コメディ・ライト小説(新)
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- 【オリキャラ募集中】砂の英雄【3-5更新】
- 日時: 2018/03/27 01:57
- 名前: 塩糖 (ID: D.48ZWS.)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=1040
彼は、凡人である。彼は英雄ではない。
だが彼は、英雄を名乗ることとなった。
そう名乗りたくなるほどに、世界は愛おしくなった。
たとえそれが、一時の――
*****
はじめましての方、久しぶりという方、どうもこんにちわ。
塩糖という者です。今作品は、私が以前小説カキコで書いていた作品のキャラのリメイクです。故に、見覚えがあるかもしれませんね。
普段は複雑ファジーで書いていますが、たまには別の板でと思いこちらにさせて頂きました。
感想をもらえると有頂天になります。
世界観は、異能力学園ものです。基本一人称の小説となっております。
更新頻度は、こちらは不定期更新とさせていただきます。
嘘です、実は途中から三人称になります。
2/13:まだ生きてます、腰は死んでる
*****
目次
・一話「その日彼は一般人であった」 -1 >>1 -2 >>2 -3 >>3 -4 >>4 -5 >>5
・二話「鉄をも呑む砂」 -1 >>6 -2 >>8 -3 >>11 -4 >>13 -5 >>14 -6 >>15 -7 >>16 -8 >>17
・三話「異能と能無し」-1 >>18 -2>>21 -3>>22 -4>>23 -5>>24
まとめ読み用
・一話「その日彼は一般人であった」 >>1-5
・二話「鉄をも呑む砂」 >>6,>>8,>>11,>>13-17
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お客様、感想返し
・四季様 >>7
返 >>9
・流沢藍蓮様 >>10
返 >>12
・織原姫奈様 >>19
返 >>20
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【告知】
現在、リク板にて砂の英雄オリキャラ募集をさせていただいております。
もし投稿したいなーって方おりましたら是非。URLより飛べます。
- 1-5 ( No.5 )
- 日時: 2017/10/04 16:10
- 名前: 塩糖 (ID: CioJXA.1)
「その日彼は一般人であった」-5
夢を見た、
それは、無敵になった俺が、悪人をばったばったとなぎ倒していく、そんなふざけた夢だ。明晰夢、という奴か、夢だという確信をもってそれを眺めていた。
自分を背中から見るなんて、無い光景だ。不思議なことに、俺は少々見た目が変化している。
立ち尽くす俺から見える俺、ソイツはとても長く、白い髪を携えていた。当然、俺の黒髪とは剥離していたが、俺ではないと見間違うことはなかった。
俺の意識に引っ張られて、そいつは動いたからかもしれない。悪人の振り下ろす拳を華麗に避けて、回し蹴りを決めるソイツは……格好良かった。
ひどく、気分がよかった。
「……」
ソイツは何も言わず、ただ俺の手足となって悪人をさばいた。風景は幾度も変わる。
銀行強盗、学校に攻め込むテロリスト、爆弾を仕掛けられ乗っ取られた飛行機。
世界の命運をかけ、異形の魔王との戦い、それら全てソイツは成し遂げて見せた。悪を打倒し、それらすべての上に立って見せた。
ああ、何ともすごい英雄になれたものだ……と、達成感に満たされていた。
だが不意に、誰かが肩を叩いたので、後ろへ振り向く。
「…………」
声も出さず、いや……もはや事切れている行員が、クラスメイトが、乗客が、民が、倒れ道を成していた。
理解する。これは、正義のために犠牲となった人たちであると、数少なくない命によって、俺は英雄になったのだ。
もう一度、死の道が続いた先に立っている俺を見るため、彼らから目を離す。
これは……これは、本当に必要な犠牲だったのだろうか。
もっとうまくやれたんじゃないだろうか、後悔が重りとしてまとわりついた気がした。
「………………」
一人で歩いていた。誰を横に置くわけでもなく、背中を見せて進んでいた。
何故かその足を止めたくなって、走り寄って肩をつかんだ。ソイツは、振り向く、
