コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 最強次元師!!【最終章】※2スレ目
- 日時: 2016/08/04 00:32
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Wb.RzuHp)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=17253
運命に抗う、義兄妹の戦記。
--------------------------------------------
※本スレは“2スレ目”です。第001次元〜第300次元までは旧スレに掲載しています。上記のURLから飛べます。
Twitterの垢はこちら⇒@shiroito04
御用のある方はお気軽にどうぞ。
イラストや宣伝などを掲載しています。
※最近更新頻度ががっくり落ち気味なので、不定期更新になります。
●目次
あらすじ >>001
第301次元 >>002 第311次元 >>014
第302次元 >>003 第312次元 >>015
第303次元 >>004 第313次元 >>016
第304次元 >>007 第314次元 >>017
第305次元 >>008
第306次元 >>009
第307次元 >>010
第308次元 >>011
第309次元 >>012
第310次元 >>013
●お知らせ
2015 03/18 新スレ始動開始
- Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.4 )
- 日時: 2015/05/03 00:44
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
第303次元 天才科学者
紅い少年も、金髪を二つに揺らす少女も、跳ねた蒼い髪を弾かせる少年も。
同じ力を持つ、“英雄達”と対峙していた。
腕を振るい大地を割って矢は放たれる。自分と同じ力を、自分の力が使うというこの光景は正しく違和感であり。
そもそも、フィードラスがこの施設を開発した事には別の理由があった。
当然彼自身自分が何処まで出来るかといった知識の限界に挑戦したさもあっただろう。
然し、彼にきっかけを与えたのは彼自身ではなかった。
時間は少しだけ遡る事になる。
『……』
蛇梅隊第一支部内は白衣を着た研究員で満ち溢れていた。何を隠そう全て科学部班の隊員であり、本部と比べてより密度の濃い、主に研究・実験といった科学の真髄を此処で語らい実行に移す。
本部はあくまで調査報告、実験概要を提出する場に過ぎない科学部班達の殆どは此処に位置していた。
科学部班班長のフィードラスは広大な個人研究室の他にもう一つ、隊員の一部にしか知られていない狭い個室を持っていた。その部屋でも当然研究をしてはいるが、支部内で彼が失踪したと噂になる原因の一つになっている事も。
彼は仄暗く狭い個室に身を置いては、ランプの光に当てられた資料だらけの机の上で今日も頭を抱える。
主に次元の更なる秘密を解き明かす為に日々次元の力の真意について考察を繰り返している彼は、資料冊子や紙に足場を奪われその上狭い道を分厚い本棚が更に道を狭めるという環境下、窓をコンコンと叩く音にハッとした。
落としていた視線を持ち上げると、そこにいたのは、浮かんだ小さな体だった。
『……? 君は……』
『こんばんは。そして初めまして、フィードラスさん』
元霊。英雄大六師。紅蓮の魔剣使い。
呼び名は数多あれど、今その名は————“双斬”。
『やあ、こんばんは。こんな時間に何の用だい——英雄?』
『……僕の事情を知っているという事は、僕が貴方の息子……レトヴェールの次元の力である事も、当然ご存じで?』
『ああ。と言っても、数年前耳にした。噂になっているみたいだからね、うちの息子共は』
『ええ、僕じゃあきっともう……』
『……』
『だからこそ力を借りたい。フィードラス・エポール————人呼んで、』
千年の時を超え、体長30センチメートル程になった小さな英雄の吐く。
言葉は科学者の眉をぴくりと動かす程度には十分な衝撃を与えた。
『————“史上最高の天才科学者”である、貴方に』
千年前の妖精が史上最美の女性と謳われているのと同様に。
彼もまた、史上最高を飾る人材の一人であった。
フィードラスは掛けた眼鏡をくいっと一度、軽く上げた。
そして物静かに口元を歪めて言う。
『史上最高、か……————残念ながら、私は“一番”ではないよ』
『……? 噂には確かにそう……他にも優れた科学者が?』
『さあ、どうだっただろう』
