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少年(仮)真白と怪物騎士団【イラスト公開】
日時: 2015/04/07 23:40
名前: 妖狐 (ID: ET0e/DSO)

※参照500記念 予定企画『真白&イケメン様のイラスト描きます!』

■あらすじ
 決して目立つことのない地味系女子高生、真白(ましろ)は、ある日、何者かによって池に落とされてしまう。
 そこで死を覚悟したが、なんと池の奥は妖怪の住む世界へと繋がっていた!
 しかもなんとそこは『女人禁制である怪物騎士団』の領地だった。
 女だとバレれば即、首をはねられてしまう真白は男と偽るが……!?

 甘く残酷な世界で、嘘から始まる異形たちとのドキドキライフ!

■目次 
【序章】
  >>01 
【第一章】 
1/妖怪はすぐ隣に>>02 2/暴君なイケメン>>03 3/抑えきれない恐怖>>09
4/異色なる生物 >>16 5/甘く残酷な王様>>19 6/命を賭けた試合 >>20
7/強くなりたい >>21 8/目覚める力  >>22
【第二章】

【その他】
4/7 参照500突破 イラスト公開>>27

■主な登場人物
 真白(ましろ)/平凡な女子高生
 名前不明/暴君のイケメン
 ケケ/気の良いの妖怪
 明(めい)/騎士団の団長
 鈴蘭すずらん/明が大好きな青年のお付き
 
 その他/河童や天狗、妖怪の類。

■作者紹介
 はじめまして、あるいはまたお会いしました。妖狐と申します。
 今作で九作品目となります!
 異形が大好きです。よければ一度くらい見てみたいなとは思いつつも、本当に見てしまったら恐ろしいかもしれないとへっぴり腰でございます。
 よければ気ままにお付き合いください(^◇^)

■読者様(コメントをくださった方)
 ひよこ様
 黒山羊様
 朔良様
 錦歌赤兎様
 スミレ様

 
■執筆作品
銀の星細工師
【短編集】今夜はデザート日和
救世主はマフィア様!?         
吸血鬼だって恋に落ちるらしい     
ラスト・ファンタジア         
神様による合縁奇縁な恋結び!?    
僕等の宝物の日々〜君が隣にいるから〜
笑ってよ サンタさん!       

それでは本編へレッツゴー!

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Re: 少年(仮)真白と怪物騎士団【更新再開!】 ( No.18 )
日時: 2015/03/19 16:06
名前: 妖狐 (ID: 4mXaqJWJ)

スミレさん>

 こんにちは(^◇^)

 押し倒されました/////
 これからの展開は私が一章で特に書きたかったシーンなので、楽しみにしてくださると嬉しです(#^.^#)

 お話なんて、インスピレーションですよ!
 私も書けないときは、本当に書けません。というか、書こうとするほどかけません。学校の帰り道とか、お風呂に入っているときの方が意欲が湧きます!
 私が初めて書いた話なんて、ファンタジーの王道冒険ものだったんですが、人様に見せられるものじゃありませんでした(>_<)汗
 楽しんで書けるのが一番ですね。

 受験に試験、お疲れ様でした<(_ _)>
 私も終わりましたよ!
 春休みでゆっくり休みましょう♪

 コメントありがとうございました。
 頑張ります(●^o^●)
 

Re: 少年(仮)真白と怪物騎士団【更新再開!】 ( No.19 )
日時: 2015/03/19 16:09
名前: 妖狐 (ID: 4mXaqJWJ)

