コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 白銀の小鳥Form of the love【短編集】
- 日時: 2016/11/16 20:07
- 名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: VhCiudjX)
- 参照: http://mypage.syosetu.com/460035/
こんにちは!
あんずと申します。
今回は短編集……といっても、
中編と短編が混ざっている形となります。
1話完結もあり、2・3話完結もありです。
タイトルは『白銀の小鳥 Form of the love』、
意味は『白銀の小鳥 愛の形』です。
1話完結は好きなので、
ちょこちょこ頑張っていきたいです。
──‥*※attention※*‥──
○荒らし・ナリス・エロ系はすぐにご退場ください。
○誹謗・中傷コメは止めてください。
応援コメ、感想コメ、批評は大歓迎です。
○更新はのろまです。
一ヶ月放置はお手の物…((
○筆者は学生です。
急かしコメはご遠慮ください。
○誤字脱字、意味不明な文章があったら、
指摘してくださると嬉しいです。
よろしくお願いします。
──‥*※ guest ※*‥──
○チャルトン様
○瑞咲様
○なぎさ様
○アネット様
○朔良様
○御子柴様
○珠紀様
○村雨様
○火矢 八重様
○葉月様
○オレンジ様
○たまのり。様
○まよまよねーず@様
○美奈様
○蒼螺様
○子供様
○シア様
○いろはうた様
○MiRmin様
○杏月様
○はるた様
○紗悠様
○占部 流句様
○COCO様
○流々様
○みもり様
○芋様
○詩織様
──‥*※contents※*‥──
>>000 ご挨拶
《序章》物語が始まる前に
>>003
《本編》本日の物語は…
Episode1>>008 Episode2>>010 Episode3>>021
Episode4>>032-034 Episode5>>060-062
Episode6>>076 Episode7>>077 Episode8>>078-080
Episode9>>085 Episode10>>091 Episode11>>098
Episode12>>104 Episode13>>108 Episode14>>124
Episode15>>125 Episode16>>127-129 Episode17>>132-133
Episode18>>135 Episode19>>143-144 Episode20>>151-152
Episode21>>157
《シリーズ物》
Episode3- 「君と空の色」
>>021 (予定)
《詩》
「拝啓 愛しき君へ」>>028
「それでも僕は」>>042
《歌詞》
白銀の小鳥 Form of the lloveイメージ歌詞
「小鳥のお話」>>046
《愛とあんずの小話》
>>043
──‥*※character※*‥──
愛…全話共通の、お話の語り部。
森の奥の綺麗な小屋に住む、
白いワンピースの心優しい少女。
紅茶が好きで、一人本を読んでいる。
“お客様”に物語を朗読して過ごしている。
──‥*※special project※*‥──
未定
──‥*※news※*‥──
2014年3月10日 スレ立てました。
2014年3月13日 参照100突破しました。(感謝です!)
2014年3月24日 参照200突破しました。(驚き…。)
2014年5月6日 参照400突破しました。(感動しました←)
2014年5月28日 参照500突破しました。(更新速めたいです…)
2014年6月8日 参照600突破しました。(近々更新予定!)
2014年6月17日 参照700突破しました。(そろそろ更新かと…)
2014年7月15日 参照1000突破しました。(嬉しさよりも驚きが…)
2014年10月6日 参照1600突破しました。(更新遅くてすみませぬ)
2014年11月9日 参照2000突破しました。(携帯復活)
2014年11月24日 参照2500突破しました。(近日更新予定です)
2014年12月1日 参照2700突破しました。(今年も寒い冬が…)
2015年1月8日 参照3400突破しました。(今年もよろしくです)
2015年1月26日 参照4000突破しました。(感謝感激です)
2015年2月14日 参照4400突破しました。(久々の投稿です。)
2015年5月15日 参照5500突破しました。(亀更新。)
2015年6月26日 参照6000突破しました。(久々の更新!)
2015年10月1日 参照7000突破しました。(ありがとうございます)
2016年1月18日 参照7600突破しました。(お久しぶりです…!)
2016年4月5日 参照8200突破しました。
2016年4月7日 皆さんにお知らせ
──‥*※special news※*‥──
小説カキコ小説大会2014年冬にて、
4位入賞をしました!
