コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 僕のツレはヤんでいる...?(学園ラブコメディー)
- 日時: 2012/07/11 00:30
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/
・あらすじ
とある事情で入院中だった「ミカエル」は仲間たちに退院祝いの飲み会を設けられてそれに参加するが、途中で気絶してしまい宴は即、幕を閉じる。——翌日、馴染みの面々との再会や新たな出会いを果たした俺だったが、何て言うかホント……大丈夫か? コイツら……。
・なお、当作品は小説家になろうさまの方でも投稿させていただいていますご了承ください。(只今、諸事情により更新停止中。涼しくなった頃に再開予定)
※お気軽にご感想などをよろしくお願いしますm(。-_-。)m
・ヒーロー凱旋篇
プロローグ 〜ヒーロー凱旋 前 篇〜 其の一 >>01
プロローグ 〜ヒーロー凱旋 前 篇〜 其の二 >>02
第一話 〜久しぶりの登校〜 其の一 >>03 >>04
第一話 〜久しぶりの登校〜 其の二 >>05 >>06
第一話 〜久しぶりの登校〜 其の三 >>07 >>08 >>09 >>10
第一話 〜久しぶりの登校〜 其の四 >>11 >>12
第一話 〜久しぶりの登校〜 其の五 >>13 >>14
第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の一 >>15 >>16
第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の二 >>17 >>18
第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の三 >>19
第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の四 >>20 >>21
第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の五 >>22
- (2)第一話 〜久しぶりの登校〜 其の三 ( No.8 )
- 日時: 2012/06/13 22:32
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/5/
相当腹が減っていたのだろう、パッケージを見ているだけで涎が分泌され、
「ジュルジュル」
と、事あるごとにすすっていた。
「なぁ〜聞いてなかったんだが、お前の名前は?」
「ん? ああ、イリヤじゃ。イリヤ・シュガーライトじゃ。しかし、これは美味じゃのぉ〜」
イリヤはおにぎり(鮭)を頬張りながらそう自己紹介してくれた。
やはり、外人さんだったのか。
うん、確かに西洋のお人形さんのようだ。
しかし、凄い食欲だな〜。
鮭おにぎりを食べ終わったと思ったら、続けざまにタラコおにぎりを美味しそうに食べ始めた。
だけど、少し疑問が残った。
外人さんってのは分かった。
でも、ここまで流暢に少し古臭い口調ながらも日本語を話せるとは恐れ入った。
——イリヤ・シュガーライト、天才少女なのか?
三つ目のおにぎり(ツナマヨ)を頬張る彼女を横目で眺めながら、俺はある事に気付き。
嬉しさのあまり手を「ポン」と叩いてしまう。
「——ああ、お前。本当の名前は佐藤光(さとうひかる)だろ」
この言葉にイリヤは「ブゥー」と口の中の食べ物を噴き出し。
涙目になりながら少しむせ返った。
「だ、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないわ、戯け者! 誰がサトウヒカルじゃ阿呆!」
「いや、シュガーライトなんて変わった名前で、しかも流暢に日本語を話すからさ。つい考察しちゃった、テヘ♪」