「めい……様?」
 私は耳にした目の前の男の名前を呟いた。彼は子犬のような人懐っこい顔をして微笑みを浮かべる。
「明でいいよ、真白」
 私はぎこちなくうなづいた。先ほどから胸がうるさいほど高鳴っている。金髪の柔らかい髪に翠色の瞳は魅惑的で一心にこちらを見られているのかと思うと、急に恥ずかしくなった。馬乗りにされている体勢もそろそろ解きたい。
 起き上ろうと体を動かすと、明はうっとりとした雰囲気を消して現実に戻ったかのように立ち上がった。
「ごめん、つい勢いで襲ってしまうなんて。痛かったかな?」
 困った顔で謝る明に私は慌てて首を振った。こんな優しそうな人がここのトップだなんて信じられない。ケケが近づけないほどの妖気を発しているはずなのに、怖い雰囲気は微塵も感じられなかった。
「ここまで連れてきてくれてありがとう、ご苦労だったね」
 明は私を助けてくれたイケメンに笑いかけた。彼は今、目の前で起こったことに驚いた顔をしながら私達に冷たい視線を送る。
「おい、お前ら分かっているのか? 男同士で抱き合うなんて気色が悪すぎる」
 ひどく嫌そうな口調を聞いて私は我に返った。そうだ、私は男と偽っていたんだ。少女漫画の主人公にでもなったかのような気分で心をときめかせていた私は、途端に羞恥が湧いてきた。
 恥ずかしい。明は男に接する気持ちで来ていたと言うのに、私は乙女のような気持ちだった。駄目だ、勘違いにもほどが過ぎる!
「別にいじゃないか。私は真白を気に入ったのだから」
「だからって抱きつくな。気色の悪いものを見せられたこちらの身にもなれ」
 二人が言い合っているうちに、私は自分が男なのだと言い聞かせた。明はスキンシップが過剰なだけなのだろう。私が女だと思っていないからこんなにも親しく接してくれたんだ。この騎士団じゃ女だとバレれば即、首が飛ぶ。忘れないようにしなくちゃ。
 私は心に刻み込まれた恐怖を思い出す。でも、もう最初の頃のような強い恐怖は無くなっていた。明なら私を殺そうとなんてしないはずだ。
 安堵に胸をなでおろしていると、急に伸びてきた手に髪を優しくなでられた。
「ふふ、綺麗な髪だね。艶やかで黒曜石みたいな輝きだ」
「う……あ……」
 驚きでつぶれたカエルみたいな返事しかできない。いきなりの行動に先ほどの戒めを忘れそうになった。
 他の女性だったら、一発で惚れていただろう。でも私は男なのだからドキドキなんてしちゃいけない。しちゃいけない……。
「そんなにたじろいで、真白は可愛いね」
 ドキドキしちゃうでしょ! 私は胸を押さえて苦笑を浮かべた。
「そ、そんなことないですよ、お世辞にもほどがあります。私……じゃなくて、僕なんてその辺に生えている雑草と同じですから」
「雑草は自分を卑下しすぎだろう」
 イケメンが呆れた視線を向けるが私は事実だと思っていた。何の取り柄もなく、人生でほめられた経験も皆無な私は雑草で十分だ。つい数時間前にブスと言われフラれたのだし。
 ふと、痛いほどの視線を感じて振り返ると、一人の青年がこちらを見ていた。まだ若くてつり目が印象的な妖怪だ。この視線を私は知っている。彼から咄嗟に視線をづらして手を握りしめた。冷や汗がうっすら浮かんでくる。
 この視線は敵意だ。前に大男に向けられたものと同じもの。でも、待って……。
 私は頭を捻らせた。何かが違う。今まで気づかなかったけれど、敵意以外の気持ちがこの部屋中に散らばっているような気がした。集中してその正体を探ろうとしたとき、突然思考が切られた。