ありがとうございますm( _ _ )m
気まぐれ更新ですが、
楽しんでいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
現在、新短編集にて白銀の小鳥のリメイクを企画しております。
上記URLよりどうぞ。
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- Re: 白銀の小鳥Form of the love【短編集】 ( No.132 )
- 日時: 2015/05/17 02:12
- 名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: LHB2R4qF)
《本編》
Episode17 微笑む彼に花束を
……あら?お久しぶりですね。
ふふ、もう暑いでしょう?
この森も木々が青々としてきました。
今日はハーブティー……お好きですか?
お庭に良い香りのハーブがあったんですよ。
では、本日の物語を読みましょうか。
本日の話は、過去を懐かしむ女性の話。
長く長く果てしない日々の中で、彼女が知ったこと。
「微笑む彼に花束を」
それでは始まり、始まり。
〔character〕
ティナリア・フォーンブルー
ルードヴィー・ノルドント
——‥*※*‥——
それはもう、遠い遠い昔の思い出。
閉じた瞼の裏に浮かぶのは、月の光。
夜の静けさ。微風の音。
夜空を映す、青く澄んだ湖。
手を重ねて笑う二人の影。
——彼は、知っていただろうか。
この長く果ての見えない一生を彩ったのは、紛れもなく彼との出会いだったことを。
ただ淡々と過ぎていく日々が意味を持ったのは、彼がいたからだということを。
今からでも遅くないのなら、振り返ってもいいだろうか。
幼き日に置いてきた、あの淡い思い出を。
——‥*※*‥——
吸血鬼。
その存在を知らない者は、少なくともこの世界ではいないだろう。
実際に見たことはない人間でも、その存在だけは知っている。
夜なかなか寝ない子供に、どこの家の母親も同じことを言い聞かせるのだ。
“早く寝ない悪い子は、吸血鬼に血を吸われてしまうのよ”と——。
多くの人間は、吸血鬼を夜に行動する恐ろしい魔物だと思っている。
その姿は黒く、目が覚めるほど美しく、血を吸われたならその人間もまた吸血鬼なると。
吸血鬼も敢えてそれを否定しない。
お互いに交わらないのが、両族の関係だったからだ。
今までも、これからも。
それなのに私は、優しく笑う人間の貴方に。
————確かに、恋をしたんだ。
——‥*※*‥——
始まりは、ただの好奇心だった。
吸血鬼は人間と関わらないために人里を嫌う。
だからこそ辺境の田舎や山奥、雪に閉ざされた地などの閉鎖的な場所に住んでいることが多い。
私の暮らしていた場所も、麓に人里のある山の奥だった。
吸血鬼は群れを作らないので、近くに歳の近い同族もいない。
「お父様、なぜ人間と遊んではいけないの?」
麓から祭りの音や人々のざわめきが聞こえる度、私は父と母を困らせた。
私が問えば、両親は頭を優しく撫でて誤魔化す。
だからこそ、不満だった。
毎日毎日、日が昇って暮れるのを繰り返すだけ。
麓の人間たちはあんなに楽しそうなのに。
ある日、私は一つの行動を起こした。
一週間に一度、両親が出掛ける日に私は家を飛び出したのだ。
ひどく単調な、つまらないだけの日々。
吸血鬼の寿命は人間とは比べ物にならない程長い。
だから私は『違うもの』を求めた。
淡々と流れる日常を彩る『何か』を。
——‥*※*‥——
「……少しだけ、少しだけよ」
自分に言い聞かせるような呟きながら、こそこそと歩く。
ここまで飛んできた羽がちゃんと仕舞ってあるかを何回も確かめて、人里を覗き見た。
そこは広場なのか、たくさんの子供がいた。
小さな子供から比較的年頃の子供まで。
集まって談笑する子供もいれば、走り回る子供もいる。
今まで他人を知らなかった私には衝撃だった。
じっと、遊ぶ人間たちを見る。
それだけでドキドキして、私は全く周りが見えなかった。
「君は遊ばないの?」
突然に聞こえた声に、体が大きく反応した。
人間から声をかけられたことに私は動揺する。
ばっと振り向くと、そこには美しい男の子供がいた。
