コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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堕天のナイフ【★猫探偵ホームズ2】
日時: 2015/11/13 12:54
名前: ゴマなし (ID: j553wc0m)
参照: https://twitter.com/gomanasi5914

 【プロローグ】


 緋色学園に通う生徒の一人、主人公こと黒崎晴翔は、現代ラノベ主人公と差支えない程のチート能力と、幾多の女性と関係を持ち、難聴耳を持った俺TUEE系主人公とは何の関係のない、まだ『まとも』な主人公である。主人公である彼に『普通』は許されず、何だかんだで異常性を持つ主人公であるのは間違いないが、友達が数人だけいて、罪と罰を背負い、一本のナイフしか持たないそんな彼が、普通の生活に戻るために今を精一杯生きていく物語……————。


 【作者紹介】

・名前、『ゴマなし(ゴマちゃんなしでは生きられない)』
・好きな動物、『アザラシ』
・一言、『処女作。温かく見守っていてください読者様。感想も頂けると幸いです。カキコ友達欲しい←切実』

・twitter『作者のURLにて』

 『追記』、タイトルの前に付いてある『★』についてですが、これはこの作品のメインストーリーに関するお話であることを表す目印となっています。『読む時間ないけど物語を知りたい!』方や、『前何の話してたっけ、影薄くて忘れた』人用にあらすじを知る上でお役にたつと思います。ではどうぞごゆっくりッ!!

 【『堕天のナイフ』 目次】

 ・【覆水盆に返らないプロローグ】 >>1
 ・【10円の行方】 >>2
 ・【あの国民的ヒーローは今】 >>3
 ・【好きです付き合って下さいブーメラン】 >>4
 ・【お前はそういう奴だった。。】 >>7
 ・【そんな料理を俺は知らない。。】 >>10
 ・【この世に回復魔法はないのか】 >>11
 ・【★流れ星に願いを。】 >>12
 ・【★『堕天使』と呼ばれる男】 >>13
 ・【★『堕天使』と呼ばれる男2】 >>14
 ・【ロールプレイングハロウィン】 >>15
 ・【昨日見た誠二の夢】 >>16
 ・【動物に例えるなら?】 >>19
 ・【どっちかと聞かれても。】 >>20
 ・【爽やか系イケメンのお誘い】 >>23
 ・【遅刻の理由】 >>24
 ・【鉄柄ってなんだ】 >>25
 ・【★猫探偵ホームズ】 >>26
 ・【★猫探偵ホームズ2】 >>27

 【歴史】
 ・10月23日、投稿
 ・10月27日、100参照突破
 ・11月7日 、200参照突破
 ・11月10日、300参照突破

 【読者様リスト】
 ・のれり様
 ・てるてる522様

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Re: 堕天のナイフ【どっちかと聞かれても。】 ( No.23 )
日時: 2015/11/07 21:01
名前: ゴマなし ◆mn1xAu8J/2 (ID: j553wc0m)


  【爽やか系イケメンのお誘い】


走る、という行為を黒崎晴翔は気に入っていた。『仕事』の都合上走る機会が多いのも一つの理由だが、子供の時にやる事が走ることぐらいしかなかった事が恐らく一番の要因だ。
だから陸上部に所属して、学生らしく部活動を通して走る事が出来るのは俺にとっては都合の良い事だ。

「…はっ、はっ…はぁ……はぁ…」

学園にあるグラウンドで30mのシャトルラン×10を終えた俺は、今日の練習メニューを終えた。10キロランニング、5キロタイムラン、そして最後のシャトルラン。息苦しくて止まりたい気持ちをグッと抑えて直ぐには立ち止まらず、ゆっくりと歩きながら息を整える。

「……はぁ……ふぅ…」

息がようやく整ってくる。まだ心臓はドクドク鳴っているが、苦しいわけではない。むしろ解放感さえある。

「お疲れ様、黒崎くんっ」

先に練習メニューを終えてストレッチも終えた白雪が可愛らしい笑顔で俺にタオルと飲み物を渡してくる。

「…ありがとう白雪」
「見てたよ。今日調子良かったんじゃない?」
「そうか? そう見えたのなら、それは恐らくただシャトルランのコツを掴んだだけだろう」

本当にそうだろうなと思う。特に調子が良いというわけではない。一応ある一定の調子は維持できるように訓練はしているが、その分好調である日はあまりない。あくまでも調子は一定なのだ。

「コツって走り方の事?」
「ああ、まぁ端的に言えば白雪の走り方を真似ただけだ」
「えっ、そうなの?」
「白雪のシャトルランでの走り方は一つの理想の走りだ。真似しない理由がない」
「そ…そうなんだ…」