「真白、少しでいいから君の力を見せてくれないか?」
 明の言葉に首をかしげる。私はなんの特技もない凡人なんだけど。私の様子を見て明は一瞬眉を潜めた。
「隠しているのかな? 君の力だよ。こちらの世界に来てから何か違和感を体に感じただろう。湧き上がるような何かを」
「……いいえ。とくには」
 否定すると、また一瞬だけ明が真顔になった。すぐ笑顔に戻るが先ほどの優しい雰囲気が薄れていく。再び違和感を感じた。もしかして、この違和感は明から発せられるものなのだろうか。
「おかしいな……。髪が短いから、封印はもうとっくに解かれているはずなのに」
 微かな声が耳に届いた。近くにいてやっと拾えるような声だ。その中に交じっていたのは舌うち……? 私は急に不安に駆りたてられて、一歩その場を退いた。彼が舌打ちなんてするはずない。でも……何かが妙なんだ。この違和感も、薄暗い部屋も、明自信も。
 後ずさる私に気づいた明はゆっくりと近づいてきた。
「どうしたの、真白?」
 優しい笑みが向けられる。伸ばされた手を私は無意識に振り払っていた。
「……どうした、小僧。腹でも痛いのか?」
 イケメンが私の異変に気付いたのか近寄ってくる。すがるようにそちらへ足を向けると、明に腕を掴まれた。
「なんで逃げるんだい。私がこんなに優しくしていると言うのに」
 さーっと血の気が引いていった。明のかぶっていたお面が音を立てて崩れるのを感じる。
「力がないだって? そんなはずないよ、君からは途方もない波長を感じる。でも君が自覚もなく使えないのだと言うのなら、もう必要はないかな」
 握られた腕が痛かった。長い爪が肌に食い込んで赤くはれていく。
「い、たい! 離してください!」
「おい、何をしているんだ」
 訝しむ様子でイケメンが声を上げた。けれどすっかり笑顔の消え去った明はイケメンを無視して私を引きずるように部屋の奥へ連れて行く。
「君はもう無用なんだよ。だからただここに置いておくことはできない。生きたいのなら試験を受けるんだ」
 しゃべり方すら冷たく変わってしまった明に、私は必死に抵抗した。
「いやっ、……試験ってどいうこと!?」
「この騎士団の一員になる試験だよ。ここで生き残れるのは力ある者だけだから」
 奥まで行くと、そこにあった障子を一気に開ける。眼に飛び込んできた光景に私は息を飲み込んだ。
 建物に囲まれた広いには端から端まで妖怪がいた。姿かたち様々な異質の妖怪が一斉にこちらを向く。足がすくみそうになるが強引にその中央まで連れられて行った。乱暴に放り出され、勢い余ってその場に尻餅をつく。
「ちょっと、いきなり何を……!」
「黙れ。人間」
 横から大きな妖怪が言葉を制した。そちらを向いて言葉を失くす。誰か嘘だと言って。
「君には今から一対一でこの妖怪と戦ってもらうよ。それが試験だ。戦いに勝てば騎士団の一員にしてあげる。けれど負ければ不法侵入で死刑だ」
 無理だ。勝てるわけがない。だって私は弱いもの。武器なんて持ってないし、扱えもしない。それに、この妖怪は……。
「よう、先ほどの礼、たっぷりさせてもらうぞ。お前を正式に叩き潰せるのだからな」
 廊下でいきなり襲ってきた先ほどの大男が笑みを浮かべた。敵意でぎらついた目が今にも攻撃したそうにこちらを見つめている。明も面白そうな表情をしていた。
 こんな大男と直球で戦ったって勝てっこない。けれど勝てなければ死刑だ。
「たす、けて……」
 声は虚しく空気に溶けた。

