コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 最強次元師!!【最終章】※2スレ目
- 日時: 2016/08/04 00:32
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Wb.RzuHp)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=17253
運命に抗う、義兄妹の戦記。
--------------------------------------------
※本スレは“2スレ目”です。第001次元〜第300次元までは旧スレに掲載しています。上記のURLから飛べます。
Twitterの垢はこちら⇒@shiroito04
御用のある方はお気軽にどうぞ。
イラストや宣伝などを掲載しています。
※最近更新頻度ががっくり落ち気味なので、不定期更新になります。
●目次
あらすじ >>001
第301次元 >>002 第311次元 >>014
第302次元 >>003 第312次元 >>015
第303次元 >>004 第313次元 >>016
第304次元 >>007 第314次元 >>017
第305次元 >>008
第306次元 >>009
第307次元 >>010
第308次元 >>011
第309次元 >>012
第310次元 >>013
●お知らせ
2015 03/18 新スレ始動開始
- Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.9 )
- 日時: 2015/07/19 00:50
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
第306次元 手と手を
「「——!?」」
激しい轟音に、端と端の部屋にいたエンもサボコロも酷く驚いた。一体何事かと扉をこじ開ける。
開くと同時、立ち込める煙が二人の顔をすぐに覆った。咳込んで何とか薄く目を開くと。そこには僅かにレトヴェールの金髪と、短く明るい茶髪が見えた。
「な……っ!」
「まさか……レトと双斬か?」
白くて綺麗だった広い空間が跡形もない。床を打ち壊して瓦礫と岩と土がその白さを汚して、遠くの壁すらもひびが入りボロボロ崩れ始めて。
煙が淡くなっていく。灰色がだんだん晴れていく。
剣を両手に立っていた英雄二人は————“片方”、崩れ落ちた。
「——完敗だよ、レトヴェール……」
途端、体中から細い閃のように血が真っ直ぐ噴き出した。傷を重ねた双斬が体を床に叩きつけたのは、真っ直ぐサボコロの正面での事だった。
何もここまでしなくとも。サボコロは喉まで差し掛かった言葉を——次の瞬間、呑み込んだ。
「……やっぱり、敵わない……な。——有難う、レト」
双斬の小さな小さな、呟きを耳にした。丁度瓦礫の影に隠れられるスペースを見つけ身を隠す。同じように傷を負ったレトがゆっくり歩み寄る。
「どうだ、諦めて俺に譲ってくれるか? 双斬」
「……ああ、完敗だよ。大完敗だよ。ったく悔しいなあ」
「——……あー、疲れた!」
少し前と同じように、今度はごろんと床に転がった。さっきよりも近い。隣には互いの顔がある。然し清々しい表情で、しっかり目を開いて、また真っ白な空を仰いだ。
「双斬、バカな事を聞いても良いか?」
「今度は君が? 良いよ、言ってご覧」
「————最後まで俺と一緒に、戦ってくれるか?」
サボコロとエンが、炎皇と光節に聞いたのと同じような事を。
レトは双斬に問う。その答えが何となく分かっていたとしても。
確かめたい。もう一度。初めて「双斬」だと口にした幼いあの日から。
どれ程時間が経って、どれ程あの日より、変われたのか。
「……うん。戦うよ。君と最後まで」
「随分弱弱しい返事だな」
「僕は疲れてるんだよっ、君のせいでもう立つ力もないんだって!」
「ははっ。そら悪い事したな」
「——……戦うよ。君と、最後の最後まで」
「ん……——それなら良かった」
ひょいっと立ち上がったレトが、寝転がる双斬に、手を伸ばした。
その手は少し赤く滲んでいて、擦れていて痛々しくて。でも、誇らしくて。
「寝てる時間はねえ。さっさと休んで、また再開するぞ」
「はははっ、何それ! レト鬼畜!」
「うるせえな。ほら起きろ——————“レイレス”」
はっとして、レトの清々しい顔を見た。大事な人を自分の手で守れなった、その名前は。
千年後の未来にもう一度響きを取り戻した。新しく生まれ変わったような気さえして、彼は。
レイレスは、今までで一番無邪気に、笑って——手を取って立ち上がった。
「レイレス、かあ……悪くないね!」
「だろ? 何か“双斬”だと本当に武器扱いしてるみたいじゃん」
「うん。有難う……——ねえ、レト」
「ん?」
「君は、失くしちゃだめだよ」
レイレスの真剣な瞳が突き刺さる。嘗て失くした、愛も伝える事の出来なかった大事な人を思い出して。
幼いながらも純粋で賢明だった。恥ずかしくて、なかなか伝えられなくて、後悔する事になるなんて思ってもいなかった。
「目の前で、大事な人を失くす痛みを、君が知る必要はない。あまりに無力で、僕は自分の非力さを思い知った。立ち直れなくなって、仲間に迷惑を掛けてこの様さ。……何となく、僕と君が似ているような気がして」
「“風を使う次元師”ってだけか? それとも、一番大事に思ってる相手……だからか?」
「どっちもだよ。君の先祖のポプラ・エポールも……目の前で恋人を、妖精フェアリー・ロックを失ったから。全部重なって見えちゃうんだよ」