白雪は恥ずかしそうに髪をいじる仕草をする。本人は自覚していないが、白雪は急停止と急発進の切り返しが早い。その理由が身体の体重のかけ方と足の力の入れ方、身体の運び方にある。一つ一つの動作に細かな点があるため、俺も白雪の走りを身につけるのに結局一ヶ月かかってしまった。

「おかげで良い経験を学ぶ事が出来た。ありがとな白雪」
「お…お礼なんていいよぉ。私何もしてないもん…」
「こうしてタオルとドリンクまで持ってきてくれるんだ。将来は気の利いた奥さんになれるだろう」
「お…おくしゃん!?!?」
「図々しいぞっ、黒崎晴翔っ!!!」

ボンっと即座に耳まで真っ赤にする白雪と俺に割って話に入ってきたのは、同じ陸上部の同級生の仙道充せんどう みつるだ。陸上部随一の爽やか系イケメンと噂されてるらしい。茶髪の短髪に整った顔立ちは確かに女生徒からの人気も頷ける。
しかし当の本人は爽やか系というよりかはどちらかというと自意識過剰のキザな感じがする、というのが俺の正直な評価だ。

「白雪さんに遠回しに告白か?? 身の程を弁えろっ!」
「こ…告白ッッ!?」
「いや、そのつもりは特になかったが」
「ガーン、ないのッッ!?」
「ふざけるなっ、さてはそうやってその気があるように振舞って、白雪さんを弄ぼうという魂胆か!?」
「その発想はなかった。良い案だな。じゃあ弄ぶとしよう」
「えええええっ!?!?」
「そうはさせんっ!! 白雪さんを弄ぶのは僕だっ!」
「私って今どんな扱いなの!? なんで弄ばれてるの?! 」
「…そうか、分かった。仙道、お前の気迫には負けた。俺は引き下がるとしよう。思う存分白雪を弄んであげてくれ」
「えっ…あの……黒崎…くん…??」
「ほぉ、君にしては良い判断だ。僕と君では男としての品格が違うと気づいたみたいだね」
「ああ、全くだ。俺ではお前に何一つ勝てない。だから白雪を好きにするといい。俺はストレッチをしてくる」
「黒崎くん、今完全に面倒事を私に押し付けてるよね、ねぇちょっと…」

白雪が何か言ってきたような気がするが特に気にせず俺は座ってストレッチを始めた。

「ハハハ、ごゆっくり。じゃあ白雪さん…」
「え…あっ、あの…ね仙道くん、私ストレッチ終わったし着替えてくるね?? 」
「アハハ、そんなの後でいいよ。それよりも向こうのベンチでお茶をしないかい? ゆっくり君と話したいな…?」
「いや…あの…えへへ、ほら、今日は汗掻いちゃったし…」
「今の君が魅力的だよ」
「ふえぇ!? ……ま…待って…仙道くん疲れたでしょ?? 早くあがろう? ね?」
「白雪さんを見てたら元気が出てきたよ」
「あの……ちょっと…待って…ね…??」

ちらっと俺の方を見る白雪。だが俺はぼうっと空を見上げていたので気がつかなかった、フリをした。

「さっ、行こっか。ベンチはこっちだよ」
「…えっと…黒崎くーん…??」
「空が綺麗だなー。。」
「棒読みだよねっ!? 絶対聞こえてるよね!?」
「ほら、白雪さん。こっちだよ、(ニコニコ)」
「ちょっと待って仙道くんっ、……黒崎くん助けてほしいなー(チラッ)」
「白雪、また明日学校でな」
「黒崎くんのバカああああ!!!!」

爽やか系イケメンこと仙道に連れて行かれる白雪の悲鳴を後ろに聞きながら、俺は静かになったグラウンドで再び空を見上げた。ちなみにこうして白雪が仙道にお茶を誘われるのは今に始まった事じゃない。よほど仙道は白雪を気に入っているようだ。良かったな白雪。


「…これが青春か。」

Re: 堕天のナイフ【爽やか系イケメンのお誘い】 ( No.24 )
日時: 2015/11/09 01:02
名前: ゴマなし ◆mn1xAu8J/2 (ID: j553wc0m)


  【遅刻の理由】


「…ミスった。寝坊した」

俺、青木誠二は寝坊した。昨日は昔やってたゲームをつい懐かしいと思ってやってしまった結果、かなり夜更かしをしてしまった。おかげで完全に遅刻だ。

「どうする…なんて言い訳をするか……。」

以前は特に休んでも遅刻しても理由を考える、なんてことはなかったが、成績がヤバイ今は別だ。寝坊による遅刻なんて減点食らうような真似は言いたくはない。

「……内なる誠二達よ、我に三つの言い訳を与え給えっ!」

何とも都合の良い話だが、俺は自分の心に助けを求めた。その結果、なんと三つのルートが現れた!

