コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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最強次元師!!【最終章】※2スレ目
日時: 2016/08/04 00:32
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Wb.RzuHp)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=17253

 運命に抗う、義兄妹の戦記。

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 ※本スレは“2スレ目”です。第001次元〜第300次元までは旧スレに掲載しています。上記のURLから飛べます。

 Twitterの垢はこちら⇒@shiroito04

 御用のある方はお気軽にどうぞ。
 イラストや宣伝などを掲載しています。

 ※最近更新頻度ががっくり落ち気味なので、不定期更新になります。



 ●目次
 あらすじ >>001
 第301次元 >>002 第311次元 >>014
 第302次元 >>003 第312次元 >>015
 第303次元 >>004 第313次元 >>016
 第304次元 >>007 第314次元 >>017
 第305次元 >>008
 第306次元 >>009
 第307次元 >>010
 第308次元 >>011
 第309次元 >>012
 第310次元 >>013



 ●お知らせ

 2015 03/18 新スレ始動開始

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Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.1 )
日時: 2016/05/19 22:34
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: bqwa/wjs)

 これまでのお話

 心にもう一つの世界を持つ“次元師”
 人間を恨み脅かす神の一族“神族”


 この世界の物語はそれら無くして語る事は決して有り得ない。


 雪降る中、幼くして拾われた少女ロクアンズ・エポールは、その家の子供だった金髪の少年レトヴェール・エポールと義兄妹になった。
 ある時不治の病で母を亡くした二人は、運命の神【DESNY】によって因縁づけられ、彼の一族——“神族”の存在をそこで初めて知った。

 世界にたったの百人だけが生まれながらにして持つ“次元の力”
 エポール義兄妹はどちらも運命に選ばれた“次元師”だった。

 大きくなった二人はより力をつける為に数ヶ月間師匠たる男ルノス・レヴィンと行動を共にしていたが、ルノスの急逝に二人は行き場をなくし、そこで次元専門の施設“蛇梅隊”が、メルギース国一の大都市“センター街”にある事を知った。

 幼馴染のキールア・シーホリーを一人故郷に置いて、二人は蛇梅隊に入隊。
 国中、外問わず世界中から押し寄せるSOS。嘆きを抱える人々を救うべく“依頼書”を片手に駆け回る、忙しい日々を送っていた。

 旅先・任務中に出会った仲間達は皆、誰しも心に深い傷を持つ次元師だった。
 義妹のロクアンズはそんな次元師達を声と心で幾度となく救い、そうして絆を深め合ってきた。
 彼らだけでなく世界中の人々がそんな彼女と、義兄のレトヴェールに厚い信頼を寄せていた時。

 彼女が、人類の最大の恐怖であり最大の仇である。
 ——“神族”であったという事実は世界中に衝撃を与えた。

 やがてロクアンズは人々の目の前から姿を消し、彼女が神族だと知っていたレトヴェールは焦り戸惑う日々を送る。
 神族と戦う為にもその実力が世界に認められなければならない。そのせいもあって開催された“代表者決定戦”で、レトヴェール率いるチーム、キールアとエン・ターケルドとサボコロ・ミクシーの四人が激闘を乗り越え、優勝を手にした。
 そこで“英雄大四天”という名を受け継いだのだった。

 代表者になれば、神族の生みの親である【MOTHER】に会う事が出来る。そして望みを一つ叶えてもらえる。
 英雄の名を背負った四人は神の世界“有次元”へ送り込まれ、そこで神族と次元師の存在理由を知る事になった。

 神族は人間を守る為に生まれてきた。
 然しその信頼を、先に裏切ったのは人間の方だったという。

 事実を知り、新しい次元の力“第二覚醒”を得るべく、代表者四人はなんと神族達と直接戦う事になった。
 何週間何ヶ月と。神の使徒元魔を倒しながら神族を相手にするといった過酷な修行はあっという間に終焉を迎えた。
 見事第二覚醒を得た四人に、遂に人間界へと帰る日がやってくる。

 “第二次神人世界大戦”まで残り一ヶ月。
 新しく手に入れた力を胸に、英雄達は神の世界を後にしたのだった——。

Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.2 )
日時: 2015/04/05 11:46
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)