「……安心しろ。失ったりしねえよ————“千年”、経ったんだろ?」
レトはレイレスの頭に手を乗せた。泣きそうな彼は、目を伏せる。
「……それもそうだね。あれから千年も、経ったんだ」
「だから気合入れていこうぜ。兎に角あと一ヶ月。死ぬ気で強くならなきゃな」
「最後の悪足掻きってとこだね。しょうがないから付き合うよ、どこまでも」
「ああ、頼むぜレイレス————最後まで、“運命”ってやつに抗う為にもな」
レトがもう一度手を伸ばす。気が付いたレイレスがそこに自分の掌を持っていく。
——パンッ、と、お互いに手を弾いた。
「おーおー、やっと終わったかー? レト、レイレス」
「! サボコロ、見てたのか?」
「ああ、序にほれ、エンもいるみたいだぜ?」
「ふん。全くクサい奴らだ。その様子だと傷も絆も深まったようだな」
「エンお前上手いな……」
「キールアんとこはまだなんかなー」
「ん。さあ……音は全く聞こえてこねえけど」
六人が和気藹々と話す光景を、壁に寄りかかってレトの父、フィードラスが眺めていた。
成長した息子が戦う姿を初めてその目にして後悔をする。きっと人族代表決定戦では、その緊張下でより強く輝かしい戦いぶりを見せてくれていただろうに。
それだけではない。それ以前も乗り越えてきた困難、絶望、数多の感情渦巻く彼の成長の変化を見る機会がなかった事、仕事を言い訳に子供から身を離していた事が全く惜しい。
レトの戦う様子を見る事が出来ただけでも、レイレスの話に乗った甲斐があった。と、同時に、良くもまあここまで派手に壊してくれたなと、元の姿かたちもない会場に涙した。
彼はわざと派手に手を鳴らして、壁から背を離しレト達の許へ近寄った。
「いやあ、良かった良かった。強いじゃないかレトヴェール」
「……親父」
「お前が実際に戦うのを見たのは初めてでね。感動したよ。流石は人類の代表だな」
「親父がいなくなってから随分経ったからな。そりゃ良くも悪くも変わる」
「素直じゃないな。きっとロクアンズも強いんだろうな、お前と同じで」
「……強いよ。自慢の義妹だからな」
「そうか。それじゃ一旦地上に戻ろう。今後この施設を使うかどうかは君達に任せる。自由に使ってくれて構わないよ。私は少し残って、壊れた箇所の修繕と強度の改善をしようと思うから、先に上がっておいてくれ。整備が完了し次第レトヴェールの通信機に連絡を入れよう」
「ああ」
「よっしゃ! 飯食って休んだらすぐ再開だぜ!!」
「俺も少し休む。時間が無いとは言え、体を壊したら元も子もないからな」
擦り切れた隊服を翻し、出入り口へ向かう。扉を開けたところでひょっこりと、見慣れた顔と金髪が目の前に現れた。
「! キールア、やっぱりもう外にいたのか」
「うん、先に戻ってもあれだから待ってたの。三人ともどうだった?」
「自分と同じ次元技を使うヤツと戦えるってスゲーよ! 戦い方っつうか何つうか学べるしよ!」
「千年前英雄だった者と一戦交える事が出来たのだ。かなりの報酬ではあったな」
「ははっ、そうだね。私もかなり“ミリア”にしごかれちゃった」
「ミリア? ってまさか……」
「うん! 勝った時教えてもらったの! 百槍ね、ミリアっていうのが本名なんだって!」
「ほ〜、んじゃ俺も後で炎皇の名前、教えてもらおっと!」
「光節の名前も気になるところだな」
「……? レト、どうかした?」
「え? ああ、いや。それよりお前大丈夫か? かなり傷があるみたいだけど」
「うん。平気だよ。確かに戦闘中はちょっときつかったけど、さっき慰楽を使ったから」
「ん……そうか」
扉の奥から聞こえてくるレト達の楽しそうな話し声を背に、フィードラスは歩き出した。
レトが崩した会場を、首を回しながら真っ直ぐ前へ進んでいく。止まる事なく進んで進んで、突当り。
キールア・シーホリーが、百槍のミリアと戦った部屋の前。
彼は扉を押し開け、表情を歪めた。
「————やはり、か……」
どの部屋にも辛うじて残っている白さが、ない。
高い位置に設置していた筈の電灯が跡形もないせいだろう。闇に包まれた空間。完全に破壊された景色。大きな建物が派手に崩れ落ちたのを、想像してみると良く似ている。岩と大きく砕けた瓦礫と、飛び散った血痕が真新しい。爛れた土が地面を支配していた。
これは時間の問題かもしれない。フィードラスは眼鏡をくいと上げてから、踵を返した。
- Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.10 )
- 日時: 2015/07/26 13:11
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
第307次元 作戦会議
「ではこれより、目前に控えた“第二次神人世界大戦”に於いての戦闘配置及び作戦提示を行う。あくまで我々上層部が独断で決めた事項であるが故に、君達戦闘部班には賛成反対の意を明確に示して欲しい。異論がなければ話を進めるが、心の準備は出来ているな?」
戦闘部班班長、セブン・コールの堂々として良く響く声掛けによって始まった、大戦に向けての作戦事項会議。第一講堂に集められた戦闘部班の次元師達に加えて、科学部班の班長フィードラス・エポールもまた中央に立つセブンに並んでこの会に出席していた。
「まず戦闘部班の四人の優秀な代表達、“英雄大四天”の動きから説明したい。知っての通り大戦の形式上、両軍の大将である人族代表と神族代表は、規定の時刻になるまで戦闘への介入を禁止されている。故にレトヴェールはその時刻になるまで身動きが取れない為、彼には全隊員への指令通達を任せようと思っている。言わば戦場に於ける指揮官を彼が担う訳だ」
