コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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センプウ×マク×セカイ
日時: 2015/05/02 08:19
名前: 甘栗 (ID: uWXzIoXb)


  CLAP


 その能力は正義にも悪にも化ける。



 世界の裏と表が——夜の世界を激突する。










『センプウ×マク×セカイ(旋風巻く世界)』という小説です!
言うほどアクション多くないかもしれませんがタイトル負けしないようにがんばります!!
あと更新もがんばります!!
どうぞよろしくおねがいします!甘栗ですm(_)m


◎唐沢依頼事務所◎
唐沢峠野(Karasawa・Tohno)20歳。
楽天的。一言おおい。一応ボスとしてやる時にはやる。
紫藤孝也(Shidou・Takaya)21歳。
唐沢の従兄弟にあたる少年。たくさん動くたくさん笑う。
美園キリ(misono・Kiri)17歳。
ニタリ顔か無表情しか浮かべないミステリアスな少女。
最上大(Mogami・Dai)25歳。
とりあえずツッコむ。キレる。ヘビースモーカー&酒豪。
月島雅木(Tsukishima・Masaki)24歳。
好青年。お客のおもてなし係。

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Re: センプウ×マク×セカイ ( No.14 )
日時: 2015/03/12 11:13
名前: 甘栗 (ID: uWXzIoXb)


Episode、9

さまざまなビジョンが浮かぶ。
—————学生時代の自分。
—————振り向いてくれない少女。
—————ずっと見ていたかった
—————だからずっと見ていた

そしてやっと幸せを掴んだ。短い時間だった。

「もういいや」
虚ろになる目はどこも見ていない。
唐沢と紫藤は戦う必要はないと悟り、ソファに腰掛ける。

「じゃあ離れるね?」
「ああもうどうでもいいよ」
「本当かな〜?再燃しないって誓える?」
「知らね」
ぶっきらぼうに言い放ち、倉田もソファに座る。
体の力を抜いた。
「そんなに好きだったんだね〜でもちょっと歪んでて怖いよ?」
「何とでも言えばいいさ。これが精いっぱいの形なんだから」
「なんかうまいこと言うね〜倉田くん〜」

ぶん殴りたいほど憎たらしい笑顔を晒されても、今は怒る気力がなかった。
また明日から、独りの生活か…。

「僕寂しいんだよ。この世の中、つらいし大変だし…僕には支えがないんだよ」
「家族は?」
「いないよ。五年前火事でなくした」
なんとも不幸な話である。
「誰か支えてくれる人が欲しかった。けど僕、実際根暗だしキモいし彼女とかできないし」
「だから谷村の彼女を?」紫藤が聞く。
「…涼子さんはいい人だよ。昔から。憧れだったんだ…そばにいてほしかった」
けれど、彼女はきっと自分を気味悪がっているだけだ。
報われないんだ。そんなこととっくの前に分かっていたけど。

「で?僕はどうなる?慰謝料払って頭下げて、どっかにとんずらしたほうがいい?」
「そうだね〜それでよろしく」あっさり決めた。
「おい、峠野…」
倉田の話を聞いて、少し同情してしまったのか、紫藤が可哀そうだという顔で唐沢を見る。
「だって近くにいたらまた何やるかわかんないじゃん。谷村にしても俺らにしても助かるし」
たしかに言えているが…。紫藤は納得いかぬ顔だ。
「タカちゃん、ちょいとお人好しだよ〜」
「わかってるよ」

「倉田くんはそれでも加害者なんだからさ」
笑顔でいながら、ときどき毒をさすのが唐沢という男だ。
紫藤は「そうだな」としぶしぶ承知。



「倉田くんこれが君の人生なんだよ、仕方ないけど」

終始、唐沢の顔はどこか哀しそうだった。
その言葉自体が、誰かの受け売りのように思えた。

垂れ下がる倉田の顔。
沈黙が流れる。決断をする大事な時間なのかもしれない。

「ああ」
たった一言———。それでもこの一言にかかる重さは大きかった。

「あの二人言っといてくれ。お幸せに———って」

メッセージを託した時、無理に口角をあげて笑ってみせる倉田。
二人はほぼ同時に「おう」と返事をする。

「さーて仕事に戻ろう。どうせ近いうちにやめるんだ。今日ぐらい頑張っとこう」
やりきれないこの世の中だが、ピリオドがあるのなら頑張れる。
その時——。
二人に背を向けた瞬間、ポケットからケータイのバイブルが鳴った。
なんだろうかと思い、待ち受け画面を見るとメールが届いていた。
何気なしに開くと、