 ここに私を助けてくれる人は、誰一人いない。

Re: 少年(仮)真白と怪物騎士団【更新3/19】 ( No.20 )
日時: 2015/03/22 12:55
名前: 妖狐 (ID: ET0e/DSO)

「それじゃあ試験を始めようか。準備はいいよね」
 明の白く綺麗な手が私の頬を優しく撫でる。けれど動けば赤い爪が刺さりそうで、私は反論することもできず硬直していた。その間にも大男を一人の残して妖怪たちが引いていく。庭の中央だけ空間が取られ、その周りに妖怪たちは円を作って楽観を始めた。
 ここは和風な異世界なんかじゃなくて、地獄なんじゃないか。
「おい、明! 何を考えているのか。今すぐそいつを開放して引き渡せ」
 イケメンの声が飛んできて耳にと届く。その声だけで心が震えて安堵の涙が出そうだった。まだ会ったばかりで彼も妖怪なのに、これほど信頼してしまう自分に気づく。ケケもこちらへ焦るように駆け寄ってきた。
「そいつはおいらの弟のような子分でやんす! 傷つけることはいくらケケ様でも許しやっ……」
 突然、近づいてきたケケの体がはじけ飛んだ。そのまま地面を転がって庭のすみまで後退する。
「ケケ!」
 私は全身土まみれの毛玉になってしまったケケに向かって叫んだ。どこが顔かもう分からないが大丈夫なのか、ケケはゆっくり起き上ってこちらを振り返った。
「なんでやんすか、今の……。見えない壁に激突したような……」
「庭の中央には戦闘用の透明の結界を張ってあるんだ。戦闘中の攻撃がこちらに来て被害が出たら嫌だし、外部の妨害、及び試験者の逃走対策のためさ」
 唖然とする私を見つめれ明はくすりと微笑した。その手にはいつのまにか術を組むように一枚の白札が握られている。
 そう言い残すと明は大男と私、二人だけを結界の中に残して建物の部屋まで戻ってしまった。そこから椅子に座って、まるで高みの見物だ。
 もう誰かが助けてくれる可能性も、逃げる可能性も絶たれてしまったんだと自覚する。私が選択できる未来はもしかして……死のみなの?
「一気にやってはつまらないから、じっくり殺してやるぞ。悪あがきはよせよ、不法侵入者め」
 いつの間にか大男が目の前にたちふさがって金棒を担いでいた。頭に角が生え、三つある眼玉がこちらを歪んだ眼差しで見つめている。舌なめずりでもするように私の全身を伝っていく視線が気持ち悪かった。
 恐怖が体を支配する。無意識に私は叫び声をあげていた。
「いやだ、やめてよ、こんなのおかしいよ! だって私はただの人間だよ? ついさっきまで学校で誰にも恨まれないように空気になって過ごして、夕方にやるアニメを楽しみにしてた、ただの女子高生なんだよ!? なんで私がこんな目に合わなきゃならないのっ」
「先ほどから何て奇怪な言葉を使っているんだ? あにめやらじょしこうせい……とは何の事だ」
 大男が首をかしげた。
「お前がこんな目に合うのはお前自身が弱いからだろう、人間。ただ守られるだけの軟弱者など、ここでは生きていけないんだ」
 弱いから死んでしまう。ここは絶対的な弱肉強食の縦社会。
 改めて残酷な異世界なんだと思い知らされた。殺されることなどとは縁のない日本育ちの私は、本当はどこかで楽観している部分もあった。だからずっと逃げていればどうにかなると思っていた。でも、もう逃げられない。
 どこかで大きな鐘の音が響いた。雷に撃たれたような震えが全身に走る。戦闘開始の合図だ。
「おらあっ!」
 声と共に金棒が真横に振ってきた。その衝撃で地面が弾み、私は腰を浮かせる。わざと当てないで追い詰めていくつもりなんだ。
「次は少しかすらせるぜ! まあ、かすると言っても腕の一本くらい壊れるかもしれないがな」
 再び金棒が振り下ろされる。私はほとんど反射で転がるように避けると、地面の砂を掴んで大男の顔めがけて投げつけた。砂なんかじゃダメージは与えられない様に思えるが狙ったのは眼だ。案の定、眼に入った砂の激痛に大男は動きを止めた。