1、お爺ちゃんが倒れて、病院に連れて行ってたんですぅ!(泣きながら)

2、朝起きたら家の鍵が無くて、探してたんだ!(イケボ)

3、べ…別に遅刻なんてしてないんだからねっ!!(ツンデレ)

内なる誠二が弾き出した三つのルート。選んだルートによって、遅刻を免れるか否かが変わる。慎重に選ばなくては…!

「3はダメだ…! 男のツンデレは需要がない。ああいうのは金髪ツインテールがやる事によって萌え要素になるんだッ!!」

「1もこう…胡散臭い感じがして嘘だとバレる。しかも病院の事を探られたら終わりだ…!」

「なら2番だ。2なら仕方ないって思うし、イケボで言えばなんかこう丸く収まるみたいな風潮あるだろっ!!」

俺は内なる自分に感謝し、早速教室に向かった。大丈夫だ。ちゃんとはっきり言えばいい。そうすれば俺は助かる。そしてついに教室にたどり着いた。

そして先生と対峙する。

「遅いぞ青木、遅刻は減点だ!」
「ち……違うんです先生ッ!」

俺は息を切らして急いで来たアピールをしつつ、息を整えて、さっきちゃんと準備してきた答えを言ってやった!!

「遅刻してきた理由は……2番なんですっ!!」

「偉いぞ青木、遅刻の理由を番号にする程ちゃんと考えてきたんだな、よし、減点してやる」
「うわあああああああああァァァ!!!!」

こうして今日も誠二は減点された。。

Re: 堕天のナイフ【遅刻の理由】 ( No.25 )
日時: 2015/11/10 03:14
名前: ゴマなし ◆mn1xAu8J/2 (ID: j553wc0m)


  【鉄柄ってなんだ】


「ばるどぉぉぉ……」

ある日、誠二は物凄いダミ声で登校してきた。ホラー映画か未来から来た青いタヌキ役なら喜んで起用されるであろう素晴らしい声だ。

「誰か分からんがバルドーって呼ばれてる奴、誠二が呼んでるみたいだが」
「いや、デメェだよデメェ」
「俺は日本人を辞めたつもりはないが」
「ダミ声でばつおんがむずがじいんだよ、ざっじでぐれ」
「今のは大体理解できたが、なんでそうなった」

俺はすっかり声を枯らした誠二にコトの発端を聞いた。するとどうやら、

「……鉄柄? なんだ、新しい柄か?」
「バッガぢげぇよ。デヅガラだよ、デヅガラ。でづやがらおげのごどだ」
「やっぱり鉄柄の事じゃないか」
「でんぬいでばづおんじろ」
「点抜いて発音しろ? …てつから? てつやからおけ?」
「イエズ」
「……理解したが、てつやからおけって、何だ?」
「……つまりだ、」
「おお、奇跡的にちゃんと発音出来たな。」

誠二のダミ声の説明を要約すると、つまり徹夜でカラオケという遊びをするらしい。

「カラオケ…聞いたことはある。確か歌を歌ってストレスを発散する遊びだったか」
「ぞうだ」
「で、歌いすぎたからそうなった、と。」
「ぞうだ」
「…鼻の長い動物は?」
「ゾウだ」
「炭酸が入っていて爽やかな飲み物は?」
「ゾーダ」
「はははっ、発音同じだな。ウケる」
「デメェ治っだら覚えでろ」
「…ところでだ誠二よ、」

俺はカラオケという遊びをしたことがない。なのでカラオケという遊びがどんなものなのか気になった。

「歌を歌うらしいが、誠二は何を歌ったんだ?」
「アニゾンどがJボッブ」
「人の名前か?」
「ぢげぇ。アニメゾングっで言えばわがるが?」
「ああ、イメージは付く。好きなのか?」
「ああ。アニメゾングは盛り上がるがらな。俺割どずぎだ」
「で、Jボッブは? とある格闘家の歌だと予想するが」
「んなうだねぇよバガ。入場ぎょぐじゃあるめぇじ。…まぁ言わば盛り上がるうだ、だ。ダミ声だとうまぐづだわんね」
「なるほど」
「黒崎、青木、おはよう」