「……………………」
「……なんだよ、その顔」
善悪を嗅ぎ分ける鼻もない、交渉をもたらす口もない。
犠牲を、倒した者たちを見る目もない、そんな顔しかそこにはなかった。
突如、掴んでいた肩を起点に、脆く崩れ始める。同時に、俺自身もその手から崩壊を始める。
いくら足掻こうと、手を伸ばそうと、誰も俺の手などとってくれない。
視点が下がっていく、足は消えた、胴は折れた。最後、そんな全てを見ていた俺の目は、
誰かにふまれた。
君を犠牲にして、ほんの少し、平和への道は伸びた。
◇
意識が、戻る。硬い地面に無理な体勢で倒れていたからか体の節々が痛む。あれ、硬い地面……なんでそんなところで寝ていたのだっけか。
いや、それ以外に、誰かが俺の肩をゆすっている……。少し乱暴で、文句の一つでも言いたくなる。
「――た、雄太!」
(だれ……ぁあ、母さん、か)
寝坊でもしてしまったか、自分の失態かもしれないと思うと体に力が入り始め――ついで全身に走る痛みで目を覚ます。
最初に目に入るのは、見慣れぬ天井。
やたら眩しいな、寝起きというのもあるが照明が強いと感じる。
「雄太!」
顔をつかまれて、首の向きを強引に変えられた。そこには、酷い顔になった母親が。
なんだ、そんなに時間がまずいとでもいうのか。
……待てよ、とだんだん意識を失う前の記憶が明瞭になっていく。
そうだ、確か帰り道にダンボールを開けて、そこから腕が出てきて俺を。
「――佐藤雄太さーん、起きられましたか?」
「ぇ、はい……」
次に声をかけてきたのは、お医者さんだ。黒ぶち眼鏡が特徴的で、彼女の存在が何となくだが、自分の立ち位置を理解させる。
刺された後、病院に運び込まれたのか。腹部に時折走るしびれが表情をゆがめさせた。
つい腹部に手が伸びて、先ほどよりか強く痛みが走る。
(あぁ、あれは夢じゃあないよな……)
それを理解したあと、泣き出す母親を気遣いながら女医さんは俺にいくつかの質問をぶつけてくる。
意識は、痛みは、記憶は、そんな質問に答える。もう意識はしっかりしている、痛みはまだあるが絶対に動けないというレベルではない。
最後に、記憶は刺されたところまでしっかりある、そう言うと二人とも
困惑の表情を浮かべた。
「――雄太は、先生」
「一時の記憶障害、もしくは無意識という線もありますので心配なさらず」
二人とも俺を置いてけぼりにして、謎の会話をする。
なんだろうか、と疑問に思ったが怪我人に無理をさせるのはよくないということで、とりあえず休めと言われてしまった。
「とにかく、アンタは体を治して……お母さんをあんまり心配させないで」
そう言われてしまえば、動けなくなる。卑怯だとも思うが、ある種当然でもあるといえる。
なので、そちらを聞くのは諦め、こちらも患者として知って当然の、自分の症状を確認させてもらうことにする。
こちらの方は特にはぐらかされることもなく、お医者さんのほうが丁寧に話してくれることとなった。
説明が終わると、再度よく休むように念を押されてお医者さんは帰っていった。母親のほうはもう少し話があるということで、いったん病室から出て行く。
根に入らせるためか病室は薄暗い。ふと壁にかけられた時計の方を見やれば、既に針は日が変わったことを指し示していた。
今日は、いや昨日は大変な日であった。一度深呼吸をしてゆっくりと体を起こし、周りを見回す。
帰り道に持っていたものはない、学生鞄はやはり親が……いやよくよく考えれば、事件の被害者が所持していたものだ。
当然証拠物品の一つとして回収されているか。
(まあ、あれも勿論ないよな)
当たり前のことだが、紙袋に入っていたはずのペストマスクもない。出来れば親などには見せず、内緒で返していただきたいものだ。
でも、なんでだろうか。今は何となくそれが手元にないことが安心できた。
それがとある暗示を示していたことを、
昨日が凡人佐藤雄太の物語、最後の日であったことを、
知る日はまだ遠い。
第一話「その日彼は一般人であった」-終
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前話 >>4
次話 「鉄をも呑む砂」>>6
- Re: 砂の英雄【1-5更新(1話完) 9/29】 ( No.6 )
- 日時: 2017/10/04 16:09
- 名前: 塩糖 (ID: CioJXA.1)
第二話「鉄をも呑む砂」-1
(なんか、予想以上に怪我が軽い……?)