人類を遥かに超越した頭脳と考察力で、数多の難解書物を解読しまた応用を利かせて最先端の科学技術の発展に尽力してきた。彼を取り上げた記事や、彼が実際に筆を執って記した研究記録の書物の宣伝の殆どにそのような文句が述べられていた。
また全科学者の筆頭とも呼ばれる彼に今更ご謙遜を? と尋ねる双斬に対して、フィードラスは何も応えなかった。
『話が大分逸れてしまったようだ。まさか私を褒め称える為に来ただけではないだろう?』
『……貴方の実力を見込んで頼みたい事が』
『何だい? まあ息子が随分お世話になっているみたいだから、ある程度の依頼は引き受けよう。これでも蛇梅隊の隊員だしね』
『僕と……僕と、レトヴェール君を——戦わせて欲しいんです』
彼の眉は一度も動かなかった。静かにその注文を頭に叩き込み、既に。
この瞬間から彼は考えていた。次元の力の具現化。多次元空間の設計図。必要書類が何処の本棚にあっただとか、把握したら今度は手順を練る。
一通りのシュミレーションをまるで拍子抜けして一瞬言葉を失っていたかのような僅かな時間で終えて、息をついた。
『なるほど、ね。良いだろう。引き受けるよその依頼』
『! 良いんですか? そんなあっさり……』
『……君は、私を“史上最高の科学者”だと見込んで来たんだろう? 可笑しな子だ。無理だと思うなら依頼を断っても良い』
『い、いえ……』
『——信じる事。また信じられる事。この相互関係は、“我々”にとって一番大事な事だろう?』
双斬はフィードラスの言葉を肯定する術を持っていなかった。いや、彼が一体何について触れているのかという事がこの段階では分からなかったというのが正しいだろう。
彼は、返答に困っている双斬に一つ笑みを零した。
『君が信じてくれるなら引き受けるよ。期日は?』
『えっ、ああ……僕達、多分暫く帰って来ないので、その間に』
『曖昧だなあ。分かった。出来るだけ早く、だね』
『はい。お願いします』
『それまで、息子を頼んだよ』
それはフラッシュバックだった。双斬はビクンと何かに反応して、フィードラスと目を合わせようとした時には既に、彼の姿はなかった。
一度何処かで、全く同じ台詞を、全く同じ声で。言われていたような気がする。
暫く宙に浮いていると、嗚呼。
確かに彼は思い出して。少し笑って。ふっと闇夜に消えた。
「はァ——!!」
幼い少年の細い腕が、激しい風の刃を連れて空間を裂く。レトヴェールはその威力に圧倒されたせいもあって、一瞬隙を見せた。彼の双剣は強く弾かれた。
双斬はあまり次元技を使わない。己の腕と気迫が、レトを圧すのに十分すぎた。然しレトも、負けているばかりではいられない。
繰り出される荒々しくも力強い。双斬の剣技を、上手く躱し始めた。
「く……!」
「今度はこっちだ!! ——十字斬りィ!!」
重なった二つの、空気の太刀が切り裂いた。真正面から飛び込んでくる刃に双斬は、片手で。
左腕に力を入れたと思うと切り捨てるように真空波を薙ぎ払い、駆けた。
「なっ!」
「——十字斬りィ!!」
双斬もまた——“次元唱”を唱えなかった。
至近距離で放たれる。難なく自分の次元技を躱されてしまった驚きでレトは、痛感した。
——違い過ぎる。レトの知っている十字斬りではまるでなかった。
「うああ——!!」
細い真空波ではない。レトが普段目の前にしているそれではない。
間違いなく“刃物”のようであった。研ぎ澄まされた刃先、波が空間を裂く速さ。一撃に込められた重さ。
全てを取っても、レトが生み出す技では及ばない程。
凄まじく悍ましくて——ただ、怖い。
本当に同じものを扱っているのか。同じ武器をその手にしているのか。
使い手が違うという事実がここで顕れる。千年のブランクを何食わぬ顔で、徐々に埋めていく英雄は。
器用に、くるくると、双剣を手元で躍らせ——距離を詰めた。
「「——ッ!」」
全く同じ金属音が軋む音に、苦しいレトの表情と、覗く双斬が力むそれが重なった時。
均衡を保っていた力は反発するように。両者共々、後方へ跳んだ。
「はあ……はっ……!」
「息、上がるの早いみたいだね。まあ少し前までと比べたら相当良くなったと思うけど」
「うるせえな……ちょっと疲れただけだっつうの」
「そうそうその意気だよ。弱音は吐いちゃいけない。君の弱気な一言が、全次元師の重荷となって嵩張っていく事を忘れないでね」
「分かってるよ、んな事は」
「……変わったね」
「は?」
「何でもないよ! さあ続けようか——君か僕か、“英雄”に相応しいのが一体どちらか!!」
レトヴェールの息は既に整っていた。少し体を休めただけで、こうも変わる。
双斬は具現化された千年前の肉体でまた駆け出した。まだ慣れない。もう少し自由に、動きたい。
縦横無尽に飛び回る、柔らかい肢体にはまだ足りない。
(レト、僕は……僕が出せる最大のコンディションで、君と——戦いたいんだ!)