そこにちょうど登校してきた桐谷が近づいてきた。

「桐谷か。おはよう」
「よぉ」
「うん? 何か話してたのかい?」
「ああ、」

ここで俺は誠二の口から言わせるべきではなかったと後悔する。今までの「よぉ」と「ああ、」は奇跡的に発音出来ていたから桐谷は気づいていないが、

「デヅガラのばなじだ」
「なにそのダミ声?! 気持ち悪いよっ!! しかも鉄柄って何!? 新しいファッションの柄なのかい!?!?」
「ぐぞ、デメェもめんどぐぜぇやづだなっッ!!」

誠二のダミ声は、朝から想像以上の混乱を引き起こした。

Re: 堕天のナイフ【鉄柄ってなんだ】 ( No.26 )
日時: 2015/11/11 12:40
名前: ゴマなし ◆mn1xAu8J/2 (ID: j553wc0m)


  【★猫探偵ホームズ】


『コードナンバー、4649の狙撃失敗について、原因不明。証言によると、放った銃弾が別方向からの銃弾によって弾かれた模様。他の工作員による妨害の可能性あり。』

仕事用の携帯に送られてきた、『ヴィーナス』からの一通の簡潔な報告書を見て、俺は考えるようにして腕組みをする。あの件から2週間以上は過ぎた筈だが、相変わらず真相はほとんど進んでいない。

『放った銃弾が別の銃弾に弾かれた』と、簡単に書いてはくれるが、実際に実演するのはとてつもなく難しいことなのは俺でもわかることだ。はっきり言ってこんな神業は余程の奴でなければ出来ない。それこそ、

「…『死に神』……」

死を招き、生を刈り取る、生きる伝説、コードネーム『死に神』。俺の組織に所属する工作員では、恐らくは誰もが認める完璧な仕事人であり、『掃除屋』だ。
あらゆる状況をひっくり返す規格外の全能っぷりは、この筋で知らない人はいない。『死に神』なら、この程度は朝飯前だろう。
本当に存在しているのか分からない程、その正体は不明とされている。かくいう俺も『死に神』については詳しくは知らない。だが、俺は、

「…………必ず…」

その先は口にせず、内に秘める。それよりも、今は狙撃失敗の件だ。とは言っても原因不明と言われればこれ以上考えようもないのだ。次回の速報に過度にならない程度に期待しよう。

さて、仕事の話を止めよう。今は学校だ。せっかくの学園生活を楽しまなければならない。とはいえ、『もう一つの本業』に戻るだけだが、

「…さて、この後は部活だな。白雪と一緒に、」

「黒崎、事件だよっ!!」

放課後に突入した直後、桐谷は大袈裟なことを言いながら俺の机の横にかけていたカバンをひったくる。

「さっそく行くから準備だよっ、捜査に行くよっ!!」
「……俺のカバンを返してくれ」
「この前みたいに逃げられると困るからね」
「あれはお前が不倫現場を撮りに行くために女装しろって言ったのが悪い」
「現場がラブホテルだよ? 黒崎は僕といかがわしい関係で誤解されるの嫌でしょ?? だから女装だよ」
「それじゃ俺の女装趣味が誤解されるじゃねぇかバーロー」

結局その時は桐谷の猛攻を振り切って真っ先に自宅に戻った。のちに聞いた話だと、不倫現場の証拠を掴んだことで問題は解決したらしい。

桐谷勇気は自称探偵である。何故かは分からないが、彼女は趣味で探偵の様な事をしている。本人は些細な民間事件から殺人事件まで首を突っ込むと言っており、先ほどの件も個人的に受けた依頼の様だった。

「…で、今回もデカイ事件なのか?」

俺は桐谷のテンションを下げないようにあえて大げさに聞いてやる。ここでくだらない事件などと言おうものなら、桐谷がしばらく落ち込むからだ。

「そうなんだっ、どうやら山田さん家の猫が行方不明みたいなんだ。これはきっと誘拐事件に違いないっ!!」

桐谷、それはただの迷子って言うんだ。おそらく。

「ということで行くよ、相棒」
「相棒になった覚えはないが」
「なにいってんのさ」

桐谷はふふんと(まな板の)胸を張って堂々と宣言する。

「君は僕のワトソンさ。ホームズの横には、いつでもワトソンがいるものさ、黒崎」

「…ああ、白雪、部活休んでも大丈夫か?」
「また勇気ちゃんの探偵ごっこ? 仕方ないなぁ、いいよ♪」
「すまないな白雪」
「僕の名言はスルーかいっ、ヌガーっッ!!!」

銀髪の小さいホームズは、憤慨して俺に襲いかかってきた。

Re: 堕天のナイフ【鉄柄ってなんだ】 ( No.27 )
日時: 2015/11/13 12:53
名前: ゴマなし ◆mn1xAu8J/2 (ID: j553wc0m)


