らしたプリントを回収し、立ち上がろうと試みたが……。
 どうしてか、足に力が入らなかった。
 それどころか、自分の足じゃないように重かった。

 変に足を挫いてしまったのだろうか?

 そう思いながら自分の足に視線を向ける。
 と、俺の両足に先ほどの人形がしがみついたまま、うつ伏せになって倒れていた。

 ——何、この状況……。

 もしかして、これは呪いの人形なのか?
 俺を地獄に引きずり下ろすために目の前に現れたの、か?

 ……それなら合点がいく。

 どうして周りの生徒たちがスルーしていたのか。
 それは俺にしか見えない死の代弁者たる死神だからだろう。

 何だそうか。
 俺、今日死ぬのか……。
 結構、お早いお迎いだなぁ……。

 開き直るように俺は天を仰ぎ見た。
 今まであった様々な映像が頭の中に流れ、これが「フラッシュバック」なるモノなのだと理解した。
 すると、

 【ゴロゴロゴロ〜!】

 と、先ほどの地響きが再び鳴り響いた。

 また、か……。

 しかし、何の音だろうか?
 辺りを見渡しても地響きが鳴るような物は置いてないし。
 鐘が鳴る時間でもない……。

 ——そこでふと、俺は人形に視線を向けていた。

 まさか、な……。
 だけど、この人形にしがみつかれている部分が……両足が妙に生温かい。

 ……人形じゃないのか?

 俺は確認するべく、辺りを少し見渡してからある物を発見する。
 そのある物とは、この状況におあつらえ向きの小枝で。
 それを掴み取って、人形(?)の頭を突いてみた。
 突く際、鼻を摘む事を忘れずに……。

 すると、

 「……痛いわ、阿呆……」

 うつ伏せのまま覇気のない声が人形から……。

 ——いや、少女から発せられた……。

 聞き間違いじゃない事を確認するべく。
 もう一度、俺は小枝で少女の頭を突いてみた。
 今度は少し強めに……。

 「痛いと言うとろうがぁ!」

 怒号を上げながら顔だけ起こした少女。
 その顔立ちは、そのまま宝石に出来そうなほどに澄んだ色を擁するエメラルドグリーンの右目に左目は眼帯で隠し。
 肌も透き通るように白くて、第一印象通り。

 ——本当に人形のような風貌だった……。

(1)第一話 〜久しぶりの登校〜 其の三 ( No.7 )
日時: 2012/06/13 22:29
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/5/

 「……お主、なぜ鼻を摘んでおる?」

 不思議そうな表情を浮かべながら人形もとい、行き倒れ少女が話しかけて来た。

 ——外人さん……何だろうか?

 普通なら俺のナリを見て怒る所だろうに……。
 それならそれなりの対応を取らねば、な……。

 「ああ、この国の風習みたいな物だ。地面に落ちてる物の安全性を確かめる際は鼻を摘みながら小枝で突く。——これ常識」

 俺は堂々と少女に嘘を吐いてやった。
 この嘘に少女は真摯に受け止めてくれたのか「ふむふむ」と、感慨深く頷く。

 「実に滑稽な様よな〜。我はてっきり我の事を汚物扱いしていたのかと思ったわい」
 「ヤダな〜。そんな失礼な事をする訳なかろうに……」

 オーバー気味に俺は顔の前で手を左右に大きく振って否定する。

 「そんな事よりも……。お前はどうしてこんな道端で寝てたんだ?」
 「それがじゃのぉ〜。——腹が減って動けなくなってしまったのじゃ」
 「ああ、それで……」

 なるほど、さっきの地響きもコイツの腹の音って訳か。
 しかし、化け物染みた音だったよなぁ〜。

 「——お主。我に何か食わせてくれんか? その引き締まったモモ肉でも我は良いんじゃが……」

 涎を垂らしながら口走った少女の視線が強く掴んで離さない俺の足に向けられていた。

 ヤバい……。
 腹が減り過ぎて幻覚を見ているようだ。
 このままでは本当に俺の足を食われかねない。
 どうしたら——って、あっ!
 あるじゃないか。おあつらえ向きのブツたちが教室に……。

 「分かった。分かったから俺の足を離してくれないかな? このままだったら動けないだろ?」
 「ふむ、承知した。——じゃが、条件がある」
 「何だ?」
 「とんずら防止のためにそこのレプリカどもは我が預かる」
 「れぷりかども? ナニソレ」
 「分からんヤツじゃな〜。それじゃよ、それ。そこの——魔導書の事じゃ」

 少女は顎を使ってその「魔導書」と呼んだ。
 俺が手に持つプリントの束を示した。

 「ああ、コレか……。分かった。じゃ〜そこのベンチにでも腰掛けて待っててくれ。すぐに戻って来るから」

 近くにあったベンチを俺は指さし。
 少女はそれを見て、

 「承知した」

 と、頷きつつプリントの束を俺から強奪して。
 少しおぼつかない足取りでベンチに向かい腰を掛けた。

 ——ふらふらじゃねぇ〜か。

 はぁ〜全く……。

 少女から一時的に解放された俺は頭を掻きながら自身の教室に足早と向かった。
 卓上に散乱していたブツたちを摺木から貰い受けたビニール袋に詰められるだけ詰めまくって「パンパン」に弾けんばかり膨れ上がったビニール袋を担ぎ、腹を空かせた少女の元へと戻る。
 傍から見れば季節外れのサンタクロースに見えなくもない風貌だろう。
 もし、誰かが俺の姿を見て何かを言って来たら俺はこう言ってやるんだ、

 「先取りだ、コノヤロー」

 と……。
 しかし、誰からにも何も言われる事無く。
 少女の元に着いた俺は心なしか侘しさに苛まれてしまった。

 「御苦労……って、どうしたのじゃ?」
 「いや、現代人って冷たいんだなぁ〜って……」
 「——この数分の間に何があったのじゃ……」

 嘆息交じりに少女は俺が担いで持って来たビニール袋を手に取る。
 と、目をキラキラと光らせながら物色し始め。
 俺は彼女の隣に腰を下ろした。


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