千年のブランクを抱えた英雄は、たった十五、六年生きてきた少年に、願う。
- Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.5 )
- 日時: 2015/05/18 07:13
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Nw3d6NCO)
- 参照: 簡単にまとめると……2レス目おめでとうございます!!(ぇ
朝早くにお邪魔しますっ! 犬です! ご無沙汰しています! 覚えていますでしょうか!?←
何と……! 駄犬のクセをしてまさか2スレ目突破したのに気付かなかったとは!! 何という失態でしょうか! やらかした感満載です!
ええ、何でこんな朝早くになったのかと言いますと、何となく朝早く起きてしまったのでやることなく、カキコを開いてみたわけですよ。携帯で!
「あ、瑚雲さん覗こう……」
ふとそう思いまして! いつもの如くこっそりと拝見させていただこうと伺う為に検索をかけさせていただきましたところ……(ストーカーとかじゃないですごめんなさい逮捕はやめてくd)何と、スレが二つあるじゃありませんか!! おかげで朝早くから変な声が出るわ、変なテンションになるわで、これは伝えなければならない! ってな感じで使命感(?)のままにパソコンをつけてこうして今書いていますww
我ながらバカだなぁ、と思ったんですけど……これ、お祝いの言葉をすぐに述べたい! って厚かましく思っちゃいまして……はい。
そんなわけで! 2スレ目おめでとうございますっ!!
毎度、コメントを書くと上手く文がまとめられないのと喋りたがりなところがありまして……こんな風に長々とした文になってしまうのは本当に申し訳ないと思うのですが、言わざるを得なかったことをどうかお許しください……!
それと、この場をお借りして何ですが、お忙しい中自分の駄作に感想を入れていただき、ありがとうございます;
ダメだ、変なテンションからかちゃんとまともな言葉が浮かんできそうにない……。全然物語の感想とか無しにただお祝いの言葉を言うだけ言って帰るのもあれなんですけども……そう、凄く申し訳ないんですが……。
自分には画力も何もないのでお祝いの絵も送れず……こうやって文でお祝いを述べるしか出来ないのが残念で仕方ないですやで……。うん、何か考えたいな……。
いかん、このままだと1000文字軽く突破しそうな勢いなのでとりあえずこの辺で止めることにします!
まだまだお話したいことがあったりもしますが、とにかくおめでとうございますとだけ伝えにパソコンつけたんだった……!
ではでは! この感想を投稿したらパソコン消してから仕度しないとなので!w
突然の訪問、朝早くに申し訳ありませんでしたぁっ! これからも無理をなさらぬよう、頑張ってください!
- Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.6 )
- 日時: 2015/05/20 20:55
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
- 参照: お返事遅くなりました……(手首を差し出す)
>>遮犬さん
い、いい今何となくカキコを覗こうと思い開いて「あれ? 最終更新いつだったっけ? 何ページくらいかな〜」なんて気軽に自分のスレを探してたら何処にもなく……まさかとは思うけれどもと思ってページを遡っていたら最終返信欄に遮犬さんの名前があって冷やし中華咥えたまま「ひえっ」って喉が鳴りました。嬉しさ抑えきれないんですけれどもどうしたら良いですか?(深刻)
とここまでが、前置きになります。
ええと、嬉しさのあまり何て言ったら良いのか言葉を選ばされますが……まず、有難う御座います!!
遮犬さんにそう言って頂けると、続けて良かったなあって。続けていきたいなあって、心の底から思えるのです。
遮犬さんがいつもいつも長文でコメントをして下さるの、素敵だと思っています。正直なところ、好きなんです。本当に。変な意味でなく!
お祝いコメントだけでも嬉しいのですよ! いっぱいいっぱいで、もう幸せです。本当に有難う御座います!
今じゃあカキコで気軽に話せる方が極僅かですから……ああもう嬉しいしか言えないのか私は(語彙力フライアウェイ)
私からも改めまして、有難う御座います!