伝えられたところによれば凶器は包丁、しかし運よく深く刺さらなかった。なのでこれから色々と検査を進め、問題がなければ直ぐに退院できるそうだ。
てっきり深々と刺さっていたと勘違いしていた……それだけだろうか。やはり疑問だらけだが、嘘をつかれる理由もない。これ以上疑ってもしょうがないだろうと思考を打ち切った。
(にしても、暇だなー)
だが、一人の病室というものは非常につまらないものだ。空き部屋の関係で何故か一人きり、夜も遅いので散歩も……そもそも今は安静を言い渡されていた。
泣きつかれた母親は、遅くやってきた父親に連れて帰るそうだ。
命に別状もないし、家から電車で2,3駅程度の距離だ。わざわざそこまで張り付かなくてもよいという判断であろうし、俺としてはありがたかった。
(寝るべきなんだろうけど、なんか眠くない)
消灯時間に入ったので、天井の明かりが消され、枕もとのライトだけが付いている。
時間ももうすぐ日付が変わる頃、普段ならもう眠くなっておかしいのだが、事件にあったためか高揚感がいまだあり、寝る気になれない。
こんなことなら、本でも頼んでおくべきだったかと後悔し、また形にすらならない思考を浮かべ、
(あぁそうだ、テレビがあった)
病室のテレビは小さく、普通につけただけでは何も映さない。が、手元には父がイヤホンと一緒に、視聴を可能にするテレビカードなるものを置いていってくれたのだ。
流石父は気が利くと、ゆっくりと体を動かしてテレビを見る。まだ何もしていないので、テレビ画面はまっくろだ。
(……あれ)
電源を入れると、一瞬だけ反射した自分が映る。が、それが夢で見たようなものな気が、つまるところデジャブを感じた。
……だが、夢で見たものが思い出せない。
俺はそれを気の迷いであると切り捨てて、眠くなるまでのテレビ視聴を開始する。
(ん、ちょっと音質悪いな)
安物か、濁る音声を聞きながら何の変哲もないニュースを見る。パンダの赤ちゃんが生まれただとか、芸能人が不倫したとか、どうでもよいのばかりだ。
果てはリンゴの美味しい食べ方とか、この調子ではすぐに眠ってしまいそうだ。
(お、地元のニュースだ)
次のニュースはどうやらうちの地域のことのようで、通り魔事件とついている。
あぁ俺のことかもしれない。
そう思うと刺されたものの、喉元過ぎれば熱さ忘れるという奴か、少しむず痒い気分になって、そのニュースを見て……目を丸くする。
――先ほど、通り魔の事件の被害者ですが意識が回復した模様です。
そこにあったのは確かに、自分が関与した事件についてだ。学生が一人、帰宅途中で襲われた。それだけのニュース、だが一つの文言が心臓を締め付けた。
自然と、自分の胸に手を当てて鼓動を確かめる。
(犯人は依然、逃走中……)
続いて、その事件の再説明のためであろうか、犯人についての情報が流れる。どうやら現場付近に落ちていた荷物から判明したらしい。
28の女性で名前は雲田 直子。写真はまだ公開されていない。
被害者である俺は気絶していたのだ、加害者がとうに逃げているなんて想像はできたが、改めて言われるとまた違ったものがある。
だが、それ以上に気になるのは、続いて流されたそれだ。
――容疑者は周囲の住民が駆けつけた際、被害者の近くで倒れていましたが、近づくと目を覚まして逃げ去ったとのことです。通話中になっている被害者の携帯電話が残されていたことから……
倒れていた、というのが解せない。自分の記憶は刺されて倒れ、そこで途切れている。決して反撃をしたような記憶はない。
そもそも、なぜ携帯は通話中になっていた。わからないことだらけで、頭がパンクしそうになる。
(無意識で犯人に何かした、それで自分の携帯で誰かに電話……? あることなのか、そんなこと)
つい、テレビの電源を落とす。真っ暗になったテレビにまた一瞬、何かが映った気がする。
今の自分はきっとひどい顔をしてるはずだというのに、どうしてかそこに一瞬いたソイツは笑っていた気がする。
背筋に這いよる何かを感じずにはいられなかった。
(……寝よう)
テレビに最後映った何かも気になったが、これ以上思考を続けても悪い方向にしか転がらなそうだ。そう気が付いて、俺は掛布団で顔まで隠す。
イヤホンを外して放り投げ、卵の様にまるまってそのまま朝になるのを待つ。
寝苦しいし朝は寝癖が酷いことになりそうだが、皮膚の一部でも布団からはみ出るのが嫌だ。
だが、いくら視界を閉じても、耳をふさぎ体を小さく固めたとしても、何故か震えが止まらない。
無意識、無意識だ。どうせ今考えても何もわからないのだから、プラスに考える方が余程有意義なのだ。
(きっと、俺が無意識のうちに通り魔を気絶させて、携帯電話で助けを求めて……そうなんだろ、なぁ?)