「総員はレトヴェールからの連絡を受け取れるよう、通信機の破損には気を付けて欲しい。が、もしもの時は壊れてしまっても構わない。その場合近くにいる蛇梅隊の隊員と行動を共にする事を約束して欲しい。レトヴェールはどうだ」
「異論はねえ。進めてくれ」
「次に他の代表達だが、上層部で議論に議論を重ね結論を打ち出した。次元師代表の三人は他の神族と戦う権利を持つ。つまり向こう側の神族二体と戦う事になるのだが、フィードラス班長の助言によれば『ゴッドは12月25日の間、つまり24時間の中でしか能力を使えない』との事らしい。大戦開始はその少し前であるから、もしゴッドが代表であってもなくても、彼は0時を過ぎるまで無い者として考える事とした」
続けて、運命の神【DESNEY】が代表である可能性は低いだろうと結論付けた。彼は前線に上がってくるタイプではない上に、蛇梅隊の次元師を動揺させる為に心の神【FERRY】、つまりロクアンズを代表にしてくる可能性と、12月25日の間でしか戦えない神族の司令塔【GOD】を持ってくる可能性を考えた。両軍の代表は、丁度12月25日の0時より、一騎打ちでの戦闘を開始する規定となっている。先に大将を討った方が勝ちというルール上、ここで勝敗が決まってしまうのではないかと疑問の声も上がっているが、所詮“一騎打ち”というのは大戦中の一興でしかない。どちらかが軍を動かしてしまえばもう片方がそれに対峙して軍を動かす。よって再び全面戦争に陥るという形の想像は容易だろう。
セブンは『ゴッドとフェリーはどちらも可能性がある為、揺動の為にどちらも動かないのではないか』という仮説を立てた上で、英雄側の動きを次のように示した。
「間違いなくデスニーは序盤から仕掛けてくる事になる。そこで我々は、キールア・シーホリー単体で彼と戦う事を提案する」
「——!」
「はあ!? き、キールア一人でか!!?」
「待て。一人というのも大分問題だが、次元師として経歴のないキールアにいきなり神族と一人で戦えなどと、無謀すぎる提案では?」
「……納得のいく説明を要求する。一体どういう事だよ班長」
「これは俺からの提案だ、レトヴェール。サボコロ・ミクシーとエン・ターケルドという多大な戦力を、神族との戦闘ではなく向こうの兵器、元魔の討伐に充てたいと言っているんだ」
「親父……だったらキールアじゃなくて、サボコロかエンのどっちかをデスニーに充てれば良いだろ? 何だってキールアなんだよ」
「サボコロとエンを離すというのは、“両次元”の発動が出来なくなるという事。デスニーにそれだけ戦力を継ぎ込めば、瞬く間に他の次元師を犠牲にする事にもなりかねない。デスニーを侮っているんじゃない。寧ろキールアの実力を見込んだ上でもあるんだ」
「……でも、それじゃあ」
「——異論はありません」
「!」
聞き慣れた、芯の通った声が響く。いつにも増して真剣で、覚悟を決めたような声に震えはなかった。キールアの顔にも特に困った様子は見えず、真っ直ぐフィードラスを見つめて返す。
「キールア……」
「本人の承諾を得た。このまま作戦事項を伝える。良いな、レトヴェール」
「……勝手にしろ」
「さっきもちらっと言ったが、他の次元師の犠牲、つまり死亡は避けたいと思っている。戦争を行うにあたって犠牲はつきものだと思っているだろうが、今回はこの事項を第一に考えてくれ」
「ええと、つまり……誰も死なせずに、戦争に勝つって事? そんな事出来るの?」
「ああ。元魔は次元師にしか倒せないが、多いと厄介だ。蛇梅隊の次元師は元魔の討伐に慣れている為、率先して元魔の討伐にあたって欲しい。君達が死亡する確率は極めて低いが他の次元師はそうではない者もいる。普段の班を大戦用に再編成し、他の次元師を守りつつ元魔を討伐して欲しいという訳だ」
「ではチーム編成と、そのチームの行動範囲を伝えよう。基本三人一組で組んでもらおうと思っている。英雄大四天の四人を抜いて、隊員と副班長を足して十三人。そしてそこに——新たに二人加える」
「? それは、サボコロ君とエン君ですか?」
「いいや。それに彼らは二人一組で組んでもらうつもりだ」
「じゃあ一体……——」
カツン——、と。響いた靴の音に誰もが振り返った。
長い黒髪を一つに縛り上げた綺麗な顔立ち。横から顔を出して微笑む金髪ウェーブは畳まれ、女性は口元に扇子を携えてにこにこしていた。
レトヴェール達は嘗て、凛とした黒髪の女性に——『次会うのは戦場』だと言われ、英雄の名を授かった。
今正に、その女性が目の前にまで歩み寄ってきている。
「あー!? あ、あん時の!!」
「確か……刀を使う次元師、だったか?」
「チェシア・ボキシス——だろ? まさか蛇梅隊の次元師だったとはな……」
「覚えていたか、英雄レトヴェールよ」
「君達は見かけた事がないだろうが、彼女は一応蛇梅隊の“副隊長”だよ」
「ええー!? ふ、ふふ副隊長!?」
「だから苗字がボキシス、なのか! もしかして隊長の親戚とか?」
「ラットール・ボキシス総隊長の姪だ。叔父にはお世話になっている」
「なるほどな」
ラットール・ボキシス。彼は蛇梅隊の隊長であり、そして副隊長であるチェシアの叔父にあたるという。特別コネを使ったという訳ではなく、純粋に実力を認めて副隊長に任命したとか。可愛い姪の為を思ってもあるだろうが、チェシアの性格からして叔父にべったり甘えて裏口入隊、なんて事は一切なく、堅気で真面目な彼女が副隊長である事に異議を唱える者もいない。信頼された次元師だという。
「……流石に私の事は存じ上げていませんわよね。初めまして皆様、クルディア・イルバーナと申します。人族代表決定戦では運営委員として皆様のご活躍を拝見させて頂きましたわ。蛇梅隊隊員としては“総班代理”という役職についていますの」