稚拙な文ではありますが、どうか今後も足を運んで頂けるととっても嬉しいです。
まだまだ話し足りないというのは一緒ですね……! 久々にお会いできたというのもあって絶賛テンション崩壊中な者で←
応援有難う御座います。遮犬さんも頑張って下さい!
ではでは、またの機会に!
- Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.7 )
- 日時: 2015/05/24 01:10
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
第304次元 生きる為の武器
初めの十分は良かった。まだ彼女も、ゆるゆるとそれを振り回していた。
もう一人の彼女はそれでも精一杯だった。間もなく反転する世界。一瞬一秒移り変わる景色。初めて、自分と同じ武器を持つ自分と同じ位置に立つ人間と向き合ってみたが、話にならない。
美しい銀の髪はまるで胡蝶だ。綺麗なばかりではない、凄まじい闘争心に、押し潰されそうになった。
「く……ぅう——ッ」
「——ッ!」
彼女の、銀髪の——千年前に手に入れた百槍という名が、力を入れた。
弾かれた金色の髪に紛れて、切っ先は何より悍ましく少女を、襲った。
「はあ……はっ……」
「……ったく、まだまだね——キールア」
小さい精霊の時とはまた違う、大人びた声色に乗せて百槍は吐いた。
キールアより少しだけ背丈が低い。然し幼いにしては、可愛いというより綺麗といった言葉の方が似つかわしい。お人形さんのようだとは良くいったものだ。
腰まで真っ直ぐ伸びた銀の髪を左右に揺らして、キールアと同じ槍を片手に歩み寄る。
銀槍はキールアの背丈より高いというのに、百槍はより小さな体で同じものを握っていた。幼い少女が持つにはあまりに重たすぎるそれを握りしめた彼女を、キールアは初めてその目にした。
戦争を経験し、英雄の名を手に入れた少女、今の名は百槍。
駆け出した彼女はぐんと槍を振り回して、キールアのそれと衝突した。
「……ッ!」
「バカね。槍はその柄で身を守るだけの武器じゃないわ。振り回し過ぎるのも好ましくない。貴方の腕が疲れてしまうだけだと、何故気付かないの?」
「く……っ」
「良い? 良く覚えておきなさい。槍の最大の武器は、この————」
百槍は器用に槍を回して、柄でキールアの槍の矛先を下へ弾き飛ばした。
下がる切っ先。力を入れる事に夢中だったキールアのバランスが崩れた時。
百槍は既に、その槍を“横”に倒し————真っ直ぐ、キールアに突き刺した。
「え……——っ?」
何が起こったのが分からなかった。速すぎた。気が付けば、脇腹に冷たいものを感じていた。
力が抜けて握った槍を落としそうになる。緩く指に引っ掛かったままの柄が、カタカタ震えて。
落ち着いてから見下ろした自分の、淡い紫のシャツに————じわじわと広がる“何か”。
「う、そ……——百、そ……!?」
「この————絶対的な“貫通力”よ」
無常だった。卑劣だった。百槍は言い放ってから、銀槍を勢い良く引き抜いた。
同時に飛び出した赤につられて、キールアが前のめりになる。ガクンと落とした、膝をついて蹲った。
止まらない、感触を取り戻しながら、漸く——痛いと、思い始めた。
「う、ぐ……ぁ……!」
「剣は長い刃を持ち、敵を切り裂き目立った傷を残す事に長けている。矢も貫通力を持つけれど、どちらかというと“命中力”、ね。遠距離からの攻撃に向いているの。じゃあキールア、槍はどうかしら?」
「……や、槍……?」
「そう。貴方が持つ、私が持つ。この槍は、敵を傷つける事、遠くから狙う事、どちらも他の武器に劣ってしまう。さっきも言ったでしょう。槍が唯一他の武器より勝る点は、一体何?」
「か……貫通、力……」
「傷をつける、遠くから狙うなんて“生ぬるい”わ————槍は、“必殺”の武器よ」
そう、槍にはじわじわ敵を痛めつける力がない。
その尖った切っ先で全てを貫き、痛覚も覚えぬうちに、命を奪う武器。
百槍は言った。
槍は、戦場に置いて最も残酷な武器であると。
「派手に傷つける事は出来ないの。手加減が、きかないの。狙う事はイコール、“殺す”事。槍をその手にした時、貴方に許されるのは、敵が降伏を乞うまで苦痛を味わわせる事じゃない。殺す事よ」