 第301次元 科学部班班長からの指令

 「! れ、れれレト君!? ——それにみ、皆もっ!!?」

 非現実だらけの神の世界から帰還して英雄達は、景色の移り変わりに唖然とした。
 妖精の社は碧々とした景観でなく、燃えるような真っ赤な色彩に色づき。
 夏だった世間は既に、秋の終わりを迎えていたのだった。

 体を引き摺るようにレトヴェール達はセンターまで戻ってきた。
 更に真っ先に廊下を慌ただしい様子で駆けていた、フィラ副班長を酷く驚かせているのが現状。
 それは当然とも言える反応で。ここ数ヶ月無断で蛇梅隊本部を留守にしていた、それも、英雄として名を得たばかりで有名人となってしまった四人はまるで、自宅へひょっこり姿を現した旅人が如く。
 バサバサバサー! と、フィラ副班の抱えていた分厚い書類が傾れ落ちる。

 「大丈夫ですか? 書類全部落ちましたけど」
 「ええ、大丈……じゃないわよ! 4人共、もう何処へ行っていたの!? ずっと探してたんだから! 通信機にも連絡来ないし、こっちから連絡飛ばしても繋がらないし……! 大体何でそんなボロボロなのよ!?」
 「ええとそれは……」
 「フィラ副班。詳しい話は後で報告書として班長に提出するから」
 「ほ、報告書? 一体……」
 「ま、細けえ事は気にすんなってこった!」
 「気にするわよ! 何ヶ月留守にしてたと思って……!」
 「後だと言っている。とりあえず医療部班に処置を受けたいところだ」
 「そ、そうね……何だか怪我、してるみたいだし……開戦間近なんだから、身体は大事にね?」

 フィラ副班からそれ以上の言及はなかった。
 第二覚醒を手に入れてからも、神族達と真っ向勝負という名の修行を繰り返していた。
 毎日毎日。フェアリーとキールアの治療の追いつかない程に身体は疲れ傷つきを増して。
 良く言えば勲章だが、彼女の言う通り、神人世界大戦の開戦は間近である。
 恐らくもう一ヶ月は切っているだろう。本部内も、出て行く前より殺伐とした雰囲気に満ちていた。
 彼女が抱えていた書類も、恐らく戦争に関連したものだったろう。
 千年前の資料を集めている科学部班も、世界中に散り散りになった次元師の所在を確認している援助部班も。
 更なる医術の発展を目指し即効性の高い調合薬の研究に励む医療部班も。
 当然、日に日に増えていく元魔の討伐へ向かう次元師達の戦闘力を管理する、戦闘部班も。
 何処の部署も忙しない様子で廊下を駆け回っている。目まぐるしい日々を、英雄大四天の留守の間にも送っていたと思うと少し申し訳ない気持ちになった。

 医務室に顔を出し、一通りの治療を終えたところで部屋を後にし、レトは窓から外の景色を見ていた。
 単純に何を眺めている訳でもなく、じっと。
 見えたのは、一年程前、自分の義妹がまだ暗い明朝の空へ消えた場所。
 涸れた葉は地から舞い、撫で、撫ぜられを繰り返しては、からりと転がった。

 寒空の下で、雨の中で、眼を開いた少女はまるで、人間ではなかった。
 今までの自分を否定するようにその眼は朱く。
 もし今この瞬間に、義妹に会う事になったとして。またその右手を振り払われたとしたら。
 今度こそ、掴むだろうか。
 もう一度、拒むだろうか。
 あの時手を、離さなければ。違う未来は、在っただろうか。

 「——レトヴェール」
 「!」

 数ヶ月振りに耳に差した低い声色がレトを振り返らせる。
 実の父、フィードラス・エポールは窓際に立つレトへ近づいた。
 幾ら父を嫌いとは言え特に逃げる様子もなく、二人は向かい合う。

 「俺に何か用か?」
 「ん……ああ、そうだな。……レト」
 「……だから何だよ」
 「準備が出来次第、地下へ行く階段まで来い。他の英雄達も一緒にな」
 「? 準備って何の事だよ」
 「来れば分かる」

 数か月前に会ったきりだったが、その時の様子からして息子であるレトと会話を楽しむようなタイプにも思えていた。
 然し今の会話からは、レトに必要最低限の事項を機械的に伝え、まるで上司が端的に部下へ指示を渡す光景とも取れる。
 いや実際は班長階級を持っている彼からすれば、戦闘部班の隊員であるレトは階級の低い者で間違いは無いのだが。
 いつもと違う雰囲気に戸惑いながら、レトは去っていく父の後姿を目で追っていた。
 非常に悔しいが実の父親であり、科学者としての才能、実力、それに纏わる地位も確かにある。
 認めざるを得ないか、と。レトもぽつぽつ歩き出した。