「ぐああっ、おのれ人間ごときが!」
 分厚い咆哮から、私は一目散に逃げ出す。結界が貼ってあるから逃げ切れはしないが、出来るだけ距離を取りたかった。距離が出来れば金棒は届かないはずだ。
「待て! 今すぐ殺してやるから!」
 大男は眼をこすりながら金棒を回して走ってくる。私は結界の端から端まで逃げ回った。履きなれない下駄を脱ぎ捨てて、何度も転びそうになりながら走る。足は石が刺さって血が出るがそんなこと気にしていられなかった。
 今はただ動物の本能だけで生きようとしている。死んでしまうと分かっていても素直に殺されたくなんかない。
「先ほどからちょこまかと逃げおって! 男なら正々堂々と戦え!」
 大男の言葉に、観客である他の妖怪も同意するような野次を飛ばしてきた。ずっと逃げているから退屈しているのだろう。けれど私は心の中で舌を出した。だって、私は本当は男じゃないから、正々堂々と戦わなくたっていいんだもん。
 その時、いきなり足を後ろに引かれた。私は勢い余って派手に転ぶ。足の方を見ると、結界のすぐ外にいた妖怪が伸びた手を結界から抜こうとしていた。
 今、結界の中に入ったんじゃないの!? しかも外部の妨害だ。これは戦闘の違反のはずなのに。
 混乱が頭の中を駆けまわる。もしかしたら、今のを明に言えば戦闘は中止になるかもしれない。そんな希望を見つけるが、声をあげる前に大男が息を切らしてすぐ近くに立っていた。
「うそ……っ!」
 他の妖怪に気を取られていたせいで追いつかれていたことに気づかなかった。立ち上がって逃げようとするが、足が悲鳴を上げて動けない。もう一度よく見ると足は赤くはれ上がり、捻ってしまったんだと分かった。これではもう走れない。
「どうしていつもこうなのよ、なんで私の体は大切なときに使えなくなるの!」
 動けと念じても上手く力が入らず、額から汗が滑り落ちた。告白してフラれて逃げようとしたとき、体力不足と運動音痴のせいで上手く逃げられなかった。今思えば、ここまで大男から逃げ切ったことも奇跡に等しいんじゃないか。
「どうやらここまでみたいだな……」
 大男はぎらついた目に疲労を残しながら笑みを浮かべた。恐怖と疲れで麻痺した心が、まるで悪役のセリフみたいと、馬鹿なことを考え出す。もしこれが漫画の世界ならどんなに良かっただろうか。この後ヒーローは必殺技を繰り出すんだろうな。
「でも、私に必殺技なんかないし……どうしよう」
 呟いて、声が震えているのに気付いた。足だけじゃなく、体が鉛のように重たくて体力も限界だ。いつ壊れてもおかしくないほど、心臓がどくどくと音を立てている。
 結界の隅へ大男に追い詰められ、もう前後左右に逃げ場は無くなった。
 ——もう、死んでもいいかも。
 ふと最悪の言葉が脳裏に浮かんだ。消そうとしても動けない体ではただ大男の攻撃を待ち受けることしかできない。本当の本当に死んでしまうのかもしれない。
 お母さん、お父さん、親不孝者でごめんなさい。暗くて地味で弱虫な私だけど、二人の事が大好きだったよ。それから一度は恋を叶えたかったな。あと結婚もしてみたかったし、お金持ちにだってなりたかった。それからいつか出来る将来の夢を実現させたかった。
「もう遅いけど……」
 危機的状況なのに涙は流れなかった。疲れた脳が感情さえ放り出してしまったのかもしれない。眼を閉じて私は大男の攻撃を静かに待った。
「真白!」
 ケケの叫び声が聞こえる。ごめんね、わたしもう無理なんだ。
 金棒の金属音がすぐそばで鳴り、風の音で振り落とされるのが分かった。当たれば一発であの世行きだ。
「あっけないな、死ぬことなんて」
 心がさび付いたまま、衝撃にぎゅっと手を握る。
 ——さようなら、それにたくさんありがとう。
 そのまま金棒は私を思いっきり叩き潰した。