誰に問うわけでもない、それこそ無意識のうちに否定される言葉を意味もなく紡ぐ。
ありえないだろう、俺は凡人で、気を失いながら人を打倒せるような人間ではない。
せめて、相手が指で触れれば倒れてくれるような虚弱体質で、と記憶の中の相手を思い出す時、漸く俺は思いだす。
(――28歳の女性が、どうやってあのダンボールの中に潜んでたんだ!?)
あり得ない、それこそ何をどうかしたところで不可能だ。あのダンボールには入れそうなのは赤ん坊くらいの大きさ、無理やりにでも4,5歳の人間が限界だ。
本当に自分を襲ってきたのは人間だったのか、更に震えが激しくなる。それが今もなお逃走中、悪い冗談が過ぎるというものだ。
こうなってくると、無駄に広い病室すら怖くてたまらない。今布団から顔を出したら、、四方八方を人ではない者達で囲まれているような気さえする。
――コツリと、硬いものが病室の床を叩く、無機質な音がした。
今度は、帰り道のように逃げるわけにもいかない。いっそのこと塩崎、あのエセ探偵が事件のため、面会時間が終わっても無理やり会いに来たとか、そんなのでもいい。
(帰れ帰れ帰れ帰って!)
足音が近づく、断じて聞き間違えなどではない。
看護師、看護師さんであることを切に願う。俺が寝てるのを確認して、去っていくものであってくれと神にすら乞う。
そうしてついに、足音がベッドの横にまで近づく……去る気配がない。
震えを、呼吸を止めることで無理やりにでも止めた。
「 」
何か、言った気がする。それを耳ではなく、布団で覆われたはずの肌で感じた。
言葉ではない、音、もはや振動に近い。意味など分かりもしない、はずだというのに。
(なんで、こんなに悲しいんだ……?)
その震えは決して雄々しいものではない。分かる、分かるのだ、これはきっと、恐れでも怒りでもない。
嘆きである、そこにいるものはも何かを嘆いている。それに共感してか、自分もどこか、悲しくなってくる。
呼吸が再開される、止めていたこと、体勢が悪かったこともあり息が荒くなる。
こうなればやけだと、布団を思いっきり払い飛ばし、足音の正体を見ようとした。
そこには確かに、何かはあった、あったのだ。
「え、これって……」
ペストマスク、警察に持って行かれたと思ったそれが、ベッドの横に落ちていた。足音が止まった位置、間違いない。
ゆっくりと手を伸ばして、持ちあげる。特に変わらない、そこそこの重さだ。
しかし心なしか、マスクの裏側が湿気っているような気がする。先ほどの嘆きの感情から、それがこの仮面が涙を表している。そんな気さえした。
「……」
ほこりを払うように、軽くたたきながらそれを撫でる。よく考えなくても、不気味だ。
足音が止んだと思えば、今日、いや昨日手に入れたばかりの古い品があるだけ。何らかの呪い、霊的なものと思って怖がるのが当然だろう。
けれど、これは悲しんでいた。
お前は、何を悔やんでいたんだ、物言わぬ仮面に囁いた。
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- Re: 砂の英雄【2-1更新 10/2】 ( No.7 )
- 日時: 2017/10/02 17:51
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: clpFUwrj)
こんばんは。四季と申します。いきなりコメント失礼致します。
かっこいいタイトルに惹かれて読ませていただきましたが、クオリティの高い作品で驚きました。
読んでいると、得体の知れない不気味な感じがヒシヒシと伝わってきて、凄いなと思いました。
先の読めない怖さが魅力的な作品ですね。
これからも更新楽しみにさせていただきます!無理のない程度に執筆頑張って下さい。応援しています。
- 2-2 ( No.8 )
- 日時: 2018/03/25 23:43
- 名前: 塩糖 (ID: D.48ZWS.)