 「おいレトー、一体何だってんだよー」
 「知るか。親父の奴、詳しい事は言わなかったんだよ」
 「『来れば分かる』、とだけ言われたのだったな」
 「ああ。ったくいい加減な奴だな……」
 「でも用って何だろう? 私達だけ、なんて……」
 「……あ、そういや、さっきから双斬が見当たらないんだよな」
 「! 俺も俺も! 炎皇の奴何処行っちまったんだ!?」
 「何だ、貴様らもか……実は光節も不在のようだ」
 「ええ!? 百槍も、なんだけど……」

 最後のキールアの言葉を折りに、一同は口を噤んでざわめいた。
 普段心の中に居座っている、魂だけの千年前の英雄達。
 気が付いたら何処かへ行ってしまっていた。それも四人共。
 何か良からぬ事が起きそうであると、黙って歩を進めていく。

 「——お。良かった、態々すまないな。休養中のところ」
 「親父、いい加減教えろよ。一体何……」
 「話は後だ。とりあえずついてきて欲しい」

 地下への階段にまで辿り着いた四人は、そこで壁に寄りかかって待っていた、フィードラスと顔を合わせる。
 再び会うなり文句を言ってやろうと意気込んでいたレトを慣れた調子で制圧すると、そのまま階段を降りていく。
 全く腑に落ちない。目的も分からないままに、四人はただその後についていった。

 地下は真っ直ぐに長い。上の階と比較してみても、廊下の広さや長さや、部屋数は同等のものであった。
 ただ上とは違って全体的に光がぼんやりとし、薄気味悪い印象を受ける。
 暫く歩いて、遂に廊下の突当りへ。汚れ傷ついた、古臭い壁に不自然に取り付けられた真っ白い扉を軽く前に押した時、僅かな灯りがレト達の瞼を刺激する。
 目の前に広がっていたのは。

 「——!」
 「な、にここ……」

 気持ち悪いくらいの白さ。それはただただ広い。
 真っ直ぐ中央の先、そして左右端に、三つの扉。
 言葉を失った四人の代わりに、まずフィードラスが口を開いた。

 「此処は俺が個人的に用意した場所だ。お前達の役に立つと思って、な」
 「……役に立つ? 此処で修行でもしろって言うのか?」
 「修行なら、別に鍛錬場でも……」
 「此処でしか出来ない事がある——まあ、行けば分かるさ」
 「“行く”……?」
 「扉が見えるだろう。先に一つ、右と左に一つずつ。君達には各々“決められた部屋”に入ってもらう。まずはキールアちゃん」
 「あ、はいっ」
 「君は真っ直ぐ進みなさい。君の部屋はあそこだ」
 「はあ……」

 キールアは一人だけで歩き出した。何の事だろうと未だ疑問も解けないまま、ただ真っ直ぐに。
 部屋の形状は円。不自然な白さの中を歩み進め、扉の前へ。
 この先に一体何が、と。然し戸惑っている時間もない。
 一度振り返って、レト達の顔色を伺ってから、覚悟を決めて扉を開いた。
 彼女は、その場から居なくなる。

 「扉の先に一体何が……?」
 「次はエン君。君は右の扉だ。続いてサボコロ君は、左の部屋」
 「……承知した」
 「何か良く分っかんねーけど、行ってやらあ!」

 キールアと同じように二人は右と左の扉の前まで静かに歩いて行く。
 レトはまたしても、二人が扉の中へ消えていく様子を見ていた。
 扉は三つだけ。最後に取り残されたレトは、今度こそ自分から声を掛ける。

 「……それで? 俺の部屋は?」
 「無い」
 「……はあ?」
 「お前の部屋は無い——お前には、“此処”でやってもらう」
 「此処って……だから一体何を————」

 英雄達は、さぞ驚いただろう。
 フィードラスは端に避ける。部屋の中心で立ち尽くすレトの。
 扉に入った、キールア、エン——そしてサボコロの。


 目の前に、“彼ら”は現れた。


 「「「「————ッ!!?」」」」


 ——目の高さは、初めて“同じ”だった。

Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.3 )
日時: 2015/04/26 01:02
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
参照: 先週は更新をし損ないまして