『相談事ならいつでもどーぞ』

画面に浮かぶ文字。
受信先を見ると、そこにあるアドレスは唐沢のものだ。

こみ上げる何かがあった。すぐさま後ろを振り向くと、そこに立つ唐沢と紫藤は笑顔を浮かべている。
「あとで俺のアドレスも峠野のメール宛で送るから」
「何かあったら言うんだよ、倉田くん。君ってたぶんため込みすぎて爆発しちゃうタイプだからさ〜」
「俺らでいいなら何でも話していいよ。そんな毎日忙しくないからさ。な、峠野!」
「まあそのせいで赤字の危機なんだけどね」
余計な一言は言わんでよし。

表情が崩れそうになるのを必死に我慢し、最後は精一杯の笑顔で倉田はオフィスのほうへ去っていく。


「じゃあ俺らも帰ろっか」
「そうだな。はあ、いいね〜久々の学生服も」
紫藤が満足げに自分の制服を眺めている。
そこで同じく学生服を着ていたことに気づく唐沢。

「はあやっぱイタいわ〜20代の男がコレは」
「大丈夫だよ。知ってるか峠野?俺らわりと童顔なんだよ」
「うそーん」
「最上さんたちが言ってた」

嬉しいような悲しいような。


それから建物を出た二人は、電車に乗り事務所に戻る間、谷村たちからの連絡を受けた。
二人ともちゃんと現状を理解していた。あの家にはまだこれからも住みつづけるようだ。
そしてちゃんと、倉田からの伝言も伝えておいた。
谷村は「そうですか」と心底許しているようには思えない声色だったが、危険は及ばないことに安心していた。

「まあ、どうにかめでたしなんじゃない?今回」唐沢が一連の出来事を思い返しながらまとめる。
「終わってみれば、そんなもんだね」
「…うーん、ていうか俺なんか忘れてるような…」
「なに?忘れ物?」
「いや、ものじゃなくて……あ!」
口をパカッと開き、アホ面を披露したあとすぐに発言する。
「CLAPだよ〜ノーマルの谷村が突然覚醒したじゃん」
「ああ。頭なかったな。聞きそびれちまった」
「んま、いいか。メールで聞きゃいい話だし」
さすがは便利な情報通信社会である。
「お、ついた」
事務所の建物が見えてきて、ようやく駅につく。

大勢の人波の中、ドアが開くのを待ちながら唐沢は考え込んでいた。

(どうやって谷村が…短期的な覚醒だったし)
ドアが開き、ドワッと人がホームにあふれる。
紫藤のうしろについて、電車のしきりをまたごうとする。

「突然変異か…」

そうつぶやいたとき、一瞬、何かの気配を感じた。
唐沢が見たのは頭上である。
駅のホームの天井、向かいのホームの天井との間に広がる夕暮れの空。




唐沢は瞬きもせずに、“それ”をとらえた。




いくつもの黒い影。はっきりとは物体をとらえきれない。
しかし声をあげる暇もなく、影はどこかへ姿を消した。


「なーんだあれ」
「峠野ー?どうしたー?」
階段のところで待つ紫藤。不思議そうにうかがっている。


唐沢は特に気に留めることもなく、紫藤のもとへ歩み寄る。




事務所がある建物の一階で営む喫茶店は閑散としていた。
その横の階段をカツカツと上って、二人は他愛無い話を繰り広げている。

「そしたらあのモッさん、ハチ公の映画見て男泣きしてやんのよ〜」
「やべ。最上さんのギャップウケる!」
ブハハハと腹を抱えて笑う二人。
やはり学生服を着ているせいで、はた目から見ると男子高校生の談笑だ。
永遠に止まらない笑いのツボは事務所のドアを開いた瞬間、シャットアウトする。