「何が『テヘ♪』じゃ! おかげで我が食料が台無しになったではないか!」
口周りに米粒を付けながら怒るイリヤの姿が滑稽で。
もう少しだけ「佐藤光ネタ」でいじってやろうかと、イタズラ心に火が点いてしまった俺は——。
「白状するなら今の内だぞ。後になって『本当はイリヤ・シュガーライトじゃなくて佐藤光です』なんて表明はやめてくれよ」
「だ か ら! 我の名前はイリヤ・シュガーライトと何度言ったら——」
「分かってるって……。事務所の方針なんだろ? 厳しいもんな、この業界は……。本当は千葉県出身なのに星人キャラ守らなきゃならんかったりするしな……」
「……何じゃ、そのリアリティーある言い草は……。じゃが、我はセイジンでもなければチバケン出身でもないぞ!」
「分かってるって、関東じゃなくて関西か? いや、間を取って北海道か?」
「どう間を取ったのか分からんが……。言葉から推測するに——絶対違うとだけは分かった」
「ふむ、じゃ〜どこなら納得なんだ? 九州か? 四国、中国か?」
「……日本以外の選択の余地はないのか?」
「なるほど、外タレって事ね。——じゃ〜やはり、お前の出身地は関東か……」
「何故、そうなる?」
「いや、かの有名なコメンテーターも埼玉県出身って話がだな……」
「もう、良い! お主は根本的に色々と履き違えておる! 東洋人は皆こうなのか⁉」
「ガブリ」と、自棄食いのように包装を取らずにそのままおにぎり(梅)を頬張り。
違和感に気付いたイリヤはイライラしながらも包装を取って、再びおにぎりを頬張るが……。
外人さんには少々馴染みがない梅を口にし、その酸っぱさのあまり表情を歪めた。
「き、貴様〜! 謀ったなぁ!」
「ポカポカ」と、俺に八つ当たりをし始めたイリヤの口周りには案の定……。
——米粒が付きっぱなしで。
怒られているのも関わらず、俺は思わず笑ってしまった。
——さて、そろそろ潮時かな。
俺もこんな事をしている場合じゃないしな……。
イリヤに人質(?)として捕らえられていたプリントの束を回収し。
徐に立ち上がった俺は生徒会室がある時計塔に向けて歩き出した。
すると、イリヤが「グイっ」と、俺の制服の裾を引っ張って、それを妨げる。
「まだ、何かあるのか? 俺はこう見えて忙しい身なんだが……」
「……逃げるつもりか?」
「は?」
「逃げるつもりかと聞いておる」
少し語気を強めて繰り返して述べたイリヤの言葉に俺は正直何の事を指しているのかが分からずに呆けてしまった。
「あれだけ我の事を愚弄しておいて謝罪もなしにどこかへ行こうなど断じて許さん!」
俺にからかわれた事がそんなに気に障ったのか、イリヤは憤りを感じずにいられないと軽く拳を握ってみせた。
——ふむ、少々やり過ぎてしまったか……。
「すまん!」
深深く頭を下げて俺はイリヤに謝罪した。
当の本人はまさか俺が素直に謝罪をするとは思っていなかったようで、目が点になって呆けていた。
……やる事やったんだし、これでいいだろう。
俺は気を取り直して時計塔に向かって歩み始めようとした所。
——また、イリヤに制服の裾を引っ張られて妨げられてしまった。
「何だよ」
「……騙されんぞ」
「はい?」
「この国では誠意を込めた謝罪の事を『土下座』と申すらしいな。じゃが、お主がやったのはただの会釈じゃ。よって、先ほどの謝罪は無効。——本当に反省しているのなら今すぐひざまずいて土下座とやらをやって見せよ!」
「フフ〜ン」と、少し誇らしげに語ったイリヤの姿に俺は堪らず額を押え、嘆息を吐いた。
何、仕様もない事を知っているんだよ……。
「断る!」
「何故じゃ!」
「いや、土下座するほどの大罪を犯した覚えがないんでね。じゃ〜俺はこれで——」
「行かせん!」
俺が時計塔に向かおうとしたらイリヤが目の前に回り込み。
これ以上先に行かせんと、ゴールキーパーみたく両手を大きく広げて妨害して来た。
「この先に行きたいのなら我を倒して行くが良い!」
「……ああ、そうするわ」