Re: 少年(仮)真白と怪物騎士団【3/21更新】 ( No.21 )
日時: 2015/03/22 12:57
名前: 妖狐 (ID: ET0e/DSO)

 金棒が私を叩き潰す、はずだった。
 けれどいつまで経っても衝撃は来ず、静寂だけが辺りを包む。つぶっていた目を恐る恐る開けると、複雑な文字の模様が一面に散らばっていた。それが盾として金棒の動きを止め、包み込むように真白を守っている。
「文字に守られている……?」
 唖然としたとき、ふと、イケメンの言葉が頭をよぎった。
『これは俺の妖力を込めた呪文だ。いざとなったとき一度だけ盾のような効果を発動できる』
 咄嗟に手を見る。そういえば以前、彼は怖がる私の心を少しでも楽にするため、手に呪文を書いてくれたんだ。その呪文は発動したためか、手から消えていて私を守ってくれたのだと分かった。
「なんだ、これは! お前はただの人間じゃないのか」
 大男が面を食らったように文字の盾を見つめる。だが文字は役目を果たしたようにぱっと一瞬で消えてしまった。使えるのは一度だけだからだ。その時、切羽詰まったような声が耳に響いた。
「もうやめろ! これは隊長である俺の命令だ!」
 大男の動きが止まる。だが明は愉快な笑い声をあげた。
「無理だよ。だってこの戦闘は団長の僕が命令して行っているんだから。階級が下の君にはどうにも出来ない」
「ふざけるな、あいつは貧弱な人間なんだぞ! 人間とは壊そうと思えば簡単にくずれてしまうほど脆い生物だ。遊びにもほどが……」
「遊びじゃないよ。それに簡単にくずれてしまうなら、この世界では生きられない。君もよく知っているだろう?」
 イケメンは返答に詰まったように口を閉じた。そしてすぐに私の方をするどい視線で睨みつける。
「おい、お前はなぜ休んでるんだ! もっと動いて、もっと考えろ。生きたくないのか!」
 休んでるんじゃなくて、追い詰められてるんです! 体力が限界で動けないんです! 反論したいが声がかすれて乾いた息が漏れるだけだった。でも不思議と鼓動が少しずつ高まっていく。彼の視線、言葉一つでなにかが溢れてくる。
 私は今まで逃げてばっかりいた。弱いと自分を決めつけ、それを言い訳に戦おうとしなかった。初めて大男に襲われた時も情けなく突っ立っているだけだった。
 私を守るために抗うイケメンの声と、必死に結界の傍に寄ってくるケケの姿を見える。
 ——ずっと守られ続けるの? 
 守られるのはきっと楽だろう。何もしなくても生きられるということは幸せだ。
「でも……それじゃあ、駄目なんだ」
 私は眼を大きく開いた。甘ったるい自分の考えに嫌気がさす。
 私は今までの人生でいつも逃げていた。自分を卑下して、落として、楽な道を探していた。辛いことを避けて通る道は、私に優しくて心地が良かった。
 だけど今なら分かる。それがいつか自分の身を滅ぼすことが。そして今の自分が何を成せばいいのか。
「私の命なんだもの、自分で守ってみせなきゃ!」
 体力が限界だからなんだ、追い詰められたからなんだ。私はまだ死んでない。手足があって五感も働いて、脳も動いている。まだ、戦える。
 だから考えろ、考えろ、考えろ。
 私はどうしたら自分を守れる、どうしたらこの大男に勝てるのか。私は……——強くなりたい!
 どこかで鎖が千切れるような音がした。しめつけられていた感覚が無くなり、ふわりと宙に浮いたような気分になる。だがそんな感覚も、頭上で響く大男の叫び声にかき消された。
「お前がいくら足掻こうが、俺には勝てない。これで終わりだあーっ!」
 次の瞬間、今まで見たことのないくらいの早さで金棒が唸りを上げながら私の頭上に振ってきた。もう前後左右、どこにも逃げ場はない。でも、考えることを放棄しようと思わなかった。残り二秒で私は死んでしまうかもしれないけど最後まで諦めたくないんだ。
「……見えたっ!」
 必死に頭を動かして見つけた答えへと、私は体を丸めて大男の股の間へ転がり込んだ。そこはたった唯一の逃げ道だ。
 いきなり大男の股下へと消えた私に、拍子をつかれて相手の反応が遅れる。目の前に広がった大男の無防備な背中に私は思いっきり飛び掛かった。
 熱くて、強い何かが全身から噴き出るような心地がする。心臓が焦げ付きそうなほど激しく脈打った。自分の息遣いと、筋肉の動き、風の流れが細かく察知できる。今までに感じたことのないほど五感が研ぎ澄まされ、エネルギーが満ちてくるのが分かった。
 これなら勝てる!
 右手に力を集中させて、大男の首筋へと当てに行く。ありったけの強さで力任せに首筋を叩くと、なにかが弾け飛ぶように飛び散った。それに跳ね返されるように私の体も吹き飛ぶ。
 これは……光? 気がつくと光の渦に飲み込まれていた。その隙間から見えるのは前のめりに倒れていく大男だけで、私も強い目眩に襲われてそのまま体を放り出す。
 地面に叩きつけられ、私は激しくせき込んだ。苦しい、苦しいけど、どうしてか今はただ、解放感が心に満ちていた。

Re: 少年(仮)真白と怪物騎士団【3/22更新】 ( No.22 )
日時: 2015/03/25 16:14
名前: 妖狐 (ID: ET0e/DSO)