 第302次元 三つの次元技

 「う……ッ——!?」
 「——はァ!!」

 力強い掛け声と鋭い刃に押し負けた。気迫で周りのもの全てを薙ぎ払うかのように、その声は耳に刺し心臓を穿つ。
 距離を取る。金髪は暫く大人しく、少年が間もなく駆け出すと同時に、僅かに揺れた。
 一歩が、何て距離を縮めてくる。金属音は増して響く。

 「ぐ……!」
 「どうしたの? この程度じゃ——話にならない!」
 「!?」
 「“第七次元発動”————!!」

 一体何が起こっている。何て光景を目の前にして、今自分は。

 「————“十字斬り”ィ!!」


 ——“双斬”と、戦っているのか。


 (どうなってんだよ……!?)

 レトヴェールは数分前の出来事を思い出した。
 英雄大四天の四人が入ってきた筈の、入り口から一人。
 颯爽と、顔色一つ変えずに、彼はレトと同じ目線で、現れた。

 それは、まるで千年前の————“生前”の姿。

 『……!?』
 『……レト。この姿じゃ、“初めまして”、かな』
 『お、前……一体……』
 『レト、僕は君と——“戦い”に来たんだ』
 『!?』
 『君が勝ったら、大戦には君が参加する。でも、僕が勝ったら——』

 見覚え無い姿だった。いつもは高い声も、ほんの微か低い。
 幼児程の体長だった。常にふよふよと浮いていた精霊は。
 人間、みたいだった。
 肉体を持ち、声を取り戻し——そして。


 『僕が勝ったら————僕が、神族と戦う』


 ——全身に、溢れ余る力を滾らせて。


 その意味は分かるだろう? 威圧を含んだ瞳はそうとだけ言う。
 大戦に参加する。それは即ち、人族代表として。神と戦う事。
 驚くレトに少年は淡々と紡いだ。それはレトにとって、衝撃でしかなかった。

 (……予想通りの、反応だったな)

 広い空間の、真新しく白い壁に背をついてフィードラスは様子を伺っていた。
 既に剣を交え、額に汗を滲ませたレトに対して少年は実に心地よく剣を振るう。
 経験の差か。潜り抜けてきた試練の数か。踏んできた場数の違いもあるだろう。
 この奇怪な光景を目の前に出来た。それだけで自分が戻ってきた甲斐もあったものだ。

 (“同位重次元空間システム”————どうやら、調子は良いようだ)

 英雄大四天が有次元に行っている間の数ヶ月。フィードラスは徹して、この設備の研究をしていた。
 蛇梅隊本部に戻ってきたのもその為であり、自分も深く興味があった。
 これは本来人間が持つ次元の力を“具現化”するというシステムに基づき、バーチャルとは言え本格的な肉体に最も近い体を次元の力そのものに与える事によってまるで次元の力が生きているかのようにその場に存在する事の出来る。
 言わば、次元の力と、同じ次元の力で戦える空間。
 勿論此処を出てしまえばその制度は適応されず、本来の姿に戻る。
 次元の力はそもそも神【MOTHER】が千年前に生み出した、人間の心を利用する事によって発動の出来る魔法の力。
 次元の力を深く理解し、研究を重ねてきた彼だからこそ成し得た業とも言えるだろう。
 自身の研究成果に誇りを感ずると同時、自身と同じDNAを持つ息子の成長を眺めていた。

 今、ここには一人の人間と“三つの双斬”がある。
 一つは人間が、もう一つは具現化し、最後の一つは具現化した肉体に宿り。
 現実では有り得ない光景も此処では有り得る。
 “天才科学者”、フィードラス・エポール————彼こそが、蛇梅隊科学部班班長。

 「ぐ、ゥ……!」
 「さっきから防いでばっかりだけど……少しは、反撃——しなよ!!」
 「!!」
 「第六次元発動————真斬!!」
 「——がはァッ!?」

 弾き飛ばしたレトの懐が大きく開いた瞬間を、双斬は見逃さなかった。
 力強い一太刀が、容赦無くレトの腹部を斬りつけた。
 鋭く飛び散った血を見る双斬の目に、情などない。
 レトは情けなく膝をつく。口から垂れる血と唾液が、激しく地面を叩いた。