お言葉に甘えて俺はゆっくりとイリヤに近づいて行き。
俺の行動に身構えたイリヤの無防備となった額に手を伸ばして。
力の限りのデコピンをかましてやった。
【パチーン!】
と、思いのほか綺麗にクリーンヒットしたせいで、その痛みにイリヤは額を押えながら身悶える。
「い、痛いではないか。阿呆……」
涙目になりながらイリヤは俺の事を軽く睨み返す。
「いや、倒してから行けって言うもんだから俺はその言葉通りにやっただけなんだが……」
「手加減を知らんのか、手加減を……」
「じゃ〜倒したから俺は先に進むぞ〜」
額を押えながら未だに痛がり続けているイリヤを後目に俺はさっさと時計塔に向かって歩き出した。
- (3)第一話 〜久しぶりの登校〜 其の三 ( No.9 )
- 日時: 2012/06/13 22:35
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/5/
「ま、待て! まだ、終わっとらんぞ!」
後方からそんな怒鳴り声が聞こえて俺は嘆息を吐きつつ、渋々ながら後ろを振り返る。
「まだ、何かようですか〜?」
「何じゃ、その面倒臭そうな対応は!」
「……実際、面倒臭いし……」
「なぁ〜にぃ〜おぉ〜! こうなったら我も本気を出す! 後で吠え面をかいても知らんぞ!」
「プンプン」と、怒号を上げながらイリヤは突然ドレスの裾をたくし上げ。
ガーターベルトで止めたひざ丈ほどのストッキングの隙間から手のひらサイズの白い棒状の物を取り出し。
それで地面に何かを描き始めた。
その様子からイリヤが取り出したのはチョークだと理解したのだが、一体彼女が何をしようとしているかまでは分からなかった。
すると、描き終えたのかイリヤが徐に地面に描いた円陣(恐らく、魔法陣)の中心部分に立ち止まって不気味な笑みを浮かべながら、こちらに視線を向ける。
「……ククク。まさか、下等種ごときにこれを使う時が来ようとは正直思いもよらなかったぞ」
「えっと……もう、行っていいかな? ——そろそろ予鈴がなるだろうし」
「フフフ、我の本気の姿にビビっておるわ」
「いや、そうじゃ——」
「言わずとも分かっておる。——じゃが、我を愚弄した罪、その身に刻んでくれるわ」
気味の悪い笑みを浮かべながらイリヤは徐に眼帯を外した。
その眼帯で隠されていた左目が露わになり。
左目は右目のエメラルドグリーンではなく。
己の髪の色と同じく金色に輝く穢れの無い瞳の色だった……。
「——我、ここに汝の御霊を呼び出さん。我の言霊に応えよ。我の望みを叶えよ。出でよ——地獄の門番ケルベロス!」
イリヤが謎の呪文を唱えた瞬間。
辺りが静まり返り、突風が吹き始めた……。
——ような気がした。
『……』
『……』
「——我、ここに汝の——」
「じゃ〜な〜」
「ま、待つのじゃ!」
「もう、いいだろ? 十分、相手してやったんだ。解放してくれよ〜」
「まだじゃ。今のはただの余興じゃ。これからが本番……。——よく目に焼き付けるが良い!」
そう豪語したイリヤはゆっくり深呼吸をしてから、右手でCの形を作った指を口元に近づけて指笛を吹いて。
——吹いて。
吹いて。
吹いて……?
イリヤが指笛を吹く度に、
【プシュー】
と、空気が抜ける音が鳴り響き。
なかなか綺麗に指笛が鳴らず。
徐々にではあったが、イリヤの目がうるうると涙目になりつつあった。
「——分かった。イリヤの気持ちは痛いほど伝わったから、さ……。もう無理すんな」
「む、無理などしちょらん……」
声を震わせながら頑なに指笛を吹き続けるが、やはり綺麗に鳴らす事は出来ず。
憐れに思った俺は彼女が吹くタイミングに合わせて、気付かれないように、
【ピュー】
と、指笛を吹いてやった。
すると、左方の草陰からガサガサと草が揺れ動く音が鳴り。
そこから黒い物体が飛び出し、イリヤの腕の中に収まった。
- (4)第一話 〜久しぶりの登校〜 其の三 ( No.10 )
- 日時: 2012/06/13 22:36