淡い金髪に、深い翠色の瞳。透き通るような白い肌。
明らかに質の良さそうな服は、育ちがいいことを連想させる。
思わず見惚れてしまうほどに綺麗なその子供は、私をじっと眺めた。
「君はきぞく、なの?」
その言葉の意味がわからなくて、思わず首を傾げる。
彼も同じく首を傾げた。
「こっちで話そうよ」
私の手をとると、返事も聞かずに彼は歩き始めた。
他の人間達がいる広場から、少し離れた場所で止まる。
「ねえ、君はきぞく、なの?」
彼は確かめるように問う。
『きぞく』とは一体何なのか。
それが分からない私は答えようがなかった。
「あ……僕、ルードヴィー・ノルドンドって言うんだ」
彼は私が訝しげな顔になったのを何か勘違いしたのか、
おろおろと自己紹介をした。
「私、ティナリアよ」
吸血鬼は家名を名乗らない。
基本秘密主義が多い吸血鬼は自身を教えることを嫌う。
「……君は、どこに住んでいるの?」
質問を変えて子供、ルードヴィーは話しかける。
少し迷ってから山を指さすと、彼は首を傾げた。
「山……?君は、きぞくではないってこと?」
彼はまた問う。
質問の意味がわからなくて、つい口が滑った。
「私は、吸血鬼よ」
——‥*※*‥—
その後、目を見開く彼に沢山の事を話した。
今思えば、私は危険なことをしていたと思う。
吸血鬼を恐怖の対象として見る人間に、吸血鬼の現状をべらべらと話していたからだ。
吸血鬼が昼も活動し、今では血も吸わないと聞くと
彼は感心するように頷いた。
……変な人間ね。
吸血鬼のことを話して怖がったり、気味悪がったりしない人間がいるものなのか。
それに彼は、あっさりと信じる。こちらが不安なるほどに。
「本当に君は吸血鬼なんだね?」
こくりと頷くと、彼もまた頷く。
その頃には日が暮れかけていて、私は帰らなければならない時間だった。
「じゃあ、さようなら」
人里に降りて、こんなに人間と話すとは思わなかった。
父と母に怒られないうちに帰らなければ。
「また会えるかな」
羽をだそうと立ち止まる私に彼は問う。
「きっと会えるわ」
そんな保障はないのに、何故かそう思った。
羽を出して飛ぶと、彼は怖がらずに笑った。
それが私と彼の出会い。
彼と私が八歳の時だった。
——‥*※*‥——
- Re: 白銀の小鳥Form of the love【短編集】 ( No.133 )
- 日時: 2015/05/17 03:44
- 名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: LHB2R4qF)
——‥*※*‥——
それからは何回も暇を見つけては里へ降りた。
そのうちに『きぞく』とは人間の中の階級であること、
彼はこの地を治める『伯爵家』の長男であることを知った。
好奇心が好意に、親愛が恋心に変わるのは容易かった。
優しく笑う彼。大人びていく彼。
——私は、恋に落ちた。
「ルー!」
私が呼べば、彼は振り向く。
成長して大人びた彼は、里でも伯爵家長男として慕われていた。
容姿端麗、学業優秀な彼は数々の令嬢からの注目の的だという。
「ティナ!久しぶりだね」
彼が愛称で呼んでくれると、心が騒ぐ。
決して叶わない恋心は深く沈めて、それでも彼に笑う。
知らなかったことを彼は沢山教えてくれた。
里で友達も数人出来た。
それでもどこか、埋まらない心の虚無感。
私と彼が共にいられるのはあと少しだった。
彼は婚約が決まっている。
お互いに十七になった私達は、離れていく。
相手は侯爵家といって、彼よりも上の家柄らしい。
伯爵家は次男が継ぎ、彼は王国の中心部にあるという
侯爵家へ婿入りすると聞いた。
——彼は遠くへ行ってしまう。
その日が来るのが怖くて、彼がいなくなってしまうのが辛かった。
それでもその日は着々と近づいて来る。
彼が遠くへ行く日が、近づいて来る。
「ティナ、良い所に連れて行ってあげる」
彼が出発するの日の前夜。
彼はいつも通り笑って私の手を引く。
私は何故かそれを寂しく感じていた。
村から少し離れた場所まで走る。
しばらくすると森が開けて、そこにあったものに息を呑んだ。
「……綺麗」
目の前に広がるのは、満月で照らされた青い湖。
星が映り込み、空が落ちてきたようだった。