「たっだいまー!って…あれ」




勢いよく開けたドアの先に、——————一人の少女がいた。


ブカブカのパーカーが特徴的で、華奢な体がスポッと入っている感じである。
二人に顔を向けたとき、大きな瞳がこちらを見据える。
落ち着いていて、透明感のある雰囲気をまとっていた。
長く艶やかな髪にしても、というか少女の容姿にしても………

(えーメチャクチャかわいい)

目をパチクリさせながら、唐沢と紫藤が数秒は立ち尽くしていた。



『FILE1−おわり−』

Re: センプウ×マク×セカイ【FILE1完結】 ( No.15 )
日時: 2015/04/11 07:54
名前: 甘栗 (ID: uWXzIoXb)


FILE2


Episode、10

「どっちが唐沢さん?」

澄んだ声が耳の中で響いた。
パっと我に戻った唐沢が、誇らしげに「こっちの俺ですよ〜」と軽々しい笑顔で手を振る。
「やっぱり。そんな感じがした」
少女がフッと笑みを浮かべた、かと思いきやそのまま口角を上げ続け、唐沢のようなニタリ顔をする。
唐沢のごとく、あまり気持ちのよい笑顔ではない。
どちらかというと悪趣味だ。
(唐沢に似てるな、この子)
すかさず最上が心の中でつぶやく。

「月島さん、その人は?」
唐沢の横にいる紫藤がたずねた。

丁寧に右手を彼女に向ける月島。
「こちらは美園キリさんだよ」
「依頼人の人?」
「依頼人…ではなくて。どうしてもここで働きたいらしくて」
月島が困ったような笑顔で、二人と彼女を交互に見る。

「はい。美園キリといいます。17歳です」

ソファから立ち上がるなり、唐沢と紫藤に一礼する。
あわてて紫藤は「あっどーも」とせわしなく頭をさげた。
その横の唐沢は「うんよろしくー」と軽々しい。
美園の美貌に酔いしれ始めたのか、唐沢がにんまりしだす。

「いいじゃん。歓迎歓迎〜」
「てめぇ、ノリで言ってんだろ」
「まーさか。ウチほら女子いないじゃん?彼女が入るだけで新鮮になると思うよ」
「こんな汚ねえ事務所で働かせんのが可哀そうでならん」

そんな最上に「私は構いませんけど」と口をはさむ。

「つってもな、あんたまだ17って…学生じゃねえか。学校があるだろ。こちとらバイトなんて気分でやられたら困る」

確かにそうだな——唐沢もすんなり納得した。単純男。
高校生という身分で仕事をするのはこの子の親や教師がどう言うか。
これでさすがに考え直すかと思っていたが、

「学校なら飛び級で出てます」

自慢気でもなく淡々と彼女が述べた。
一同、驚きの発言にフリーズ。
「えっ、えっ…とびきゅうって」
紫藤がひたすらどんな字を書くのか考え込む。無論意味は知っている。

「以前アメリカにいて、中2の段階で高校の卒業資格を取りました」
「優秀な人なんだね」
穏やかな顔で美園の顔を見る月島。
「全然ですよ。…間違いはたくさんしてきてます」

少し目線を下げて彼女はそうつぶやく。
月島はその言葉と表情を見逃さなかった。

「まあ、それなら一応社会人ということになるよね。ここで働く分には何の支障も出ないよ」
フォローするように月島が言うと、唐沢も紫藤も納得の表情。
この二人の場合は、あんに可愛いという理由だが。

「そういうことだし、ね」

そう言いながら月島の視線の先には最上。
事務所のボスは唐沢でも、権力はほぼ最上が持っている。

「うーん」

むずかしい表情をする彼のかたわらに唐沢が座る。

「もう、モッさん〜何がそんなに嫌なのよ。考えてみなよ。毎日あの可愛い子が事務所にいるなんて働くのが楽しくてしょうがないでしょ」
「それお前の思ってることだろ」
「みんなだよ〜モッさんだってさ〜」
「あいにく女に興味はない。酒とたばこで十分だ」