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/5/
「や、やった! 成功じゃ!」
「おっ、おぉー! おぉ〜?」
突然の事で俺は驚いてしまったが……。
よくよく見てみると、ただの黒いチワワだった。
「ククク……。だから言ったではないか、吠え面をかく事になると……」
召喚に成功(ほぼ、俺のおかげだが……)して本来の調子を取り戻したイリヤが俺の呆けた姿を見て、不敵に微笑みながら見下して来る。
「まぁ〜確かに驚いたけどさ、チワワって……。せめて、地獄の門番ケルベロスって名前負けしないよう。——そこはドーベルマン辺りが妥当だろ」
「ドーベルマンなぞ、こわ——ゴホン、チンケではないか。チワワこそ高貴なる我に相応しい召喚獣よ」
「ああ、確かに……。地獄の門番どころか自宅の門番すら出来なさそうな所がお似合いだよ」
「ば、馬鹿にしよって……。八つ裂きにしてくれるわ! ——行け、ケルちゃん!」
「わん!」
イリヤの掛け声でケルちゃんこと黒チワワが彼女の腕から飛び出し。
こちらに向かってト「コトコ」と歩み寄って来た。
「ハァハァハァ」
と、どことなく獰猛そうな息遣いをしながら俺の事をつぶらな瞳で見つめるケルちゃんに少し気後れしたが……。
——めげずに立ち向かう事にした。
まず、初めに俺は中腰になってケルちゃんの事を凝視した。
ケルちゃんのつぶらな瞳に負けないよう目をずっと見続けてやった。
頃合いを見て、俺は徐に右手を差し出し。
「お手!」
「わん!」
「ポン」と、俺の右手に前足を乗っけてくれたのを見て。
続けざまに今度は左手を差し出し。
「おかわり!」
「わん!」
また、俺の左手に前足を乗っけてくれたケルちゃんに俺は……。
——俺はっ!
「——可愛いな、コノヤロー!」
頭を撫でたり、抱きついたり。
と、某畑さんほどじゃないけれど、それなりの熱いスキンシップをケルちゃんに施してしまった……。
「わ、我のケルちゃんがぁ!」
俺たちの熱い間柄に嫉妬したのか、イリヤが膝を着いて悔しそうに唇を噛みしめる。
「——はっはっは。ケルちゃんはお前じゃなく、俺を選んだようだ」
「ムムム……。こうなったら、奥の手じゃ!」
「……まだあるのかよ」
イライラしながらイリヤは懐から着痩せしていたにも程がある、枕ぐらいの大きさのツギハギだらけで目がボタンになっているクマのぬいぐるみを取り出し。
それを大事に抱きかかえたイリヤは、
「——Establishment of the soul(魂の定着)」
と、念を込めるように呟いた。
すると、イリヤに抱きかかえられていたクマのぬいぐるみが腕から飛び出し、独りでに「とぼとぼ」と歩き始める。
それを目の当たりにしたケルちゃんは怖気づいて俺の足元に隠れ。
俺もあまりの事に目を見開き驚いてしまった……。
ぬいぐるみが動いている?
でも、ただのパペットだろ?
何らかのトリックで動かしているに違いない。
クマのぬいぐるみが動く仕組みに悩んでいる俺の事を嘲笑うかのようにイリヤは俺の事を見つめていた。
——しかし、そんな優越感も束の間。
クマのぬいぐるみの動きが突然、止まってしまった……。
それを見てすぐにぬいぐるみを回収したイリヤはぬいぐるみを抱きかかえながら、こちらを見据える。
「ど、どうじゃ。恐れ入ったであろう?」
「ああ、恐れ入ったよ。どういう仕組みで動いてたんだ?」
「ちっちっち。それは秘密じゃ。何ならもっと凄い物も見せてしんぜようぞ」
誇らしげにそう語るとイリヤはぬいぐるみに耳打ちをし始める。
しばらく、その様子を見届けていると準備が整ったのか、イリヤが徐に口を開く。
「待たせたな」
【待ちゃせたな、下等ちゅ】
「は?」
今、ぬいぐるみがしゃべったのか……?
【我が主の力にビビっておるわぁ】
「そう言うでない。ベアトリーチェよ。我の偉大さがいけないのじゃ。偉大すぎるのも難儀じゃのぉ〜」
【ケラケラケラ】
「……」
何?