「——!」
「槍はね、その手に残るのよ、“感触”が。矢は腕と、殺した相手が繋がっていないでしょう? 斬って捨てる剣とも違うわ。棍棒も貫く武器じゃない。銃もそう。短剣も、一撃では致命傷を負わせられない。……もう、分かるわよね? 最も死んだ相手と、繋がっていられるのは何?」
「……」
「嫌でも残酷になるわ。貴方もいずれ知ってしまうでしょう——槍がどれだけ、非道なものであるかをね」
敵の身体を貫いた時、また命を奪った瞬間、柄を掴んだ槍は、人の、死ぬ瞬間に立ち会ってしまう。
嫌でも見えてしまう。腕に残ってしまう。百槍の言葉を聞いたキールアが、遂に言葉を失った。
人の命を救ってきた人間に、託された唯一の武器は。
人の命を奪っていく瞬間に、立ち会うが為の武器で。
「じゃ、あ……百、槍は……」
「他の英雄達も言われているでしょうね、“甘さを棄てろ”、と。キールア・シーホリー、貴方には最も辛い選択だと分かってる。でも貴方が生きる為に、貴方が神に、打ち勝つ為には……これ以外の、これ以上の言葉はないわ」
「……」
「貴方が槍に、なれたら良かったのにね。生かすか殺すかしかない。単純で良いわ、槍っていうのは。貴方みたいに、優しさを持った人間が、持つ冪武器ではないもの」
痛みも忘れて百槍の話を聞いていたキールアの手から、だんだん力が遠ざかっていく。
優しさを持った人間が手にする武器ではない。まして医者に、他人を傷つける為の武器を与える冪ではない。
百槍はほんの少し前の、千年前の。景色を思い出して目の前の、キールアと“彼女”とを重ねて、首を振るった。
「私が……私が、生きる為に、必要な選択?」
「? ……ええ、そうよ」
「その選択を選べば私は——生きられるの?」
ドクン——百槍の、冷たい心臓が嫌に跳ねた。
この感覚を彼女は知っている。
過去に、二回。同じようなものを、極最近、味わった覚えがある。
キールアが、顔を上げた。
「——!」
「答えて百槍……百槍の言う、選択を選べば私は——強く、なれるの……?」
(っ……まずい、このままじゃ……そんなつもりじゃ——!)
「だったら選ぶよ百槍————だって、私」
その先の言葉を、うっかり聞いてしまった百槍の耳に。
突き刺さったのは、音と——尖った切っ先だった。
しまったと思い直して、自分から身を離した。噴き出した血液は僅かだった。
足の裏に力を入れたキールアの腕と槍が伸びてくる。槍を縦に起こして、百槍は間一髪、その刃先を止めた。
まだ力が足りない。然し不意を突かれた事に、少なからず感心し、恐怖する。
ああ、“二度目”だ。百槍は思い出して————恐ろしくて、槍を離した。
「捨てろと言うなら、棄てるよ。生かすか殺すかしかないなら……従うよ。……私は、戦争で命を落とす訳には、いかないもの」
「……キールア、やっぱり貴方……」
「分かってるんでしょ、百槍? 私が一体何を————望んでいるのか」
突き刺した筈の、脇腹から痛みが引いた。いや、それが気にならない程、今のキールアにとって考える冪ものが、変わった。
その眼を百槍は知っている。槍を手にした人間の、辿ってはならない末路を。
その目にしたから嫌だった。槍を手にした女性が、辿ってはならない結末を。
「ええ、分かっているわ。だからこそ今この状況が“絶好”なんじゃない。此処には私達以外、いないのだから」
「じゃあ、教えてくれるよね? ——百槍、貴方の“使い方”を、今此処で」
なんて好戦的な瞳だ。誠につい最近まで、メスや注射器を持っていた、その手に槍を握らせて。
彼女はただ、強くなりたいだけなのに。
誰にも心配を掛けないように、誰にも劣らぬようにただ。
「……良いわ、キールア。かかってきなさい。貴方がどれ程、未熟であるかをその全身で——感じなさい!!」
百夜の槍術師。千年前の肩書きは、決して肩書きだけで終わらない。
メルギースの裏切り者。軍隊一つ、兵隊云千人の胸をたった一人で貫き倒した。
友の命を奪った英雄の名など嫌っていた。がその名に、憧れる者がいるというのなら。
(戦ってあげるわキールア……貴方が望むのなら、何度でも————だって)