「総班代理って……確か、全班長の代理人で重役会議にも参加出来るっていう役職だよな?」
「ええ。そうですわ。まあどの部班の班長様も大変優秀で堅実でいらっしゃいますから、私は殆ど“科学部班班長”の代理としてしか動いた事がありませんけれどね? 無責任で放浪男のフィードラス様」
「何の事だかさっぱりだよ、クルディア代理」
「まあ。全く不真面目なところはお変わりありませんのね。ご子息であられるレトヴェール様が貴方様に似なくて大変喜ばしい事ですわ」
「はは。お褒めに預かり光栄だよ」
「……」
「こらこら君達喧嘩しないの」
静かに言い争う不穏な空気を打開すべく、セブンは話題を切り替えた。チェシアは勿論の事クルディアも次元師だという事で、元いる戦闘部班十三人と合わせて十五人。これで三人一組が成立する。
「それじゃあ早速チーム編成に移る。大戦では常に行動を共にする事になるだろう。信頼関係を大事にし、より多くの元魔をそのチームで討伐してくれ。——では、発表しよう」
力強いセブンの声が、再び講堂を支配する。
新しいメンバーを加えてのチーム。二人一組だった今までとは違う。
不安を胸に、それでも自信を持って、次元師達は静かに耳を傾ける。
- Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.11 )
- 日時: 2015/08/02 12:49
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
第308次元 響け英雄の心
第二次神人世界大戦に向けての会議では、大戦の開始は24日の午後6時からだと伝えられた。それは神族側の意思であり、数週間前にそうするようにとの要求が、セブン宛に手紙で届いたのだという。
封筒には神章が刻まれていた。神章は人間の手で描くと、その呪いで描いた本人を殺してしまう程威力がある為悪ふざけで人間の描けるものではない事から、ゴッド張本人からの手紙だという事が分かった。
灰色の冬空に、もくもくと雲だけが浮かんでいる。これから戦争が始まるなんて知る由もないのだろう。敷き詰められたそれはゆっくりと流れていく。
戦場は未開拓地、というより千年前戦争で滅んだエルフヴィアという国だった土地。昔のまま、瓦礫や岩や砂で覆われ、荒んだ大地がただ地平線のように広がっていると聞いた。メルギースから酷く遠くにあるその国にはもう蟻一匹立ち寄らない程生気もなく、無駄に広い土地で周りに人間もいない事から戦場に選んだとされている。
レトヴェールは、誰もいない本部の廊下で、窓を広げて空を見ていた。彼はこうしていつも空を仰いでは、何となく時間を過ごしている事が多かった。
時間は11時前後。12時前には本部を出て、戦場に赴くらしい。一通りの準備はしてある上時間にもまだ余裕があるが、それでも彼はそこから動けずにいた。
今日、一年前に。
目の前から姿を消した義妹に、会う日が漸くやってきた。
「ロクの事、考えてるの?」
「! ——キールアか……あれ、そんなリボン持ってたか?」
「ああ、これ? ——うん。お父さんとお母さんから、誕生日プレゼントだ、って。おじさんに渡されたの。千年前にアディダスが使ってた物なんだって」
「ふーん……」
普段は髪ゴムで二つに縛っているキールアの金色の髪には、良く映える菫色のリボンが施されていた。
千年前、メルドルギース戦争の最中、アディダスが同じように髪にしていた物だが、どうやら敵の攻撃で綺麗に二本に斬り分けられてしまったらしい。
先祖代々密かに受け継がれていたそれを、家族の死後何年も後になって、16歳の誕生日プレゼントとしてキールアの手に渡った。キールアの両親は自分達が剣闘族に命を狙われている事を当然知っていて、運良く金の瞳を持って生まれたキールアに生きる可能性を見出しこうした形で彼女の生を祝ったのだった。
「いよいよだね。何だか嘘みたい。今から神族と、戦いに行くなんて」
「怖いか? キールア」
「……どうだろう。でも、当然だけど、次元師になる前まで、考えてもみなかった事だもんね」
「代表にならなきゃお前は、神族と戦う事もなかったのにな」
「ふふ。そうだね。でも私、こうしてレトと肩を並べて、同じ事を、同じ恐怖を、語り合えるんだって。変かもしれないけど、嬉しく思うんだ」
「……」
「ロクに、会えるね」
この一年。夢みたいな出会いを繰り返してきた。心の中で、空の上で、目の前で。彼女は神になる前の、神だと自覚する前の無垢な笑顔でレトに微笑みかけてきた。
一年経ってしまったけれど、今彼女は何を思って、何をしているだろうか。こんな風に、レトやキールアを思い出した事が一度でも、あっただろうか。
窓から伸ばしていた両腕。右手をくっと持ち上げて、握っては、ぱっと開いた。その中には何もないのに。もう一度、を繰り返す。
「ああ。そうだな」
「……あ、そろそろ降りよう? もう時間みたい」
「——キールア」
「……?」
「今回のその、大戦の形式上、お前にもし何かあっても助けに入る事が難しい。酷な事を言うようであれだけど、一人にしても心配ないって、思い始めてるんだ」
「レト……」
「だけど忘れるなよ。お前は俺が守ってやる。絶対、守ってやるから————安心して、暴れてこい」
キールアを守り続けてきたレトにとって、残酷な戦場に一人彼女を置いてしまう事の辛さは想像以上のものだった。
然し。次元師になって、同じ戦場に赴いて、暫くして次元の力を失い直後、新しい次元の力を手にした彼女は瞬く間にその力で第二覚醒を成功させてしまった。駆け足で強くなる彼女を目の前で見てきた。