「ね、素敵な場所だろう?」
彼が湖畔の草むらへ腰を下ろす。
その隣に私も座る。
しばらくの沈黙があった。
ぬるい微風がさらさらと音をたてて頬を撫でる。
星が、月が、夜空が彼の瞳に映る。
「ねえ、ティナ」
沈黙を破ったのは彼の声だった。
落ち着いた低い声が、無性に寂しく感じる。
「好きだよ、ティナリア」
彼のそんな言葉は、驚くほど自然に胸に流れた。
不思議と心は穏やかで、戸惑いもなかった。
それはこれが、叶わない想いだと分かっていたからだろうか。
「私も好きよ、ルー」
その言葉は夜の静けさに響く。
彼が微笑んだ気がした。
大きな手のひらが頭を優しく撫でる。
そのまま、また沈黙が広がった。
いつのまにか彼は隣から消えていた。
言い知れない虚無感を抱きながら、私は家へと帰る。
多分これが、彼との今生の別れなのだろうと思った。
その日は、彼と過ごした日々の夢を見た。
——‥*※*‥——
翌日、当たり前のように彼はいなかった。
私もそれを受け止めた。
あれだけ怖かった『彼がいなくなる日』は、
来てしまえばすぐに受け入れることができた。
ただ、心に穴が開いたみたいに空っぽだと感じる。
彼と出会う前より空虚になったと感じる。
涙は、出なかった。
それでも、これでいいのだと思えた。
思いを伝えることができたのだから。
吸血鬼は二十を過ぎると成長が遅くなる。
人間の百年が吸血鬼の一年と同じくらい。
私は二百歳の時に吸血鬼の男性と結婚した。
その人は優しくて、私もその人を愛している。
幸せだったのだと思う。
彼がいなくなってから感じていた心が、満たされていくようだった。
子供も生まれた。可愛らしい女の子と男の子。
言葉にできない喜びだった。
四千年の時が過ぎた。
愛した夫は既に他界し、かわいい娘と息子も今では家庭を持っている。
必然的に、一人で考える時間が多くなった。
私は『彼』を思い出す。
あの頃に感じていた虚無感は、もうどこにもない。
幼き日の恋心は、今では優しい思い出だ。
それでももう一度、彼に会いたいと願う。
今度は素敵な友人として。
そんな日々を繰り返す。
気づけば私は、子供たちに見守られて病床にあった。
それでもやはり閉じた瞼の裏に浮かぶのは、あの日の湖。
私は薄情な吸血鬼だ。
愛してくれた夫より、幼き日の彼の方が頭に浮かぶ。
——いつかまた、彼に会えるだろうか。
今度は人間として。
叶わなかった思いが届くような関係として。
永遠に近い間、流れることのなかった涙が流れた。
結局私は、彼がいなくなるのが辛かったのだ。
「お母様!」
それでも私は幸せだった。これだけは言えるだろう。
娘と息子が、私のために涙してくれるのだから。
彼は幸せになっただろうか。
そんなことを思っていると、思考が暗く染まっていく。
暗く、暗く、暗く————……
そして何もかも、聞こえなくなった。
——‥*※*‥——
「幸せじゃない瞬間も含めて、
幸せだと思います。」
違う時の流れを生きる者。
あなたはこのお話が、幸せな物語だと思いますか?
それとも——不幸な物語だと思いますか?
出会って、惹かれ合い、別れ、涙する。
それでもその悲しみの中に、次の幸せへの鍵があるのなら。
彼女は少しでも、幸せだったのではないでしょうか。
それでは、今回はここまで。
また次回、お会いしましょう。
《引用:藤原基央》
- Re: 白銀の小鳥Form of the love【短編集】 ( No.134 )
- 日時: 2015/06/26 10:38
- 名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: sCSrO6lk)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode
……お久しぶりです!
あんずです。
またまた一ヶ月更新なし…申し訳ないです。
書き上がり次第投稿します故、もう少しおまちくださいー!
で、何をしに来たかというと。
参照6,000突破しました!
更新してないのに覗いてくださる方、間違えてクリックした方も!
本当にありがとうございます(´;ω;`)
次のお話は急いでお届け出来るよう頑張りますので、
どうか見捨てずにおねがいします←え
それでは!