断言するなり、唐沢をゲシッと蹴り飛ばし追い払う。
青筋をたてながら、美園に視線をとばす。

「お前、CLAPは?」
「持ってないわけではないですよ」
「は?意味がわからん。あるにはあるんだな?」
「まあ、そうですね」
「あやふやにすんな!」

女子といえどキレたら殴りかかりそうな最上だ。
しかし美園は、そんな彼の威厳に対しても、これっぽっちも怯えのない落ち着きぶりだ。

「あればここで働けるんですね。じゃあ、あります」
「な、なんなんだお前」

Re: センプウ×マク×セカイ ( No.16 )
日時: 2015/05/25 20:51
名前: 甘栗 (ID: uWXzIoXb)


Episode、11



「飛び級とかすごいねアメリカいたんだへぇてかメッチャ可愛いてか美人だね何て呼んだらいい?」

スーパー早口マシンガン喋りで唐沢が美園に寄ってくる。

「ご自由に」
「んじゃ美園ちゃんねー!決定〜みんな今日から美園ちゃんだよー」

一人だけウキウキやっほーな男が、この事務所で一番えらいヤツ。

最上は呆れて「馬鹿かアイツは」と小言をつぶやく。



なんだかんだ早々と美園キリの職場入りが決定し、最上以外はすでに歓迎のご様子である。
とくに唐沢だけは度の過ぎた喜びをあらわにしていた。


「美園ちゃんメアドとか持ってる?てか持ってるよねケータイ。教えて」
「てめえナンパじゃねぇかァッ!!」

さっきからストレスの元となっている唐沢に文句をいい、げんこつをくらわす最上。

「ってて…いやいやモッさん。何を勘違いしてんの。仲間の情報は知っとかないとでしょ。業務上の連絡手段だよ」
「なら誤解されるよーな聞き方をすんな」
「へーい。頑固は困るなぁ」
「何か言ったかテメェ」
「別に〜。呼吸してるだけですよ。人間だもの」


さきほど以上に青筋の濃くなった最上はストレスも頂点に来たようで、煙草を持って事務所を出ていく。


「こんだけ毎日峠野にストレス溜まってんのによくここまでやってこられたよな」

紫藤が苦笑いしながら言う。

「まぁそりゃタカちゃん、バランスってもんがあるからね。確かに俺とモッさんだけじゃここは壊滅だったろうけど、マーくんとかタカちゃんのキャラが上手に空気を保ってんの」


そこまで把握しておいて、自分ももう少しは最上に気を遣うぐらいすりゃいいのに。
と、この場にいる人物は30%ぐらい感じているに違いない。


「ねぇねぇ美園ちゃん。そういやどーしてここで働きたいとか思ったの?」


そう聞かれ、美園は目を向けずニタリと笑いながらこう言った。

「事務所の看板見て、キャッチフレーズに惹かれたんです」
「あぁ、あれ?『人知を超えた力があなたを救います』っていう、あれ?」
「それです」
「ほう。中二感プンプンの言葉なのに、一人の少女の運命を変えたのね〜あの言葉が」
「峠野それ馬鹿にしてる?」
「いやいやいや、まったく〜?あの言葉が美園ちゃんと招き入れてくれたのなら感謝感激だよ」

表現はわざとらしいようだが、嬉しいのは事実。
—————それにしても……。月島がただ一人、心の奥底で思う。
(看板の言葉だけで、そうそう職場を選ぶだろうか…)

唐沢依頼事務所はネット上にホームページもなく、情報の発信はどこからも出ていない。直接訪問して、業務について質問しにくるならまだしも。
彼女はあらかじめこの事務所に入るつもりで、初めてここを訪れたのだ。
一見穏やかそうな月島だが、こう見えて彼は勘繰り深い。
出会った人物、気になる人物に対し何も干渉しない分、自分の目でその相手のことを把握していくのだ。