「鉄をも呑む砂」-2
それはとても小さい、そして分岐点と呼ぶにも小さい出来事だった気がする。俺は病院の一室でそれを聞いて……違う、誰も来ないような廃墟で一人だった。
天井もない二階部分で、月明かりだけが頼りであった。
崩れかけてもなお固い壁に背中を預けて、崩れ気味な体育座りの体勢でうつむく。
「……なんなんだよ」
誰か返答を期待してはいない、ただ自分を慰めるための独り言。ここでもう少し言葉がうまければきっと、爆笑必死のジョークが一つでも飛び出たに違いない。
家に戻るべきか、いやそれは駄目だ。不幸な人を増やすだけで、何一つ利点なんてない。汚れてしまった手を見て、その決心だけは正しかったんだと。
(駄目だ、駄目……皆悲しむだけだ)
ふと沸いた選択肢はまばゆく見えて、光に引き寄せられた頭を振って止めた。と同時に、見たくもないものが視界内に入ってくる。
白いそれを手に取ると微妙に頭皮が引っ張られる感触がし、やはり作り物ではないと理解するしかない。
これさえなければ……いや、これは要素のひとつでありこれがなくても自分はこうしたのだろう。せいぜい選択する際に時間がかかった程度……そんなものはいらない。
「っ、来てる」
気が逸れていたためか、他者の接近に気が付けなかった。遠くで誰かが砂利を踏みしめる音を耳にして、慌てて立ち上がる。
が、それが意外に遠い場所から聞こえているということがわかり、それが自分の異常性を示すものだとまた一つ、ため息をついた。
だがこうしてはいられないと立ち上がり、音のする方に少し顔を出して確認する。
この廃墟の一階部分に人が入っていくのが見え、町の通りの方にもまだ人が多く見える。皆が明かりをもって出歩いているためか、それがよくわかる。
「……行くか」
見つかるわけにはいかないんだ、そう言い聞かせて仮面をつける。視界が狭まって、世界も狭くなったような感覚が今は気持ちがよい。
崩れかけの足場を蹴って、また人目がない所へと跳んで行った。
◇
目が覚めたが、非常に寝ざめが悪い。これが自宅ならつい二度寝をするほどにはだ。
原因は大方今の夢のせいだ……、厄介なものをもらってしまったものだと手元を見る。
そこにはペストマスクがあるそれを手に持っていると、不思議と安心ができそのまま寝ることができたのだ。掛け布団で隠していたが、見られたらドン引き案件間違いなしである。
(けど、その後は悪夢? だよなあれ)
いったい何の夢だったのだろうかアレは、そう寝起きでまわらない頭で考える。まだ目覚めたばかりか、夢の記憶は消えていない。
視点の人物は、間違いなく逃げていた。それこそ、家に帰ることを拒否するほどまでして。
何から、はたまた何故逃げていたのだろうか。夢が覚めた今となっては知るすべもない。
そして最後視点の人物が顔につけた仮面は……、
「――佐藤雄太さーん、調子はどうですかー」
「やばっ!」
病室の扉を開けて誰かが入ってきた。それに驚き慌ててマスクをベッドの下に滑り込ませる。大分雑に放ったため、金具部分が床に当たる音がする。
流石に病室でこんなものを持っている姿はあまり見られたくない、という無意識によるものだった。
幸いにして、それは成功した。
「おや、随分と元気そうですね。ストレッチですか?」
「え、えぇ! ちょっと早く起きて暇だったので」
誤魔化せているのだろうか、いまいちわからずとも上半身をわざと動かす真似をして笑顔を張り付ける。
入ってきたのは昨日も見た女医さん、しかし回診だとすれば早すぎではないだろうか。まだ朝食も、あると聞かされた体調チェックも来ていないというのに。
そんな疑問の目になっていたらしい、彼女は笑ってこちらの誤解をとくため手を振る。