- Re: 白銀の小鳥Form of the love【短編集】 ( No.135 )
- 日時: 2015/06/28 12:07
- 名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: MGNiK3vE)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode
《本編》
Episode18 図書館の微睡みに誘われて
まあ、いらっしゃいませ。
お久しぶりですね。
ええ、外が暑くて大変だったでしょう。
冷やした紅茶を用意しました。
すっかり虫達の鳴き声も大きくなりましたね。
では、本日の物語を読みましょうか。
本日の話は、微睡みのお話。
何かが始まるかもしれないし、始まらないかもしれない。
そんな予感の物語。
「図書館の微睡みに誘われて」
それでは始まり、始まり。
〔character〕
僕 (君)
彼女 (月)
——‥*※*‥——
僕が図書館へ行くと、彼女はいつもそこにいる。
声をかけて席に付けば、彼女は顔も上げないまま挨拶をしてくる。
窓辺の日の当たりのいい席で、細かな活字を目で追いながら。長い黒髪をひやりとした冷房の風に遊ばせて、眠そうな目をさらに細めて。
小さな町の寂れた図書館。
ここに毎日のようにいるのは僕と彼女、それから近所のお年寄りくらい。
だから僕と彼女は、いつのまにか顔見知りになっていた。
だけれど僕は、彼女の名前を知らない。きっと彼女も、僕の名前を知らない。
話すことはない、けれど挨拶はする。
それは遠くもなく、近くもない間柄。
不思議な距離が、僕達の間にあった。
それはまるで、春の微睡みのように淡い距離だった。
——‥*※*‥——
照りつく太陽、そこから零れ落ちる光。
その光は冷たい雫のように輝いていているのに、空気はじっとりと蒸し暑い。
茹だるような暑さの中、額に汗を浮かべつつ通い慣れた道を進む。陽炎でも見えてきそうな暑さ。
このまま溶けるのではないかと、割と本気で考えた。
坂道を一気に上って、見えてきたコンクリートの寂れた建物に、僕は思わず息をつく。
汗を拭いながらに大きなドアを押し開けると、冷房によって冷やされた空気が肌を冷やした。
何百冊、何千冊という数えきれないほどの本の匂い。
人が疎らなここは、ただ本の多さとその匂いで満たされている。
そんな図書館の一角。
読書スペースの一番端、勉強スペースも兼ねているのか区切られた部屋。
日の当たりがいいから本棚はないけれど、ここでも自由に本を読める。
その部屋の窓辺に、やっぱり彼女がいた。
流れるクセのない黒髪に、本を熱心に追う黒曜の瞳。
ページをめくる白い指、進んでいく白い本。
彼女は白と黒が眩しい、綺麗な女の子だ。
「おはよう、今日も早いね」
いつもと同じ言葉、いつもと同じ動作。
そんな僕の言葉に、彼女も同じように目を細める。
細かい活字を目で追いながら、僕の顔を確かめることなく言葉を紡ぐ。
「おはよう……君も、早いね」
綺麗な澄んだ声は、どこか空白だ。
彼女はいつだって本に夢中で、僕はそれを眺めつつ問題集を開いた。
何だかんだ大学受験を控えた身としては、この空間はありがたい。静かな空間、彼女が本をめくることで生まれる適度な音。
だけれど、彼女も同い年のはずなのに、本当に勉強は大丈夫なのだろうか。
いつだって本を読む様子に焦りはない。
もしかして受験をしないのかと思うけれど、見たことのある彼女の制服は近くの進学校のものだ。
不思議な存在。それが僕から見た姿だった。
——‥*※*‥——
そのまま勉強に没頭していると、不意に肩を叩かれる。
驚いて思わず肩を震わせると、相手もびっくりしたらしい。少しだけ後退る気配がした。
誰かと思って振り返って、更に驚いた。
だってそこにいたのは、普段なら話さない彼女だったから。
普段ならお互いに合わせることもない、彼女の黒曜のように濡れた瞳が、僕を映している。
いつもは眠たげな目だって、今は戸惑い気味に眉が下がっていた。
「あ……今日は短縮時間で、もう閉館だよ」
その澄んだ声に、空白は見つからない。