  【★猫探偵ホームズ2】


夕方には少し早い時間帯、一枚のメモと一枚の写真を手に、俺と桐谷は街に出かけた。

山田さんの話によると、二日前、普段はあまり連れて行かない散歩に連れて行き、ママ友達との雑談に話に夢中で公園に放し飼いをしていたようだ。2時間後に確認した時にはもういなくなっていて、そこから消息不明で山田家に帰った形跡は見られない。行方不明になった猫は茶色の毛色に顔つきはブサ猫と呼ばれる類、首に赤い鈴をつけており、身体つきは標準、との事だ。この場合は、赤い鈴が目印になるだろう。

「この辺りが散歩コースらしい」

桐谷は辺りを見渡していつもの調子とは別の凜とした声で言った。

今の桐谷は、黒と茶色の混じった帽子を『普通に』被っている。いつも野球少年のような被り方をする桐谷だが、この時の桐谷はいつもと少し違う。

『仮想劇バーチャルパフォーマンス』。簡潔に言えば、頭にイメージした仮想の人物になりきる事が出来る。
本来これは意識していないだけで、人間が持つ標準機能であるのだが、才覚を持った人間のそれは標準機能の域を超える。その人物になりきることによって、その人物と同じような能力を使用する事が可能になる。とは言ってもせいぜい現実的範疇内の話だが。
そして、桐谷の『仮想劇』で再現出来るのは、名探偵と名高い架空の人物、『シャーロック・ホームズ』その人だ。この『仮想劇』をした時の桐谷はいつもと雰囲気が変わり、ホームズが持つ能力、『推理力』と『機転の利いた発想力』が著しく向上する。つまり、本当の名探偵になるのだ。この能力の発動するための一つのスイッチの役割をしているのが、桐谷がいつも被る帽子、というわけだ。

「まずはこの散歩コースを散策してみよう。黒崎、君は道の右側を見てくれ。『私』は左側を見る。特に、狭い空間になっているところを隈なくだ」

口調や声もすっかりクールになっている。一人称も変わる程に。

「…了解したが、何故狭い空間なんだ? 俺のイメージでは高いところや塀の上とかにいそうなものだが」
「それはノラ猫の場合だ。山田さんの証言では、『普段はあまり連れて行かない』らしい。この事から室内で世話をすることが多いと推測される」
「ふむ」
「だが猫は意外と神経質でね。テリトリーを強く意識する生き物だから、普段行かない外の知らない世界は猫にとって安心できる場所じゃない。だからもし猫が迷子になった際、無闇に動く事はしない。あくまでも狭くて身を隠せる場所が一番落ち着ける場所なんだ」
「だから散歩コースを探っているわけか。だがその山田さんもこの辺は探したんだろ? 猫が誰かに連れて行かれた可能性は?」
「まぁなきにしもあらずだ。一応それも考慮して、動物愛護センターや警察、後は病院に連絡をしておいた」
「…仕事が早いな。動物愛護センターや警察は分からんでもないが、病院は何故だ?」
「猫は体調不良を起こしやすい。あとはこの近くにも交通道路があるから車に跳ねられる可能性もある。そうなってしまった際は緊急病院に運ばれるから」
「…なるほど」

桐谷の普段の行いからは想像が付かないほどの説得力と用意周到さ。これがホームズを演じている桐谷の力、という事か。桐谷のこの姿を見たのは今日が初めてではないが、改めて普段とのギャップに中々慣れないなと思った。

「…左は良し。黒崎、右は?」
「同じく、だ。続けるか?」
「いや、構わない。場所を変えよう」
「いいのか?」
「元々推測は大体付いてる、公園に行こう」
「公園って隠れる様な場所あったか?」
「正確に言えば、公園近くの民家、だ。」

桐谷はそう言って先程から気になっていたキャリーバックをコロコロと運ぶ。そこには鈴が付いていて、運ぶ度にチャリンチャリンと音色が響く。

「先程から気になってはいたのだが、そのキャリーバックは?」
「猫を捕まえる用だ。猫は手で運ぶと何か起こった際にパニックに陥って逃げてしまう可能性があるから、そのためだ。ちなみにこの鈴は猫が付けている赤い鈴と一緒だ。鳴らすことで聞き覚えのある音に安心感を与えると同時に、誘き寄せる役割もある」

なるほど、猫に詳しくない俺にとっては勉強になる情報だ。普段とは違い頼りになるな、なんて感心する俺など知らぬ顔で、

「行くよ黒崎。早く終わらせてしまおう」

名探偵桐谷は鈴を鳴らしてキャリーバックを引いて行く。


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