このしょぼいコントは……。
どうせ録音した音源を再生してるだけだろ。
それに出だし早々噛んでるし……。
はぁ〜。
驚いて損したわ……。
「なぁ〜イリヤ。——一つだけ聞きたい事がある」
「な、何じゃ?」
「お前……友達いないだろ」
「ぐっ……。お、おるわい! 友人の一人や二人、百人や千人。ワールドワイドに展開しておるわ!」
「そうか……。なら、携帯貸せ。ワールドワイドに展開しているぐらいなら携帯の登録件数はびっしりのはずだろ? まさか、ワールドワイドに展開している奴が携帯の一つも持ってないって事はないよな?」
「……承知した」
渋々ながら了承したイリヤは腕の裾から携帯電話を取り出して俺に投げつける。
それを受け取った俺はイリヤの携帯をイジって登録番号を確認する。
すると、自宅の電話番号と両親の電話番号らしきもの。
それと身に覚えのある電話番号の四つしか登録されていなかった。
「……こ、これで満足か」
身体を震わせながら呟いたイリヤの姿を見て。
俺は徐に自分の携帯をポケットから取り出し、勝手ながら赤外線通信を使用して連絡先を交換する。
「な、何をしておる!」
「いや、何となく、な……。——ほら」
連絡先を交換し終わったイリヤの携帯を彼女に向かって軽く投げ。
それをイリヤは受け取ると「本当に連絡先が交換されたのか」と、慌てた様子で確認し始めた。
「……シンドウ、シン?」
「ああ。それ、俺の名前な」
「まさか、彼奴の……?」
「ん? 何か言ったか?」
「いや、なんでもない。なんでもないぞ——シン」
「そうかい」
イリヤに名前を呼ばれ、薄笑いを浮かべていると、
【ゴーン! ゴーン!】
と、突然辺りに大きな鐘の音が鳴り響き。
その音に俺は堪らず額を押えてしまう。
「アチャ〜。予鈴が鳴ってしまった……。——おい、イリヤ」
「な、何じゃ?」
「それ、全部やるからさっさと教室に戻れ。もし、何か用事があるなら俺の携帯に遠慮なく掛けてこい。じゃ〜俺は行くから!」
少々忙しなくなったけれど、イリヤに別れの挨拶を告げ。
俺は摺木に頼まれたプリントの束を抱きかかえながら、生徒会室がある時計塔に向かって走り出した。
すると、後方からベアトリーチェの声で、
【あ、ありがとう】
と、言う言葉が微かに聞こえ。
——俺は思わず笑みを溢してしまった……。
- (1)第一話 〜久しぶりの登校〜 其の四 ( No.11 )
- 日時: 2012/06/14 23:23
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/6/
——時計塔内部。
初めて時計塔に足を踏み入れた。
石造りの壁伝いに古めかしい木製の階段が上層部へと続く、吹き抜けの空間。
大きな振り子が左右に「ゆらゆら」と動きながら時を刻んでいた。
俺は天を仰ぎながら、
「遠いなぁ〜」
と、弱音を吐きつつ階段を上り始めた。
一段、一段。
足を踏み込む度にギシギシとしなり、自ずと足場を確かめるようになる。
——これ、ホント大丈夫だよな……。
恐怖心を抱きながら一歩一歩、出来るだけ体重を掛けないよう上る事。
——数十分あまりが経過した頃。
ようやく最後の踊り場が見えてホッとする。
そして、赤いじゅうたんが敷かれた道を道なりに進むと前方に見えて来た、焦げ茶色の大きな両開き式の扉。
その上に「生徒会室」と木彫りされた物が飾っており。
扉の取っ手の部分が黄金に輝き、くすむ事無く、十二分に磨かれていた。
扉の前に立った俺は息を整えて、扉をノックしようとしたら中から、
「——なぁ〜いいだろ?」
「だ、ダメだって……」
「そう言いながら、お前——」
「ち、違うんだ。これは……」
「何が違うってんだ? ……ほら」
「——はぅ……。やめっ!」
「やめない。だって、こんなにも喜んでいるじゃないか」
「やめっ……。ホント、ダメだって……」
「ふ、息が荒いぞ?」
「そ、んな——事、ない」
「フフフ、正直な奴め……」
と、中から甘美な男たちの声が聞こえた。
えっと……。
うん、そういう世界もある、よな……。
俺は胸に手を置き、ゆっくり目を閉じて感慨深く頷いた。
その最中も中からは甘美な男たちの声が艶めかしく聞こえている……。
さて、どうしたものか……。
お邪魔するのもなんだし、ここは一度教室に戻るってのもありだな。
——うん、そうしよう。
気配を消し、気付かれないよう抜き足差し足忍び足で引き返していると、
「っ——はぁ〜、いい! そこぉ、いいっ!」
と、盛り上がっているのか中から大声で甘美な男のこ……。
——いや、息遣いの荒い艶めかしい女性の声が聞こえて来て。
俺は思わず足が止まってしまった。
……中では一体、どんなプレイが繰り広げられているんだ?