 「あッ……が、は……ァ……!!」
 「隙が多いね。それに競り合った時“押し”に弱い。良くも“この程度”で英雄になれたもんだよ」
 「ぐ、ァ……ッ、ん、だと……?」
 「良く聞いてレトヴェール。君は確かに人族代表だよ。僕も同じ。だけど僕らは——全然違う」
 「!」
 「それが何だか、分かるかい?」

 腹部を押さえつけた腕はその溢れ出る血液の勢いを抑えるとも、出血自体は止められない。
 腕を越えて赤みはだんだん深くなる。苦しい表情で見上げた、自分より小さい、なのに逞しい立ち姿に、目が眩んだ。

 「僕はこの称号を……“戦争”で得たんだ。代表になろうと思った訳じゃない。英雄と賞されるも、望んだ結果じゃないよ。人間を沢山斬り殺して、敵の大将の首を跳ね飛ばして、この名を手に入れた。……なのにどうだい? 君は誰かと戦争をした? 殺し合った? 本気で命を狙い狙われ……死にもの狂いで——“生”を勝ち取った事が、一度でもある?」

 英雄大六師達が生きたのは、簡単に人が死んでいく時代だった。
 その刃が、矢が、心臓を突き破る。その身で人の身体を動けなくなるまで殴り、蹴り、叩きつけ捻じ曲げる。それだけで人は死ぬ。
 何て貧弱な生き物だろう。双斬も、他の英雄達も当然知っていた。
 人間は弱いと云う神族に怒りを覚えないのも、そのせいであろうと。
 冷たい瞳の、千年前の英雄はレトの喉元に切っ先を向ける。

 「双、ざ……っ」
 「答えてよ。君は次の戦争で……“死なない”とでも思ってるの? 僕ら英雄大六師は、沢山の騎士が、兵士が、死んで束になったその上を駆けて生きてきた。生きる事に、勝つ事にただただ必死だった! もし君が英雄という名に驕り、安住し、戦争に臨むというのなら——今、ここで君を殺すよ」
 「……」
 「だって一緒でしょ? 今死ぬのも、一か月後に死ぬのも」

 ああ、そうか。少しの間寿命が延びるだけの話。双斬は皮肉げに言い放った。
 脅しではない事くらいレトにも分かっていた。警告でもない事を。
 本気だった。双斬は本気で、レトのその喉元を今正に突き破れる。
 それをしないのは、僅かに同情心が彼の理性を塞き止めているから。たったそれだけだった。

 「死んででも人類に尽くすと誓え。その命はもう君だけのものじゃない。全人類のものだ。君が死ねば、全人類は間違いなく死ぬ。……さあ、それでもまだ君は——そんな戦い方をするの?」
 「……っ、俺は——」
 「余計なもんは全部棄てろ!! ————勝ちたいなら目ェ覚ませよ!!」

 怒り昂った双斬の手元は一度も震える事なく真っ直ぐレトの首を捉えている。
 どれ程感情に揺さぶられようとも目的は一瞬でも見失わない。気を取られもしない。
 まるで人間のようで、人間ではない。

 それが“英雄”————人々に命を授けられた者の、最大限の覚悟だった。

 「次は無いよレトヴェール。隙があれば、今度は本気で————」

 目を覚ませ。その一言は、英雄の心臓を駆り立てるには十分すぎる言葉だった。
 刃先を引いて、背を向けたのが——“間違い”だったと。
 気付いたのは。


 「——ッ!!?」


 血が飛び散ったような、心地悪い音を聞いてから随分後だった。


 「そうだな。悪い——“眼”、“冷めた”みたいだ」


 涼しい顔に同じくして赤い閃が浮かぶ。然しそれは彼のものではなかった。
 体を傾かせて仄かに笑うのは、千年前の英雄。

 「……やれば出来るじゃん」
 「にしてはあんま苦しそうじゃねえな。もっと派手に斬りゃあ良かった」
 「はは! 出来るなら、やってみなよ——“半人前の英雄”!!」
 「上等だ!! ——後で啼いても知らねえぞ“千年前の英雄”!!」

 開始数十分。古代と現代の英雄達はその腹に、背に、大きな切り傷を背負って。
 普通の人間なら耐えられもしない痛みから、始まる。
 超える為に。超えさせない為に。

 人族代表は、それぞれ違う英雄の名に懸けて——加速する。


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