「いえ、私は夜勤だったので、丁度帰る所なんですよ」
「あっ、あー……なるほど。だから私服なんですね」
「そうですね。それで、調子の方は……大丈夫そうですね。少し心配でしたが」
「ありがとうございます。ちょっとまだお腹がしびれますけど、立ち上がったりとかは問題なさそうです」
それはよかったですね、彼女はそう言って笑顔を見せた。
言われてみれば少し目の辺りに隈ができていて、いかにも夜寝なかった人だ。仕事が終わったというのに態々こうして見に来る、そんな彼女の頑
張る姿を見て奮起する患者も多いのではと思う。
そうやって褒めてみると、彼女は謙遜しながらもまた笑った。お上手ですねなんて言われたが、これは本心だ。
こちらの様態を確認して満足したのか、病室を出ていこうとする彼女。
だが、何かを思い出したようで足を止め、こちらに体を向ける。
「そういえば、恐らく今日は警察の方が来られると思うので」
「えっ、なんで……あーいや当たり前ですよね」
「はい……精神的にまだ不安定なら断ってももちろん大丈夫ですよ?」
その心配はいらない、夜寝るときは大分怖かったが、あのマスクのおかげかその不安は抑制された。
ついで俺の精神が不安定気味だったのは、目覚めたばかりで流れ込んできた謎の情報による混乱が大きい。
今度は俺が手を横に振って、彼女の心遣いに感謝しつつもそれを否定する。
「大丈夫です、それに犯人が捕まらない方が怖いですし」
「……あまり無茶はなさらないように、では」
彼女は最後までこちらを気遣ってくれた。とてもありがたいんだけど、今の自分はそこまで危うい状態に見えたのだろうかとも思ってしまう。
いや、逆に全く心配されない方が怖いから別に良いのか、そう自己完結して肩の力を抜く。
(あ、でもこれ持ってる姿見られたらやっぱりまずいよな)
そう心の中で恥ずかしがりながらベッド下に腕を伸ばし、マスクを手探りで引きあげた。
刺された翌日に、寝床の上で見るからに怪しい仮面を撫でている男……下手すれば精神病棟いきかもしれない、なんて。
(って、流石にそこまではいかないか……)
被害妄想じみた考えを一笑で終わらせ、マスクを触る。皮の心地よい手触り、暇な時があればずっといじっていたいほどだ。
……しばらく、することもなくいじっていたが流石に飽きた。前言撤回である。
投げ捨てたはずのイヤフォンが、テレビの近くにまとめておいてあったのを見つける。寝ている間に拾われたのだろうか、ともかく拾い上げて耳につける。
朝食まではもう少し時間がありそうだなと、テレビをつけた。
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- 感想返し ( No.9 )
- 日時: 2017/10/04 16:05
- 名前: 塩糖 (ID: CioJXA.1)
【感想返し】
>>7 四季様
どうもはじめまして、でしょうか? ともかく、私の小説に感想を残していただきありがとうございます。
何分長いことずっと読専であったために、こちらが一方的に知っているという関係が多くて初めましてというとなんだか違和感を感じてしまいます。(笑)
今作のタイトルに惹かれ、というところでこのタイトルでよかったと深く思いました。
この題は、私は今Twitterをやっているのですがそちらでフォロワーの一人から提案されたものなのです。彼女にも深い感謝を示すとともに、そんな良きタイトルを無駄にしないためになんとかない文章力を絞り出しているところです。
現在は、筆が進む今のうちにと書き溜めをしているところです。
長くなってしまいましたが、もし四季様たちのの暇つぶしの一作になれたらなと思っています。