美園キリという少女は、きっと奥深い人物に違いない。
内面を見せたがらないとも言える、あの軽快な笑み——。
さっきから彼女は、無表情かこの軽快な笑みの2つしか浮かべていない。
軽快な笑みは、ここの長・唐沢峠野を真似たような『ニタリ顔』である。


(まぁ、仮面はいつか剥がれる。気楽に待とう)

月島はほんわかと笑顔を浮かべて、唐沢たちの様子を見ていた。
———きっと仮面をつけているのはあの子だけじゃないのだから。

月島の脳裏で、唐沢、紫藤、最上らの顔が浮かび上がる。

Re: センプウ×マク×セカイ ( No.17 )
日時: 2015/09/21 15:22
名前: 甘栗 (ID: uWXzIoXb)

Episode、12



———青い海の底
———暗い場所で薄ら笑みを浮かべる男
———ビルの屋上から落ちていく少女


忘れようとするたびに、またこの夢を見る。


事務所のソファで、一人朝を迎えた唐沢峠野。
大きく両手を伸ばし、盛大に欠伸をする。


昨日まで乱雑していた事務所の床がすっかりキレイになっていた。
月島たちが片付けてくれたのだろう。
テーブルにのったグラスを見ると、まだ半分ワインが残っていた。


「そっか昨日は美園ちゃんの歓迎会したんだっけ………」

そして一人酔いつぶれた唐沢は、自宅に帰ることなく事務所で一夜を過ごしたというわけだ。



「いや〜それにしても、あんなにかわいい女の子がここに入ってくれるなんて嬉しいことだねぇ〜」

美園の顔を浮かべながら、満足げに微笑む。



「けど————美園ちゃんって———…なんか……」



脳裏に、夢で見たワンシーンが走った。
————ビルの屋上から落ちていく少女。



「うん!!!やっぱあの子かわいい!!!」


表情が180度元に戻り、いつもの陽気さがあらわれる。
ソファから飛び起き、スーツの上着を羽織った。
デスクの上の鍵を握りしめると、そのまま事務所の玄関に向かう。

「腹減ったし、なんか買いにいこ」

財布をポケットに入れ込むと、事務所の外から鍵をかけた。

新鮮な朝の空気を存分に味わいながら、足のステップを弾ませた。

「ニホンはヘイワ〜ヘイワなニホン〜〜♪」

愉快に自作の歌を口ずさみながら、道行く小学生たちに冷めた目線を向けられている。
そんなの気にも留めず、唐沢は近くのコンビニに立ち寄った。


雑誌売り場を見ていると、唐沢が毎週購買している週刊マンガが一冊だけ並んでおり、「ラッキー」と言いながらすぐさま手に取った。
と、ここまではよかった………

しかし、その週刊マンガには自分の手以外にもう一人別の誰かの手が添えられていた。
不思議に思った唐沢が横を向く。


「ん?」
「あ?」

首からヘッドホンをぶらさげた不愛想な男子学生が唐沢を見据える。
静かに自分の方へ週刊誌を寄せようとする唐沢だが、もう一方の手がそれを阻む。


「何してんのきみ、何で手を離さないの?」
「こっちのセリフだ。あんたこそその手離せよ」
「語弊があるねぇ。これ最初に手に取ったのどう見ても俺だよ?」

穏やかに笑みを浮かべる唐沢。
しかし、男子学生は見向きもせず、グイッと週刊誌を自分のほうへ近づける。
両者、一歩も譲らぬ。


「先に見つけたのは、こっちだっつーの。弁当選んだあとに取りにこようと思ってたんだよ。そしたら、アンタが取ろうとしてて」
「あのね〜学生君?これは商品だよ?買った瞬間、これは誰かのものとなるけど、買うまでは誰のものでもない。つまり、これは今の時点で君のものではないよ?」
「るせー。どっかの本屋をあたれよ。俺はもう学校に行かなきゃなんねえんだよ。今しか買うチャンスはない」
「ややや、今買うと学校行ったところで読みたくなって授業なんか集中できやしないよ?いわば君の授業妨害をしてしまう。そんなもの、君たち学生には必要ないんじゃない?」