優しかっただけの少女は変わった。その選択が正しかったのかどうかは定かでなくとも、今正に同じ意思を掲げて共に神に抗おうとしている。その現状を夢にも思わなかった幼い頃に比べたら、随分と変わったのだと実感させられる。
「……ふ、ふふっ……あはは! 何それー! それが女の子を戦場に送る時の台詞!?」
「うるせえな。信用して言ってんだよ」
「有難う、レト。忘れないよ。貴方が守ってくれる事も、その信頼も。だからレトも忘れないで?」
「?」
「私はいつでもレトの……ううん————“エポール義兄妹”の味方だからっ!」
ロクを神と知って尚、臆さずに、彼女の傍にいた。遠い昔、自分に冷たかったレトはその面影を殺して、自分の前に立ってくれている。向き合って守ってくれている。
守り守られ、支えて支えられて。泣いて笑ってを繰り返して今日に至る、義兄妹とその幼馴染は。
もう一度、出会う。ただ無邪気で幼かったあの頃へ戻りたい一心で。
会える。会いたい。笑いたい。笑い合って今度こそ————その手を、取りたい。
「そうだな……俺も——————信じてる」
強い語尾で言い放った。レトもキールアも僅かに微笑んで、もう行かなくちゃと、忙しなく階段を下りた。
もしかしたら二度と下る事が出来なくなるかもしれない。当然のように毎日広がっていた景色を見るのがこれで最後になるのかもしれない。
それでも。足早に駆け下りる。何百何千何万何億——踏みしめてきた居場所から。
外へ出た。一年前に義妹が姿を消したその場所へ集まる戦士達が、清々しく立っている。
「おっせーよレト!! 待ちくたびれたぜ!」
「悪い悪い」
「貴様は人を待たせる事に長けているな。駆け落ちの話でもしていたか」
「あのなあ……」
「ごめんね待たせちゃって。もう皆集まってるよね?」
「みたいだな……って、あれ?」
「どうした、レト」
戦闘部班の班員副班、つまり見慣れた面子と総班代理に副隊長。
昨日の話ではその人員でメンバー構成をし、且つ当然の事ながら今大戦は次元師しか参加出来ない筈であるのに。
蛇梅隊総隊長ラットール・ボキシス。
戦闘部班班長セブン・コール。
科学部班班長————フィードラス・エポールが、次元師達の輪の中にいた。
「——はあ!? な、何でいんの!!?」
「あー……やっぱレトもそういう反応すると思ったぜ……」
「俺達もつい先程聞かされたばかりだ。……どうやら彼らも————“次元師”らしい」
「——!!?」
今日の今日まで黙っていた、と。中庭に集合と聞かされ着いてみれば、待っていたのは今まで次元師である事を隠していた上層部の顔ぶれだった。当然驚いたが、メンバーの大半は「なんかちょっと安心した」と口々に零していた。
「親父……っ、てめえ今まで隠してたのかよ!!」
「ははは! 次元師でないとは言っていないからな。いやあ、お前の驚いた顔は新鮮だよ。ハイ、チーズ」
「調子乗んな」
「セブン班長まで……どうして隠してたんですか?」
「んー? それはね、キールア——単純に君達を驚かせたかったのさ〜!」
「くそ! その顔腹立つからやめろ!!」
「元気があって宜しい。だがなレトヴェール君、嘘ではないのだよ」
「た、隊長……ってまさか」
「気付いたかね? そう。君達は今まで我々の事を、“上司”として信頼してきた。全く知らない他人の次元師より、普段から共に同じ飯を食らい、信頼してきた人間が傍で戦ってくれるという事に“安心感”を覚えただろう? 今日まで君達に黙ってきたのは、君達を更に安心させ、戦争に対してのモチベーションもより向上させる為だったのだ」
「次元の力は心の力。安心という言葉は心安らぐと書くだろう? 運良く我々三人は皆後方支援型の次元の力でね。君達の背中は必ず我々が守るから————振り返らずに突っ走って欲しい訳だよ」
蛇梅隊の総隊長に戦闘部班の班長。加えて科学者として名高い実の父親が。
同じ目標を掲げて背中を守ってくれると言った。広い背中に逞しい顔つき。戦闘部班の若者達の顔が、更に晴れ上がっていくのが分かった。
憎たらしいけど、格好良い。
同じ戦場に立てる嬉しさに身震いして、レトは真っ直ぐ前を向いた。
「皆————聞いてくれるか?」
若い英雄は声を出した。彼が英雄となった瞬間を、この場にいる者皆目にし、耳にした。
人類の代表は彼しかいないと決めていた他の三人の英雄達も、少年に向く。
「俺達は有次元の世界へ行って、神族を生み出した張本人【MOTHER】に会った。彼女は別れ際、俺達に——“ある言葉”を残してくれたんだ」
≪貴方達が、胸に抱くのは……“無限の可能性”……信じて、貫いて……——生きて≫
『神を救って』————その言葉が焼き付いて離れない。消えない。
マザーの言葉はまたしても、此処にいる次元師全員の心に強く響いた。
「……俺は、“人族代表”なんていうド偉い名前を受け継いだ。正直本当に俺で良かったんだろうかと思ってた。結局は“エポール義兄妹の片割れ”でしかないんじゃないかって、思ってたんだ」
義妹と共に戦っていた頃とは変わってしまった。背中の冷たさを知って、失って、ここまで立ち直れたのは。
決して自分だけの力ではない。当たり前かもしれないけど聞いてほしい。英雄は言葉を繋いでいく。
「義理の妹に、神族のロクアンズに堂々と会う為になろうとして——でも今はそれだけじゃない! 全ての次元師と、世界中に溢れる全人類の為に誓う!! ————俺は!!」
ロクアンズに救われた人間達の目が、優しげな瞳がじっと彼の言葉を聞いている。
もし、彼女が人間だったなら。間違いなく人族代表だった。
でも、彼女が神様だったから。仕方がなく自分が選ばれた。
そんな気がしていた。
「俺は、人類の代表として必ず——————必ず神の首を獲ってみせる!!!!」