 遠くで騒がしい声と行きかう足音が聞こえる。地面に倒れ込んだまま、うっすら目を開けると空の限りない青が目に染みた。
 耳鳴りとひどい頭痛に私は顔をゆがめる。その中で、興奮したように話す妖怪たちの声が能に入ってきた。
「どっちが勝ったんだ? 二人とも倒れているぞ」
「大男に決まっているだろう。あんな小僧が勝つわけがない」
「だが待てよ、あいつは今、大男の首筋を叩いていたのだぞ。大男も泡を吹いて気絶してるじゃないか」
 あちらこちらから疑問の声が飛び交う。私は頭痛が徐々に納まっていくのを待ってから、ゆっくりと腰を上げた。こんな広場の中央でいつまでも倒れている訳にはいかない。多少ふらつきながら、どうにか立ち上がる。 辺りを見渡して始めに目に飛び込んできたのは倒れたままの大男と、唖然とした妖怪たちだった。
「あれ……私一体なにをしたんだっけ」
 強い衝撃を受けて記憶が一部もやもやと薄くなっている。必死に記憶をたどると不思議な光の力が湧きあがったことを思い出した。それから自分のとった行動すべてが映像のように思い出される。
「もしかして、私……勝っちゃった?」
 首を傾げた途端、妖怪たちが弾けるように叫び声をあげ、騒ぎ出した。庭全体が大混乱の渦に包まれる。
「ありえないぞ! あいつは人間だ! 一体なにをしたって言うんだ」
 妖怪の視線が私に強く突き刺さる。中央に立ったまま、私はどうしたらいいのかも分からず硬直していた。すると突然、うるさいほどの鐘の音が庭中に響き渡った。けたたましい音に妖怪たちは驚いて建物の方を振り返る。鐘を鳴らした妖怪は使命を果たしたと言わんばかりに明の傍へ寄って頭を下げた。
「うるさい、静かにしなさい」
 明の静かな圧力に妖怪たちは焦るように黙り込む。それを見て明はにっこりとほほ笑んだ。
「よろしい。それにしても素晴らしい戦いだったよ、真白。私が予想してた以上の力だった」
 響きのいい明の声が耳に届く。優雅に笑みを浮かべる顔を私は睨みつけた。私を本気で殺そうとしたくせに、今度は手をひっくり返したように褒めるなんて卑怯者だ。
 明へ沸き立つ怒りを感じていると、おどけるように明は扇を口元へ当てて、眉を下げた。
「そんなに怒らないでおくれ。実は今の試合、君が自覚してない力を目覚めさせるためのものだったんだ。獅子の子落としって知っているだろう? ライオンが我が子を強くするために崖から突き落すやつ。あれと同じさ。窮地に立たされれば君の力も目覚めると思ったんだ」
「ふざけないでください!」
 私はつい叫んでいた。こんな風に人をもて遊ぶような奴だとは思っていなかった。彼相手にドキドキした自分が馬鹿らしい。明はすっと目を細めて歩み寄ってきた。
「ふふ、案外、怒った顔も好きだよ?」
 熱い言葉が送られてくる。けれど眼は冷たい色を宿したままだった。彼に表と裏の顔があるのを私は知っている。ほかの妖怪たちの前だから本性は隠しているんだ。以前、ケケが団長は優しい方だと言っているのを思い出した。でもそれは表の顔だったんだ。近づく明を警戒しながら私は後退していく。
「逃げるのも無理はないか。君にこんなに傷を与えてしまったのだし」
 いきなり腕が伸ばされ、私は逃げようと後ろへ足を引いた。けれど先ほど捻った足が急な動きに悲鳴を上げる。痛い! 顔をしかめると、頬へ明の手が当たっていた。
「っ! 何をするつもり……」
「ごめん」
 私は驚きに目を見開いた。すぐに嘘の演技だと理解するが、あまりにも悲しそうな明の表情が判断を鈍らせる。彼は私の頬を二、三度優しく撫でた。すると、ぱっと頬にあった切り傷が消える。
「治癒だよ。私は治癒系の妖怪ではないから、これくらいしか治せないけど、せめてものお詫びだ」
 これは、演技。そう言い聞かせても、もうどれが明の本当の表情なのか分からなくなってしまった。心が戸惑うようにぐるぐる渦を巻いている。逃げなくなった私を見て、明は息をついた。
「真白は本当は強い力の持ち主だったんだね。君の力があまりのも大きすぎて私の結界は耐えられずに破れてしまったんだから」
 明の手には燃えた白札が握られている。慌てて結界の貼ってあった空間を触ると、そこにはもう見えない壁はなかった。
「どれだけの才能を秘めているのか、私は君に興味が湧いたよ。それでは約束通り、君を騎士団の一員として迎え入れよう。もう殺したりはしないから安心してね」
 そんなの信じられない。抗議の声を上げようとしたとき、一人の青年が明の傍に駆け寄った。ずっとお付きとして明にくっついていた青年だ。彼は忍者のように音もなく明の傍に座り込んだ。
「私はもう行くね。このあと仕事があるんだ。楽しい試合をありがとう、真白」
 頼むよ、鈴蘭。そう明が小さく呟くと鈴蘭と呼ばれた青年がうなづいて立ち上がった。その時、一瞬だけ視線が交じり合う。険しい目つきのまま、彼は顔をそむけ巻物を取り出す。白い煙が上がったかと思えば、そこにはもう明と青年はいなかった。