——私にもあったもの。より強くなりたいと、ただ望んでいただけの頃が。
- Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.8 )
- 日時: 2015/07/12 21:32
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
第305次元 傷だらけの英雄達の想い
「「————第二覚醒!!」」
ほぼ同時刻。全く違う次元の力を胸に二人の少年は心のまま叫ぶ。
目の前には千年前、戦乱の地で数多の兵を連れその前線を駆けていた若き英雄。
サボコロは燃えるような紅い髪、激しく揺らして拳を振り落とした。
「炎神撃ィ——!!」
「——!」
対するは古代の英雄炎皇。第二覚醒を得た現代の英雄へ、同じようにして向ける掌。
「第八次元発動————炎撃ィ!!」
ぶつかり合う、炎と炎。熱気が辺りを覆うのと、全く離れた部屋で——“弓の矢”が飛び交うのとはまたしても同時だった。金色の瞳を細めて、エンは強く矢を引き絞る。
荒れ狂う炎を押す、押し返す。第一覚醒と第二覚醒の壁が遂にここで——立ちはだかる。
「なっ——!?」
「いっけェ——!!」
強さを増したサボコロの炎が完全に炎皇の炎を呑み込んだ。同時に炎皇へ振り掛かる炎の塊。強い衝撃に弾き飛ばされた炎皇が、派手に床を転がる。汗と火傷の痕に塗れた、炎皇の顔から、すっと熱が冷めた。
「うっしゃオラァ!! 見たか炎皇!!」
「……はっ……はぁ……っ」
「でもお前を完全に倒すまで俺は——!」
「——いや、降参だ、サボコロ」
立ち上がって、サボコロより少し低い彼は、自身の額にしていたハチマキをするりと落としてしまう。幼い顔つき。何度も仲間の亡骸を抱きかかえてきた腕はぶらんと力を失った。
「……! はあ!?」
「正直、俺とあいつは……サボコロ、エン。お前ら二人とやりあう意味がなかったんだよ」
「ちょ、い、意味分かんねーよ!! だってお前まだ全然戦えそうじゃんよ!」
「このまま長期戦に持ち込んで、体力バカのお前に敵うと思うか? 悔しいけど勝てる気がしねえ。第二覚醒を会得した時点でお前達は、俺達二人を超えてたんだよ——とっくにな」
「違え!!」
「!」
「全力でかかってこいよ、炎皇! お前まだまだやれるんだろ!? お前と戦う事で、俺は強くなれるんだろ!? だったら——!」
「——全力だ……サボコロ」
有次元の世界で世界の神、【WOLD】と対峙する事になったサボコロとエンは、努力と葛藤の末に新しい力、第二覚醒を手に入れた。
その時点で既に、二人の力は嘗ての炎皇と光節を超えていたのだと、炎皇は言う。
恥ずかしいよ、と小さく笑って。炎皇は顔を上げた。
「千年前、英雄っていう名を担いでた。でも今悔しくて、でも、嬉しくもある自分が何だか可笑しいんだ。サボコロに超えて欲しいのかそうじゃないのか、悩みながらお前と戦ってた。でも今、気付いた」
「炎皇……」
「サボコロ、俺を超えてくれて——ありがとな」
一体何年お前と一緒にいたと思ってんだ。炎皇はにっと笑って、今まで武器として戦っていた、主人に白い歯を見せた。
千年前なら、誰かに打ち負かされた事で明らかな悔しさがあった。でも今は誰かと肩を並べて戦場を駆けるのではなくて、誰かの力となって支える事に馴染んでしまって、そこがあまりに居心地が良くて、それが使命なのだと理解した。
サボコロの為にサボコロと戦った。サボコロが、千年前の炎皇より強いと分からせる為に。次元師にとって大事な——“自信”をつけさせる為、だけに。
「炎皇……っ、お、俺……! 神族に勝ちたい、お前らを殺した神族を……今度は俺らが必ず倒すんだって……だから、だっから……!」
「おいおい、今から泣いてどうすんだよ……その涙は、神族ぶっ倒した時に、取っとけ……って……——」
「最後まで、俺と……っ“俺達”と、一緒に————戦ってくれ……!!」
初め、現代で目覚めた時。まさか人間の心の中に住む事になるとは思っていなかった。極悪非道な人間もいる。無慈悲な人間も、狂った人間も。それなのに。
どうしてここまで真っ直ぐ、正直で無鉄砲で——暖かい、人間に巡り会えたのだろう。