————今になるまで、ずっと。
英雄の言葉が強く心臓を叩いた。重なり合っているような気がした。この場にいる全員の心と心が。
震えもしないで真っ直ぐ前だけ見据えるレトに、皆が頷き交わす。
今から始まる。千年に亘る永い因縁の終着点。
神と人が織り成す最終決戦の————————火蓋は切って落とされた。
「全力でいくぞ——————————絶対勝つ!!!!」
- Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.12 )
- 日時: 2015/08/10 10:35
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
- 参照: 最終章
第309次元 開戦
「ほらご覧、フェリー。紅い夕日が落ち闇夜と混沌していく様は美しいだろう? 千年前も同じような景色だった。この国は変わらずに美しい」
「……その美しい景色は、貴方が壊した事で生まれたんだろうけどね」
「はは、鋭いな————嗚呼、ほら、ご覧フェリー」
「……」
「千年前と同じ景色だ——————然し人間は、全く美しくないな」
神の司令塔は目を細める。金髪を一つに揺らした、人族代表を筆頭に続々と戦場へ足を踏み入れていく影。崩れて傾いた建物の上で、神族達は正しく人間達を見下ろしていた。
少年レトヴェールは、ある程度神族に近づいたところで歩みを止めた。
「……」
高くて良くは見えないが、確かにロクアンズのものと思しき淡い緑の髪が靡いていた。ベージュ色のコートで身を包み、フードを深く被っているせいか隠れてしまって顔色までは伺えない。一方、神の司令塔【GOD】は黒く長い髪を揺らして、レトと目を合わせた。
「ようこそ古の国エルフヴィアへ。辺境の土地までご足労頂き感謝するよ。気分はどうだい?」
「悪くねえな。今日に備えてコンディションも万全だ。——いつでもかかってこいよ、神様」
「君は清々しい程生意気だな————焦るな。直に鳴る」
同時だった。この国で唯一生きた、大きな時計塔が————午後6時の、鐘を鳴らす。
「さあ始めようか! 生きるか死ぬか、壊すか壊されるか——————“最期の狂宴”を楽しもう!!」
————12月24日、午後6時00分。第二次神人世界大戦、開戦。
砂が巻き上げられる。渦巻く豪風に包まれた神達は——刹那、姿を消した。
同時に戦闘部班の班長セブンの掛け声が響く。前線に上がっていく次元師達は次々に立ち尽くすレトヴェールを追い越して、遠くに見える、怪物じみた陽炎に向かって走り去っていく。
夕空は完全に閉じて、暗がりの曇天がどんより空を飾る。その下を激しい剣幕で駆けて行く次元師達の中、たった一人だけ速度を落としてレトの前に立った。
「レトヴェール」
蛇梅隊の隊員で、後方支援を申し出た三人の内一人。科学部班の班長フィードラスは唯一立ち止まって、誰も見えなくなった中で二人佇む。ただじっと、暫く目を合わせて。彼は口元に笑みを浮かべた。
「お前の見事な采配を期待している。頼んだぞ」
頭に優しく掌を乗せてから、フィードラスの姿はだんだん小さくなっていった。遠ざかる怒号。大きなリュックを肩からどすっと下ろして、顔を上げた。再び静けさに包まれた彼は深く息を吸い込む。
「……レト、始まったね」
「ああ」
「君は僕を超えてくれた。もう僕から君に教えられる事は何一つない。だからこそ、この戦いに勝って————また皆で、笑え合える日々に帰ろう」
「……ああ。分かってる」
「……君に、全てを託すよ。これが最後だ。——どうか、悔いのないように」
精霊レイレスは泡のように姿を消してしまった。耳に装着した白い通信機も、身を覆うジャケット型の隊服も、新調したばかりで真新しく、し慣れない。一応機動上の問題がないか確認する為何度も試着したものだが、極稀に突然動かなくなって連絡不可になる事もあった時計型の通信機と、長年使い込んで縒れ切ったフード付きのコートが妙に恋しくて敵わない。
ただ、その首元に光る、鍵のペンダントだけが変わらず輝きを放っていた。
『——こちら前線A部班!! 地区1-3に到着!!』
『こちら後援A部班! 地区1-2に到着しました!』
『こちら前線B部班——』
目的地点にまで辿り着いた各部班の連絡が次々にレトの耳へ入ってくる。蛇梅隊の隊員である前線部班を先頭に、蛇梅隊以外の次元師が自然とその後ろに、そして後援部班が後に続いている。
そして。
『こちら“特攻部班”——————前方に元魔の姿を確認』
“特別攻撃部班”————エンとサボコロの二人組は、近づいてくる大きな輪郭を目にした。
「お、おいエンあれ……!」
「ああ……どうやら————“普通”ではないようだ」
相変わらずの巨体がぐらっと景色を揺らした。ただいつもと違うのは、その形状が——“獣”に似つかわしくないという点。
頭上に伸びていた角はなく、牙も見当たらない。丸い瞳に差していた光は失われ、機械的に赤く蠢いている。焦げ茶のような荒んだ色をしていた肌も何を思ってか真っ白い。無駄に長い手足は平べったく、口を開けば牙は見えずとも青い液体が口角から零れている。だらしなく涎を垂らす姿だけは変わっていないらしかった。
「す、っげ……これ、ホントに元魔か?」
「臆するな。俺達はキールア一人に神族を任せて此処にいる。——弱音は許されないぞ」
「ああ、わーってるよ! 何の為に俺らが————先頭にいると思ってんだ!!」
光る、心と全身が。次元師の持つもう一つの世界をこじ開ける。
少年達は紡ぐ。
「「次元の扉————発動!!!!」」
『さあ、始めようか』————そう言った神様の創り出す、魔物。