                 ◆

 明がいなくなった後、急に緊張の糸が切れたように感じた。
「疲れたあ……」
 私はその場に座り込む。冷や汗が背中を流れていて、ぺったり張り付いた着物が気持ち悪かった。
「真白! 無事でやんすか!?」
 ケケが毛むくじゃらの身体を揺らして近寄って来る。ケケの柔らかい毛を触って癒されたい衝動に駆られ、思いっきり抱きついた。意外とふわふわの羽毛のようなさわり心地を持つケケの毛は格別だ。
「最高の癒しだよ、ケケ……」
「なにするんすか、くすぐったいでやんすよ」
 ケケがふわりと笑う。もふもふを堪能すると、今度は安堵が押し寄せてきた。
 ああ、私、生きてるんだ。
「……ねえケケ、勝ったよ、私」
「はい、やりましたね、真白! でもあのとんでもない光はなんだったんでやんすか。おいらは眼が回ってしまいやした」
「分からないの。私にもなにがなんだか……」
 ケケを撫でる手を止めて、私はうつむいた。なぜあんな強い力が出たのかまったく見当がつかない。本当にあれは私の力だったんだろうか。私はただの人間のはずなのに。
「もしかして、私がここへ来た理由はこれなのかな……?」
 問いかけを口にすると、背後から返答が聞こえた。
「そうかもしれないな。明もなにかしら知っているようだから」
 振り返ると、長髪のイケメンがすぐ目の前に飛び込んできた。すぐさま護りの呪文のお礼や、勝利の喜びを伝えたいのに、なぜか言葉が詰まった。たった少ししか離れていなかったのに、とても懐かしい気持ちが湧き上がる。溢れる想いを必死に言葉にしようとするが、その前にイケメンは私を見て呆れた表情を浮かべた。
「まるでボロ雑巾だな。折角、河童に綺麗にしてもらったのに、お前は汚れるのが上手なようだ」
 悪態まみれの言葉にむっとする。けれど聞き慣れた毒舌に安心してしまった。
 あらためて自分の姿を見直すと大変なことになっていた。全身、土まみれで服の隅は破れ、下逃げる途中に下駄を捨ててきたため、裸足のままだ。
「すいません、貸してもらった服をこんなに汚して、下駄まで紛失してしまって……」
「謝るな、別に問題はない。お前はもう騎士団の一人だから、気を遣わなくていいんだ」
 イケメンの言葉にうなづいた拍子に涙が零れ落ちた。戦っている時は涙なんて出なかったのに、終わったら出てくるなんて変だ。こんな温かい涙、知らない。
「俺の所へ来い、真白。騎士団の第三部隊、隊長である羽鳥がお前の世話を見てやる」
「はとり……」
 初めて聞くイケメンの名前に心が脈打った。羽鳥の目が涼しげに細められる。
「まずは足の手当てだ。それから建物の案内と、お前が住むことになる第三部隊の寮へ連れて行ってやる。ついて来い」
「え、ちょっと待ってください!」
 さっと背中を向けて歩き出す羽鳥を私は慌てて追いかけた。足は痛むが、不思議と歩けた。気持ちが弾むように軽くて、羽が生えているような感覚だ。
 
 ここは、とても残酷で理不尽な異世界。平和な日本とは違って、すぐ隣に死があって常に恐怖にさらされる。
 でも希望はちゃんと、この胸の中にあるから、私は突き進んでいくんだ。

(第一章 終)


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