いつもの本に夢中の上の空ではない。それは紛れもなく、僕へ向けた意志のある言葉だった。
そういえば、と彼女の言葉で思い出す。今日は短縮時間だから早く閉まるのだったっけ。
「教えてくれてありがとう……ええと、いつもここにいる子だよね」
彼女のことをどう呼べばいいのか分からなくて、変な言葉になってしまう。
いつもここにいる人なんて、僕と彼女くらいなのに。
彼女もそれが可笑しかったらしく、くすりと笑った。
笑った顔は見たことがなかったけれど、やっぱり綺麗だ。
「私のことは月って呼んで。ニックネームだから」
月。
彼女のニックネームだというその言葉を、声に出さないで舌で転がした。
柔らかな響き。彼女にぴったりだと、漠然と思った。
「じゃあ、僕のことは……どうしよう」
彼女だけが名乗るのはおかしいと思ったけれど、僕には別にニックネームはない。
思い浮かばずに言葉を詰まらせると、彼女は吹き出した。
「ふ、ふふ……っ、面白い人だね、君は」
しばらく笑い続けられると、僕は恥ずかしくなってきた。
それを感じ取ったのか、彼女は笑うのを止めてこちらを見る。
その真剣な瞳に、思わず吸い込まれそうだ。
「じゃあ君のことは、君って呼ぶよ。私だって、本名とは全く違うニックネームだしね」
彼女はそう言い残すと、軽やかにかけて行く。
通り過ぎた彼女からは、女の子らしい柔らかな匂いがした。
駆けていく彼女の背中を見ながら、耳に残っている言葉を呟いてみる。
すれ違いざまに聞こえた言葉。
多分それは、聞き間違いではないと思う。
「……また明日、ね」
彼女が見えなくなると、図書館の門を出た。
すっかり日が沈むのが早くなった空は、絵の具を垂らしたような紺色。
初冬の澄んだ空気に、星が鮮やかに浮かんでいる。
空にはちょうど綺麗な三日月。彼女に似合う夜だと思った。
帰り道をたどりながら、彼女とのやりとりを思い出す。
いつもとは違う、今日はなんだか特別な日。自然と足取りも軽くなった。
今日は少しだけ奮発して、美味しいものでも食べようか。
それとも、少しだけテレビでも見ようか。
明日の図書館が楽しみだった。
明日の朝、僕と彼女はどんな言葉を交わすのだろう。
彼女の名前は、まだ知らなくていいかな。
いつかきっと、知る時が来ると思いたいから。
それはいつもとは少しだけ違う日。
これから何かが始まるような——そんな特別な予感と共に。
三日月の綺麗な冬の夜は、ゆっくりと朝へと近付いていった。
——‥*※*‥——
「運命の中に偶然はない。
人間はある運命に出会う以前に、
自分がそれを作っているのだ。」
それは多分、偶然ではないお話。
話さないし、名前も知らない。
けれど挨拶もするし、お互いを知っている。
そんな不思議な距離感で、何かが変わるかもしれない。
きっと、変わり始める。
図書館は、不思議な雰囲気があります。
何年もの間、人に読まれ続けてきた本たち。
それが今、自分の手の上にあると思うと私はたまらなく嬉しくなります。
あなたは、そんな一冊に出会ったことはあるでしょうか?
それでは、今回はここまで。
また次回、お会いしましょう。
《引用:ウッドロウ・ウィルソン》
- Re: 白銀の小鳥Form of the love【短編集】 ( No.136 )
- 日時: 2015/06/29 22:06
- 名前: 詩織 (ID: TtFtbd5q)
>あんずさん
詩織です。(「はじまりの物語」)
コメント、ありがとうございます!
ほんとに嬉しいです。
小説書くの自体がはじめてなんですよー。
憧れてはいたんですが、なかなか挑戦できず。
学校の国語の授業でちょろっと書いてみたくらいです^^;
読むのは大好きなんですけどね。
なのでめちゃくちゃドキドキしながら書いてました。
素敵な感想いただけてホッとしてます。
あんずさんの文章もとても綺麗ですね!
短編も面白いなぁって感動しました。
まだ読み途中ですが、「君と空の色」が好きです。
色んなシチュエーションを書きこなしててすごいなぁ。
またじっくり読ませて頂きますね。
楽しみにしています。
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