この一年の間に変化を見せた形状、魔物というよりエイリアンに近くその巨体は相も変わらず。
神の使者とも呼ばれる元魔を目の前に、この場所で、まるで神族からの挑戦状みたいに。現世に放たれた魔物は高々と吠え散らす。
「最初から飛ばすぜ“ギガル”————炎撃ィ!!」
炎の次元技“炎皇”は————千年も前の名前を響かせて、炎は轟き渡った。空高くに位置する元魔の顔面に吹きかかる炎は元魔の態勢を崩す。然し暫し足を躍らせた後、すぐにむくりと顔を起こした。赤く明るい瞳が再び夜空に映える。
「くそ……! いつもより硬ーぞこいつ!!」
「どいていろサボコロ!! ————俺に、撃ち抜かれたくなければな!!」
跳んだサボコロの、遥か下地面の上に立つエンは腰に力を入れた。真っ直ぐ軸もブラさず————見捉える。
「真閃————ッ!!」
光を帯びた一閃の刃が——軌跡を描いて跳んだ。物凄い速さで夜空に放たれる。元魔は少し屈んで————真正面から矢を受け止めた。
「「——っ!!?」」
元魔の身体と矢先が接触する、瞬間。
————英雄の放つ矢を、その大口から繰り出される怒号が掻き消した。
「——は……ッ!?」
「どうやら、一筋縄ではいかせてくれないらしい……——」
今までの荒々しい叫びとは打って変わって、高くはち切れそうな金属音に耳を塞ぐ。サボコロは着地して、間もなく駆け出した。
「これならどうだ!! ————炎弾!!」
炎の弾が次々と、サボコロの体の周りに出現する。両腕を大きく振って、弾は真っ直ぐ元魔の腹部を——捉えた。
「よっしゃ——!!」
——然し。
「! ————前を見ろサボコロッ!!」
「——!?」
炎の塊は確かに元魔の腹部に跳んで、衝突し————“相殺”された。
「な……っ——!」
元魔が特別に何をした訳でもなかった。ただ“普通に”殺された炎が、しゅぼっと消えていく。
サボコロも手を抜いていない。寧ろ力は入れた方だ。それなのに。
気味悪く見慣れない元魔の、白い身体はそれを受け流し、飄々と両腕を揺らして一歩、サボコロに近づいた。
(まずい!! この態勢じゃ受け身が取れ————!!)
平たく白い、掌がサボコロを覆う。
「サボコロ————!!」
強い衝撃に包まれた。ビタァァン!! と鞭打つ音が聞こえると、サボコロはまるで隕石のように、圧倒的な速さで大地に叩きつけられた。体と地面のぶつかり合う音。凄まじい勢いで土埃が立ち込める。
(な、何だ今の強さは……!? ————今までの比ではないぞ!!)
全く見慣れない外観。聞き覚えないのない叫び声。そしてその力強さを。
目の当たりにして焦る英雄達をその目に、神の筆頭は厭らしく口元を歪めた。
「たかが元魔だと思っていると——————その命を軽々と落とす事になるのにね」
くすくすと。神様はまるで子供みたいに目を細めて、笑う。
- Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.13 )
- 日時: 2015/09/21 09:44
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 7ufWM2y7)
第310次元 ぶち抜け
「くそ……っ! サボコロ!!」
エンは素早く走り出して、サボコロが落ちたとされる方角へ。ドーム状に丸く凹んだ地面の淵に辿り着くと、最深部にサボコロが横たわっていた。
間もなく、全身に力を入れたサボコロがゆっくりと起き上がる。口に含んだ土をぺっと吐き出して、腕で顔を拭った。
「サボコロ! 平気か!?」
「……っ、くっそー……! 油断しちまったぜ……いでで」
(あの巨体で、今の素早い攻撃……獣のような手から、平べったい形状に変わり更にその手足も長い……。今まで回避出来ていた距離にはもうあの掌が待ち構えているという事か。サボコロのような近距離型では難しいか……?)
冷静に分析を開始するも、時間はない。遠くまで叩き飛ばされたとはいえ、もうすぐ傍に元魔の輪郭が見える。
白い巨体は長い腕を大きく揺らして近づいてくる。何か良い手はないか、と。エンがその巨体を注意深く凝視した時。
広い胸の真ん中に、小さな石を見つけた。目と同じ、真っ赤な石を。
「……! あれは何だ……!?」
「んぁ? 何か見っけたのか? エン」
「ああ。胸部の中心に赤い石が見えるだろう? あれは一体……」
「待てよ! あれ確か……さっき腕を思い切り振った時————赤く光ってたぞ!!」
「!? という事は、元魔の……“動力源”——!」
「ああ、間違いねえ————ありゃ“核”だぜ!!」
胸部に埋め込まれた赤い石。その小ささから見て間違いない。二人は顔を見合わせ、頷き合う。
「あの石を壊せば元魔も倒せるってこったな!」
「然し気になるのは、先程貴様の炎を、あの白い体が難なく相殺した事……恐らく弾力性に富んでいて、形のない攻撃と中途半端な物理攻撃は全て促されてしまうのだろう」
「はあ!? じゃあどうすれば——!」
「!! ————来るぞ!!」
地面を叩く平たい手。分厚い紙を束ねたかのような掌が、同時に大地を揺るがした。離れるエン、跳んで着地するサボコロ。エンは静かに元魔を睨みつけると、口を開いた。
「……——おいサボテン! 耳を貸せ!!」
「はあ!? サボテン言うな遠いだろ無理だわ!!」
「誰が物理的に距離を縮めろと言った!! ——作戦を思いついた、よく聞け!!」
「! お、おう!」
「貴様————以前セルナから体術を教わっていたな!!」
「!!」
遠くへ飛ばす声がサボコロの耳に入る。背後から近寄ってくる元魔の動きを察知した彼は、彼を目がけて飛んでくる太い腕を躱す。
大地は割れる。瓦礫が跳ぶ。襲い掛かる鉄槌の攻撃を、身軽な彼は器用に避けていく。