男子学生が小さく舌打ちする。朝っぱらから、静かな火花を散らしてしまっている。

Re: センプウ×マク×セカイ ( No.18 )
日時: 2015/09/22 11:16
名前: 甘栗 (ID: uWXzIoXb)


Episode、13


「おはざーす・・・って峠野いないじゃん」


事務所にあらわれた紫藤孝也はキョロキョロと中を見渡して、唐沢の不在を確認する。

「まだ寝てるとばかり思ってたんだけどなぁ」

テーブルの上の飲みかけのワインを見ながらそうつぶやいていると、後ろから他の面々が姿を見せた。

「やぁおはよう紫藤君」
「あ〜頭くそ痛ェ……二日酔いだわ」
「月島さんと最上さん。おはーっす」
「あれ、唐沢君は?」
「それがいないんすよねー。散歩でも行ってんのかな」
「酔っぱらって窓から身を投げたんじゃねえの?」
「最上さん、まともなこと言いましょうよ…」


紫藤がへんな汗をかいていると、またもや事務所の扉から人があらわれる。
それは、昨日新しく加入したメンバー・美園キリであった。
ぶかぶかのパーカーにジーパンという味気のないスタイルだ。
しかし、サラサラとした長髪に端正な顔立ちはいつ見ても見惚れてしまう。

「あっ、えっとー、美園…ちゃんでいんだよね!?」
「はい。紫藤さんでしたよね。おはようございます」

ハッキリとは笑わないものの、かすかに微笑むその表情に紫藤は分かりやすいほどに赤面している。

「ほんとおめーは、うちのバカボスに似た笑い方だな」

横であざけるようにそう言った最上に、紫藤は「最上さん!」と若干睨みがちに牙をむけた。


「別に美園ちゃんと峠野の笑い方なんて、似て………ないわけでもないけど…そんな貶すように言わなくてもさ」
「俺ぁなあ、余裕かましたバカボスのニタリ顔が精神的にイラつくんだよ。へらへらしてて何考えてんだか予測もつかねーとこがさ。なーんかこの美園ってヤツはあのバカに似たモン持ってる」
「そんな、笑い方ぐらいで峠野と同じような性格かどうかなんて…」
「類は友を呼ぶって言うだろ。これから、あのバカの鳴き声に同類たちがぞろぞろこの事務所に押し寄せてくんだよ。あー恐ろし」

一人でおぞましい予知夢にひたりながら、煙草に火をともす最上。
彼の横で苦笑いする紫藤と月島。

「最上さんって————…峠野のこと、ある意味“恐怖対象”にしてるんすね…」
「とりあえずストレスの元凶みたいだからね。いずれ美園さんのことも恐怖対象に入るんじゃないかな」
「峠野って他人にどんな影響与えてんだか…はは」

いつの間にか唐沢のデスクに腰をかけた美園が、彼のデスクの上にある紙切れに目を向ける。

「?」

そっ、とその紙切れに手を伸ばそうとしたとき———

「あー、美園さん。勝手に唐沢くんの私物に手を出したら、あとあと大変だからやめたほうがいいですよ」

にっこりといつもの笑顔でそう指摘する月島をじっと見つめ、「はい」と小さな声でうなずく美園。

「まー、アイツの私物なんざ、ろくでもねえモンばっかだろ」
「そんなことないっすよ。峠野だって、鉛筆と消しゴムぐらいまともなモンは持ってる!」
「その涙ぐましいかばい方はやめろ」

ガヤガヤと音量のあがる事務所の中。
月島が隣の部屋へ姿を消したのを見計らい、美園がすかさずあの紙切れに手を伸ばした。
じっと見るのは怪しいと思われそうなので、1,2秒でことを終わろうと思っていた。


「………」


ピラッと紙切れをひっくり返し、“ある文字”が視界に飛び込んだ。



「———…っ」


美園の瞳孔が一瞬大きく開く。


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