気になった俺は扉の傍まで戻り、状況を考察してみた。
——キャストは男二名、女一名の計三名。
そして、何らかの熱い宴が生徒会室の中で繰り広げられているって、所か……。
ふむ、ちょっとだけならいいよな?
うん、そうだ。これはいわゆる保健体育の……。
——そう、社会見学のようなものだ。
大切だよなぁ〜、社会見学は……。
学習のため、俺は音を立てないよう扉をゆっくり開け、その隙間から中を覗いてみた。
——決して下心で覗いている訳ではない事をここに誓おうと思う。
隙間からはソファーに腰掛ける、衣服が乱れ綺麗な淡茶色の長髪美人系女子生徒が見えた。
その女子生徒のたわわに実った果実を優しく包み込む、艶やかな包装が少し外れかかっており。
その水滴したたる瑞々しい果実がこぼれ落ちようとしていた……。
女子生徒はそんな事をお構いなしに荒々しい息遣いでブラウスの襟をくわえながら、舐め回すように下方に伸ばしている腕を艶美に動かす。
腕を動かす度に漏れる女子生徒の吐息がほとばしる中。
男たちのボルテージが上がった甘美な声が生徒会室に響き渡る……。
俺はその光景に瞬きをする事を忘れ、溢れ出て来る生唾を飲み込む事で精一杯だった。
——何て言うか、パッションの一言に尽きるな……。
しかし、女子生徒の姿は確認出来たが……声だけで男たちの姿が見えなかった。
なら、もう少しだけ、もう少しだけ扉を開け……。
——あっ。
欲張り過ぎたせいか、思いのほか力が入ってしまい扉がほぼ全開状態になった。
先方は夢中になり過ぎていて、まだこちらにお気付きになっていなかったが、俺はもう隠れミノが無くなった状態でさらされてしまっている。
やべ、早く隠れないと……。
——あれ?
俺はある違和感に気付いてしまった。
いや、気付かざるを得なかった……。
生徒会室にはソファーに腰掛ける、衣服が乱れ、たわわに実った果実がご自慢のワガママボディーの美人系茶髪女子しかおらず。
その少女は収納式の巨大モニターをとろける様な眼差しで見つめていた。
ああ、そういう事ね……。
カラクリが分かり俺は思わず、腕を組んで頷いてしまった。
その行動が油断大敵であった事は間違いなかった。
頷き終わった俺が前方に視線を戻したその時。
モニターの映像を恍惚な眼差しで見つめていた少女が感極まったあまり、艶やかな流し目を決め込み、その流れで俺と目が合ってしまった。
さすがの少女も俺の存在に気付いたのか、目を見開きながらこちらを二度見し、お互いフリーズしてしまう。
フリーズをしている最中もモニターの中で繰り広げられている男たちの熱い宴による甘美な声が生徒会室に木霊する……。
『……』
『……』
「……っん、はぁ〜。い——」
「続けるな、続けるな」
何事もなかったように……。
——いや、現実逃避のように己の欲に走った少女の事を俺は全力で制止にかかる。
その際、もつれてしまい。
俺がソファーの上に少女を押し倒したような構図が出来上がってしまった。
彼女の乱れた衣服から見え隠れする少し汗ばんだ柔肌。
そして、たわわに実った果実を少女が恥じらいながら両腕を駆使して隠そうとはしているが、逆にそれがアダとなり、果実が自己主張している。
鼓動を乱しているのか、彼女の吐息がほんのり朱に染まった艶やかな口唇から漏れる。
それを間近で、ほんの数センチの所……。
——真上から見下ろしている俺は彼女と目が合ったまま、お互いに何も語る事無く。
しばしの沈黙が続いていた。
すると、何を思ってか少女が果実を隠していた右腕を離し。
その人差し指で自分の唇に付けると、そのまま俺の唇にマスク越しからなぞる様に擦りつけて来た。
「——優しくしてね」
ウインクをしながら色っぽく発せられた言葉に俺は……。
——俺はっ!