「お、教わってた、けど……! それと何の関係があんだよ!」
「さっきも言ったがそやつに生半可な魔法攻撃は効かん!! ただ炎で攻撃するだけでは相殺されてしまう……! だからこそ、“体術”と“炎”で————そやつの“喉”を潰せ!!」
「——!」
「厄介な声さえ出させなくすればそれで良い————出来るな、サボコロ!!」
人族代表決定戦が終わってから、間もなく有次元の世界へ遠征し。帰ってきたサボコロ達は己の次元の力と何日も修行をしていた。
その合間に、サボコロが何度かセルナの許を訪れていた事は、本人とギガル以外知らない事実。
決定戦で一度セルナに修行に付き合ってもらっていた彼は、体術にこそ、魔法が最大限に生かせる道を見出した。セルナ本人も、まさかもう一度サボコロに修行をつける事になるとは夢にも思わなかっただろう。
自分を頼ってくれている。お前は凄い奴だ、と言われて以来、二人の間には確実に深い絆が生まれていた。その絆によって生み出されたサボコロ独自の体術を今、エンは必要としている。
「エンてめえ! 俺を誰だと思ってんだよ!!」
「!」
「いつまでも元力制御のできねーガキだと思ってんなよ————良いぜやってやらあ!!」
悔しい事に、サボコロは普通の次元師より多量の元力を持っている。それはつまり、知力に乏しい彼の身体能力が遥か他者と比べ物にならないほど優れているという事。
他にもスタミナ、視力、聴力、嗅覚など、殺し屋として培ってきた能力値の高さにも驚かされてきた。
元魔を仕留めるだけの狩人であったエンにそれはない。前線に立って戦う為の武器を持っていない。
でも、弓には弓なりの————エン・ターケルドの、戦い方がある。
「うおおおお——!!」
右手、左手、炎を宿した彼の腕は真っ赤に熱く燃え滾る。彼の性格を全く捉えた力を、彼が全力で発揮出来るように。
エンの心臓は落ち着きを取り戻す。こうでなくてはいけない。
遠くから、全てを見据えるエンが瞳を開く。
「へへ……! “この技”はとっておきたかったけど……しゃあねえ!!」
腕にだけあった炎が、全身を周り始める。伝わる熱。熱く跳ね上がる心臓。加速して、足元を超えて炎は——大地を這う。
「第八次元発動——————“炎装”!!!!」
十大魔次元技“魔装”————炎を身に纏った彼は、跳び上がった。
「声さえ封じりゃ良いんだろ? ————任せろ!!」
元魔の、白く太い腕が——雨のようにサボコロへ降り注ぐ。
「——!! サボコロ!!」
然し、サボコロはまたも器用に————身を何度も翻し翻し、舞う。
「——……! あやつ……っ」
大地は繰り返し揺れ動く。叩きつけられる掌。その、どれにも捕えられないサボコロを見て声を失った。
サボコロにしては綺麗な受け身で、柔軟な躱しで、しなやかに。雑だった動きの一つ一つに、丁寧さが加わっているのが良く分かる。
これもセルナのおかげなのか。体術を良く心得た者が教える、最大の武器だとしたら。
負けていられない。エンは漸く弓を構えだす。
「どうだァ! 覚悟しろよ————こんの白元魔!!」
足の裏側で蹴り上げた、平らな大地の——遥か上空。
サボコロは既に、元魔の目の前にいた。
「くっらえェ————ッ!!」
腕を引く、腰を落とす、前を向いて世界が——反転する。
炎に包まれた、右脚の膝が————元魔の顎を砕き上に、弾き飛ばした。
「“第二覚醒”——————」
この時を待っていた、狩人の目が光る。
「——————“光郷節”!!!!」
聖なる弓矢は、形を変えて尚月下に————輝く。
「第八次元発動——————“真軌閃”!!!!」
槍のような鋭さ、金色の矢は————放たれる。
空から大地へ、ではない。広大な大地から——無限の空へ。
地平線を裂くそれは正に——————“流星”。
「「————!」」
一閃の剣と化した、矢は赤い心臓を、穿つ。
「や、った……——のか!!?」
「——……」
派手に砕かれた石の核が、ボロボロ大地へ零れて元魔は急速に膨れ上がった。
そして柔らかい“皮”を突き破って“爆発”し————伴って突風を巻き起こす。
「うぐ——っ!?」
(これは、“内部爆発”——か……!)
涸れた砂を巻き上げた風に、二人は腕で顔を覆った。次に目を開いた時には、元魔は跡形もなくなっていた。
「さ、最後に爆発するたーな……諦めの悪い奴だぜ!」
「……——!」
空中から漸く帰還したサボコロは、着地と同時に別の音を耳にした。
ドサッ、と何かが地面に倒れ込む。気が付いた彼は、その先にエンを見つけた。
「!? お、おいエン大丈夫か!?」
「あ、ああ……少し、筋肉に疲れが生じたようだ……」
「筋肉……? もしかして最後の一発か!?」
「……何度も、撃てる技では、ない……らしい……っ」
「ど、どうすんだよ!? あ! キールアんとこでも行って……!」
「ダメだ。キールアに、余計な心配をかけさせたくない……それより」
「?」
「本部に……レトに、連絡を入れるぞ————元魔の核は赤い石だと、な」
「そ、そうだな! ——ホント、何の為に俺らがいるんだって、な!」
特攻部班の二人は一つの目的を果たし、頷き合った。
先頭に立って、誰よりも早く元魔と対峙したのは。手首に巻いた通信機を介してその報告を本部——レトヴェールの耳へ入れる為。
白い元魔は次々と遠くからやってくる。その巨体と、夜空の為に核を発見出来ていない者も少なくない筈。
己の身を犠牲してでも勝ち得た“情報”が————戦場に於いて最も価値あるものである事。
してその価値を損なわぬよう英雄の二人は、回線を繋げた。
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