力を貸したい。支えてやりたい。自分達がいつか味わった屈辱を、晴らしてくれると言ったこの人と。
一緒に戦いたいから——炎皇は強く頷いた。
エンと光節も、そうして戦いを終えた。全てを託して欲しい。必ず勝ってみせると強い意思を見せたエンに、光節も炎皇と同様に言葉を交わした。共に最後まで戦う、と。
右も左も下も、ずっと上に見える天井もただただ真っ白い。仰向けになって倒れている二人は、息を吸って零すタイミングもまちまちながら、額から流れる冷たい汗の感触だけを覚えている。
一言の会話のないままにレトヴェールは、切り刻まれ痣も増えた四肢がべったりと地面に張り付いてもう動かない事を知っていた。
何時間、何十時間という時間がこの時既に過ぎていた。もう片方の僅かに小さな英雄も、同じ事を思っていただろう。
「はぁ……はっ……あー、もう動けねえや」
「そう? まあ僕も大体……そんな感じだよ」
「……どのくらい、やってたんだろうな……俺達」
「さあ……ね。恐らく……一日は、経ってるんじゃないかな」
「起きたら再開するか? 決着つけようぜ、双斬」
「まさか。もう体力の限界だよ。大分この身体には慣れてきたけどもうくったくただ」
「情けねえな。英雄だったのに」
「……そうだよ。“英雄だった”んだ」
無限に広がる空みたいな白を仰ぎ見た。そうだ。千年前の神人世界大戦は、もっとどんよりした、果てしない曇天だった。
来月に迫った第二次の大戦では一体どうなるだろうか。レト率いる英雄達は皆優秀で申し分ない事は分かっている。それでも心配で仕方がないから、こうして過去の自分と今のレトを比べるなんて事をしているんじゃないか。
双斬は腕を上げて、ぽすっと目を覆った。広がる闇の中で、静かに喉を鳴らした。
「レト……バカな事を聞いても良い?」
「……良いよ。何だよ」
「神族に、勝てるかな」
神の力を侮っていた訳でもないのに。負けてしまったのには。
他の何でもない心の弱さがあったからだろうと気付かされた。千年も経った今になって。
次元技とは心の鏡だ。全く忠実に現れてしまう。そしてその次元技の中に、少年の心の中に今——居座って約十年。
心の鏡とは良く言ったものだ。
「勿論、僕は勝って欲しいと思うし。最大限に力を貸すよ。今ここで君が僕に神と戦う権利を譲るというのなら、手は抜かない。全力で戦う。でもね」
「……また負けたら、どうしようってか」
「そうだよ。結局僕は千年前負けたんだ。臆した。怖かったんだ……どうしても、勝てる気がしなくなって————」
ザクッ!! ————と、影に覆われた双斬はその視界にいっぱいのレトを見た。
「だから“今”俺が————此処にいるんだろ?」
顔の真横に短剣の銀。ギラリと光って、暫し驚いて——双斬はにやっとした。
腰に力を入れた彼はそのまま、レトの腹を蹴り上げた。レトが弧を描いて後方へと跳んだその下を滑って軽やかに、彼は立ち上がった。
ボロボロの衣服をはたいた。いてて、と頭を摩って体を起こすレト。
「『くったくた』じゃあなかったのか? 嘘つき」
「……全く君って人は。体が壊れるまで戦うつもり?」
「ああ、そうだよ——神と戦う覚悟ってのは、そういう事だろ?」
幾つも、生々しく切り傷を負った右腕を持ち上げる。力を入れるだけで細い傷痕から血が噴き出し、脚もガタガタと震えているのに彼という人間は。双斬は呆れながらに、同じように同じ武器を構えた。
「レト、どっちが強いか——そろそろ決着つけよう」
「何だよ、やっぱり決着つけるんじゃねえか。——良いよ、やってやる」
睨み合う両者の目が本気を物語る。元力は残り僅か。ここ数ヶ月、いつだってギリギリ生と死の境界線上で戦ってきたレトは、それが心地良いとさえ思えるようになっていた。
ロクと背中を合わせていた頃には味わえなかった、たった一人で戦うという感覚。
ロクに頼ってばかりでは決して体感し得なかった、その背に負う責任の重たさが。
この瞬間。その両腕に込めて——願う。
「「第九次元の扉————発動!!!!」」
右の手には、自分の正直な心を乗せて。
左の手には、大切なものへの誓いを、乗せて。
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