- (2)第一話 〜久しぶりの登校〜 其の四 ( No.12 )
- 日時: 2012/06/14 23:25
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/6/
「——はぁ〜。服を直せ、服を……」
頭を掻きながら少女から身を引いて距離を取った。
少女は俺の言葉通りに乱れた衣服を正し。
モニターの映像を消した後に、この生徒会室の中で一際目立つ立派な机に向かい、何事も無かったかのようにゆっくりと腰を掛けた。
はぁ〜。
どっと疲れた……。
倒れ込むように俺はソファーに腰を掛けて、少し辺りを見渡す。
生徒会室って割に備品が充実しており、彼女が座った後方にはテラスがあり。
そこから下界の様子を窺えるようだ。
「——えっと、アナタは確か……高等部二年二組の新堂慎くんだったかしら? 麻耶ちゃんの幼馴染の……。——高等部一年三組にいる実妹の新堂杏ちゃんとの近親相姦が噂で他校との女子生徒も何人かを手玉に取り。日にち、曜日、天気、気分によって女の子をとっかえひっかえしている……」
おっとりした口調で少女は俺の顔をまじまじと見つめながら有らぬ事を言いだし始め。
「違うわい!」
俺は全力でそれを否定した。
「それはそうと……何で俺たちの名前を知っているんだ?」
「それはごく当たり前の事だと思いますよ。私はこの学園の全校生徒たちを統治する生徒会長ですからね。生徒会長たるもの、全校生徒の名前を把握しないでどうしますか。常に生徒たちの鑑であり続けなければなりません。生徒会長という職務はね……」
「……その生徒たちの鑑たる生徒会長殿はこの神聖なる生徒会室で先ほど一体何をご覧になって、一体何をしていたんでしょうな〜。——お答え願えますか?」
「——ほ、ホットヨガですわ。いやですわ〜。オホホホ……」
「全世界のインストラクターから苦情が来るぞ、おい」
まぁ〜ある意味、ホットな気分になるからあながち間違いでもない、か……?
そんな事を言っていると俺にまで飛び火するな……。
「それはそうと、新堂くんはどうして生徒会室に?」
「ん? ああ、これを届けに——」
ソファーから立ち上がった俺は摺木に頼まれたプリントの束を会長に渡し。
受け取った会長はプリントの束を見つめる。
「——報告書、ですか。どうして役員でもない、新堂くんが?」
「摺木に頼まれて……」
「麻耶ちゃんに、ね……。その麻耶ちゃんは役員としての仕事をほったらかして、どこに行ったのかしら?」
「えっと……とある男子生徒から没収した品を持ってどこかに消え——あっ」
「?」
俺は話の途中で目に付いた、会長の後方に広がる景色に注目してしまった。
そして、徐にテラスに出て。
手すりに沿って進み。
部屋の中から気付いたあるモノを凝視する。
それは校庭がある方角からボヤのような黒い煙がもくもくと放出されている事である。
その光景を目の当たりにした俺は自ずと親指を噛んでしまい。
しばらくそれを見つめていると、俺の肩を「ポン」と叩き、背後から会長が現れた。
「どうかしたの?」
「いや、何でもない」
「そう? でも、少し物寂しそうな表情を浮かべているけど……」
「いや……ホント、何でもない」
「ふむ。だけど、おかしいわね。——今日は焼却の日じゃないのに……誰か使っているのかしら?」
会長もあの光景に気付いたのか、煙を見つめながら首を傾げていた。
——はぁ〜、焼却処分されちまったか……。
同志たちよ、すまない。
お前らの気持ちはしっかりと俺の胸に響いているぜ……。
少し気落ちしてしまった俺は徐に視線を下界に向けた。
すると、黒い服装の人物とジャージ姿の人物が中庭におり、ジャージ姿の人物が黒い服装の人物に指さしながら何か指示をしていた。
その指示に渋々ながら従う黒い服装の人物が滑稽で少し笑ってしまう。
「何かおかしな事でもあったの?」
「ただの思い出し笑いだ。そういえば、摺木の事を『麻耶ちゃん』て、呼んでいるが……そんなに仲がいいのか?」
「仲が言いも何も、会長と副会長の仲ですからね。それなりにコミュニケーションは取れている方だと思いますよ」
「え? アイツ、副会長だったのか? いや、アイツならそれぐらいの職務を請け負っていても不思議じゃない、か……」
「フフフ。——よく見ているのですね」
お上品に口元を隠しながら微笑んだ会長に俺は照れ隠しの要領で頭を掻いた。
——ったく、余計な事を言ってしまった……。
「たまたまだ。たまたま……。それにアイツのデキならやっていてもおかしくないと誰でも思う事だろ?」
「ふむ、そういう事にしておきましょう」
俺の弁解も虚しく、会長は手を合わせて微笑みながらそう口走った。
はぁ〜。
これは明らかに誤解されてしまったよなぁ〜。
少し陰鬱ながら俺は摺木の頼まれ事を無事済ませ。
もう用がなくなった生徒会室を出ようと、出口に向かって足を進めていると、
「あら? もう行くのですか?」
後方からまったりとした口調で会長に声を掛けられた。
「もう授業が始まってるだろうから、早く戻らないと——って、会長こそ教室に戻らなくてもいいのか?」
「私は生徒会長ですから大丈夫です。それぐらいの優遇をされても罰は当たらないでしょ?」
「……職権乱用だろ」
彼女の発言に額を押えたが、生徒会長の特権に少し嫉妬してしまった……。
「ああ、そうそう。まだ、しっかりと自己紹介していませんでしたね。私は高等部三年一組——望月愛莉(もちづきあいり)です。ふつつか者の生徒会長かも知れませんけれど……共にこの学園を良くして行きましょう。——新堂慎くん」
思い出したかのように突然、微笑みながら自己紹介すると会長は徐に俺の手を握って来て、軽く握手をする形になった。
——って、俺は先輩に向かって終始タメ口を使っていたのか……。
でも、あの光景を目撃してしまったら先輩だろうとタメ口になってしまうよな……。
今度から気を付けないと……。
まぁ〜、会う事があったらの話だが……。
「それともう一つ——」
人差し指で一と示した後、不意に会長は俺に抱きついて来た。
突然の事でどうしたら良いか分からず、俺はそのまま会長に身を委ねる。
「先ほどの事は——二人だけのヒ ミ ツですよ」
俺の耳元に会長の吐息がダイレクトに掛り、その反動で俺の鼓動が高ぶる。
耳打ちを済ませた会長は俺から身を引き「二人だけの秘密」と言う事を強調したいのか、徐に人差し指を自らの口元に近づかせて「シ〜」と見せつけた。
会長の一挙一動にドキマギしながらも彼女がふっかけて来た願いの返答……。
——と、言えば返答かも知れないが俺は会長に、
「了承した」
と、敬礼で示し。
生徒会室を後にした。
——もちろん、あの恐怖の階段を下らなければならない事は言うまでもないが……。
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